SAKATA 一世紀以上の経験と実績に基づき「楽々倉庫」を通じて新たな価値創造を目指す Fri, 19 Jun 2026 06:13:51 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.3 /wp-content/uploads/2021/07/sakata_icon4-130x130.png SAKATA 32 32 第581号 流通業の変化が物流業の革新を呼ぶ(前編) (2026年6月11日発行) /logistics-581/ /logistics-581/#comments Thu, 11 Jun 2026 00:00:00 +0000 /?p=24298 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問 執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 20 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1948年 生まれ
  • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
  • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
  • 2009年 同社顧問
  • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
活動領域
  • 日本物流学会
  • (一社)日本SCM協会
  • (一社)日本物流資格士会会員
  • 流通経済大学客員講師
  • 港湾短期大学校非常勤講師
  • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。

目次

1.はじめに~日本の小売業の現状

荷主である各業界・業態の変化は、物流にも革新を求める。
今回は、流通業とくに小売業に絞って、業界・業態の変化が物流にどのような影響をもたらし、物流業がそれにどう対応したかを述べることにする。
経済産業省の商業動態統計調査は、同省の「基幹統計調査」の一つであり、全国の卸売業・小売業の販売動向などを毎月把握するための調査である。
調査の目的は、全国の商業を営む事業所や企業について、「売上(販売額)」「在庫などの販売活動の動き」を明らかにし、公表することである。その速報性などから、景気判断や政策立案、企業の市場分析などに使われる。調査対象は、日本標準産業分類の「卸売業・小売業」のうち、代理商・仲立業を除くインバウンドで免税売上が伸びている「ドラッグストアで食品比率が高まっている」など、消費動向の参考にしている(コンビニエンスストアはチェーンストア協会、外食はフードサービス協会など、業界団体からも月次統計が発表されている)。
同省では、この商業動態統計を用いて、1年間の小売業販売動向を確認し、業種別・業態別の商業販売額の変動要因等を分析している。4月14日に公表された、最新版の「2025年小売業販売を振り返る」では、「5年連続の増加となった小売業販売」の副題が付けられている。図表1では、主要な業態別の商業販売額が示されている。

図表1 2025年主要な業態から見る商業販売額
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(出所)経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」

図表1における卸売業(Wholesaler)と小売業(Retailer)の販売額比率が「W/R比率」で卸の多段階度を示している。図表1で計算するとW/R比率は3.03であり、日本の卸売構造が一次卸・二次卸…となっている多段階性を示している。
同資料では、小売業の販売動向についても概括しているが、円安による輸入価格の上昇、物価高騰を考慮すれば、販売額は伸びていても、販売数量(すなわち物流量)は減っているのではないだろうか。物流サイドにとっても、仮にセンターフイー方式であれば、数量が減っても通過金額が増えて「結果オーライ」なのだろうか。
図表1だけでは、商業販売額の動向は分かっても、同省では、流通構造や業態の変化については、明らかにしていない。
そこで、独断と偏見により、さらにはAIの「知見」も借りて、「2025年小売業販売を振り返って」みることにする。

(1)小売市場全体の動向と業種別の明暗

2025年は、物価高が続く中で「伸びる分野」と「苦戦する分野」の差が、さらに拡大したと言えよう。
とくに、上述の物価高の主要要因である食品価格の高止まりがドラッグストアや食品スーパーの売上を押し上げる一方で、衣料品や耐久消費財の動きは、やや弱い。百貨店は2025年に入って減速し、インバウンドと富裕層に依存したビジネスモデルが危うくなったと言えよう。
①コンビニエンスストア・ドラッグストア・食品スーパー
物価高への生活防衛などから、近隣でまとめ買いができるドラッグストアや食品スーパーは比較的堅調だった。特に食品など必需品が売上を支えているほか、ドラッグストアでは加工食品以外に日配品・生鮮三品(青果・鮮魚・精肉)も取扱いが増えている。
コンビニエンスストアは、光熱費・人件費などコスト上昇や来店客数の伸び悩みに対応して、値上げと高付加価値商品・コラボ商品で単価引上げを図る動きが目立っている。
②百貨店・総合スーパー(GMS)・ショッピングセンター
百貨店はアパレル不振や国内需要の弱さから、2025年前半でマイナス傾向となり、地方百貨店の閉店などが相次いでいる。なお、百貨店は最盛期の1990年には12兆円を売り上げていたので、2025年には半減していることになる。後述する「小売りの輪」の新規参入者に市場を奪われた見本のように思われる。
総合スーパーやショッピングセンターは、行楽シーズンやイベントで人流が戻る局面では売上改善が見られた。
地域的には、大阪・関西万博(3~9月)のような好況も見られた。

(2)EC(電子商取引)とネットスーパーの加速

図表1ではECに触れていないが、同省では、毎年「電子商取引に関する市場調査」を実施して結果を公表している。
最新(2025年8月公表)の「2024年度電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、26.1兆円(前年24.8兆円、前々年22.7兆円、前年比5.1%増)に拡大している。また、EC化率(全売上のうち、ECが占める割合)は、BtoC-ECで9.8%(前年比0.4ポイント増)、と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展している(図表2参照。なお、BtoB-EC=企業間電子商取引の市場規模・増加傾向は省略するが、EDIが普及しているのでBtoC-ECよりもはるかに大きい)。

図表2 物販系分野のBtoC-EC市場規模
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(注)▲は減

(出所)経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」

EC市場全体は引き続き拡大しているが、「単にオンラインで売る」から「店舗とECをどう組み合わせるか」というOMO戦略(Online Merges with Offline オンラインとオフラインの融合。オムニチャネル戦略とも言う)が、導入から普及段階に入ってきた。
OMO戦略を推進すると、これまではEC向け在庫と店舗向け在庫を別管理していたものを統合して管理するなど、在庫戦略や配送戦略も見直す必要が生じる。
実店舗で商品を確認してからECで購入、逆にECで知ってから店舗で試すといった購買行動により、実店舗が「ショールーム」化した。アパレル・インテリア・情報家電などでは、店舗を「売らないショールーム」として位置づけ、ECに送客する店舗戦略や販促策も増えている。
OMO戦略では、会員IDやポイントをオンラインとオフラインで統合する動きが加速している。例えば、鉄道以外の事業展開を進めているJR東日本では、駅構内での販売と、ネット販売のポイントを共通化している。
ネットスーパーについては、(2)①でも述べたが、物価高への生活防衛などから、まとめ買いができるということで、従来の生協などに加えて、イオンのグリーンビーンズやライフなどネットスーパーの利用が拡大している(図表3)。ドラッグストアでも、ウーバーなどを活用して調剤医薬品以外に、食品の配送も始めて「ネットドラッグ」化している。
ECへの対応としては「4.フルフィルメント」を参考にされたい。

図表3 グリーンビーンズ配送車両

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(出所)横浜市内にて筆者撮影

(3)人手不足とDX・省人化

深刻な人手不足と店舗コスト増を背景に、AIやロボット、デジタルサイネージ、セルフレジなどによる省人化や業務効率化の投資が進んでいる。ECは、店員・売り場スペースなどが不要で、店舗コストを大きく削減できる業態である。
個別企業が単独ではなく、サプライチェーン全体や異業種とのデータ連携を視野に入れた取り組みも出てきており、エシュロン(階層)在庫の削減や協業化などサプライチェーン全体で生産性を向上させようとする施策も注目されている。

※中編(次号)へ続く

以上


【参考資料】
1.経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」(2026年4月)、「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月)、「商業動態統計調査」(毎月)
2.JA全農長野生産資材課「JA生産資材店舗・物流改善支援について」(全農長野県本部情報/グリーンレーダー 2019年11月号)
3.ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
4.Market Planner 並びに Amazon Japan ホームページ
5.「EC業界カオスマップ2025-物流サービス編」(ecclab 2025年12月)
6.「3PL白書 2025」(ロジスティクス・ビジネス誌2025年9月号)
7.長谷川雅行「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号)

(C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第580号 人口推計を踏まえた将来の宅配輸送網の検証-物流拠点の配置の視点から-(2026年5月26日発行) /logistics-580/ /logistics-580/#respond Thu, 21 May 2026 15:00:00 +0000 /?p=24236 執筆者  田中 康仁 大阪商業大学 総合経営学部 教授  執筆者略歴 ▼ 略歴 1974年岡山県生まれ。 1997年神戸商船大学卒業。 2008年神戸大学大学院修了、博士(工学)。 広島商船高等専門学校、 流通 […]

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執筆者  田中 康仁
大阪商業大学 総合経営学部 教授

 執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 1974年岡山県生まれ。
    • 1997年神戸商船大学卒業。
    • 2008年神戸大学大学院修了、博士(工学)。
    • 広島商船高等専門学校、 流通科学大学商学部教授を経て、2025年より現職。
    • 主な著書に、『物流のしくみ』(単著、同文舘出版、2023年)、『モーダルシフトと内航海運』(共著、海文堂出版、2020年)、『1からの流通論 第2版』(共著、碩学舎、2018年)がある。

  

目次

  • 1.はじめに
  • 2.ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配輸送網
  • 3.将来の宅配需要の推計と宅配輸送網の検証
  • 3.1 2050年の宅配需要の推計
  • 3.2 大手物流不動産の立地動向
  • 3.3 p-median問題による共同利用の可能性
  • 4.おわりに
  •   

    1.はじめに

    前回(第564号、2025年9月16日)では、物流施設の配置問題、とりわけp-median問題を用いた最適配置の考え方と、その解法を支えるソルバー技術の進展について言及した。約20年前は計算上の制約から扱いが困難であった大規模問題も、現在では比較的容易に解くことが可能となっている。この点は、OR(Operations Research)との親和性が高い物流分野における分析可能性を大きく拡張したと言える。

    こうした状況を踏まえ、本稿では近畿圏という広域エリアを対象として、宅配便の輸送ネットワーク(以下、宅配輸送網)の観点から物流拠点の配置について検討する。 なお、以下の3つの視点を踏まえ、将来的(2050年)な人口分布の変化を考慮したうえで、物流不動産を共同利用した場合の効果を検証する。 1)宅配需要の増加

    現在、宅配便の取扱個数は年間50億個を超えており、今後も増加が見込まれる。みずほ銀行(みずほ産業調査 Vol.70)の推計によれば、2050年には現在の2倍以上となる約110億個に達すると予測されている。宅配便の取扱個数が約25億個であった2001年時点では、ヤマト運輸(33.0%)、佐川急便(24.6%)、日本郵便(5.7%)の3社の市場シェアは63.3%であった(ヤマト運輸 Annual Report 2009)。これに対し、2023年には3社で95.2%(ヤマト運輸46.7%、佐川急便27.9%、日本郵便20.5%)に達している。こうした大手3社による寡占構造が継続すると仮定すれば、各社は現状の2倍以上の取扱個数に対応可能な宅配輸送網を構築する必要がある。 2)人口分布の変化

    国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口』(令和5(2023)年推計)によれば、近畿2府4県の人口は2020年の約2,056万人から2050年には約1,650万人まで減少する見込みである。府県別では和歌山県(31.5%減少)、奈良県(28.2%減少)の減少率が高いが、人口減少の程度はより細かな地域単位で異なる。宅配需要は人口と強い相関を有するため、人口分布の変化に対応した宅配輸送網の再構築が求められる。 3)物流拠点の共同利用

    物流施設の新設・更新には多額の投資を要することから、近年では自社保有に代えてGLPやプロロジスなどの大手物流不動産を活用する企業が増加している。また、物流資源の共同利用を志向するフィジカルインターネット(Physical Internet)の概念も浸透しつつあり、企業間で物流拠点を共有する環境が整いつつある。

    2.ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配輸送網

    宅配便市場において高いシェアを有するヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社を分析対象とする。

    分析にあたっては、宅配需要の分布の把握が重要である。一般に、宅配需要は人口と正の相関関係にあるとされる。そこで、国土数値情報(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-mesh500h30.html)より取得した500mメッシュ人口データを用いる。これらのデータはGISでの利用を前提として整備されており、2018年を基準年として2020年から2050年まで5年刻みで提供されている。近畿圏の総メッシュ数は40,286ゾーンである。図1は、500mの人口メッシュの分布を示したものであり、空白部分は人口無しのゾーンである。

    図1 近畿圏における人口分布(500m×500mメッシュ)

    宅配企業によって細部は異なるものの、宅配輸送網は一般に、多数の荷物を効率的に処理・配送するため、上位拠点(Center)と下位拠点(Depot)からなる階層構造(図2)によって構成されている。この構造は、いわゆるハブ&スポーク型であり、広域輸送と地域配送の機能分担により全体最適を実現している。

    図2 宅配輸送の階層構造
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    まず、上位拠点であるCenterは、輸送ネットワーク全体を支える中核的な役割を担う。各地域から集められた荷物はCenterに集約され、配送先エリアごとに仕分けされる。Centerは都市間を結ぶ長距離輸送の結節点として機能し、トラック単位での幹線輸送により高い積載効率を実現している。また、荷物を保管せずに迅速に次の輸送へ振り分けるクロスドッキング機能を備えており、輸送時間の短縮にも寄与している。すなわち、Centerは広域をつなぐ集約・中継拠点である。

    一方、下位拠点であるDepotは、顧客に最も近い場所に位置する地域密着型の拠点である。Centerから送られてきた荷物はDepotで配達ルートや担当ドライバーごとに仕分けされ、各家庭や事業所へ配送される。つまり、Depotはラストマイル配送の起点として機能している。また、地域内の集荷業務も担い、集められた荷物は再びCenterへと送られる。さらに、再配達対応や持ち込み受付など、顧客との接点としての役割も果たしている。

    このように、Centerが広域輸送における集約・中継を担い、Depotが地域配送における集荷配送を担うことで、宅配輸送網は効率性とサービス水準の両立を実現している。

    図3は、ヤマト運輸の宅配輸送網を示したものである。階層構造の上位層であるCenter(■印)は11か所、下位層であるDepot(●印)は267か所である。人口メッシュ上に重ねて表示している。Depotが担当する人口は、ボロノイ分割により求めた。ボロノイ分割とは、各拠点に最も近接する領域を割り当てる手法であり、距離に基づいて担当エリアを決定する方法である。これを宅配のDepotに適用すると、各Depotに最も近接するメッシュを当該拠点の担当エリアとして区分することができる。Depotが担当する平均人口は76,403人(標準偏差52,547)であった。また、各Depotを最も近接するCenterが担当すると仮定した場合、各Centerが担当する平均人口は1,854,516人であった。なお、CenterとDepotの平均距離は15.4kmである。

    図3 ヤマト運輸の宅配輸送網
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。
    同様に、佐川急便について求めた結果が図4である。Centerは9か所、Depotは43か所である。Depotが担当する平均人口は、474,411人(標準偏差:299,395)、Centerが担当する平均人口は2,266,630人、CenterとDepotの平均距離は23.5kmである。
    図4 佐川急便の宅配輸送網
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。
    日本郵便について求めた結果が図5である。Centerは13か所、Depotは424か所である。Depotが担当する平均人口は48,112人(標準偏差:62,113)、Centerが担当する平均人口は1,569,206人、CenterとDepotの平均距離は24.5kmである。
    図5 日本郵便の宅配輸送網
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    日本郵便のDepotは、郵便業務に加えて金融窓口業務も担っているため拠点数が多く、公共性の観点から比較的均等に配置されている。その結果、ヤマト運輸と比較してDepotが担当する平均人口は小さい一方で、標準偏差は大きく、宅配輸送網の効率性の観点では非効率といえよう。

    3.将来の宅配需要の推計と宅配輸送網の検証

    既に述べたように、2050年にかけて人口が減少するのに対し、宅配便の取扱量は倍増すると予測されている。そうした状況下、宅配3社が物流不動産をCenterとして共同利用した時の効果を検証したい。なお、検証にあたっては、p-median問題を適用する。

    3.1 2050年の宅配需要の推計

    2023年の3社の宅配便のシェアと2050年の宅配便の予測値をもとに、各社の年間一人あたりの取扱個数を推計すると、ヤマト運輸は51.0個、佐川急便は30.5個、日本郵便は22.4個と推計される。

    次に、各社のDepotの数および配置は現状と同一と仮定し、将来人口メッシュから各Depotの担当人口を算出し、これに上記の取扱個数を乗じることで需要量を推計する。さらに、各Depotから最も近接するCenterに貨物を集約すると仮定し、積算することで各Centerの取扱個数を算出する。なお、Centerの数および配置も現状と同一と仮定している。

    その結果を示したものが表1である。各社とも、2020年比で2050年には宅配便の取扱個数が200%を超える結果となった。特に、ヤマト運輸では243.3%と最も高い増加率を示している。また、宅配貨物量と距離の積(千個×km)は輸送活動量を示す指標であり、いわゆるトンキロに相当する。

    表1 宅配3社の2050年の宅配需要の推計結果
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    3.2 大手物流不動産の立地動向

    近年、EC市場の急速な拡大に伴い、消費地に近接した都市部における物流需要が増加している。従来は高速道路沿線や港湾部に立地する傾向が強かった物流施設に加え、都市近郊にマルチテナント型の物流不動産が立地するようになってきた。

    写真1(筆者2025年9月撮影)は、2025年8月に竣工したGLP ALFALINK茨木であり、大阪・京都・神戸を含む京阪神都市圏の中心部を30分圏内でカバーする中核拠点として機能している。大阪府茨木市に立地する関西最大級の次世代型物流施設であり、総延床面積は約32万㎡(3棟合計)である。首都圏のみならず、京阪神都市圏においても、このような大規模物流不動産の立地が進展している。図6は、京阪神都市圏における大規模物流不動産の立地状況を示したものである。

    写真1  GLP ALFALINK茨木の外観
    図6 京阪神都市圏における大規模物流不動産の立地状況
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    3.3 p-median問題による共同利用の可能性

    将来的な宅配需要の推計結果を踏まえ、フィジカルインターネットの観点から、大規模物流不動産を共同利用した場合の効果について検証する。

    図7に示すように、現状(2020年)では各社が自社のCenterを用いてDepotからの貨物を集約しているが、2050年においては大規模物流不動産を共同利用することを想定する。なお、本来であれば、施設容量の制約や周辺道路の混雑状況などを考慮する必要があるが、本分析ではこれらの制約は考慮しないものとする。

    図7 宅配輸送網における物流不動産の共同利用のイメージ
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    解法にはp-median問題(p-median問題の詳細については、前回の第564号(2025年9月16日)のロジスティクス・レビューを参照されたい)を適用する。すなわち、CenterとDepot間の輸送活動量(需要量×距離)が最小となるようにCenterの数および配置を決定する問題として定式化する。

    表1に示したとおり、2050年における宅配需要の推計の結果、ヤマト運輸の輸送活動量は9,643,697(千個×km、以下同様)、佐川急便は7,091,940、日本郵便は3,809,831であり、3社合計では20,545,468となる。各社のDepot数はヤマト運輸267、佐川急便43、日本郵便424であり、これらを需要点とし、Centerの候補は図6に示す43か所の大規模物流不動産とした。

    この条件のもとで、43か所の候補から10か所(p=10)を選択するp-median問題を解いた結果、輸送活動量を約4割削減可能であることが明らかとなった。また、ソルバー技術の進展により、近畿圏規模の問題も実用的な時間内で解くことが可能となっている。

    4.おわりに

    本稿では、人口減少と宅配需要の増加という環境変化を踏まえ、宅配輸送網の再設計の必要性を示した。特に、将来の需要分布に基づき、p-median問題を適用することで、輸送活動量の最小化という観点から物流拠点配置の有効性を定量的に評価した。その結果、大規模物流不動

    また、フィジカルインターネットの観点からは、企業間で物流拠点を共同利用することにより、従来の個別最適から全体最適への転換が期待される。本稿の分析結果は、こうした共同化の取り組みが輸送効率の向上に寄与する可能性を示唆するものである。 今後の課題としては、物流施設の処理能力制約や周辺交通条件、さらには企業間の運用ルールといった実務面を考慮する必要がある。 本研究は、一般社団法人フィジカルインターネットセンターの研究助成を受けて実施したものである。ここに記して謝意を表する。

    以上


    (C)2026 Yasuhito Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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第579号 ビジネススクール(専門職大学院)におけるロジスティクス教育 関西学院大学経営戦略研究科の事例 (2026年5月14日発行) /logistics-579/ /logistics-579/#respond Wed, 13 May 2026 23:00:00 +0000 /?p=24107 執筆者 伊藤 秀和 氏 関西学院大学 商学部 教授  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1974年岐阜県生まれ。 2003年筑波大学大学院修了、博士(社会工学) 関西学院大学商学部専任講師・准教授を経て、2011年よ […]

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執筆者 伊藤 秀和 氏
関西学院大学 商学部 教授

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1974年岐阜県生まれ。
    • 2003年筑波大学大学院修了、博士(社会工学)
    • 関西学院大学商学部専任講師・准教授を経て、2011年より現職
    • 主な業績に “Regions and Material Flows: Investigating the Regional Branching and Industry Relatedness of Port Traffics in a Global Perspective,” with Cesar Ducruet, Journal of Economic Geography, Vol.16, Issue 4, July 2016, pp.805-830
    • “Density economies and transport geography: Evidence from the container shipping industry,” with Hangtian Xu, Journal of Urban Economics, Vol.105, May 2018, pp.121-132 など。
    • URL:http://www.hidekazuito.net/

 

目次

  • はじめに
  • ビジネススクールの概要
  • 「ロジスティクス」の内容
  • おわりに
  •   

    はじめに

     本稿は、2025年9月12日に近畿大学東大阪キャンパスにおいて開催された「日本物流学会第42回全国大会」のパネルディスカッションにおいて、筆者が話題提供した、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科(通称IBA:Institute of Business and Accounting)における「ロジスティクス」(授業科目名)の授業内容や科目の位置付けを纏めたものである。なお、筆者が所属する関西学院大学商学部(および商学研究科)における交通・物流・ロジスティクス・SCM関連科目の授業内容やその位置付けについては、2024年5月17日に開催された「日本物流学会創立40周年記念関西部会シンポジウム」において話題提供を行った。特に、本学商学部においては、当該関連科目が「マーケティング・コース」の専門科目(選択必修)として開講されていることから、マーケティング・コースの他の専門科目との関係や、マーケティング分野において物流・ロジスティクスを学ぶことの意義等について紹介した。同報告の詳細については、伊藤(2012、2013)を参考にされたい。また、欧米大学(大学院)のロジスティクス教育の近年の特徴と国内大学のロジスティクス教育の(特に伊藤(2012)からの10年間の)変化については、同じく伊藤(2022)を参照されたい。

    ビジネススクールの概要

     本学経営戦略研究科(以下IBA)の開学経緯について紹介する。IBAは、2005年4月に開学し、2025年で満20年が経過した。この前身は、1993年に開設した商学研究科のマネジメント・コース、いわゆる社会人向けのイブニング・スクールと、商学部・商学研究科の会計教育であり、これらを発展させ開学した。IBAは、ビジネススクールとアカウンティングスクールで構成され、ビジネススクール(経営戦略専攻)には、企業経営戦略コース(定員70名)と国際経営コース(定員30名、英語で授業を実施)、そしてアカウンティングスクール(会計専門職専攻、定員50名)の3つのコースを有する。IBAは、教育訓練給付金、具体的に、ビジネススクールでは専門実践教育訓練給付金、アカウンティングスクールでは一般教育給付金、の対象講座に指定されているため、近年でも比較的、志願者が多いのが現状である。
     企業経営戦略コースは現在、7つのプログラムを開設している。開学当初は、5つのプログラム、すなわち、経営、マーケティング、ファイナンス、テクノロジー・マネジメント、アントレプレナー・事業継承で構成されていた。近年、自治体・医療・大学経営、そして、2020年度に開設の中小企業診断士(登録)養成(課程)が追加された。特に、中小企業診断士(登録)養成(課程)(以下、中小企業診断士養成プログラム)は、中小企業診断士の第一次試験合格者(定員16名)を対象に開講されている。後述する、筆者が担当する「ロジスティクス」も、企業経営戦略コースのアドバンスト科目(2単位)としてだけでなく、中小企業診断士養成プログラムのスペシャル講座(単位なし)としても開講されている。
     企業経営戦略コースの特徴としては、コア科目群(10単位)、ベーシック科目群(10単位)、そして、アドバンスト科目群(18単位)の3つの科目群で構成されている 。また、課題研究の6単位が必修となっており、修了必要単位数は合計44単位である。なお、中小企業診断士養成プログラムにおいては、すべての科目が必修科目に位置付けられるが、2年間で専門職学位と同資格が取得可能なように開講科目が設けられている(専門職学位プログラムの科目が中小企業診断士養成プログラムの指定科目として認められる、「ロジスティクス」を含む一部の科目のみスペシャル講座(単位なし)として提供) 。なお、通常のカリキュラムと異なり、中小企業庁による標準モデルに従い、学習順序に沿って学生が各テーマを履修できるよう構成されている。表1は、中小企業庁が定める研修テーマとその学習順序が示されているが、各テーマをこの標準学習順序に基づき開講し、学生は同じく履修・習得する必要があり、授業担当者や学生にとっては、非常に制約の高いプログラムになっている。例えば、中小企業診断士養成プログラムにおいて、「ロジスティクス」は、「マーケティング・営業マネジメント(マーケティング戦略の立案、また立案したマーケティング戦略を実現するための販売・営業マネジメントについて、的確な指導・支援・アドバイスできる技能)」の4単元のうちの1つ(第2単元・ロジスティクス)と設定されており、この研修テーマの前に、「マーケティング戦略(流通業)」、後に「店舗施設マネジメント」「情報化(流通業)」「マーケティング戦略(製造業)」「製品開発戦略」を履修・習得する必要がある。

    表1:中小企業庁標準モデルの定めるフロー
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    (注)研究科 (IBA) 内資料を基に筆者作成。

    「ロジスティクス」の内容

     筆者が担当する「ロジスティクス」の授業内容について紹介する。先述の通り、筆者は企業経営戦略コースにおいて、「ロジスティクス」(同名)を2科目担当している。1つは、同コースにおけるアドバンスト科目(2単位)として、もう1つは、中小企業診断士養成プログラムのスペシャル講座(単位なし)として、開講している。前者は選択必修科目、後者は同プログラムの必修科目に位置付けられる。前者は100分(1コマ)の授業を計14回(計1400分)、後者は100分の授業を計6回(計600分)で構成される。なお、前者の「ロジスティクス」は、先ほど紹介した7つのプログラムのうち、マーケティングとテクノロジー・マネジメント、両プログラムのアドバンスト科目に指定されている。
     表2は、筆者が企業経営戦略コースにおいて提供している「ロジスティク」の授業内容(各回のテーマ)を示している。この科目では、需要予測、在庫管理、在庫配置、そして収益管理を主なテーマとして提供している。例えば、それぞれのテーマについて、授業内において理論モデルの紹介を行い、表計算ソフトを用いた数値例分析の演習を行っている。さらに、それらの数値例分析に基づいた課題(新たなデータセット)を(ほぼ)毎回提示し、履修者が改めてそれらの理論モデルを適用した演習を進める。なお、本授業のレベルとしては、例えば、米国ビジネススクールの(ロジスティクスやオペレーションズ・マネジメントの)標準テキストであるChopra (2018) を参考としている。

    表2:「ロジスティクス」の授業内容
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    * 中小企業診断士養成プログラムの対象テーマ。

    (注)筆者の授業資料を基に作成。
     表2のうち、* は、中小企業診断士養成プログラムで実施しているテーマを示している。上記の通り、中小企業診断士養成プログラムの「ロジスティクス」は、合計600分で、企業経営戦略コースの同科目(合計1400分)と比べ、時間の制約がある。授業時間が半分程度のため、特に在庫管理と在庫配置に重点を置いた内容となっている。
     また、企業経営戦略コースの内容と、中小企業診断士養成プログラムの内容との大きな違いとして、前者では、履修者がそれぞれ個人演習として、授業で学んだ需要予測や在庫管理などの各種手法を(履修者それぞれが準備する)具体的なビジネスデータを用いて事例分析を行うことである。企業経営戦略コースの履修生は、原則、実務を行なっているビジネスパーソンを対象(そのため平日夕方・土日開講)としているため、各自が実際に関わる(あるいは関わった)ビジネスを念頭に事例分析を行い、具体的な適用方法やその可能性、改善効果等を検討することを目的としている。
     過年度の個人演習(事例分析)の例を挙げると、阪神甲子園球場でのお弁当販売の需要予測や、葬儀会社による供花の需要予測やその調達物流、また航空会社による機内食の需要予測とその収益管理など、具体的な事例にロジスティクス管理手法を用いることで、リードタイムや必要在庫量の考え方の理解が進むと感じる。授業で扱う数値例では、各種条件は所与として与えられる(問題文中に必ず記載されている)ため、理論モデルに各種数値を当てはめることになるが、実際のビジネスでは、これら各種条件を各自が設定する必要があり、実際にその作業は難しく(リードタイムをどの時点から計測すべきか、また欠品コスト(機会損失)をどのように見積もるのかなど)、それぞれのビジネスモデルに応じて履修者が判断し、決定することになる。実務における適用の困難さを学ぶことができ、非常に有益な機会だと考えている。また、事例分析結果を最終授業回で報告することにより、履修者同士だけでなく、授業担当者(筆者)にとっても、新鮮な内容が多く、大変貴重な勉強の機会となっている。

    おわりに

     商(経営)学部生を対象とした物流・ロジスティクス教育では、ほとんどの場合、初学者を対象とするため、また筆者が所属する関西学院大学商学部では、(広義の)マーケティング・コースの専門科目として提供されているため、物流やロジスティクス(在庫管理)の各機能やサプライチェーンでの役割、さらに狭義のマーケティング(需要創出)とロジスティクス(需要充足)との関係性について、重点的に扱う内容になっている。
     他方、ビジネススクール(専門職大学院)においては、オペレーションズ・マネジメントに特化して、需要予測や在庫管理を中心に授業が構成されている。特に、ビジネススクールの履修生は実務に関わっているため、ロジスティクスやサプライチェーンの重要性を一定程度理解しており、またそれを学ぶモチベーションも比較的高いと思われる。一方で、本学のビジネススクールに限らず、日本のほとんどのビジネススクールの入学試験では、アメリカ大学院の出願資格で課せられるGMAT (Graduate Management Admission Test) のような、学生の適性(学力)試験を課していない。そのため、数学・統計学に関する能力の差は学部生以上に大きいと感じる。そうしたことが、当該科目のような数理的能力を必要とする授業運営の難しさとなっている。

    以上


    参考文献
    Sunil Chopra, Supply Chain Management: Strategy, Planning, and Operation, 7th Edition, Pearson Publisher, 2018.
    伊藤秀和「社会科学におけるロジスティクス教育体系への試み」『商学論究』60 (1/2)、 333-377、2012年。
    伊藤秀和「再論ロジスティクス教育体系 : 関西学院大学商学部のカリキュラムを例に」『海運経済研究』(日本海運経済学会)47、23-34、2013年。
    伊藤秀和「ロジスティクス人材を育む教育とは?」『商学論究』70 (1/2)、349-382、2022年。
    ⅰ)企業経営戦略コースのカリキュラムについては、以下のURLを参照。
    https://iba.kwansei.ac.jp/bs/curriculum/
    ⅱ)中小企業診断士養成プログラムのカリキュラムについては、以下のURLを参照。
    https://iba.kwansei.ac.jp/chusho_curriculum/


    (C)2026 Hidekazu Ito & Sakata Warehouse, Inc.

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第578号 やはりオペレーションが大事(2026年4月21日発行) /logistics-578/ /logistics-578/#respond Sun, 19 Apr 2026 23:30:00 +0000 /?p=24088 執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、 コスト削減など […]

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執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。
      1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、
      コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、
      荷主向けの研修・セミナーに携わる。
    • 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
      「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。
      中小企業診断士。

    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

  • 1.舞い込んだ執筆依頼
  • 2.オペレーションを無視したコンサル
  • 3.スカスカおせち事件
  • 4.物流データの整理ができない
  •   

    1.舞い込んだ執筆依頼

    5~6年以上前のことと記憶するが、ある出版企画会社から1通のメールを受け取った。物流業界への就職を目指す学生や物流部門に配属された社会人向けに、「物流の仕組みと実務がわかる」テキストを執筆して欲しい、との依頼であった。少々PRめくが、以前「すらすら物流管理」という物流入門書を上梓していた筆者は同様のテーマと解釈し、スケルトン(本の骨格となる概要)を作成し、企画会社へ提出した。
    ひとことに物流といっても構成する機能とそれを担う企業のすそ野は非常に広い。一般的にイメージされる運送会社から始まり、倉庫事業者、港湾事業者、内航海運、外航海運、航空会社、そしてこれらを総合的に運営する3PL、利用運送するフォワーダーまで対象は広がる。さらには周辺需要として、物流不動産ファンド、WMSをはじめとしたIT業界、物流DX系スタートアップも加わるだろう。
    物流にかかわろうとする方たち向けの入門書となれば、こうした幅広い分野の知識を「薄く、広く」網羅する必要がある。学生であれば、全体像を把握した中でどの分野に興味を覚え、就職の対象とするのかを判断する材料となるし、社会人であれば、自分が担当する物流が全体のどの位置にあって、どのような機能を果たしているのか、どのような改善余地があるのか、などの視点を持っていただくための参考になればとの思いからであった。物流を戦略的な切り口からとらえることも重要であるが、バーチャルな存在ではなく、実際にモノを動かすリアルな活動であることから、オペレーション面から現実的に理解することが第一歩と考えた。
    こうした方針で作成したスケルトンを企画会社経由で出版社に提案したわけだが、その後どうも様子がおかしい。何度か修正案のやりとりをしたものの企画が前に進まず、執筆にGOサインが出ない。執筆期限は目前に迫っている。
    いく度かのすれ違いを経てようやく理解した。出版社が求めていたのは「ネット通販」の話だったのである。その当時、ネット通販が猛烈に拡大し始めていた。前後してヤマト運輸のいわゆる「宅配便クライシス」も勃発し、世間の関心が高まっていた。実際、「ネット通販と宅配便」をテーマにした本が多く出版され一種のブームとなっていたこともある。いま「旬」な話題本を出してヒットを狙っていたわけである。出版社としては当然の戦略であろう。
    「それはネット通販と宅配便の話題であり、物流の仕組みと実務の話ではない」などと講釈しても無意味である。クライアントのニーズが別なところにあるのだから、あれこれ解説しても仕方ない。後日、その出版社から発売された同じテーマの本(たぶん)はまさにそのとおりのタイトルとなっていた(予想どおりヒットしたかどうかは不明であるが)。
    おそらく世間の物流に対するイメージは「物流=トラック=宅配便=ネット通販」というものであったのであろう。それに対し、物流の実務やオペレーションに焦点をあてて企画してしまった筆者の発想のズレ、すれ違いを大いに恥じた出来事であった。

    2.オペレーションを無視したコンサル

    これもあるコンサルタントにかかわる痛恨の失敗談である。彼は前職で物流会社に在籍していたため、物流の実務に精通していたものと周囲は理解していた。弁舌もさわやかで、人当たりもよく、ほぼ無条件にクライアントに好かれるのが強みであった。おかげで、彼が窓口となりコンサル案件の受注も進んだ。なかでも、ある大手メーカーの幹部とはとくにウマが合い、個人的な人間関係も構築できて大型のコンサルに結びつけることができた。筆者は上司としてこの案件にかかわることになる。
    やがてコンサルの契約期間が終了し、請求書も無事提出できたところまでは順調に思えた。ところが入金予定日を過ぎても入金がない。大型案件で金額も大きいため未入金は一大事である。クライアントの事務担当に問い合わせたところ、コンサル内容に満足していないため上司の指示で支払いが止められているという。どうにもおだやかではない情勢に、筆者はあわててクライアントの元へ飛んだ。
    事情はこうだった。担当コンサルタントは実質的にはほとんどコンサルティングを行っていなかった。いや、行えなかった。クライアントの人間関係は良好であったが、先方の求める成果をまるで達成できていなかったのである。原因は物流実務にかかわる知識、経験および物流改善手法などの欠如である。つまり物流コンサルティング自体が成り立っていなかったのである。よくよく調べてみると、彼は物流会社に在籍していたものの、人事や総務といった管理業務が中心で営業や現場の実務経験はほぼゼロであることが判明した。
    これは完全に管理者たる筆者の責任である。クライアントとの人間関係の良さに甘え、また順調であるとの彼の報告も真に受けてしまって、業務をまかせっきりにしてしまったのが原因である。
    クライアントは不満があるなら、なぜコンサル途中でクレームをよこさず、終了後に支払い拒否などという(不誠実な)対応をとったのか、彼(担当コンサルタント)はなぜ嘘の報告をしたのか、なぜわからないならわからないと言ってくれなかったのか、など言いたいことは山ほどあるものの、上司の責任を軽減できる理由にはならない。
    少しだけ言い訳をしておきたいのだが、コンサルティング業務は上司がいちいち案件に深くかかわることはできない。案件も多いうえに内容が深いため建前は建前としても現実的には難しい。またコンサルタントは育てたり教育したりするものではなく、自ら学び育つものであるというのが筆者の持論ではある。
    結局、その後筆者が直接案件にかかわり報告書までまとめて何とか事なきを得たが、クライアントの十分な満足には至らず、後日さまざまな理由で先方の幹部は社内で責任を問われたという。また、担当コンサルタントはこれ以外にも同じような問題をいくつも起こし、やがて会社を去ることになった。
    このトラブルの原因は上司の管理不行き届きや担当の報告不足、クライアントの対応などいろいろ考えられるが、根本的には担当の物流実務とオペレーションがわかっていなかった点に行きつく。理念やコンセプトなどうわべの言葉で当面は取り繕うことができても最後は実務がモノを言うのである。

    3.スカスカおせち事件

    業界はまるで違うが、最近似たような事例に接する機会があった。経営学者の岩尾俊兵氏が日本経済新聞の「プロムナード」というエッセーコーナーで紹介した「スカスカおせち事件」である
     一昔前に世間をにぎわした「スカスカおせち事件」の原因について、岩尾氏が直接触れることができた裏話に一部フィクションをくわえて解説したものである。少々長くなるが、大変興味深い記事であったので、以下に紹介させていただく(2025年12月3日夕刊より引用、一部筆者による加筆、修正、削除を含む)。
    『ある飲食店が、お正月の豪華おせち通常税抜き2万円を特別価格1万円で販売しますといって500人ものお客を集めたが、いざ届いたシロモノは宣伝とは似ても似つかなかった、という事件である
     キャビアをはじめとする高級食材をふんだんに使用した色鮮やかで手の込んだ料理の数々が提供されるはずが、文字通りふたを開けてみると市販のチーズひとかけらをはじめとして全体的に薄汚れた灰色のそこら辺のスーパーで買ってきた食材の適当な詰め合わせとしか思えないおせちが届いた。それすらも「詰め合わせ」とはお世辞にもいえず、スカスカすぎてお重の底が露出していた、という。
     真偽のほどは確かでないが、これは経営学の教科書に載せてもよさそうな典型的なオペレーションの失敗例なのだそうである。
     スカスカおせちを作って最初から消費者を騙(だま)そうとしていたわけではなかった、という。それどころか、スカスカおせち事件の1年前にはスカスカおせちの企画者は飲食店業務のかたわらで1日で50食分のオードブルを作ったことがあったし、それも比較的余裕を持って作れたそうだ。50食のオードブルを片手間でさえ余裕を持って作れるのだから、年末に店を閉めて数日間おせち作りだけに集中すれば、500食のおせちくらい簡単に作れるだろう、と考えたのだろう。
     この時点で、オペレーションズ・マネジメントの観点からは危険信号が灯(とも)る。あらゆる業界のオペレーションが変則化する年末年始と通常時でのオペレーションを同一だと考えてはいけない。それに50食を作る手間を10倍にするだけで500食を作れるわけではない。手間を10倍にしても設備は10倍にならないため、人ではなく設備がボトルネックになる可能性が高い。
    案の定、おせち作りを始めてみて最初に起こったのは食材を置く場所がない、ということだった。通常は1日に何度も食材の搬入があるが、年末年始だと食品卸や運送業者も休みをとるためにまとめて一気に納入される。しかも、豪華おせちを作るために食材の種類が通常より多い上に、1種類ごとに梱包が異なるため、食材に対する梱包材の割合が大きくてかさばる。そのため、あっという間に調理場は段ボールで埋もれてしまう。
    足の踏み場もない調理場では、いつものように手早く料理を作ることはできない。仕方なく、臨機応変に現場の知恵を活(い)かし、フライパン調理をあきらめてオーブン調理に切り替える。すると、いつになく酷使してしまった結果、突然オーブンが壊れてしまう。修理を頼もうにも年末年始でどこも休み。
    一事が万事この調子で、冷蔵庫の調子も狂い始め、人も倒れ、あきらめてスーパーに駆け込んでも500個分の総菜など売っておらず……という具合だ。善悪に関係なく、オペレーションに失敗すると顧客を裏切る結果になるのである。』
    以上、ロジスティクスの要素も含んだ経営学によるオペレーションの重要性を物語る事例である。

    4.物流データの整理ができない

    物流の話に戻ろう。筆者も最近、オペレーションの大切さを痛感する出来事を経験した。またまた私事で恐縮であるが、物流事業者の社員向けに「物流データ分析研修」を行っている。物流をデータでとらえ現状分析から改善策の立案・提案、実行までの一連の手法を、演習方式で身に付けてもらうことを目的とした実践的な研修である。手前味噌となるが、物流データに焦点を当てた研修はあまり例がないものと自負している。受講生はひたすら数字(データ)をベースとした演習問題を解くことによって、データの重要性を理解するとともに、データ整理と分析の簡単な手法を学ぶことができる。
    ただ、データ分析といってもそれほど高度なことを行うわけではない。移動平均による出荷傾向分析や在庫のABC分析といった、物流事業者にとって基礎となる知識や手順を習得するものである。会場の制限もありパソコンなどを持ち込まず、事前に計算しやすく整理したデータを計算機による手作業で処理する簡易なものだ。あくまでも計算手順を覚えてもらうことに主眼を置く。アンケートには「データ分析の手法を職場で実践したい」などの感想が多くみられ、それなりの手ごたえを感じていた。
    ただ、今どき計算機やスマホの計算機能を使った作業などは時代遅れで現実的ではないため、EXCELなどの表計算ソフトを使った本格的なデータ分析を望む意見も多かった。そこでパソコン持ち込んだ「応用編」を追加することになった。応用編は、WMS(倉庫管理システム)などから得られる生データをそのまま提供し、EXCELで整理、加工、分析を行う演習である。
    この演習で筆者はかなり衝撃を受けた。WMSなどから得られる生データはそのままでは分析できない。レイアウトや項目もさまざまな生データは、まずEXCELのいくつかの関数を使って分析しやすい形に整理する必要がある。マイクロソフトのデータベースソフト“ACSESS”を使えば容易に出来る作業であるが、おそらく物流の現場で活用しているケースは少ないであろうし、そもそもPCにインストールされていない。しかもEXCELとは根本的に操作方法が違うACSESSが初めての受講生がいれば、その使い方を習得するだけで研修が終わってしまう。
    そのような事情で、あえてEXCELでの演習を行ったわけであるが、実は筆者自身EXCEL関数を使っての分析は初めての経験であった。ACSESSでは簡単に行える操作がEXCEL関数では結構面倒である。まして、関数に慣れていない受講生にいきなり体験させるのはかなり無謀な試みとも思えた。
    不安は的中し、研修では予想をはるかに超える結果が待ち受けていた。EXCELの習熟度合いに個人差があり、一律に前に進めない。操作に不慣れな受講生には講師が付ききりで手取り足取りでの指導が必要である。時間は予定を大幅に超過し、結局予定の演習課題4つのうち3つしか終了できなかった(それもかなり不完全な状態で)。筆者の完全な読み違えである。
    それ以上にショックだったのは、以前の研修が現場で活用されている可能性がきわめて低いことを悟ったことである。応用編での受講生の苦労を目の当たりにすれば、以前の研修成果を実践で使っているとは到底思えない。言い方を変えれば、データ分析の手法だけ習得しても、それ以前の生データの整理実務ができなければ実用の役には立たないということである。データ分析においても、実務でのオペレーションがいかに重要かを思い知らされた研修であった。

    5.理念よりオペレーション

    本稿は前回の「神は実務に宿る」の続編として「オペレーション」に焦点を当て事例を紹介してきた。
    人手不足を背景に、AIやロボティクスといったハイテクが物流を変えると予測する情報があふれている。こうした風潮を否定するわけではなく、むしろぜひ実現してもらいたいと痛切に願っている。
    ただ一つ気になるのは、こうした未来を実現するための、未来へ近づいていくための現実的なステップが語られていない印象も少ない点である。当たり前であるが、現在の姿からいきなり未来へ飛ぶことはできない。そこには未来へ近づくための一歩ずつのステップが必要であり、このステップこそが日々のオペレーションなのではないだろうか。それを示さずあるべき姿だけ語るのは無責任である。
    リアルな活動である物流だからこそ、オペレーションを軽視してはならない。逆説的ではあるが、まずは「理念よりオペレーション」であることを肝に銘じたい。

    以上



    (C)2026 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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第577号 海運へのモーダルシフトのお薦め(後編)(2026年4月9日発行) /logistics-577/ /logistics-577/#respond Thu, 02 Apr 2026 15:00:00 +0000 /?p=23948 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

 執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
    活動領域
    • 日本物流学会
    • (一社)日本SCM協会
    • (一社)日本物流資格士会会員
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。
  • ※前編はこちら

    目次

    • 3.海運モーダルシフトの進め方 
      (2)内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド
    • 3.海運モーダルシフトの進め方 
      (3)運賃・料金
    • 4.おわりに「モーダルシフト基本法」
    •   

      3.海運モーダルシフトの進め方 
      (2)内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド

      「物流の2024年問題」を契機として、関係省庁では2024年6月「物流革新に向けた政策パッケージ」を打ち出し、「鉄道・内航の輸送分担率を今後10年間で倍増する」という目標を掲げている。近々、閣議決定される「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)にも、この目標が盛り込まれると思われる(2026年1月執筆時点)。
       筆者としては、鉄道・内航の輸送力を10年間で倍増させることは、かなり困難ではないかと思う。
      まず、鉄道について。JR貨物がコンテナ列車を増発しようとしても、レールを旅客会社から借りている以上は難しい。次に、レールのように制約がない海上ルートはどうだろうか。フェリーやRORO船を建造すれば輸送力は増強できるだろうか。筆者は港湾側の能力不足が心配である。今でも、苫小牧港などはフェリー・RORO船用の埠頭が混雑していて、利用しやすい時間帯に船便を増やすのが難しい。埠頭建設には時間もコストもかかる。あとは、日本海側西部の航路でも述べたように、トレーラ100台超という船腹を満たせるだけの需要があるか否かにもよる。例えば、中部~中九州の航路も需要が少なく減便になっている。
      しかし、鉄道モーダルシフト倍増の見通しが厳しい状況下では、輸送ロットが大きい長距離の貨物輸送における内航海運の活用は、喫緊の課題でもある。

       国土交通省が、上記政策パッケージを受けて2024年秋に実施した「モーダルシフトに関する内航海運の新規需要調査」では、「内航船の利用方法がわからない」「どこに相談すればよいかわからない」といった荷主企業や物流事業者の声が多く挙がった。
      その声に応えるべく、具体的な検討手順やメリット、実際の航路情報などを分かりやすく提示するとともに、併せて、モーダルシフトを資金面で支援する3つの補助金制度の活用も呼びかけている(本稿では、誌面の都合で補助金制度は省略するので、「ガイド」を参照されたい)。
      国土交通省では、これまでモ―ダルシフトの推進については、手を変え品を変え、各種政策を展開してきたが、今回は、情報不足の解消と具体的なアクションを促すことで、停滞気味だった海上モーダルシフトの本格的な推進を目指している。
      今回の「ガイド」は、荷主・物流事業者が、それぞれの状況に合わせて海運モーダルシフトのメリット・デメリットを総合的に評価し、具体的な検討を進める上で役立つことが期待され、筆者としても支援したいと思う。
       同ガイドは、
      1 背景・目的
      2 利用・検討方法
      3 海運モーダルシフトの事例
      から構成されている(図表4の年刊「海上定期便ガイド」と似ている)。
      「1 背景・目的」では、「本ガイドでは、新たに内航船を利用することや、さらなる利用拡大を検討されている企業担当者に向けて、フェリー、RORO船、コンテナ船の3つの船種における内航海運のサービスや利用方法、利用検討に向けた手順、内航船を利用することのメリットなどを、アンケートやヒアリング、実証調査によって得られた事例などとともにに紹介します」としている(本稿では、そのなかからフェリー・RORO船を取り上げた)。

      図表9 モーダルシフトに適した内航船
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      出所 国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」(2025年5月)

      図表9では、フェリー・RORO船・コンテナ船ごとに、それぞれのサービスの特徴、メリット・デメリット、利用に適した貨物の種類、輸送ロット、リードタイムの考え方などを具体的に紹介している。
      さらに、「2 利用・検討方法」では、内航海運の利用を検討するにあたって、情報収集、船会社・利用運送事業者への相談、見積もり依頼、契約、トライアル輸送などの具体的なステップを分かりやすく示している。
      「検討開始から利用までの流れ」として、「検討開始→船会社の確認→打合せ→契約締結・内航船利用」の4ステップが掲げられ、その順に記載されている。
      各ステップを見ると、まず「検討開始」では、
      ・内航船輸送サービスの理解
      ・輸送要件整理
      ・航路確認
      次に「船会社の確認」では、
      ・船会社への問合せ
      続いて「打合せ」では、
       ・船会社のサービス詳細確認
       ・輸送要件のすり合わせ
      最後に「契約締結・内航船利用」では、
       ・契約締結
       ・トライアル輸送の実施
      と、海運モーダルシフトに不慣れでも進められるようになっている。
       さらに、「内航船のメリット」として、「トラックドライバー不足への対策」「BCP対策」「CO₂削減」「輸送品質(振動)」が掲げられている。
       「検討開始」の「輸送要件の整理」では、「荷主・利用運送事業者にて事前に整理すべき要件項目」として
       ・輸送貨物
       ・輸送区間
      ・輸送時期(輸送頻度の種類=スポット利用か定期利用か)
      ・物量
      ・輸送機器
      ・出荷元・出荷先での荷役
      が挙げられている。
       筆者は、このなかで最も重要なのは、「ガイド」では「出荷先での荷役」とされている「出荷先(荷受人)の了承・合意」ではないかと思う。筆者が担当した鉄道モーダルシフトにおいても、最大の難関が「出荷先の了承・合意」であり、トライアル輸送が成功しても、了承・合意が得られなかったケースもある。
       逆に言えば、「出荷先の了承・合意」が得られれば、モーダルシフトはスムーズに進む。筆者が、横浜市内の製壜会社から北海道のビール会社に大量の新壜をスポット輸送(このときは鉄道コンテナであったが)に携わったときも、出荷先であるビール会社からの「輸送方法の指定」という形で、大量出荷に対する割引運賃や輸送枠の確保など、モーダルシフトにあたっての諸問題を乗り切った。
       「ガイド」では、「(内航船輸送)リードタイムの目安」として「トラックと同日数もしくは+1日での輸送が可能なケースもある」と説明されているが、リードタイムが延びることについての出荷先の拒否反応は、まだまだ強いのではないだろうか。「到着時間帯」によっては、出荷先の入荷作業計画にも影響が出る。トレーラ化すれば、輸送ロット(出荷先から見れば発注ロット)も変わる。
       「ガイド」でも、「内航船を効率的に活用するためにはロット数の確保が必要となりますが、『納品頻度を減らす』、『最低発注ロット数を増やす』などの取組が行われています」と記載されている。
       さらに、トラック・トレーラに満たない貨物(国際コンテナでいうLCL貨物)については、複数荷主の貨物を集約する「小口混載サービス」を提供している船会社や海陸一貫輸送事業者もあるほか、JR貨物の鉄道コンテナと同じ12ft・5トンの内航コンテナ輸送に対応できる船会社もある。
       それ以外にも、荷送人(「ガイド」では「出荷元」)側も、車両・輸送資材やドライバーの変更などへの対応が必要となる。モーダルシフトは、海運・鉄道とも最低6カ月程度の準備期間が要るのではないだろうか。
       最後の「3 海運モーダルシフト事例」では、図表5と同様に、内航船利用を「社内物流」「BCP対応」「小口混載輸送(ロット数確保)」「コスト削減」「大型トラックの無人航送」という5つの視点での具体的な事例を紹介している(図表5では、「CO₂削減」「ドライバー運転時間削減」が、効果として表されている
      併せて公表された「航路情報一覧」は、現在各船会社が提供しているフェリー、RORO船、コンテナ船の航路情報を集約している。発着港・運航頻度・主要寄港地・船会社連絡先などが一覧化されており、荷主や物流事業者は、自社の輸送ニーズに合致する航路を効率的に検索し、船会社へ直接問い合わせるための情報源となる。
      最近では、3カ月に一度、これら航路の利用状況が、国土交通省から公表されている。一般的には、利用率(海運や航空では「消席率」と言われる)が70%を超えると、スポット予約はかなりタイトな状況と言われている。
      「航路情報一覧」
      https://www.mlit.go.jp/maritime/maritime_tk3_000104.html
       誌面の都合もあって、「ガイド」の内容は詳細にご紹介できなかったので、ぜひ、参考に掲げた国土交通省のホームページからダウンロードして、ご一読願いたい。
       なお、筆者は、さらに海運モーダルシフトを進めるには、制度的な取り組みも必要ではないかと思う。
       例えば、内航海運業界やトレーラによる海陸一貫輸送事業者が長年にわたって要望している、以下のような航送用シャーシ(トレーラ)の車検制度や税制の改正である。
      ①航送用シャーシは、発着地~発着港間は道路を走るが、発港~着港間の長距離輸送は船上に留置されているので、年間走行距離が少ない。年間走行距離が少ないにも関わらず、一般の陸上輸送用トレーラと同様に年1回の車検が必要であろうか。
      ②また、道路の走行距離が少ないのであれば、道路の補修に充てられる自動車重量税も減免して欲しい。
       例えば、一般のトレーラと航送用シャーシを車検証で区分すれば、①②は可能と思われる。航送用シャーシで車検を受けて、陸上走行されては困るという声が、すぐ出て来そうであるが、45フィートコンテナの陸上走行の関する経済特区のように、できるところから始めて行くべきではないかと思う。

      3.海運モーダルシフトの進め方 
      (3)運賃・料金

       (2)でも述べたが、運賃・料金は大きな課題である。「ドライバー不足に対応できる」「環境問題に貢献できる」「BCPとしてのリダンダンシーが向上する」と言っても、現状の輸送コストより増加することは、モーダルシフト推進の上での大きなネックとなっている。
       「ガイド」が指摘している「内航船の利用方法がわからない」「どこに相談すればよいかわからない」以外にも、「内航船を利用したら幾ら掛かるのか分からない」こともあるのではないだろうか。
       運賃・料金については、フェリーなど船会社への委託範囲(利用範囲)や輸送条件などにより大きく異なる(図表10)。

      図表10 船会社への委託範囲
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      出所 国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」(2025年5月)

       一般的な利用方法は、図表10の「Port to Port」で、発着港間の海上輸送のみを船会社に委託するものである。
       この場合、図表9の「出荷元から出荷先」までのトータル運賃(Aとする)と、「港までの集荷+海上輸送+港からの配達」の合計(Bとする)が、
      A≧B
      つまり、でなければ、モーダルシフトは難しいと思う。
      これは、図表10の「Door to Door(ドア・ツー・ドア)」の海陸一貫輸送でも同様である。海陸一貫輸送では、陸上輸送(集荷・配達)のトラックが不要となり、車両・ドライバーの転用先をどうするかという問題が、新たに発生する。
       「ガイド」では、フェリー運賃は「運賃+荷役料+BAF」で構成されると説明している。
      「荷役料」は、港湾運送事業法による沿岸荷役の料金で、専用トラクタでトレーラを無人車駐車場から船内にけん引・固定する作業の対価である。
      BAFは、Bunker Adjustment Factorの略で燃料費調整係数、つまり燃料割増料金のことで、燃料(重油)価格の変動に対して調整される割増料であり、航空運賃の燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)に相当し、原油価格に応じて月単位で変動する。
       フェリー・RORO船の運賃は、何トン(載貨重量トン=DWT)ではなく、自動車(乗用車・トラック・トレーラ)が何台積み込むができるかと言う、車両甲板上の占有面積で決まる。したがって、貨物を積んだ実車も、空車も、車両長で決まる。そこで、車両長を確認するため、乗船受付窓口には車検証を提示する必要がある。これは、「フェリーが元々渡し船だった」ことに由来するのではないだろうか。
       なお、高速道路利用料の車種別区分も、車両総重量ではなく、道路占有面積が基準になっているので、実車・空車とも同一料金となっている。この道路占有面積基準のため、標記トン数当たりの高速道路利用料は、トレーラが不利になっている。
       また軸数(3軸・4軸など)によっても高速道路利用料には差がある。そこで、高速道路利用料を節約するため、高価かつ重量が増える車軸のリフトアップ装置を付けるという、本末転倒のようなことが行われている。
      なお、フェリー・RORO船の船内や、ふ頭は、道路(公道)ではないので、道路関係の法令は適用されない。したがって、Port to Portだけで公道に出ない(陸上輸送に使用しない)航送専用シャーシは、ナンバープレートも不要で、車両総重量(GVW)の規制もなく、過積載にもならない。
      外航のコンテナヤード内でコンテナを移送するトラクタやトレーラが、ナンバープレートを付けていないのと同じである。そこで、前述のような航送用シャーシの規制緩和の議論も出てくると思われる。
      なお、海陸一貫輸送は図表10の下段「Door to Door海陸一貫輸送」のように、コンテナやトレーラという輸送器材を使って、陸上輸送→海上輸送→陸上輸送と、貨物を積み替えずに一貫して輸送することを指す。
       国際輸送の場合は「国際複合一貫輸送」と言われる。
       同図では、フェリーやRORO船など内航船を利用する事業を「海陸一貫輸送」と説明している。事業形態としては貨物利用運送(船舶)に該当する。
       海陸一貫輸送事業者には、フェリーなど海運会社のグループ会社や、専門の陸上運送業者があり、いずれ各種トレーラやコンテナ輸送用のシャーシを多数保有している。
       前述した北海道から牛乳を積んだタンクコンテナも、海陸一貫輸送事業者のシャーシで運ばれて来る。
      ここでは、参考までに某フェリー会社の料金表(税込み)を掲げておく。図表11では、「無人車乗船下船手数料」が「荷役料」である。冷凍車の「電源料」(電気使用料)も別建てとなっており、加えて電源接続の手数料がかかることが分かる。

      図表11 フェリー会社の自動車航送運賃の例
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      出所 フェリー会社のホームページ

      4.おわりに「モーダルシフト基本法」

       1~3項で説明した、筆者なりの海運モーダルシフトの進め方(手順)は、次の通りである。
      ①海運モーダルシフトに適した航路の有無を調べる
      ②その航路にフェリーがあれば、まず乗客として乗って(体験して)みる
      ③海運モーダルシフトについて、出荷先(荷受人)の了承・合意を取り付ける
      ④「餅は餅屋」で、各船社・海陸一貫輸送事業者に相談する(現在、利用しているトラック運送事業者から相談してもらう)
       「物流の2026年問題」がスタートした。
       第一の問題は、1月1日施行の「取適法」である。現在、公正取引委員会では国土交通省のトラック・物流Gメンと一緒に、荷主等を訪問している。国土交通省職員には立入検査権はないが、公正取引委員会職員・労働基準監督署員には立入検査権があり、拒否はできない。公正取引委員会では、取適法の施行に伴う立入検査の増大に対応するため、2026年度から140名近い調査員を増員する予定であり、さらなる厳正な法執行が予測される。
       第二の問題は、4月1日一部施行の「貨物自動車運送事業法」「流通業務総合効率化法」である。いよいよ、特定荷主等に物流統括管理者(CLO)の選任義務や物流業務の改善計画の作成義務が始まる。
       これが「物流の2026年問題」であり、この物流関連法規の大改正にあたって、筆者が思い出すのは、民主党政権時代のことである。当時の民主党では、トラックに偏重した我が国の物流体系が、長時間労働問題・環境問題・交通問題など、さまざまな外部不経済の遠因となっているとして、さらなる「モーダルシフト」の推進を図ろうとして、「モーダルシフト基本法」制定の動きがあった。
       ちょうど同じ頃、(公社)日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では、閣議決定による「総合物流施策大綱」では何の強制力もないので、「物流基本法」を制定して物流政策を強力に推進しようという動きがあり、同協会の政策委員会の下で、筆者もWGに参加して「政府(行政)の義務」「荷主の義務」「物流事業者の義務」「消費者の義務」など、意見交換したことがあった。
       「モーダルシフト基本法」も「物流基本法」も、その後の政治経済情勢の変化や「失われた30年」のなかで立ち消えになってしまった。
      1990年の「物流二法」による「経済的規制の緩和」と「社会的規制の強化」のうち、前者の「経済的規制の緩和」は、結果として「トラック運送事業者の増加」に伴う「供給過剰による運賃低下」を招き、トラックドライバーの「長時間労働」と「低賃金」が続いた。
      それが、2019年の「働き方改革」で「物流2024年問題」が起こり、トラックドライバー不足が深刻化している。2025年には「トラック適正化二法」が公布され、「経済的規制緩和」が30年ぶりに見直されている。
      前述の「物流の2026年問題」のように、物流にも大きな変革が起こっているように思う。また、物流政策や立法も労働力不足対策や環境対策であれば、「何でもあり」のように変化が目まぐるしい。鉄道・海運の利用を法律で推し進める「モーダルシフト基本法」の動きも、再びあり得るのではないかと思うこの頃である。
       最後に、筆者も会員になっている(一社)日本物流資格士会による東京港でのRORO船見学会の写真を付しておく。

      図表12 日本物流資格士会のRORO船見学会(東京港)

      筆者撮影

      以上



      【参考資料】
      1.内航ジャーナル社「海上定期便ガイド」各年版
      2.MOLグループ 「九州⇔関西・関東間 海上輸送サービスのご案内」2022年
      3.池田良穂「図解・船の科学」講談社、2007年
      4.国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」2025年5月
      5.国土交通省「航路情報一覧」2025年5月
      6.国土交通省「中・長距離フェリー RORO船のトラック輸送に係る積載率動向」(3カ月に1回、国土交通省HPで公表)
      7.国土交通省・日本長距離フェリー協会・日本内航海運組合総連合会・フェリー各社・RORO船各社・海陸一貫輸送事業者・日本物流資格士会のホームページ


      (C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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    第576号 海運へのモーダルシフトのお薦め(前編)(2026年3月17日発行) /logistics-576/ /logistics-576/#respond Tue, 17 Mar 2026 00:00:00 +0000 /?p=23224 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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    執筆者  長谷川 雅行
    (一社)日本物流資格士会 顧問

     執筆者略歴 ▼
      略歴
      • 1948年 生まれ
      • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
      • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
      • 2009年 同社顧問
      • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
      活動領域
      • 日本物流学会
      • (一社)日本SCM協会
      • (一社)日本物流資格士会会員
      • 流通経済大学客員講師
      • 港湾短期大学校非常勤講師
      • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。
  •  

    目次

    • 1.海運モーダルシフトとは
    • 2.フェリーに乗ってみよう。
    • 3.海運モーダルシフトの進め方
    •   

      1.海運モーダルシフトとは

      海運へのモーダルシフト(以下、「海運モーダルシフト」という)は、鉄道へのモーダルシフトに比べて、輸送ルート(航路・港湾)が限定される。
      主な航路・港湾は「海上定期便ガイド」(内航ジャーナル社)や国土交通省、各船社のホームページなどに掲出されているので、海運モーダルシフトを進める際に活用されたい。
      海運モーダルシフトは、一般的には、定期航路を利用することになる。そこで、対象となる船型(船のタイプ)は、旅客船であるフェリーと内航貨物船であるRORO船・コンテナ船となる。後者2タイプの内航貨物船は、「モーダルシフト船」と呼ばれていたこともある。
      わざわざ、旅客船・内航貨物船と記したのは、同じような船型・航路であっても、適用される法律が異なるからである。フェリーは、外航船などと同じく「海上運送法」が適用となるが、内航貨物船は海上運送法の特別法とも言える「内航海運業法」が適用となる。内航海運業法では、船員労働における外国人船員の配乗禁止や、需給調整としての実質的な「船腹調整制度」があるが、ここでは誌面の都合で省略する。
      なお、3-(2)で紹介する、国土交通省の「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」では、フェリーも内航船として取り扱われている。
      海運モーダルシフトで活用されるフェリーは、長距離フェリーに多い。フェリー船社の業界団体である日本フェリー協会では、航路が300km以上のフェリーを「長距離フェリー」としており、後述のように関東〜北海道、関西〜九州のように15航路に37隻が就航している(2023年 JTB総合研究所調べ)。
      最近は、モーダルシフト需要の高まりや、環境対策(燃料のC重油からLNGへの転換)もあり、船舶の更新・大型化が進んでいる。
      瀬戸内海の離島航路では自動運転フェリーが就航するなど、陸上輸送以上に自動化・省力化が進んでいる。
      RORO船の「RORO」とはロールオン・ロールオフの省略であり、「ロール」は車輪(車輪付きであるロールボックス・パレットの「ロール」も同じ)、「オン・オフ」はスイッチの入切ではなく「乗り降り」である。つまり、トラックやトレーラ(シャーシ)が自分の車輪でランプウェイ(可動式のスロープ=斜路)を利用して乗船・下船できるタイプがRORO船である。
      船内(貨物や車両を積むスペースを船倉と言う)は、幾層にも分かれていて車両甲板と言う。
      したがって、フェリーも船型としてはRORO船である。
      RORO船に対して、クレーンやフォークリフトなどでコンテナを積卸しするタイプを、LOLO船(リフトオン・リフトオン船)と言うが、「コンテナ船」と呼ぶのが一般的である。
      これ以外には、RORO船とコンテナ船を一隻に合造した通称「ロロコン船」や、フェリーの特例で実質的にはRORO船の「貨物フェリー」も、過去にはあったが最近は見られない。
      伊豆諸島航路や南西諸島航路では、在来船型(船倉を備えている)の貨客船に、船に備えたデリッククレーンでコンテナ(ISOのDタイプである10フイートまたは、JR貨物の鉄道コンテナと同サイズの12フィート)を船倉内あるいは甲板上に積載している例もある。
      RORO船には、上記定期便ガイドに掲載されている「定期航路」以外に、自動車メーカー・製紙メーカーなど大手荷主の専用船化している船舶・航路がある。
      この場合、往航(海運では往路を「往航」、復路を「復航」と言う)では完成車や紙製品を輸送するが、空荷となる復航に一般荷主の貨物を輸送する例も見られる。
      完成車を輸送する船は、「車両甲板が複数階ある」という基本的な構造はRORO船と同じであるが、PCC(ピュアー・カー・キャリア=自動車専用船)と言われる。船内に幾層にも車両甲板が張られ、ショッピングセンターなどの多階建て駐車場のように、船内のランプウェイを利用して、隙間なく自動車を積み込む。内航用のPCCは最大級で約2000台の乗用車を積載できる。これも空荷となる復航には一般荷主の貨物を積む例がある。復航で車高があるラック・トレーラを積むために、車両甲板の一部が取り外せるようになっている。
      一方のRORO船では1万総トン・長さ200m弱・幅26m、DWT(載貨重量)約7千トン、13mシャーシ150台が、最大級である。
      なお、「シャーシ」は「トレーラ(被けん引車)」の一種であり、コンテナを積載するために荷台等の架装がない骨組みだけの車体を指すが、フェリー・RORO船・PCCに搭載して海陸一貫輸送に利用されるトレーラ(平ボディ・バンボディなど)は、「航送用シャーシ」略してシャーシと呼ぶことが多い。道路運送車両法ではトレーラもシャーシも「大型貨物車(被けん引)」で区分されていない。

      2.フェリーに乗ってみよう。

      フェリーやRORO船を利用して海上モーダルシフトを進めようと思ったら、「先ず隗より始めよ」のように乗船することをお薦めしたい。
      RORO船にもドライバーや輸送中の貨物監視者用に船室(定員は少ない)があるが、旅客は乗船できない。
      そこで、一般船客としてフェリーに乗船することになる。出張の際に、片道だけでもフェリーに乗ってみても良い。
      船内で車両甲板に載せられたトラック、トレーラの状況を見て、ドライバーのように船上で一夜を過ごす。
      筆者も、長距離フェリーでは関東→北海道、四国→関西で乗船した。
      一つ注意しなければならないのは、船室のクラス(等級)である。前述のようにフェリーは旅客船であり、旅客船は「タイタニック号」やクルーズ船のように典型的な階級社会である。国内長距離フェリーも、上は豪華な個室スイートルームから、下は、かつての国鉄青函連絡船のような大部屋の雑魚寝まで何段階もあり、乗船料(旅客運賃)にも大きな差がある。最近の傾向として大部屋・雑魚寝が減って、一般船室もカプセルホテルやビジネスホテル並みの個室が増えているのも、時代の流れである。
      フェリーの車両航送料金には、ドライバー1名分が含まれている。仮に家族4人がマイカーで乗船する場合は、車両航送料金+3名分の旅客運賃となる。ドライバーの船室は、上述のように一般船室となる。
      そこで、トラックドライバーと同じ、一般船室を利用することになる。
      フェリーには浴場設備があるので、トラックドライバーも利用するが、上級船室のように浴衣・タオルは無い(ことが多い)。長距離トラックでは、各地のトラック・ステーション以外に大型車の駐車場付きの入浴施設は無いので、入浴をフェリーでの楽しみにしているドライバーは多い。
      食事はバイキングなど用意されているフェリーが多いが料金が高いので、トラックドライバーはコンビニなどで買って持ち込むか、船内の自販機を利用する。冷凍食品などメニューも多く、電子レンジが完備している(図表1 参照)。
      家族旅行・団体旅行用にロビー・映画・ゲームコーナーなどの共用スペース・娯楽設備もあるが、休息期間を確保するため、サッサと寝てしまうドライバーが多い。
      なお、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(通称「改善基準告示」。2024年4月改正適用)の特例では、「フェリー乗船時間」は「休息期間」としてカウントされることになる。したがって9時間乗船していれば「連続9時間の休息期間」が確保できたので、下船から新たな「拘束時間」として取り扱うことができる。これは、乗船時間(乗船から下船まで)であって、フェリーの航海時間(出港から到着)ではないので、「乗船時間>航海時間」となる。苫小牧~八戸航路などが、改善基準告示の休息期間を遵守するために利用されている。

      図表1 フェリー船内のドライバー用設備例

      出所 MOLグループ資料

      乗用車とは異なり、トラックは運行ダイヤの都合から「後入れ先出し」で乗下船する。筆者が乗った四国→関西フェリーでは、早朝に大阪南港フェリーターミナルに着くと、トラックは先を争って下船・出発して行くが、旅客(マイカー)は午前7時頃まで船内で滞留していてもよかった。
      途中で寄港する航路では、フェリー会社では車両の積込み場所の調整が必要となる。
      乗船予約・申込みは、定期的に利用する場合は、長期間の輸送契約(乗船契約)が結ばれる。つど利用のスポット契約の場合は、PC・スマホからフェリー会社のHPにアクセスして予約する。乗船申込みはWebが増えている。
      乗船料金の支払いは、JR旅客各社の乗車券と同様に、「乗船(車)時に現金払い」が原則であるが、各種の決済方法についてフェリー会社は相談に応じている。クレジットカードなども使え、海の上にもキャッシュレス時代が到来している。
      余談であるが、運輸機関は乗ったとき、貨物を積み込んだときに、運賃・料金を前払いするのが、商法の原則である。トラック運賃のように、「月末締め/翌月末払い」や「手形払い」の方が「特殊」である。なお、2026年1月1日から取適法により中小受託事業者(旧・下請業者)には、手形払いが禁止されている。
      フェリー会社が定めた出発時刻(フェリー埠頭から離岸する時刻)に先立って、乗船締切時刻が設定されているので、それまでにトラック・トレーラをフェリー埠頭の所定場所(駐車場)に持ち込む。
      トラックの場合は、フェリー会社の誘導に従い、車両甲板の所定位置まで乗船移動し、ドライバーは輪留めをしてからトラックから離れて、車両甲板から船室部に移動する(航海中の車両甲板は危険なので立入禁止)。
      トレーラの場合は、フェリー埠頭で切り放した後は、フェリー会社(実際には港湾運送事業者)のトラクタで車両甲板の所定位置にけん引される(後述の「3-(3)運賃」のように、フェリーへの荷役料を別途支払う)。
      冷凍車の場合は、フェリーに備えた冷凍機用電源のある位置にセットし、電源コードで接続する(乗船中は自動車のエンジンは切る)。大型フェリーの場合、50~100本の電源が用意されている。
      フェリーを含めて船舶は航行中に、前後・左右・上下の直線運動と各軸を中心とした回転運動をする(自動車も同じ 図表2)。

      図表2 船体の運動

      出所 池田良穂「図解・船の科学」講談社、2007年

      前後(X軸)を軸とした回転運動がローリング、左右(Y軸)を軸とした回転運動がピッチング、上下(Z軸)を軸とした回転運動がヨーイングである。人間は、この3方向の回転(揺れ)を不快に感じて「船酔い」を起こす。
      車両もこれらの回転運動に伴う移動(転動という)を防ぐために、輪留めに加えて、専用の器材で車両甲板に固定(ラッシング)される。したがって、ラッシングできない(ラッシング器材を掛けるリングがない)トラックやトレーラは乗船できないが、一般的にはアオリ下部の金具に付けたリングを使って固定される(図表3)。

      図表3 車両の移動防止固縛

      出所 MOLグループ資料

      このような「揺れ」や「移動防止」を読むと、荒天などで欠航しないかと心配になるかも知れない。しかし、フェリー会社から公表されている欠航率は約2%である。フェリーは「旅客船」なので、「乗客の安全確保」という観点から、RORO船よりは欠航率が高いようである。
      港に着くと、逆の手順でラッシング等が外され、ドライバーが乗り込んで、ランプウェイで埠頭に繋がるのを待って出発していく。トレーラは、フェリー会社(実際には、フェリー会社が契約した港湾運送事業者)がフェリーターミナルに引き出した後、引き取りの運送会社ドライバーが異常の有無を確認してトラクタと接続後に出発する(それぞれ、ドライバーにより走行前の点検等が行われる)
      トラックの無人航送の場合は、トラックを車両甲板に載せるところまでは同じであるが、そこでドライバーは、トラックのキーをフェリー会社に預けて下船する。あるいは、フェリー会社の無人車駐車場で下車して、キーはフェリー会社の係員に渡す。
      一方、到着港では待ち構えていたドライバーが乗船、フェリー会社からトラックのキーを受け取り下船、フェリーターミナルでトラックを点検してから出発する(トラックにキーを付けたままという例もある)。
      あるフェリー会社の「無人航送」注意書きを抜粋する。
      ①行先ステッカー・キー札をお渡し致しますので、「行先ステッカー」はフロントガラスの内側から外に見える様に貼り付け、「キー札」は鍵に取り付けてください。
      ②車両預り書をお渡ししますので引取時にご持参ください。
      ③車両を無人車駐車場へ移動し、ステッカー貼り付け後、鍵は係員にお渡しください。
      以上が、フェリーによるトラックやトレーラの航送の流れである。RORO船の場合も、基本的にはフェリーと同じである。
      フェリーに乗船して貨物車用の車両甲板を眺めると、大型トラックやトレーラが所狭しと、隙間なくビッシリ並んでいるのが壮観である。
      フェリー会社のポケットに手を突っ込むようで気が引けるが、航路が長くなるほど、収入をトラックに依存する割合が高いようである。航路にもよるが、トラック・トレーラが全体の70%、乗用車(運転者は無料)とその同乗者が20%、自動車を載せない一般乗客(修学旅行などの団体を含む)が10%という構成のようである。筆者も、連絡バスでフェリーターミナルに行き、一般乗客として乗船した。一般にフェリーターミナルは不便な所にあり、連絡バスは、フェリーの発着時間に合わせて運行しているので、乗り遅れないように注意されたい。
      車両甲板には、中小型トラックや軽トラックも散見され、フェリーが元々は「渡し船」で、「海の上の国道」「海上バイパス」が実感できる(英語のferry boatは、「渡し船」「渡船」を意味している)。
      RORO船は、大型トラック・トレーラの専用であり、一般旅客として乗船して見ることはできないが、100台以上載せているので、もっと壮観だろうと思う。北海道〜関東の航路では、生乳を積んだ20フィートのタンクコンテナを載せたトレーラの利用が多く、重要なフードマイルであることが伺える。筆者の自宅に近い横浜市旭区には、牛乳メーカーがあり、毎日、北海道からRORO船で運ばれたトレーラが生乳を届けている。

      海運モーダルシフトを考えたら、フェリーへの乗船をお薦めするのは、こういう実態が分かるからである。

      3.海運モーダルシフトの進め方

      それでは、具体的な海運モーダルシフトの進め方について述べることにする。

      (1)航路
      トラックで輸送しているルートを代替可能な航路が無ければ、海運モーダルシフトは覚束ないので、運賃などよりも航路が重要になる。この点が、全国各貨物駅をネットワークしている鉄道コンテナ輸送と大きく異なる点である。
      海運モーダルシフト事例を見ても、発着荷主から発着港湾まで100km以上離れているという例も多い。逆に言えば、港が少々遠くても、後述するさまざまなメリットから海運モーダルシフトを選択しているとも考えられる。
      1項の冒頭でも述べたように、フェリーやRORO船の利用についてのガイドブックが「海上定期便ガイド」で、毎年内航ジャーナル社から刊行されている(図表4)。フェリー・RORO船の航路・運航ダイヤの変更は多いので、最新版を備えておかれたい。また、船舶には、自動車の定期整備に相当するドック入りがある。通常は閑散期に行われるが、ドック入りは長期に行われ、その間は欠航または代船(航路・運航ダイヤが変わることも)となるので注意されたい。
      なお、鉄道モーダルシフトについては、(一社)鉄道貨物協会が毎年JR各社のダイヤ改正に合わせて発行している「貨物時刻表」を参考にされたい。

      図表4 海上定期便ガイド

      出所 内航ジャーナル社ホームページ

      同社ホームページの「海上定期便ガイド」では、「モーダルシフトを進めよう」と題して、
      ①モーダルシフトとは
      ②モーダルシフトの必要性
      ③海運モーダルシフトの例
      ④海運モーダルシフトの輸送量
      ⑤モーダルシフトのメリット
      ⑥モーダルシフトの歴史
      が列挙されている。古いデータもあるが、改正物流効率化法(2016年10月)の海運モーダルシフト認定例(図表5 2021年8月まで50件。単純計算では、年間平均10件)なども収録されており、「ドライバー運転時間削減率」はモーダルシフト推進の参考となる。

      図表5 改正物流効率化法(2016年10月)の海運モーダルシフト認定例)

      出所 内航ジャーナル社ホームページ

      中長距離フェリー航路・RORO船定期航路については、少し古いが国土交通省が公表している(図表6・7)。

      図表6 中長距離フェリー航路一覧
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      出所 国土交通省資料

      図表7 RORO船定期航路一覧
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      出所 国土交通省資料

      図表6・7を見ると、日本海側西部(敦賀~九州)を除き、太平洋ベルト地帯を中心にして北海道から九州まで海上ネットワークが張り巡らされている。両図では描かれていないが、九州~沖縄間にもRORO船の海上ネットワークがある。
      日本海側西部は需要が少なく、運航→休航を繰り返しているようである。江戸時代には、「西廻り航路」の一環として、北前船などで栄えた航路であり、期待したい。

      (2)内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド
      元々、北前船のように沿岸航路が発達しており、図表6・7のようなフェリー・RORO船による海上定期便のネットワークが、ほぼ全国に張り巡らされているにも関わらず、海上モーダルシフトが進まないのはなぜであろうか。
      このような視点から、国土交通省では2025年5月、内航海運へのモーダルシフトを後押しする新たな情報提供ツールとして、「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」(図表8。以下「ガイド」という)と「航路情報一覧」を公表した。
      https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001891014.pdf「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」

      図表8 内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド

      出所 国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」(2025年5月)
      ※後編(次号)へ続く

      以上



      【参考資料】
      1.内航ジャーナル社「海上定期便ガイド」各年版
      2.MOLグループ 「九州⇔関西・関東間 海上輸送サービスのご案内」2022年
      3.池田良穂「図解・船の科学」講談社、2007年
      4.国土交通省「内航海運へのモーダルシフト利用検討ガイド」2025年5月
      5.国土交通省「航路情報一覧」2025年5月
      6.国土交通省「中・長距離フェリー RORO船のトラック輸送に係る積載率動向」(3カ月に1回、国土交通省HPで公表)
      7.国土交通省・日本長距離フェリー協会・日本内航海運組合総連合会・フェリー各社・RORO船各社・海陸一貫輸送事業者・日本物流資格士会のホームページ


      (C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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    第575号「神は実務に宿る?」(2026年3月5日発行) /logistics-575/ /logistics-575/#respond Thu, 05 Mar 2026 00:00:00 +0000 /?p=23222 執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、 コスト削減など […]

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    執筆者 山田 健
    (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

     執筆者略歴 ▼
    • 著者略歴等
      • 1979年日本通運株式会社入社。
        1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、
        コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、
        荷主向けの研修・セミナーに携わる。
      • 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
      • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
        「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。
        中小企業診断士。

      • URL:http://www.yamada-consul.com/

     

    目次

    • 1.本部からの指示
    • 2.描いた「大きな絵」
    • 3.見落としていた大きな穴
    • 4.細部を見逃さないためには
    •   

      1.本部からの指示

      思えば、最初からそれなりの前兆はあった。委託元からの度重なる要請である。中堅日用品卸A社の物流センター改善コンサルを手掛けていた時のこと(注:守秘義務もあり業種など詳細は一部変えてお伝えする)。ある中小企業支援機関から依頼を受けた筆者は、A社物流センターで稼働しているWMS見直しと物流改善のハンズオン型(伴走型)支援に携わっていた。
      10年以上前に高額な費用をかけて自社開発・導入したオンプレミス型(サーバーやソフトウェアなどの情報システムを自社で保有し、管理・運用する形態)WMSはシステムやバージョンの陳腐化により、新たなリプレイス(システムの置き換え)の必要性に迫られていた。ベンダーから提示されていたリプレイス費用はかなりの金額であり、全く別のWMSを導入することも含め、筆者がアドバイザーとして検討を行うことになったのである。そもそも当初のシステム導入費用も驚くほど高い。クラウド型パッケージなど新たなWMSへ置き換えるのが妥当であることは明白であった。
      まずは現状を調べていく中で、物流作業上の問題が次々に浮かび上がってきた。各地の営業所で営業マンが物流センターから移送された商品の仕分けと商品配送を行っている、そのために在庫が分散している、営業所に保管スペースが必要などなど物流面での弊害は少なくない。中堅クラスの卸でよく見受けられる典型的な「商物一致型」の物流体制である。
      ヒアリングを進めると、そもそも営業マンが商品を配送する必然性はそれほど高くないことがわかってくる。一般的に、営業マンが商品配送を兼ねるのは、配送時に顧客と直接コミュニケーションをとれることで商談や注文取りができる、というのが主な理由である。しかし、よほど零細な店ならいざ知らずいまどきこのような商談はほとんどみられない。言い方は酷だが、本来の営業行為ができないための「逃げ場」として配送を行っているとみられても仕方ない。
      「営業所分散型」では2段階配送となるため、商品の供給元である物流センターへの負担は大きい。通過拠点を経るためにリードタイムはタイトになるので、作業は長時間化する。物流センターからの直配分と営業所移動分など出荷形態も複雑化する。営業所では、総量納品された商品をさらに営業マンごとに再仕分けする手間と時間も発生する。多段階物流により発生するムダである。
      営業行為と物流を分け、物流センターから納品先へ直送する「商物分離型」を目指すべきなのは明らかであった。
      商物分離型では、出荷元である物流センター機能の大幅な見直しが必要となる。直配と営業所送りが混在していた出荷体制をすべて直配に変更するためより高度な仕分け機能が求められる。同時に物流センターの負荷を軽減するために、受注締め時間の繰り上げと配送リードタイムの延長も必要である。そこで次に、物流センター内作業の詳細な実態把握とデータ分析を行わなければならない。
      ところが、ここで委託元である支援機関から厳しい「要請」が入った。いつまでも実態調査などを続けていないで、早く「大きな絵を描け」というのである。まずは最初に進むべき方向、あるべき姿を明らかにしてから細部を詰めていけということである。筆者としては、大きな絵を描くためにもより詳細な実態把握が必要であると認識していたものの、そこは「委託元」の指示でもあるしある程度の妥協はやむを得ないと考え、「大きな絵を描く」作業に取り掛かったのである。これが後ほどの致命的な「穴」につながっていく。

      2.描いた「大きな絵」

      物流センターには大量の商品在庫を保管するための自動ラック倉庫と、ピッキングエリアへ商品を移送するソーターという2つのマテハンが設備されていた。ただこの2つはいずれも設置から10年以上の年数が経ちメンテナンス費用負担が膨れ上がっていた。なかでもソーターに関しては、補修部品が入手できないためメーカーの保守自体が数年後で終了するという。マテハンの使用は限界を迎えつつあったのである。
      こうなると改善の方向性は自ずと明らかになる。その概要は以下のステップとなる。
      ① 物流センターからすべての店舗へ直納する「商物分離」体制をとる
      ② そのために、物流センター機能の抜本的見直しを行う
      ③ あわせて、物流センターのマテハン機器の見直しを行う
      ④ 具体的には、固定的で柔軟性に乏しい自動ラック倉庫を撤去し、固定ラックを設置する
      ⑤ 自動ラック撤去による保管効率低下を補うため、固定ラックの通路幅を狭め、サイドリーチフォークを活用する
      ⑥ ソーターを撤去し、AMRを活用したピッキング方法を導入する
      若干補足を行おう。⑤自動ラック倉庫撤去はメンテナンスコストも高く柔軟性に乏しい(自動ラックのスピードに作業が制約される)自動ラックを撤去し、かわりに高層の固定ラックを設置しようとするものである。保管効率の低下を補うために、横方向にツメが伸び狭い通路でも回転せずにパレットの格納、取り出しが可能なサイドリーチフォークを活用する(図表1)。

      AMRとは、Autonomous Mobile Robotの略で、コンピュータ制御されたピッキング用カートロボットのことである。カートが自動で移動してきてくれるので作業者が歩き回る必要がない。待機しているエリアに近づいてきた自動カートのスクリーン上に指示された商品やロケーションに従って作業者が商品をラックから取り出し、カートのオリコンに置けば、カートは次の担当者が待つエリアへ自動で移動していく。これを繰り返すことでソーターを使ったピッキングと同じように複数エリアでの複数商品のピッキングが可能となる。いわば人とロボットの協働型システムである(図表2)。

      既存のラックをそのまま使え、センター内の大幅なレイアウト変更も不要である。
      この検討時点で、AMRは日本での導入実績はまだ少なく、相当チャレンジングな試みではあったが、使用している固定ソーターは物流センター内の貴重なスペースの多くを占有し柔軟性に欠ける。しかも保守期限を迎えることを考慮すれば妥当な方向性と思えた。
      こうした物流現場の改善を行った後に、本来の目的であるレガシーWMSのクラウド型WMSパッケージへの刷新という道筋が見えてきたのである。

      3.見落としていた大きな穴

      ここまでは大胆とまでいえるかは別にして、支援機関が求めるそれなりの「絵」が描けたように思う。ところが実際の運用実務面の検討で大きな課題が浮上した。それは「移転」の問題である。
      現在の物流センターはA社の本社に隣接する自社所有、自社運営の物件である。自動ラックやソーターを撤去し、固定ラックを設置するなどレイアウト変更するためには在庫商品を一度別の倉庫に移動しなければならない。移動の方法には2つある。1つは、撤去・設置の期間だけ一時的に在庫を別倉庫に移す方法、もう1つは入出荷作業を行いつつ時間をかけて在庫を少しずつ他倉庫へ移転していく方法である。最初の方法は、作業負担は比較的少ないものの、在庫移動、機器の撤去・設置期間中は入出荷をほぼ停止しなければならない。最低でも1~2週間は要すと考えられ営業面での影響が大きい。
      後の方法は、徐々に移動するため営業面での影響は小さいものの、長期的に(2~3か月くらいか)二か所での入出荷作業を同時並行で行わなければならず、作業負担が大きい。いずれにしても担当者への負荷は大きい。
      結局、経営を含めプロジェクトメンバーの大方は描いた絵に賛同したものの、この移転の問題が解決できないまま最後まで抵抗したのは現場運営を担う物流部門であった。本来であれば経営者の強力なリーダーシップに期待したいところであるが、経営者といえども中小規模事業者では強引に押し切ると辞められてしまうリスクがあるため、実際に現場を動かしている部門の賛同を得ないままでは計画は実行できない。
      残念ながら、筆者の関与は絵を描くまでのハンズオン支援であったため、以降の展開の確認はできていない。ただ、最終報告会の空気から察するに、おそらく描いた絵は実行に至っていないものと推測される。
      反省すべきは、「大きな絵」「全体像」にこだわるあまり、移転作業という実務上の穴を見逃したことである。それは自社所有、自社運営の物流センターであったことも大きい。仮に物流センターがアウトソーシングであれば結果は違ったかもしれない。委託先なら在庫移転や二重作業はお金さえ払えば何とかなる。極論すればお金で解決できる問題は経営者が腹をくくればいいだけの話である。現在のマテハンやWMSが限界を迎えていることを客観的、合理的に判断すれば、中長期的に継続的な発展を指向する中で一時的なコスト増と割り切って許容できたかもしれないのである。
      ところが、自社の社員による抵抗となればそうはいかない。人的資源に乏しい中小企業あればなおさらである。社員にそっぽを向かれたら業務が立ち行かなくなる。それどころか、物流現場が混乱し、出荷が止まったりしたら本来の社業の継続さえ危ぶまれる事態に陥る。
      物流に限ることではないかもしれないが、ささいなことを軽視してはならない。「神は細部に宿る」のである。
      どのような課題であれ、枝葉末節かもしれないが制約条件となりうる重要な実務には最大限の注意を払って検討を行うべきであることを痛感させられた事例であった。

      4.細部を見逃さないためには

      もちろん一般的に大胆な改革を行おうとすれば、細部にとらわれすぎるのがよくないことは自明である。では、細部にとらわれすぎず注意を払いつつ、「大きな絵」を描くにはどうしたらよいのだろうか。
      現実的な解は、実態調査やデータ分析を行うにあたっては、何よりも最初に「仮説」を持つことであろう。仮説とは、「物流とはこうあるべき」という姿である。この「あるべき姿」と現実のギャップが「解決すべき問題」であり、それを事前に想定したものが仮説である。逆に言えば、あるべき姿が描けなければ仮説も設定できないし、実態調査やデータ分析もできない。この順番を間違えてはいけない。

      ただし、このステップを完全に踏襲することに固執してはいけないし、固執する必要もない。仮説とはあくまでも仮の姿であって、事実を積み重ねて調査や検討を進める中で仮説とは違う方向性が明らかになることはよくある。その際、当然のことであるが重要なのは間違っていた仮説を変えなければならない。避けるべきは、判明した事実やデータを当初の仮説に無理やり合わせるように捻じ曲げて解釈してしまうことである。意図しないまでも、無意識に行ってしまう可能性もある。仮説は変わる可能性があるからこそ「仮説」であることを忘れてはいけない。
      現実には、「仮説設定⇒調査・分析・検討⇒仮説修正⇒調査・分析・検討」というサイクルを繰り返すことによって、より正しい方向性を見出すことができる。このサイクルの中で見逃してはならない細部の実務まできめ細かく踏み込んでいくことが重要である。
      やはり「神は細部」ならぬ「実務に宿る」。大いなる自戒を込めて肝に銘じたい。

      以上



      (C)2026 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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    第574号 米国におけるトラック運送のブローカー規制と下請け規制(2026年2月17日発行) /logistics-574/ /logistics-574/#respond Tue, 17 Feb 2026 00:00:00 +0000 /?p=23218 執筆者  久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 199 […]

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    執筆者  久保田 精一
    (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
    城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
      • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      • 2015年7月~ 現職
      活動
      • 城西大学 非常勤講師
      • 流通経済大学 客員講師
      • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
      著書
      • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

     

    目次

    • ■はじめに
    • ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法
    • ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論
    • ■主要な論点は「取引の透明化」
    • ■日本の下請け規制との比較
    • ■最後に
    •   

      ■はじめに

      トラック運送業界では、深刻なドライバー不足を踏まえ、輸送条件の適正化に向けた制度改正が進んでいる。
      その焦点の一つは、多重下請け構造の是正である。トラック運送では「荷主⇒元請け⇒下請け⇒孫請け」、というような数次に亘る再委託が一般化しており、中間マージン分の「中抜き※」による運賃引き下げといった問題に繋がっている。
      そのような背景から、近年、国は下請け取引に係る規制的措置の導入を進めている。
      具体的には、下請け構造を記録する「実運送体制管理簿」の記録が義務化されたほか、標準的運賃および標準運送約款の改定に伴って下請け取引における「マージン率」について、標準的な数値が示された。また、執筆時点(2025年10月)では未施行だが、2025年に可決成立した改正トラック法では、下請け取引を二次までに制限することを努力義務とする規定も導入されている。
      ところで、このような規制が導入されるに際しては、米国において下請け規制が存在することを論拠とする場面が見られた。
      一方、米国では、現行の規制に留まらず、更なる規制強化を巡る議論が続いているが、その点についてはあまり触れられていない。米国での議論は、今後の日本の規制のあり方にも参考になると思われるため、本稿では、米国における規制の経緯について、簡単にご紹介することとしたい。なお筆者は法律の専門家ではないため、法的な記述について不正確な箇所が含まれる点をご容赦いただきたい。

      ※「中抜き」は本来、「仲介業者を介さずに取引すること」を指し、「中間業者が不当に利益を抜くこと」の意味での使用は誤用とされる場合が多いことを付記しておく。

      ■米国での下請け規制に関わる2012年の立法

      最初に、2012年に導入された下請け規制について紹介する。
      米国では州を跨ぐ「州際輸送」を行う場合、連邦運輸省(DOT)の規制を受ける。具体的には、輸送事業者はDOTおよび関連する輸送安全機関であるFMCSAへの登録等の手続きが必要とされる。登録の方法は業種ごとに定められており、貨物運送については、実運送業者(Motor Carrier)、ブローカー、フレイトフォワーダ等に分類される。
      ここで言う「ブローカー」は「貨物を仲介する業者」に相当する。法的な性格としては契約を媒介する「運送取次業」に近い業態である。日本で貨物の仲介を行うのは主として利用運送業だが、一般的な利用運送業は契約を媒介するのではなく運送契約の主体となるため、米国の分類ではフレイトフォワーダに近い。イメージとしてはいわゆる「水屋」がブローカー業態に近いものの、水屋も運送責任を負う点で差異があるようである。
      さて、このように、ブローカーと実運送とは業態として区別されているのだが、実運送として受託した輸送を、他社に再委託するケースもある。そのような法的に問題のある下請け取引に絡んで重大事故が発生した事案があり、下請け取引の問題への社会的関心が高まったのを受け、オーナーオペレータ(個人事業主であるトラックドライバー)団体が中心となって規制強化を求めるロビー活動を始めた。そのような業界の努力が実を結び、2012年に下請け取引への法規制が成立した。
      以上の経緯については、以下の参考資料1にやや詳しく紹介されているので、ご関心のある方は参照いただきたい。
      さて、この規制の主旨は、実運送とブローカーとの区分の明確化である。すなわち、ブローカーではない実運送業者として契約した運送業務について、他社に委託することを禁止することで、下請け取引の秩序を維持しようというものである。国内の行政文書等で米国における下請け規制として言及されているのは、一般的にこの規制のことである。
      ところで、実運送として契約しながら、実態として他社に委託するというのは、日本でもごく一般的に行われている。貨物自動車運送事業の約款には、利用運送を行うケースに適用される規定があり、そのため、荷主と運送事業者が「貨物自動車運送事業」の約款で契約したうえで、他社に委託する行為自体は一般的には妨げられないが、米国では両者の線引きを明確にしたと理解することもできる。
      参考資料1:経産省「令和2年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業/物流市場における競争環境や労働環境等に関する調査」

      ■ブローカーの「価格釣り上げ」を巡る議論

      さて、以上の経緯で導入された下請け規制は一定の効果を上げている。上記の参考資料1によれば、規制導入後、運賃が上昇傾向に転じるといった効果も見られているそうである。
      とはいえ、運送事業者団体のメディアでのコメント等を見ると、規制への評価は必ずしも芳しくない。
      実運送事業者、特にオーナーオペレータにとって、下請け取引への本質的な不満は、元請けであるブローカーに不当に「中抜き」され、その結果、安い運賃で運ばされている、というものである。
      2020年、オーナーオペレータ団体であるOOIDAなどが、ワシントンD.C.で大規模なデモンストレーションを行った。
      デモで繰り広げられた主張は、ブローカーが荷主に請求している運賃は「高くつり上げられて」おり、ブローカーだけが「ボロ儲け」している、というもので「トラックブローカーによる不当な価格吊り上げ」がメディアなどで取り上げられる際のキーワードとなっていた(参考記事2)。
      もちろん、これはあくまで事業者サイドの主張に過ぎない。ブローカー側は、中抜き率は一定のレベルに留まるといった論拠を示し、真っ向から反論を行っている。また当時はコロナ禍により実運送の運賃が著しく低迷しているなど、外部要因の影響があったことも割り引いて考える必要がある。
      このような状況にもかかわらず、当時の第1次トランプ政権は、OOIDAの主張に寄り添ったスタンスを取った。特に、大統領自身がOOIDAの主張を支持する主旨のツイートをしたり、フォックスニュースに出演し「彼ら(オーナーオペレータ)は素晴らしい人々であり(中略)、我々は彼らの面倒を見るつもりだ」などと発言したことは、運送事業者側を明確に支持するスタンスを示すものとして受け取られた。このような政権の姿勢もあって、運送事業者サイドの主張に沿った法改正の動きが進められていくことになった。

      参考資料2:Freightwaves,Trucker rally for fair rates gets White House attention
      https://www.freightwaves.com/news/trucker-rally-for-fair-rates-gets-white-house-attention

      ■主要な論点は「取引の透明化」

      このような経緯を経て、新たな規制の議論が進められていくのだが、マージン率そのものを規制するのは困難であるためか、実際の制度設計としてはマージン率をガラス張りにするという「取引の透明化」を進める方向で議論が進み、規制案もその方向性で取り纏められた(実際の取り纏めはバイデン政権下)。
      なお、従来の連邦規則でも、一定の情報開示は規定されているのだが、これが不十分であるというのが関係者の主張であった。従来の規則でも、ブローカーに対し、運賃・手数料を含む取引記録の作成・保存を義務づけたうえで、関連当事者への記録閲覧の権利を定めていたが、例えば運送事業者に記録閲覧の権利を放棄させるケースがあるなど、実効性を伴っていなかったというのである。
      その点を踏まえ、より実効性を伴うべく、新たに策定されたのが、下記の規制案である。
      新規制案では、「運送事業者による取引記録の閲覧権を確保」という目的を達成するため、「権利放棄の無効化」「記録請求の電子化」「48時間以内の対応」といった具体的なルールが提示された。
      なお、本稿執筆時点(2025年10月)においては、規則案(Docket)は官報で公表され、パブリックコメントが募集されるといった段階に留まる。ワシントンD.C.でのデモから5年を経過した2025年時点でも、新規制が導入される見通しは立っておらず、現在のところ、トランプ政権が本規制の導入に向けて力を入れているという状況にもない。その理由については明らかでないが、ブローカーの根強い反対がその一因として指摘できるだろう。

      貨物ブローカー取引の透明性に係る新規制(案)の要点

      (1)記録の電子化
      紙媒体での保存を前提とした旧来の運用は、透明性請求への迅速な対応を妨げ得るため、電子化を基本とする。ブローカーは、取引記録を電子フォーマットで保存し、検索可能かつ共有容易な形態で保持すること。
      (2)記録内容の明確化・整理
      取引に関わる荷主・運送事業者・ブローカーの識別情報、出荷・着荷の日時・場所、運賃、手数料、および当該出荷に紐づく支払・受領の金額・日付等を含めた記録とする。従来の「ブローカーサービス」と「非ブローカーサービス」の区別に依拠した書式は見直す。
      (3)48時間以内の提供義務
      当事者(荷主・運送事業者)からの記録請求に対し、ブローカーは規制上の義務としてこれに応答し、原則48時間以内に電子的に提供しなければならない。また、対面のほか遠隔(電子)等の請求手段であってもアクセスが可能となるよう運用する。
      (4)権利放棄条項への対処
      当事者の閲覧権は規則に基づく権利であり、契約上、これを放棄させる条項を用いることは無効とする規制上の整理を行う。
      (5)保存期間・範囲の再確認
      保存期間や範囲は、現行規制を踏まえて維持しつつ、電子保存へ移行することに伴う合理的な技術的要件を注釈で示す。

      資料:DOD、MFCSA(連邦自動車運送安全局)DocketNo.FMCSA–2023–0257
      Transparency in Property Broker Transactions(貨物ブローカー取引の透明性)
      https://www.fmcsa.dot.gov/regulations/federal-register-documents/2024-27115
      ※このDocketには、ブローカー規制の歴史、規制の意義等も簡潔に整理されており、関心のある方はご参照いただきたい。

        

      ■日本の下請け規制との比較

      冒頭に述べたとおり、日本においてはすでに「実運送体制管理簿」による記録の義務化や、「標準的な運賃」におけるマージン率の提示が行われており、米国に先んじて規制の具現化が進んでいる状況とも言える。ただし、同じ「下請け規制」でありながら、その中身を見比べると、別物と言って良いほど大きな差異が見られる。
      米国では、マージンの適正化を図ることを目的に、ブローカーの運賃・手数料を透明化するという規制が検討されている。その際、「透明化」する側は主にオーナードライバーで、される側はブローカーという関係である。
      日本で導入された「実運送体制管理簿」は、一見すると同じような規制に見えなくもないが、その内実は大きくことなる。「管理簿」の記載事項としては、法令により、①実運送の商号又は名称、②実運送事業者が実運送を行う貨物の内容及び区間、③実運送事業者の請負階層の3点が規定されているが、マージンの額等は必須記載項目ではない。よってマージンの多寡については依然としてブラックボックスである。
      もちろん、だからといって管理簿の導入が無意味だということではない。管理簿によって「多重下請けが生じている」という事実が可視化され、それによる取引の是正効果は期待できるだろう。また、法令では上記3点以外の記載事項を省令で定めることができ、今後、その他の事項を追加で記載させる可能性もある。

      日米の違いと言う点では、取引記録の「閲覧権」の考え方についても差異がある。
      日本の「管理簿」も米国の「取引記録」も、作成義務を負うのが元請けである点は共通である一方、管理簿を閲覧する権限を有するのは日本の場合、「真荷主」であり、下請け事業者の閲覧権限は規定されていない。
      今回、下請け取引の規制を導入した理由は、多重下請けによって「中抜き」されている小規模事業者を保護することだと広く解されているが、実際の規制内容は、そのような立法目的とやや乖離しているようにも見える。
      この問題は既に一部で批判があり、具体的には、多重下請けによってマージンを上乗せされた真荷主が、そのマージンを「中抜き」するために閲覧権を行使する、いわば規制を悪用することへの懸念を指摘する関係者もいる。
      このような懸念が残るとはいえ、米国は正攻法での規制を試みた結果、数年経っても導入に至っていないという事実を踏まえると、社会的受容性を考慮した日本の規制アプローチのほうが、結果的に実効性が高いという指摘もできるかも知れない。

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      管理簿のフォーマット例。出典:(公社)全日本トラック協会HP。

      ■最後に

      トラック運送における下請け規制はまだ始まったばかりである。
      直近のトラック法改正による「2次下請けまで」の規制については、政省令等の検討もこれからである。下請け規制のあり方は現在、試行錯誤のまっただ中であり、その意味では、海外の事例も含め、制度のブラッシュアップが図られることが望まれる。
      上述のDocketの文章を読むと、ブローカー制度には、「市場のマッチング・能力調整・運賃交渉の媒介という機能を通じて、情報の非対称を緩和しうる」というプラスの面がある一方、「仲介過程や契約条項の在り方によっては、逆に当事者間の情報格差が拡大する」というマイナスの面もあるとの指摘がなされている。過度な多重下請けは論外ではあるものの、一定程度の下請け取引にはプラス面があることも事実である。そのようなプラス面を活かしつつ、マイナス面を抑制していくためにどのような規制が望ましいかという点も含めて、議論が深まることを期待したい。

      以上



      (C)2026 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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    第573号 1年半経った「物流の2024年問題」(後編)(2026年2月5日発行) /logistics-573/ /logistics-573/#respond Thu, 05 Feb 2026 00:00:00 +0000 /?p=23206 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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    執筆者  長谷川 雅行
    (一社)日本物流資格士会 顧問

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1948年 生まれ
      • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
      • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
      • 2009年 同社顧問
      • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
      活動領域
      • 日本物流学会
      • (一社)日本SCM協会
      • (一社)日本物流資格士会会員
      • 流通経済大学客員講師
      • 港湾短期大学校非常勤講師
      • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師

     
    本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。
    ※前編はこちら
     

    目次

    • 3.行政による評価
    • (1)「2025年版交通政策白書」の総括と今後の取り組み
    • (2)「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」
    • 4.「物流の2024年問題」への取り組み強化
    • (1)「物流の2024年問題」から「物流の2026年問題」「物流の2027年問題」へ
    • (2)トラック運賃改定が物価高の張本人か
    • (3)外国人労働力の「特定技能」は、ドライバー不足の切り札か
    • 5.おわりに
    •   

      3.行政による評価

      ここでは、国交省と厚労省の白書等から、行政が「物流の2024年問題」の推移・動向について、どのように評価しているかを見たい。
      取り上げた資料は、国交省の「2025年版交通政策白書」と厚労省の「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」の2つである。他にも「『標準的な運賃』に係る実態調査結果」(国交省)や「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果等」(中小企業庁)などの最新かつ有益な資料も多いが、誌面の都合で割愛する。

      (1)「2025年版交通政策白書」の総括と今後の取り組み

      国交省では、「2025年版交通政策白書」以外にも「国土交通白書」をはじめ、各種の白書・調査があるが、白書は閣議決定を経てオーソライズされているので、これが国交省の「公式見解」と言っても良いのではなかろうか。最近は、各省庁の白書等も「冊子」ではなく、ホームページにPDFで公開されているので、容易に入手できる。
      同白書では、「現時点では懸念された物流の深刻な停滞は生じていないところであるが、この問題は年々深刻化する構造的な課題でもあり、引き続き取組を進める必要がある」と述べている。

      図表10 令和7年版交通政策白書の概要(抜粋)

      (出所)国土交通省「令和7年版交通政策白書の概要」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      その背景には、トラックドライバーなど物流分野における構造的な人手不足が解決しておらず、「2030年にはトラック運送能力が34%不足する可能性がある」という問題は積み残されたままとなっていることがある。以下、図表9に沿って、国交省の取り組みを概説する。
      1)2030年までを物流革新の「集中改革期間」
      そこで、政府は、輸送力不足が年々深刻化する2030年までの期間を物流革新の「集中改革期間」と位置付け、物流全体の適正化や生産性向上、自動運転等の抜本的なイノベーションに取り組むと掲げている。
      2)労働力不足対策と就業構造改善
      関連法律を整備して労働力不足対策と就業構造改善に取り組む。
      なお、人材を確保することが困難な状況にある交通事業における労働者不足に対応するため、2024年3月に自動車運送業分野鉄道分野を特定技能制度の対象分野に追加した。外国人材の早期受入れ開始に向け、分野別協議会の設置や技能評価試験などを進めつつ、物流倉庫分野についても対象分野に新たに追加すべく調整中である。
      3)物流DXの推進
      新たな物流形態として、道路空間を活用した「自動物流道路」の社会実装に向けた準備を進め、2027年度までの社会実験の実施、2030年代半ばまでの第1期区間での運用開始等を予定している。
      サプライチェーン全体の輸送効率化を推進するため、引き続き、関係事業者が連携したAI、IoT等の新技術の活用について実証を実施し、物流分野における機械化・デジタル化を進めるとしている。
      さらに、物流標準化実現を推進するため、標準仕様パレットの導入に係る設備改修や、標準仕様パレットの効果的な活用や、物流情報の標準形式を定めた「物流情報標準ガイドライン」を活用した共同輸配送を支援する。
      4)モーダルシフトの推進等
      トラックドライバー不足に対応するため、従来の鉄道・内航海運に加え、ダブル連結トラック、自動運転トラック、航空貨物輸送など陸・海・空のあらゆる輸送を総動員した「新たなモーダルシフト」の選択肢を広げる。
      特に、鉄道(コンテナ貨物)、内航(フェリー・RORO船等)については、今後10年程度で輸送量・輸送分担率を倍増させることを目指しており、大型コンテナ導入等に係る支援を行う、
      過疎地域等における物流網の維持には、ドローン物流の環境整備を進める。
      従来、国交省がモーダルシフト推進の理由として、①環境対策(GHG排出量の削減)、②省エネルギー(脱・化石燃料)、③道路渋滞の緩和、④ドライバー不足の4本柱を掲げていたことからすると、「GHG排出量の多い航空輸送などもモーダルシフトか」と違和感があるが、国交省は「総合交通体系」という観点に立ち戻ったのかも知れない。
      未来志向的かつ総花的な記述もみられるが、「2030年までを物流革新の『集中改革期間』と悠長なことを言わないで立法化した、4項の「物流の2024年問題」解決を加速するための「新・物流二法」「トラック新法」の取り組みに期待したい。

      (2)「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」

      厚労省では、労働基準監督署が、労災事故の発生や従業員からの申し出等に基づき、全業種の事業場に立入検査をして、その結果を公表している。筆者も、労働基準監督署の研修会に参加したときに、「これから近くの事業場を見たい」と言われて監督官を案内したことがある。
      2024年(暦年なので、「物流の2024年問題とは3ヵ月ズレている」に全国の労働基準監督署等において、労働基準関係法令違反が疑われる自動車運転者を使用する4,328事業場(バス、ハイヤー・タクシー・トラックの事業用自動車だけでなく、自家用自動車の運転者も対象)に対して監督指導を実施したところ、その81.6%に当たる3,532事業場で同法令違反が認められたと、2025年8月に公表された。

      図表11 自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況
      (主な違反事項)

      (出所)厚労省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6
      年の監督指導・送検等の状況」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      図表12 自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況
      (改善基準告示違反)

      (出所)図表11に同じ

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      筆者は、毎年のように「トラック運送業に労基署が立入検査で入ると、8割の事業場が労基法等の違反、6割以上が改善基準告示違反」と警鐘を鳴らしているが、残念ながら、「物流の2024年問題」期間に入っても、状況は「好転」していない(労働時間が減っていないので、改善基準告示違反も減らない)ように見受けられる。
      労基法は罰則規定があるが、改善基準告示には罰則規定がない。そこで、改善基準告示で定める時間をさらに短縮するとともに、改善基準告示にも罰則規定を設けようという考えもあると聞く。
      改善基準告示は、運転者の「労働時間」つまり「健康」を通じた「輸送の安全確保」が目的であるが、安全については、安全な荷役作業も重要である。
      これも繰り返し警鐘を鳴らしているが、トラック運送業(労災統計では陸上貨物運送事業)は、2024年の労働災害(休業4日以上)が16,292件(2023年比77人、0.5%増)と、製造業・建設業と並んで労働災害の多い業種である。全体の約7割が、荷役作業時の墜落・転落等の事故で発生しており、また同じく約7割が荷主等(荷主・配送先・元請事業者)の事業場で発生している。
      そこで、厚生労働省では「陸上貨物運送事業の荷役作業における労働災害防止対策の推進について」という通達(通称「荷役通達」)を2015年に発出し、荷主等に以下の対策を求めている。
      ①労働災害防止のため陸運事業者と協議する場の設置
      ②荷役作業の有無、内容、役割分担の陸運事業者への通知
      ③自社以外の者に荷役作業を行わせる場合の安全対策(作業手順及び安全設備)
      ④自社の労働者と自社以外の労働者が混在して作業する場合の安全対策
      ⑤自社以外の者にフォークリフトを使用させる場合の事項等
      物流事業者も荷主等(元請事業者を含む)と協議して安全対策を推進する必要がある。物流事業者が元請事業者である場合は、荷役通達を遵守する努力義務がある。
      2-(5)の賃金動向や、3-(2)の労基法違反・改善基準告示違反を見る限りでは、「物流の2024年問題」の改善は進んでいないと言えよう。

      4.「物流の2024年問題」への取り組み強化

      日本人は激し易く、冷め易い性格と言われる。また「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺もある。
      しかし、トラック運送の持続的な提供のためには、トラックドライバーの確保が欠かせないし、そのためには3-(1)の交通政策白書に掲げられているように労働時間の短縮、処遇の改善が不可欠であり、長期的・構造的な取り組みが必要である
      後述するように、荷主の側では「それより、2026年問題(新・物流二法の施行=物流統括管理者の選任・届出など)の方が、喫緊の課題だ」、トラック運送事業者の側では「いやいや、2027年問題(トラック新法の一部施行=下請け委託次数制限等)の方が、大変だ」と、「2026年問題」「2027年問題」が取り上げられている。それも、「物流の2024年問題」という大きな課題を解決するための手段として、取り組んでほしい。
      ここでは、今後の取り組みの参考になるよう、幾つかの方策を述べたい。

      (1)「物流の2024年問題」から「物流の2026年問題」「物流の2027年問題」へ

      「運べなくなる」という最悪の事態は避けられた。見方によっては「嘘っぱち」「オオカミ少年」に終わったが、地域や荷主の業種によっては、「トラックが足りない」という状況が続いていると言われている。
      トランプ関税や中東情勢により、さらに世界景気が後退して、国際貨物量が減ることも想定される。今や、国際物流と国内物流の垣根は低くなり、海外の動向が国内貨物輸送にも敏感に跳ね返る。
      筆者が住む神奈川県では、日産の工場廃止(追浜・平塚)により地域経済や貨物量に少なからぬ影響が出ることは、想像に難くない。また、横浜港からの完成車・自動車部品輸出の減少は、東日本を主体とする全国各地から横浜港への荷動きも心配である。
      また、一方でWeb−KITなどの求車求貨システムにおける求貨(空車)情報が減っているとも言われている。そのためか、Web−KITの成約運賃指数も130前後で高止まりしている。
      運行開始前に帰り荷が確保できて、往復実車運行の場合は、求車求貨システムを利用しない。帰り荷がない場合に限って利用されるので、元々が限界的な市場とも言われている。
      しかし、最近は帰り荷があっても運賃決済手段として、求車登録と求貨登録を事後的に行うという求車求貨システムを決済情報システムとする活用方法もあるようだ。
      2025年8月2日の日経新聞では、「中継輸送」や「共同配送」の増加によって、トラックの積載率が上がったと、楽観的な観測をしているが、本当にそうなのだろうか?
      筆者は、諸々のデータからトラック(ドライバー)不足は、深く静かに進んでいると感じている。
      既に、荷主やトラック運送業者の関心は、通称「新・物流二法」(「貨物自動車運送事業法」と「流通業務総合効率化法」)や通称「トラック新法」(「トラック事業適正化関連二法」)が施行される2026年および2027年(これが「物流の2026年問題」「物流の2027年問題」と言われている)に、関心が移っている。
      長期的・構造的な「物流の2024年問題」を解決する目的のために、行政やトラック運送業界が協力・構築した仕掛け(手段)なので、力が入るのは当然としても、何か、こちらの方が目的になっているような気がする。
      「新・物流二法」や「トラック新法」については、ロジスティクス・ビジネス誌の2025年8月号「連載・物流コンサル道場」でも取り上げられているので、参考にされたい。
      筆者も、別の機会にレポートしたいと思うが、今のところトラック運送事業者には、「お役所のお仕着せではなく、皆さん(トラック運送事業者)の『長年の宿願』(全ト協「広報トラック」号外)なので、(運賃競争による)抜け駆けや足の引っ張り合いは止めて下さい」と話している。「適正原価」の元では「帰り便だから、燃料費(と高速代)だけでイイよ」という限界利益的な考えはNGになる。「自助努力」だけではなく、トラック運送事業適正化のように「自浄努力」義務がある。

      (2)トラック運賃改定が物価高の張本人か

      本稿を執筆中の2025年8月も食品など必需品の物価上昇が著しく、筆者のような年金生活者には暮らしにくくなっている。生鮮食品などを除くコア品目では対前年比2~3%の上昇とされているが、生活者の実感としては、毎日の食品の値上げが強く感じられる(帝国データバンク調査)。
      そして、食品メーカーなどの値上げ理由には、決まって①円安による原材料費の高騰、②人件費(一方で、実質賃金が上がっていない)、そして③物流費の上昇の「3点セット」が挙げられている。
      食品の物流に携わっているトラックの運賃が、それほど高くなっているのだろうか(上がっていることは、トラックドライバーの処遇改善と言うことで、喜ばしいことではあるが)。物流費の上昇が、本当に物価上昇の大きな要因になっているのか、いつも疑問に思う。
      日本ロジスティクスシステム協会(以下、「JILS」と略す)が毎年調査報告している「売上高物流費比率」は、長年5%前後(100円の売上に対して、物流費は約5円)で推移している。これが多いか少ないかの議論は別として、分かりやすく物流費イコールトラック運賃と想定してみる(実際には、輸配送費は物流費の約50%)。
      同協会ホームページの「2024 年度 物流コスト調査報告書【概要版】」のサマリーを見ると、
      「2024年度調査(有効回答191社)の売上高物流コスト比率は5.44%(全業種平均)となった。前年度から0.44ポイントの上昇。
      近年、物流事業者からの値上げ要請などを理由に、売上高物流コスト比率は長期的な上昇傾向にあると考えられる。実際に過去20年間の調査と比較しても、5.70%を記録した2021年度調査に次ぐ売上高物流コスト比率の高さとなっている。
      2022年度から2023年度の調査では、売上高物流コスト比率が2年連続で減少し、荷主企業による商品価格などの値上げが進む一方で、物流事業者からの価格転嫁が遅れている点が懸念されていた。2024年度の調査結果は、荷主企業から物流事業者への価格転嫁が一定程度進展したことを示唆している」
      と要約されている。
      2023年度の5.00%が、2024年度には5.44%になったのだから、単純計算では物流費は10.88%(=5.44÷5.00)と大幅上昇したことになる。

      図表13 売上高物流コスト比率の推移(全業種)

      (出所)日本ロジスティクスシステム協会「2024 年度 物流コスト調査報告書【概要版】」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      仮にトラック運賃が、「標準的な運賃」に近づいて上記の単純計算のように10%上昇したとすると、5円が5.5円(図表12で換算すれば、5.44円)になり、そのまま商品価格に転嫁されても100.5円と0.5円(売上高の0.5%)しか上昇しない。つまり、単純計算では、トラック運送業者が運賃を10%値上げしても、商品価格は0.5%しか上がらないことになる。ところが、物価上昇の実態は2~3%、食品に至っては、「令和のコメ騒動」と言われたコメを除いても数%上昇している。
      「商品の価格変動は複雑な要因が絡み合っている」と、メーカー・流通業から反論が出るのは百も承知である。実際には、その通りであろうと思うが、「物流費上昇=物価上昇」とは、言い過ぎではないだろうか?
      上記JILS調査では、さらに
      「ただし、本調査(ミクロ物流コスト調査)ではサンプルサイズが200社前後と限られており、 とくに物流危機の影響が大きかった近年は、数値が乱高下する傾向が見られる。 このため、長期的な傾向を把握するには、『指数でみた物流コストなどの動向(概要版p.4)』や『マ クロ物流コストの調査(同p.6)』などもあわせて参考とする必要がある。
      『指数でみた物流コストなどの動向』によれば、物流コスト単価は上昇傾向にあるものの、 売上単価の伸びには追いついておらず、物流事業者による価格転嫁は依然として十分とは言えない状況であることが示唆されている。
      もう一つ、経済関係省庁の一つである内閣府(元・経済企画庁)の研究結果を見てみる。そこでは、
      「物流費の上昇は、食料品価格上昇の主因の一つとなるなど、各種財・サービス価格への転嫁を通して物価を押し上げる要因となっている。物流費の上昇による物価全般の押上げ効果について産業連関表を用いて定量的に分析したところ、物流費の10%の上昇は、生産及び流通段階で運送サービスを利用する様々な財・サービスの価格へ波及することで、物価全体を0.2%程度押し上げる可能性が示唆された」
      と、筆者の荒っぽい「0.5%」を下回る「0.2%」と推計されている。
      「物価上昇はトラック運賃が上ったから」という「物価高の張本人」呼ばわりは止めて欲しいと思う。
      逆に考えれば、もっと積極的に、「標準的な運賃」から自社の「適正原価」に基づく運賃改定を、トラック運送事業者は進めて行きたい。

      (3)外国人労働力の「特定技能」は、ドライバー不足の切り札か

      7月の参議院議員選挙では、「日本人ファースト」を掲げた参政党が議席を拡大したので、「外国人労働力」に関する発言には気を配らなければならないのかも知れない。
      しかし、今や、農水産業・製造業・建設業・飲食業・コンビニなどでは、外国人労働力がなければ持続できないのが実態ではないだろうか。
      最近の報道を見ると、特定技能2号の外国人労働力の導入に道筋が付けられた自動車運転のうち「トラックの運転」についても、全国各地で始まっている。大手トラック運送事業者にも積極的な拡大を進めているところがある。
      また、最近は人口減少や若年層のクルマ離れから経営に苦しんでいる、運転教習所・自動車学校などが途上国に進出して、外国人運転者(特定技能)の育成を図り、国内のバス・タクシー・トラック事業者に紹介している例もある。
      2024年度以降の5年間で受け入れる外国人は、特定技能1号・2号の16分野で最大82万人(年間平均16万人強)となっており、うち後発の「自動車運送」「林業」「鉄道」「木材産業」は、既存の「システム化」された「製造」「建設」「農業」「外食」等の12分野に比べれば、出遅れたので競争に不利となっている。
      注意しなければならないのは、外国人ドライバーは「低賃金」=人件費の削減にはならないことである。ドライバー職としての「同一労働同一賃金」の原則が適用される。ドライバー不足の対策として考えるべきである。
      また、先述のように「特定技能」全体での枠(人数制限)で、他の15業種との取り合いが始まっている。取り合いになれば賃金競争は避けられない。また、「自動車運転」ということで、バス・タクシー業界との競争もある(バス・タクシーへの外国人運転者も増えている)。
      外食では業界団体や大手外食業が、外食業界での外国人採用ノウハウを元に、ドライバー紹介に参入してきている。あるいは、外食業界(接客サービス)では適任でない外国人の就業先を考えているのかも知れない。
      特定技能が自動車運転(バス・タクシー・トラック)にも認められたことから、日本倉庫協会など倉庫関連団体も特定技能の外国人労働者を倉庫業界でも活用したいと、国に働き掛けている。
      「自動車運転」であれば、運転免許が「技能」の一つであるが、倉庫の従業者では、何が「特定技能」か明確でないので「倉庫管理」という職種にしている。「倉庫管理」というと、営業倉庫は各棟に原則1名配置しなければならない「倉庫管理主任者」が思い浮かぶが、同等の「特定技能」ということなのだろうか?
      いずれにしても、既存の15業界に加えて、物流業界のなかでも「ライバル業界」が生まれそうであり、外国人材の採用については早めの取り組みが必要なようである。

      5.おわりに

      (いつものことであるが)「新・物流二法」「トラック新法」「荷主責任(とくにトラックドライバーに対する安全配慮義務)」「在留資格(特定技能)」等については、説明不足になってしまった。
      またの機会があれば、取り上げてみたいと思う。
      トランプ関税によって、世界経済がグローバル化からブロック化へ大きく変わるかも知れない。日本の経済社会・国民生活への影響や、SCM(ロジスティクス・物流)の再構築もウォッチして行きたい。

      以上



      【参考資料】(全て西暦表示に統一した)
      1.NX総合研究所「2025年度の経済と貨物輸送の見通し」2025年7月、「企業物流短期動向調査(2025年6月調査)」2025年7月
      2.全日本トラック協会「第129回トラック運送業界の景況感(速報)」2025年5月
      3.NX総合研究所「物流の2024 年問題に関する追加調査(2025年6月調査)」2025年7月
      4.厚生労働省「毎月勤労統計調査2025年6月分結果速報」2025年8月
      5.東京商工リサーチ「2025年上半期(1~6月)のトラック運送業の倒産動向」「2025年7月
      6.国土交通省「交通政策白書」2025年版
      7.厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」2025年8月
      8.中央職業能力開発協会編「ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト『ロジスティクス・オペレーション3級(第4版)』2024年10月
      9.全日本トラック協会・日本貨物運送協同組合連合会「『求荷求車情報ネットワーク「WebKIT』成約運賃指数について(令和7年7月期)」2025年8月
      10.全日本トラック協会「機関誌『広報とらっく』6月5日号【号外】」2025年6月
      11.湯浅和夫「物流コンサル道場No.279『トラック事業適正化関連法』成立」ロジスティクス・ビジネス誌2025年8月号
      12.日本ロジスティクスシステム協会「2024 年度 物流コスト調査報告書【概要版】」2025年4月
      13.豊川浩気「『2024年問題』による物流費上昇の背景と物価に与える影響について」内閣府マンスリー・トピックスNO.74 2024年11月
      14.その他、本稿で引用した内閣府・国土交通省・厚生労働省・経済産業省・中小企業庁・公正取引委員会等の資料・ホームページ。
      15.長谷川雅行「500日を切った「物流2024年問題」前編・後編」2023年1月 ロジスティクス・レビュー第500・502号
      16.長谷川雅行「100日を切った『物流の2024年問題』前編・後編」2024年1月 ロジスティクス・レビュー第523・524号
      17.長谷川雅行「『負のスパイラル』から『正のスパイラル』へ」2024年11~12月 ロジスティクス・レビュー第543~546号)


      (C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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    第572号 1年半経った「物流の2024年問題」(前編)(2026年1月20日発行) /logistics-572/ /logistics-572/#respond Tue, 20 Jan 2026 00:00:00 +0000 /?p=23157 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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    執筆者  長谷川 雅行
    (一社)日本物流資格士会 顧問

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1948年 生まれ
      • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
      • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
      • 2009年 同社顧問
      • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
      活動領域
      • 日本物流学会
      • (一社)日本SCM協会
      • (一社)日本物流資格士会会員
      • 流通経済大学客員講師
      • 港湾短期大学校非常勤講師
      • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師

     
    本論文は、前編、後編の計2回に分けて掲載いたします。
     

    目次

    • 1.はじめに
    • 2.荷動きなど「世間」の動向
    • (1)荷動きの動向
    • (2)トラック運送業界の景況感
    • (3)「2024年問題」に対する企業の意識調査
    • (4)賃金・労働時間の動向
    • (5)トラック運送業の倒産動向
    •   

      1.はじめに

      「物流の2024年問題」については本ロジスティクス・レビュー誌で、これまでも数回にわたって状況報告などをさせて頂いた。直近では、「『負のスパイラル』から『正のスパイラル』へ」(2024年11月7日 第543号~2024年12月17日 第546号)で4回にわたって、
      1.はじめに
      2.荷動きなど「世間」の動向
      3.適正運賃での取引に向けた国土交通省などによる4つの支援策
      4.取引の適正化に向けた公取委・中小企業庁の動き
      5.運賃・料金の改定で労働環境・労働条件の改善を
      6.おわりに
      をご説明して、トラック運送の経営を「正のスパイラル」に乗せて頂くための方策を、読者の皆さんと一緒に考えてみた(以下、「前稿」という)
      本稿(2025年8月末執筆)が配信されるのは、2025年11月の予定なので、2024年4月スタートから既に1年半以上が経過していることになる。しかし、国土交通省・トラック協会などが述べているように、「物流の2024年問題」は長期的、かつ構造的な課題なので、引き続き、関係者(トラック運送事業者・荷主・行政・業界団体など)が協力して取り組んでいく必要がある。
      ともすれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるかのように「物流の2024年問題は、もう終わった」という傾向もみられる。
      本稿では、前稿で述べたことを振り返りつつ、その後の各施策(通称、「新・物流二法」「トラック新法」など)の動向などを踏まえて、読者の皆さんの「物流の2024年問題」への息の長い取り組み策を述べたいと思う。

      2.荷動きなど「世間」の動向

      本項を実証的研究というのか否か分からないが、前稿で挙げた各種データと、その最新版を比較して、現在のトラック輸送・労働力不足などの傾向をフォローしてみたい。
      誌面の都合で、前稿データは省略するので、バックナンバーから前稿を開いて比較しながら読まれたい。

      (1)荷動きの動向

      NX総合研究所の「2025年度の経済と貨物輸送の見通し」(2025年7月14日発表)によ
      ると、2024年度の実質経済成長率は0.2%増と微増にとどまり、国内貨物輸送量は、上期が
      1.1%増と堅調に推移したが、下期は建設関連貨物が大きく落ち込んだことを受けて3.8%減となり、通年で1.4%減に終わった。
      ちなみに新聞報道では、生コン・セメントなどの出荷減が続いており、その要因の一つは「建設の2024年問題」(時間外労働の上限規制、人手不足)にあると言われている。
      この時点では「2025年度の実質経済成長率は0.6%増と加速も、力強さを欠く動きに」と予測されているが、筆者は、その後のトランプ相互関税の動向を考慮すれば、不透明と言わざるを得ないと思う。
      2025年度の国内貨物総輸送量については、上述のように、建設関連貨物を中心に全品類にマイナスが予測されるなか、通年では2.1%減と4年連続の減少と予測されている。筆者は、生産関連貨物についてもトランプ相互関税により輸出が減少すれば、4項で述べるように、港湾や空港までの国内輸送にも影響が出ると思う。

      図表1 経済活動と輸送量

      (出所)NX総合研究所「2025年度の経済と貨物輸送の見通し」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      1)営業用トラック
      2024年度は0.0%減と微減し、2025年度は2.2%減とマイナス幅が拡大すると予測されている。これは、上述のように、建設関連貨物の不振が、堅調な生産関連貨物・消費関連貨物の足を引っ張る状況が続くことによる。
      2)自家用トラック
      建設関連貨物の比率が高い自家用トラックは、さらに影響が大きく、2024年度は4.2%減、2025年度も2.1%減とマイナス継続と予測されている。
      さらに、2025年6月の「企業物流短期動向調査」(2025年7月31日公表)では、前稿との対比を見ると、図表2のように、荷主の国内向け荷動き指数は、「物流の2024年問題」がスタートした2024年4~6月「実績」も、従前どおり「見込み」を下回る状況が続いていることが分かる。

      図表2 荷動きの実績(見込み)と見通しの『荷動き指数』

      (出所)NX総合研究所「企業物流短期動向調査(2025年6月調査)」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      以上のことから、前稿に引き続いて、少ないパイを多くのトラック運送事業者が取り合う状況は続いていると思わざるを得ない。

      (2)トラック運送業界の景況感

      (公社)全日本トラック協会(以下、「全ト協」という)の「第129回トラック運送業界の景況感(速報)」(2025年5月19日公表)では、2025年1~3月におけるトラック運送業界の景況感(DI=動向指数)として、以下のように述べている。
      1)今回の状況
      輸送量は増加傾向にあるものの、燃料価格の高止まりや物価高による輸送原価の上昇分を十分 転嫁できず、営業利益・経常利益が悪化傾向にあることから、景況感は前回▲18.2から▲18.7へ 0.5ポイント悪化した。
      2)今後の見通し
      2025年4~6月期の見通しは、米国関税政策がもたらす事業環境の不透明化や人材不足、物価上昇等を反 映し、景況感は今回▲18.7から▲26.2へ7.5ポイント悪化する見込みである。
      上記(1)同様に、貨物輸送量・景況感については厳しい見通しとなっている(図表2参照)。

      図表3 トラック運送業界の景況感の推移(H20以降)

      (出所)全日本トラック協会「第129回トラック運送業界の景況感(速報)」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      また、本稿の主眼点である、運賃・料金、労働時間等については、以下の通りである。
      ①実働率は▲1.8(前回▲0.6)と1.2ポイント悪化、実車率は▲2.7(前回0.6)と3.3ポイント悪化し、輸送効率は悪化した。2025年4~6月期は▲8.4(今回▲1.8)と6.6ポイント悪化、実車率は▲9.8(今回▲2.7)と7.1ポイント悪化 する見込みである。
      ②運転者の採用動向は▲27.6(前回▲4.5)と23.1ポイント低下、運転者の雇用動向(労働力の不足感)は91.1(前回84.4)と6.7ポイント上昇し、労働力の不足感は一段と高くなった。2025年4~6月期は▲23.6(今回▲27.6)と4.0ポイント上昇し、運転者の雇用動向は95.1(今 回91.1)と4.0ポイント上昇し、労働力の不足感は一段と強くなる見込みである。
      (筆者注:前稿でも述べたが、実働率・実車率が悪化してトラックが動かなくなるのに、ドライバー不足が強まるのはなぜか?転退職者が増えるからか?)
      ③所定外労働時間は▲37.3(前回▲35.1)と2.2ポイント減少、貨物の再委託(下請運送会社への委託割合)は▲14.2(前回▲1.9)と12.3ポイント減少した。2025年4~6月期は▲28.4(今回▲37.3)と8.9ポイント増加し、貨物の再委託は▲16.0(今回 ▲14.2)と1.8ポイント減少の見込みである。
      (筆者注:再委託割合の減少は、所定外労働時間の減少による「自社運行」の増加によるのか、再委託先が見つからないのかは不明)
      ④一般貨物(特別積合せ運送貨物を除く)では、運賃・料金の水準は34.3(前回47.1)と12.8ポイント悪化したものの、輸送数量 は1.9(前回1.3)と0.6ポイント改善したことから、営業収入(売上高)は4.3(前回3.3)と1.0ポイン ト改善した。2025年4~6月期は、輸送数量は▲1.4(今回1.9)と3.3ポイント悪化、運賃・料金の水準は17.9(今 回34.3)と16.4ポイント悪化することから、営業収入(売上高)は▲6.8(今回4.3)と11.1ポイント 悪化する見込みである。
      (筆者注:前稿同様に、ドライバーの所定外労働時間だけが「好転」する見込みであるが、これはドライバーの手取りが、ますます減少することを示唆するのではないだろうか。また、再委託比率の減少により、所定外労働時間が増加する見通しであるが、これが一時的なものか構造的なものか見極める必要がある。この辺りは、(4)の賃金・労働時間の動向、(5)の倒産動向と重ね合わせて読み取る必要がある)

      (3)「2024年問題」に対する企業の意識調査

      前稿では、帝国データバンクが2023年12月に実施した「2024年問題に対する企業の意識調査」を活用して、以下の調査結果の概要を紹介した。同社調査でいう「2024年問題」とは、「建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師などの(中略)人手不足による工期の長期化や業務の停滞などの諸問題、いわゆる『2024年問題』」とされているので、下記①②⑤は「物流」に限定していないことに留意して読まれたい。
      ①「2024年問題」全般に対して「マイナスの影響がある」とする企業は59.9%となった。とくに、「物流の2024年問題」では、68.6%の企業が「マイナスの影響がある」と回答した
      ②「2024年問題」に対して具体的な影響を尋ねたところ、「物流コストの増加」が66.4%と最も高かった(複数回答)
      ③「物流の2024年問題」への対応策、「運送費の値上げ(受け入れ)」が43.3%でトップであった(複数回答)
      ④「物流の2024年問題」へ「特に対応しない」理由、「これまで通りで問題が生じず、対応する必要がない」が34.6%で最も高かった(複数回答。図表3参照)
      ⑤「2024年問題」に対する支援策は、「金銭的支援」(34.0%)と「人材育成・確保支援」(32.3%)が3割台で上位になった(複数回答)
      前記の労基法(時間外労働時間上限の年間960時間規制)施行前の調査のためもあるが、3分の1以上の企業が「物流の2024年問題は、これまで通りで問題が生じず、対応する必要がない」と無関心ともいえるのには驚かせられた。
      同社では、その後、フォローアップ調査もしていないようなので、今回は、(1)で紹介した、NX総合研究所が「企業物流短期動向調査(2025年6月調査)」に追加して同時調査した「物流の2024 年問題に関する追加調査(2025年6月調査)」を活用することにした。
      本調査は、企業物流短期動向調査回答企業のうち653社が回答しており、同社では「物流の2024年問題」に対する現場の課題と今後の見通しを整理するとともに、調査の連続性という観点からか、今後も継続的・定期的に調査を実施していく予定としているので、調査結果に期待している。

      調査結果の概要と筆者のコメント(筆者注)は、以下の通り。
      ①物流の2024年問題は業種を問わず影響を及ぼしており、その影響はトラック輸送量の困難さや、トラック運賃に反映されるようになっている。日本銀行「企業向けサービス価格指数」によると、陸上貨物輸送は徐々に指数が高まっている。特に海上貨物輸送は2021年から急上昇し、2025年においても120を超える水準で高止まりしている。
      ②前回調査に比べて、物流の2024年問題に取り組んでいる企業の割合は増加している様子がうかがえる。主な取組として、「輸送スケジュールやリードタイムの緩和」、「モーダルシフトの推進」、「バラ積みを廃し、発着一環のパレット利用を推進」など自社内で完結できることから取り組んでいる割合が多い。
      ③今回の調査では、物流の2024年問題の影響を「今後は厳しくなる」と回答した割合が10ポイント以上減少した。この認識が妥当なものか楽観的なものかについては、今後も継続的に注視していく必要がある。
      (筆者注:調査対象を「物流の2024年問題」に絞り込み、荷主企業の物流(出荷)担当者からの回答ということもあり、上記の帝国データバンク社調査よりも、具体的かつ有益な結果と思われる)

      図表4 貴事業所における2025年5月現在の「物流の2024年問題」の影響

      (出所)NX総合研究所「物流の2024 年問題に関する追加調査(2025年6月調査)」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      図表5 足元(2025年6月)における影響

      (出所)図表4に同じ

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      図表6 トラック運賃の状況

      (出所)図表4に同じ

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      図表7 「物流の2024年問題」への取り組み状況

      (出所)図表4に同じ

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      上述したように、毎日のトラック手配に追われている荷主の物流(出荷)担当者からの回答であり、それだけに、新聞紙上の経営トップ層アンケートとは異なった、切実な現場の回答とも言えよう(図表6のグラフ「横ばい」と「やや高くなった」は、表示ミスか)。

      (4)賃金・労働時間の動向

      8月6日に公表された2025年6月の毎月勤労統計調査(速報)では、運輸・郵便業の全労働者の現金給与総額は51万5642円で、2024年6月に比べ4.4%減っている。全産業の給与総額は51万1210円で2.5%増となっているのに対して、トラックドライバーの実収入は「物流の2024年問題」への取り組みにも関わらず、減っていると言える。
      運輸・郵便業の給与の内訳をみると、所定内給与が1.2%減の28万399円、所定外給与が2.4%減の4万2289円で、所定内・所定外とも減少傾向にある。就業形態別の現金給与総額は、一般労働者(トラックドライバーが多い)が1.3%減の60万1853円、パートタイム労働者が2.5%増の14万5520円だった。
      運輸労連・交通労連のトラック運送業労組の賃上げ率(2~3%)より、UAゼンセンのパートタイム労働者の賃上げ率(約5%)が高い実態となっている。「トラックドライバー(正社員)の父ちゃんより、物流センター勤務(パートタイマー)の母ちゃんの方が、賃上げ率が高い」と、肩身を狭くしている父ちゃんもいる(賃上げ額では高くとも、実収が減っていては威厳が保てない?)
      労働者数は全産業で5174万5000人と、2024年6月比で1.5%増一方で、運輸・郵便業は295万4000人で0.4%減少した。就業形態別では、パートタイム労働者は55万7000人で24%増加した一方で、一般労働者は239万7000人と4.7%減少している。
      一方、労働時間は全産業で月間139.7時間、運輸・郵便業は164.1時間(対全産業より24.4時間増)となっている。出勤日数も全産業の18.1日を1.4日上回る19.5日である。労働時間は、一般労働者(フルタイム労働者)・パートタイム労働者が合算されているが、相変らず労働時間は2割弱(17.5%)長い。
      毎月勤労統計だけ見れば、「物流の2024年問題」を解決するための「働き方改革」の取り組みは遅れているように感じられる。

      図表8 労働時間の動き

      (出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年6月分結果速報」

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      (5)トラック運送業の倒産動向

      2024年は帝国データバンクの資料を利用したので、2025年は東京商工リサーチの資料を参考にしたい。
      東京商工リサ一チから7月半ばに公表された、2025年上半期(1~6月)のトラック運送業の倒産は、件数が146件(2024年上半期比24.7%減)で、5年ぶりに前年同期を下回った。
      とくに「物価高」を理由とする倒産は43件と、前年同期から4割減と大幅に減少しており、燃料コストを中心に価格転嫁が進んだともいえる。
      本稿執筆中の2025年8月4日時点の軽油価格は3週連続で値上がりしているものの154.3円であり、落ち着いていると言ってよい(今後、ガソリンの暫定税率の見直しで、軽油引取税も変更が見込まれるので予断は許されないが)。
      一方でドライバー不足による受注減や人手確保のための人件費アップは、引き続き、厳しい経営状況となっている。「物流の2024年問題」などによる「人手不足」関連倒産は30件(2024年上半期比18.9%減)と前年を下回ったものの2年連続30件台が続いている。「人手不足」関連倒産の内訳は、「人件費高騰」が11件、「従業員退職」が6件と2024年上半期を上回った。全産業的な傾向として「従業員退職」イコール「人員補充できない」と倒産パターンが増加している。
      最近は、どこの業界でも人手不足が顕著になっており、労働者がよりよい待遇を求める人材の流動化傾向が「運送事業者間だけでなく、産業間でも人材の獲得競争が激化」している。スマホなどで容易に募集情報を入手できることから、「地域」や「業種」を超えて「即時」に移動する傾向もみられる。
      こうした状況の中で「ドライバーの待遇改善が進まなければ、トラック運送事業の『人手不足』倒産は今後も高水準が続く可能性が高い」(東京商工リサーチ)と分析している。さらに、後述のように「特定技能外国人労働者」を採用しようという動きも出ている(3-(3)参照)。

      図表9 道路貨物運送業の倒産 上半期推移

      (出所)東京商工リサーチ

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      以上、(1)~(5)の5つの統計データを取り上げた。それぞれのデータは算定方法も異なり、データ収集時期もズレているので、はっきりしたことは言えないが、「物流の2024年問題」対策は、荷主・トラック運送業者とも、引き続き着実に進めていかねばならないことは間違いないようである。
      ※後編(次号)へ続く

      以上



      【参考資料】(全て西暦表示に統一した)
      1.NX総合研究所「2025年度の経済と貨物輸送の見通し」2025年7月、「企業物流短期動向調査(2025年6月調査)」2025年7月
      2.全日本トラック協会「第129回トラック運送業界の景況感(速報)」2025年5月
      3.NX総合研究所「物流の2024 年問題に関する追加調査(2025年6月調査)」2025年7月
      4.厚生労働省「毎月勤労統計調査2025年6月分結果速報」2025年8月
      5.東京商工リサーチ「2025年上半期(1~6月)のトラック運送業の倒産動向」「2025年7月
      6.国土交通省「交通政策白書」2025年版
      7.厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導・送検等の状況」2025年8月
      8.中央職業能力開発協会編「ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト『ロジスティクス・オペレーション3級(第4版)』2024年10月
      9.全日本トラック協会・日本貨物運送協同組合連合会「『求荷求車情報ネットワーク「WebKIT』成約運賃指数について(令和7年7月期)」2025年8月
      10.全日本トラック協会「機関誌『広報とらっく』6月5日号【号外】」2025年6月
      11.湯浅和夫「物流コンサル道場No.279『トラック事業適正化関連法』成立」ロジスティクス・ビジネス誌2025年8月号
      12.日本ロジスティクスシステム協会「2024 年度 物流コスト調査報告書【概要版】」2025年4月
      13.豊川浩気「『2024年問題』による物流費上昇の背景と物価に与える影響について」内閣府マンスリー・トピックスNO.74 2024年11月
      14.その他、本稿で引用した内閣府・国土交通省・厚生労働省・経済産業省・中小企業庁・公正取引委員会等の資料・ホームページ。
      15.長谷川雅行「500日を切った「物流2024年問題」前編・後編」2023年1月 ロジスティクス・レビュー第500・502号
      16.長谷川雅行「100日を切った『物流の2024年問題』前編・後編」2024年1月 ロジスティクス・レビュー第523・524号
      17.長谷川雅行「『負のスパイラル』から『正のスパイラル』へ」2024年11~12月 ロジスティクス・レビュー第543~546号)


      (C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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    第571号「2024年問題その後~中小運送業者のいま」(2026年1月8日発行) /logistics-571/ /logistics-571/#respond Thu, 08 Jan 2026 00:00:00 +0000 /?p=21202 執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、 コスト削減など […]

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    執筆者 山田 健
    (中小企業診断士 流通経済大学/文教大学非常勤講師)

     執筆者略歴 ▼
    • 著者略歴等
      • 1979年日本通運株式会社入社。
        1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、
        コスト削減などのコンサルティングと、国土交通省や物流事業者、
        荷主向けの研修・セミナーに携わる。
      • 2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
      • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
        「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。
        中小企業診断士。

      • URL:http://www.yamada-consul.com/

     

    目次

    • 1.かかってきた電話
    • 2.時間外労働は減ったか
    • 3.運賃は上がったか
    • 4.中小運送会社には政府の支援を
    •   

      1.かかってきた電話

      昨年秋、筆者のもとに一本のメール着信があった。旧知の中小企業診断士からのほぼ20年ぶりの連絡であった。現在かかわっている中小運送会社の経営支援計画作りを手伝ってほしいとのこと。運送会社に精通した診断士を探す中で筆者を思い出してくれたという。
      彼は中小企業診断士の第3次実習を共にした仲間である。第一次、二次の筆記試験を通過した後の最後の関門が、この実戦形式の実習である。5人の受験生に一人の指導教官が付き、その指導の下2週間で2社の診断とレポート作成、報告会まで行うというなかなかハードなスケジュールである。1週間に1社の診断ペースにくわえて、2週間連続で会社を空けなければならず、勤め人にとってはなかなかハードルが高い。ただ、企業の財務から販売、マーケティング、事業戦略まで診断するこの濃密で刺激的な2週間の経験は貴重であった。筆者がコンサルティングの魅力に触れ、本気でコンサルタントを志したきっかけとなったのがこの第三次実習である。
      実習を共にしたメンバーは在職中、定年後を問わず、何らかの形で独立診断士として活動している。また2週間寝る間を惜しんで(?)「同じ釜の飯を食った」メンバーとの絆は深まる。彼もその一人であった。現在は、中小企業を専門とした支援会社の中枢メンバーだという。
      そのような経緯で、その後何社かの中小運送会社の経営改善のお手伝いをすることになった。それまでコンサルタントとして運送会社のお手伝いは経験していたものの、社員研修や現場改善、営業支援など業務レベルのコンサルが中心であり、経営者を対象とした経営戦略や財務分析まで踏み込んだ本格的な経営支援、いわば本来の中小企業診断士としての活動は初めてである。そして、もっとも現場に近いところで運送会社の経営実態に触れたことであらためてトラック運送事業の課題を認識することになった。
      いつもながら冒頭からの私事で恐縮であるが、折しも2024年問題の真っただ中の今、その実態と課題について現場の視点も踏まえて整理していきたい。

      2.時間外労働は減ったか

      水面下での実態はどうかという点は別として、現時点で時間外労働についての課題は表立っては聞こえてこない。問題となるトンキロベースで6割強を占める長距離輸送についても、大手を中心とした中継輸送や鉄道、RORO船へのモーダルシフトなどの対策が紹介されており、深刻な影響は見られていないように思える。
      支援した運送会社も比較的時間外労働の少ない地場配送をメインとしており、ギリギリではあるものの、上限は何とかクリアできているようである。もっとも、上限を超えそうなドライバーは期末に勤務時間を調整するなどの柔軟な対応がとられていることもある。むしろ現場から聞こえてくる問題は、昨年から適用となった厚労省の「改善基準告示」である。こちらは時間外労働からさらに枠を広げた、年間、月間の拘束時間規制である。年間拘束時間が3,516時間⇒3,300時間(最大3,400時間)、月間293時間⇒284時間(最大310時間)へと変更となった。年度末での調整が可能な時間外規制と異なり、毎月対処しなければならない規制であるため調整が難しく、対応にはより神経を使う。
      現場レベルでは悲痛な声も聞こえてくる。先日のNHKクローズアップ現代「やっぱり物が届かない」で紹介されたトラック運送の実態は、それまでの宅配便中心の偏った(?)テーマから大きく転換し、中小運送会社の現場実態にかなり踏み込んだものとなっていた。番組では、時間外を増やす大きな原因である「荷待ち時間」がほとんど改善されていないことが紹介されていた。昨年、荷待ちと荷役にかかわる時間は1運行当たり平均3時間2分で、目標とする2時間を大幅に上回ったという。実際、カメラにはドライバーが納品先近くの路上で3時間待機している様子が捉えられていた。
      ある長距離ドライバーは時間外上限をクリアするための運行をすれば、手取りで月7万円の収入減に見舞われるという。その分会社が賃金を上げてくれるわけではなく、歩合給が多くを占める給与体系では「生活するために時間外を増やさざるを得ない」悪循環に陥っている現実が紹介されていた。長距離運転から久しぶりに帰宅したわが家で、幼い娘が「パパ、次のお祭りには帰ってくる?」とせがみながらカレンダーに書き込んでいる姿がいじらしく切なかった。
      一方、地場配送で問題になっているのが東京港発着の海上コンテナ・ドレージ(輸送)である。ここ何年も前から東京港のコンテナ・ターミナルの混雑のために、入構待ちのトレーラが列をなしているのである。通常で3~4時間待ちは当たり前、ひどい時は6~7時間もあるという。コンテナ・ターミナルが集中立地する東京大井ふ頭などの周辺道路では、中央分離帯寄り1~2車線が入構待ちのトレーラで完全に「占領」されている(ちなみに、筆者が40年以上前に周辺事務所に勤務した頃はもちろんこのような混雑はなく、ガラガラの速度制限40km道路で速度取締にひっかかったほどであった)。この状況もすでに2019年のNHK特集で紹介されていたが、現在に至るまで大きな改善はみられていない。運送会社の経営者によれば、待機時間のおかげで家に帰れず、周辺の路上駐車の車中で寝泊まりしているドライバーが少なくないという。
      原因は、340万TEU(20フィートコンテナ換算)の容量に対して450万TEU以上が集中する完全なキャパオーバーである。周辺に拡張余地は少ないことを考えれば、荷主が京浜地区の港の利用を避けることくらいしか対策はなさそうである。
      運送会社としては、この待機時間によって時間外が増えることが納得できない。北関東からは1日当たりトレーラ1回転が限界で、それでも時間外が発生する。本来、2回転で運賃も稼げるところ、運賃は減る、時間外規制には抵触するという二重苦である。「こんなの国が何とかしてくれないと」という悲痛な叫びももっともである。
      最後に極論ではあるが、「月80時間くらいで人間死にはしない」という時間外規制に対する経営者の不満の声もあったことも報告しておく(もちろんそういう問題ではないのだが)。

      3.運賃は上がったか

      時間外労働の原因はこうした商慣行によるところも大きいが、根本的にはやはり運賃にある。待機時間が長いことが解決できないのであれば、その分ドライバーと車両を増やせばいいのであるが、それができないのは収受運賃でそのコストを賄えないからである。東京港発着のコンテナ・ドレージが1回転しかできないのであれば、1回転で十分採算がとれる運賃が確保できればすむ話である。しかし、こうした運賃の話を物流業界以外の方に話すと、決まって「そんな短絡的な」「運賃だけの問題ではないでしょう」といった反論を受けるが、現実にほとんどすべての原因は運賃に帰結する。そう思いたくない人は思わなくてもしかたないが、誤解を恐れずに言えば、「運賃の問題がほぼ9割」と考えてよい。
      まずは客観的な指標として、以前にも紹介した日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)の公表しているWebKIT成約運賃指数を確認してみよう。WebKITは公益社団法人全日本トラック協会が運営する会員企業(運送事業者)同士の求荷求車情報ネットワークで、直近では約6,500の加盟社、年間約190万件の荷物情報(求車)件数と約29万件の成約件数を持つ国内最大級のトラック・マッチングサイトである。したがって公表している成約運賃指数はおおむね実際の相場を反映したものと判断して差し支えない。
      図表1で示した折れ線グラフの月ごとの数字は2010年4月の成約運賃を100とした指数で表されている。グラフによれば、「宅配クライシス」で2018年に上昇したトラック運賃は2020年の新型コロナによる物量減少で下落したのち、2024年問題が話題となり始めた2023年から上昇に転じ、昨年から2025年度にかけ統計開始以来最高の水準で上昇を続けている。直近では、ボトムの2020年度に比較し、20ポイント近くのアップとなっている。

      図表 1 成約運賃指数の推移(日本貨物運送協同組合連合会)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      ただ、成約運賃指数は必要の都度トラックを調達するスポット運賃の相場であり、通常の長期契約運賃より高めに反映されることを考慮しなければならない。そこで、より長期・継続的な運賃契約の動向を検証するために、全日本トラック協会実施の「2024年問題対応状況調査」を図表2に示す。

      図表 2 「物流の2024年問題対応調査」
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      値上げ率は5%未満が3割強、5~10%未満が半分である。つまり約8割の事業者の値上げ率は10%に達していない。これも以前取り上げたが、昨年政府が公表した、運送会社が健全に経営するための運賃指標「標準的運賃」に対して、実勢運賃は6~8割の水準に留まっている実態を考慮すれば、この程度の値上げでは不十分と言わざるを得ない。実際、「全然足りない」という運送会社の声はよく聞く。ドライバーの待遇を他産業並みに引き上げていくにはより踏み込んだ値上げが必要なのである。
      先の例では海上コンテナ輸送の運賃が典型である。海上コンテナは関税法上の免税コンテナであり、原則として内国貨物は積載できない(特別な許可があれば可能ではある)。したがって片道が空の往復輸送を前提としているため、海上コンテナ輸送の運賃体系はラウンド運賃といって、通常の輸送が片道距離であるのに対し往復の距離が計算基準となる。北関東~東京港の輸送距離が片道100kmであれば、往復の200kmで計算するのである。
      ところが、実勢運賃はほぼ片道運賃に等しく、しかも標準的運賃を下回っている。これにくわえて東京港の混雑による待機時間を考慮すれば、現在の運賃では「全然足りない」のは当然かもしれない。
      極端な例であるかもしれないが、経営支援中の運送会社はここ10年間、賃上げ、賞与とも0、平均給与、退職金は業界平均を下回る。それでいて業績は赤字が続く。トラックの積載効率や稼働率などの運行効率は、国交省公表の平均と比べても遜色ない。人件費が高いわけでもトラックの運行が非効率なわけでもないのに赤字となると、運賃が低いことが赤字の最大要因としか判断できない(もちろん経営責任はあるが)。早急な値上げを行わないと経営の持続性すら厳しい状況にある。

      4.中小運送会社には政府の支援を

      さまざまな情報を確認する限りでは、一定規模以上の3PLや特積、運送元請けなどの値上げ交渉はある程度進んでいるようである。中堅から大手までが加入する全日本トラック協会会員企業を対象とした図表2の結果にも多分に反映されているものと推測される。ただ、中小運送会社の現実はやはり厳しい。
      経営者の多くは依然として過去のトラウマにとらわれている。値上げ要請をした時点でより安い運賃を提示する他社に仕事をとられてしまった苦い経験である。NHK「クロ現」でも、時間外規制を遵守し賃金を維持するため運賃値上げ交渉を行ったところ、何度も断られたという事例が紹介されていた。「この運賃で今までやっていたのに何でできないんだ」「お前のところができないならやるところはいくらでもある」と言われ、撤退したため昨年度は1,700万円の収入減に見舞われたという。ルールを守る会社が経営難に陥る「正直者がバカをみる」結果を招いているのが実態である。このように交渉力が弱い中小運送会社では、2024年問題の追い風を味方にできず、以前と状況はほとんど変わっていない。
      事業者数で9割以上を占める中小運送会社の状況が変わらなければ、本来の趣旨であるトラック・ドライバーの働き方改革は「絵に描いた餅」である。これも以前に書いたが、もう圧倒的な格差がある中での企業同士の交渉に頼っているのは限界にきていると考えざるを得ない。
      この問題を政府はかなり深刻にとらえているようで、直近で思い切った政策を発表したところである。その点については項をあらためて検証していきたい。
      以上


      (C)2026 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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    第570号 これからの物流について一緒に考えましょう(後編)~物流2024年問題、物流統括管理者(CLO)など~(2025年12月16日発行) /logistics-570/ /logistics-570/#respond Tue, 16 Dec 2025 00:00:00 +0000 /?p=21192 執筆者 浜崎 章洋 氏 大阪産業大学 経営学部商学科 教授  執筆者略歴 ▼ 略歴 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。 タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会 […]

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    執筆者 浜崎 章洋 氏
    大阪産業大学 経営学部商学科 教授

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。
      • タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会社設立を経て現職。
      • 2004年度、2013年度日本物流学会賞、第12回鉄道貨物振興奨励賞特別賞受賞。
      著書
      • 『改定第2版 ロジスティクスの基礎知識』(海事プレス社)
      • 『物流コストの算定・管理のすべて』(共著、創成社)
      • 『ロジスティクス・オペレーション2級』(共著、社会保険研究所)
      • 『通販物流』(共著、海事プレス社) など

    *サカタグループ2024年10月23日開催 第28回ワークショップ/セミナーの講演内容をもとに編集しご案内しています。
    *今回、大阪産業大学 経営学部商学科 教授 浜崎 章洋 先生の講演内容を3回に分けて掲載いたします。
    *掲載内容は、講演が開催された時点でのデータや情報を基にしているため、現在の状況と異なる場合があります。
    *前号(2025年12月4日発行 第569号)より

    目次

    ちょっと一息 (参考)

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    ここで、ちょっと一息なのですが、「グリーン物流」が今から20年ぐらい前に流行りました。
    このとき、荷主の経営層が積極的に採用したのです。これはなぜかというと、ちょうど、CSR(企業の社会的責任)とか、「環境報告書」 *2 が流行った時です。国交省の2023年度統計値では、運輸部門から日本の温室効果ガス排出量、CO2の約20%が排出されていて、これを削減すると消費者に大きくPRできるので、物流の効率化、CO2の削減、モーダルシフトをどんどん進めていこうということで、荷主の経営層が理解を示してくれました。
    さらに今から10数年程前に、「ホワイト物流」 *3 が流行りました。
    【注】
    *2. 環境省hp,「もっと知りたい環境報告書」 https://www.env.go.jp/policy/hairyo_law/post_160.html
    *3. 「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト https://white-logistics-movement.jp/
    倉庫で働く人やドライバーさんとか、物流部門で働く人の、長時間労働を是正していきましょうとか、きちんと休みを取らせてあげましょう、というホワイト物流という言葉(取組み)が出てきたのですが、それって物流部門の役割でしょうとか、物流会社で解決しなさいということで、荷主の経営層は、あまり関心がありませんでした。
    今この、「2024年問題」ということで、当初、ちょうど1年6ヶ月程前、2023年の年度が始まった2023年4月ごろは、荷主の経営層はあまり関心がなかったと思います。このときは、1年後に2024年問題が始まりますといった、ニュースとか新聞の報道が、「宅配の荷物を受け取れなくなる」という報道に偏重していた、ということもあると思います。
    「これだけ通信販売が増えているのに、宅配でモノが運べなくなります、皆さんどうしますか」、みたいな報道ばかりだったのです。去年の秋頃、ちょうど1年ぐらい前から、例えば、九州の宮崎県から農産物が運べないとか、北海道からの水産物が東京の豊洲市場のセリに間に合わなくなる、みたいな報道が増えてきて、そのあたりから荷主の経営層の方々も、物流は大丈夫なのかと言って、多分、(物流関係者である)皆さんのところに声がかかったのも、ちょうど1年ぐらい前ではないかと思います。
    私は去年の秋、ちょうど1年ぐらい前の今頃、2024年問題バブルとなり、いろんな会社から講演依頼とか、社内研修の依頼をいただきました。これは、何を言いたいのかというと、物流2024年問題について、我々物流関係者、物流会社、あるいは関係省庁が、いろいろ言っていましたが、荷主の経営層はあまり関心が無かったのです。
    半年位前から、ようやく動き始めたという印象を、非常に強く持っています。多分皆さんの会社でも、大なり小なり、似たりよったりではないかなと思います。

    2.物流2024年問題について 2)2024年問題の影響

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    では、この物流の2024年問題はどんな影響があるのかということで、懇意にしているビジネスパーソンの方々へヒアリングをしました。加工食品系の物流子会社の方で、傭車だけでなく、自社でもトラックを保有し配送を行っている企業ですが、「近距離の配送なので、自社の配送部門は、今のところ大きな影響はないですよ」、ということでした。ただし、全国でビジネスをされていますので、年末12月と、年度末、3月にかけて幹線輸送の部分では、例えば、東名阪の東京と大阪を結ぶ高速道路とか、関東から東北、北海道、といったところの幹線輸送の部分が厳しくなると想定されているということと、長距離輸送は既に、モーダルシフト、あるいは中継輸送を導入をされつつあるということです。
    それともう一つは、今、物流拠点の再編、つまり在庫拠点の増設に取り組んでいるということです。その他に、納品リードタイムの延長とか、ドライバーの付帯作業の廃止を交渉しています。この会社の非常に優れたところは、自分の会社だけではなくて、業界として取引先、つまり小売業と卸売業との交渉を行っています。何が言いたいのかというと、自社だけで小売業や卸売業へ交渉に行っても、恐らく進まないのです。
    次に、アパレル卸売業の会社の方です。この企業は、いわゆるアウター商品ではなくて、どちらかというとインナー関連のコンパクトな商品を取り扱い、毎日受注し毎日発送していました。これを、受注は毎日受けているのですが、数日分をまとめて発送するように変更しましたということです。元々、大きさが小さいので、数日分でも1納品先にはダンボール1ケースで収まるということです。最初は、物流現場でもそうだし、納品先さんでも若干混乱があったそうですが、今はお互いに慣れて、落ち着いているということです。
    また、現在でも、関西から西に向かうトラックの手配は厳しいと言われていました。これは実は、私も関西にいるのでよく聞きますが、九州方面行きのトラックを確保するのは、どの会社でも厳しいと伺っています。年末とか年度末に向けて、これからどんどん厳しくなっていくと言われています。
    2024年問題は、2024年4月からスタートして、上半期、9月までは、皆さん何とかやっていけたと思いますが、これから12月の年末繁忙期と年度末3月の決算とかの、繁忙期を迎えてくると、対応が更に困難になる、こんな危機感を持っているのではないかと思います。

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    これは参考までに、タイミーってご存知ですか。今、朝ドラの主役の橋本環奈さんがコマーシャルをしている、スキマバイトのタイミーさんがアンケート調査をされました。「2024年問題」について、約4割の企業が対策のめど立たず、だそうです。燃料費とか人件費が上がってますとか、「時間外労働時間規制」で働きやすさは変わらないが、67%という結果が出ています。これは、ネットで検索すると報告書(「タイミー、物流2024年問題に関する実態調査レポートを発表」https://corp.timee.co.jp/news/detail-3651/)がありますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。

    2.物流2024年問題について 3)2024年問題への対策についての例

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    先程の、2024年問題について、中継輸送とか、モーダルシフトとか、在庫拠点の見直しとか、いくつか対策例を挙げてみました。荷主のどの部署が対応するのかということで、もちろん物流部が全部対応するのでしょうが、例えば、大阪、東京間の中継輸送では、トラックで行って帰ってくるのではなくて途中の静岡辺りで、ドライバーさんがトラックを入れ替えて戻ってくるので、日帰り運行ができます。これだと物流部が、物流事業者さんと調整すればできます。営業部とか生産部とは、特に調整が必要ないのかもしれません。
    次に関東発九州行きの便を、今までトラックで行っていたのですが、今後は長時間運転ができないから、モーダルシフト、JR貨物さんで運びます、となってくると、これは物流部と物流会社さんだけの問題ではなくて、営業部にも耳に入れておかないといけないのです。というのも、パレット単位の鉄道輸送になると衝撃・振動の影響で、商品のダンボールがちょっと擦れるかもしれないとか、営業部から取引先さんへ、2024年問題に対応のため、JR貨物さんに変更しますと伝えてもらわないといけないのです。つまり、物流部だけでは完結しないのです。

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    在庫拠点の見直しになってくると、これは物流部や、営業部、生産部だけではなくて、投資が必要ですから、経営層へも相談しないといけません。在庫拠点の見直しというと、私が物流の勉強し始めた頃に学んだのは、上の図から下の図に変わったようなイメージです。
    例えば、メーカーさんが、全国9拠点、いわゆる、北海道、東北とか、各経済圏に物流センターを持っていたものを、関東と関西に物流拠点を統合しましょう、物流コスト削減と在庫の削減をするために在庫拠点を集約しましょう、というものです。
    これは、なぜこのように拠点集約ができたのかというと、運送会社さんの輸送距離が延びたということと、卸売業さんが全国化、規模拡大をしていったので、メーカーの在庫拠点は2拠点でもいけるようになり、これでコスト削減ができます、とういうことです。
    実は2拠点にすると、例えば北東北とか南九州へは、翌日午前中の納品できないから、九州とか、北東北とかに、小型の物流センター、デポを作りましょうとか、北海道にもう1拠点作りましょうというのが、今から20年から、25年ほど前の話です。これだと輸送距離が伸びるので2024年問題に対応できなくなってくると、先ほどの物流子会社さんのように、在庫拠点を今後増やしていかないといけない、ということも今後起こり得るのです。
    在庫拠点を増やすということは、経営の判断ですから、物流部門だけではなくて、経営層が関係してきますということです。参考までに、これはBCPの視点からすると、日本海側にも物流センターが必要だと思います。
    今、皆さんの物流センターがあるのは、関東と関西、どちらも太平洋側に設置していることが多く、中には(太平洋側の)中部圏に設置している企業もあるかと思います。これは、南海トラフ地震・東南海地震が発生したときに、確実に被災します。ですから九州の北部とか、もう一方の新潟とか、日本海側の方にも、(物流拠点が)必要ではないかと思っています。

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    では、納品リードタイムの見直し、となってくると、これは、営業に相談しないといけないし、取引先にも相談しないといけません。今までは納品リードタイムが、午後13時受注締め切りで、当日の午後に出荷作業をして、夕方に運送会社さんに荷渡して、翌日午前中に納品をするとなると、作業をする人もトラックも全部見込みで事前に手配しないといけないのです。ですから今後、受注の締め切り時間を夕方にして、翌日の作業の量とトラックの台数を決めてから手配をして、翌日作業をして運送会社さんへ荷渡しをして、翌々日の納品にすれば、非常に効率化できます。つまり納品リードタイムを見直す必要があるということです。
    これは、物流部門だけではなくて、営業部とか取引先にも関係してくるし、経営層にも理解してもらわないといけないのです。

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    最後にもう1点、一貫パレチゼーションです。トラックへのケース単位でのバラ積み、バラ降ろしを止めて、パレット単位で流通させましょう、川上のメーカーから、川下の卸売業、小売業の店頭まで、同じ(規格の)パレットでフォークリフトにより、荷役をしていこうというものです。一貫パレチゼーションをすると、物流の合理化、トラックドライバーさんの荷役時間削減のために、非常に役に立ち、物流コスト削減等、作業の効率化に役立つと思いますが、これは、営業部とか生産部門だけではなくて、製品の設計部門にも関係してくるのです。

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    一貫パレチゼーションをするためには、「包装モジュール化」といって、このパレットのサイズに合わせて、外装箱とか、商品の外装の大きさを決めていかないといけませんから、包装設計とか製品設計の部署まで関係してくるので、これは、物流部門だけでは解決できないのです。

    さいごに

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    つまり、これらの諸問題が解決できる、CLOは、やはり役員クラスでしか対応できないということなのです。本日はいろいろとお話させていただきましたが、このCLOにしても、2024年問題にしても、大変貴重なチャンスなのです。だから、あくまで何か規制の対応とか、物流の生産性向上とか、そういうことではなくて、自分の会社の最適化と、サプライチェーン全体の最適化を目指して、持続可能な社会の実現に向けて、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思っています。
    本日ご参加いただいている皆様の会社の、益々のご発展と皆さまのご活躍を祈念いたしまして、以上で私の講演を終わりにしたいと思います。本日はお忙しい中、ご清聴いただき、誠にありがとうございました。

    (C)2025 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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