SCM - SAKATA 一世紀以上の経験と実績に基づき「楽々倉庫」を通じて新たな価値創造を目指す Mon, 22 Jun 2026 06:33:48 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.3 /wp-content/uploads/2021/07/sakata_icon4-130x130.png SCM - SAKATA 32 32 第582号 流通業の変化が物流業の革新を呼ぶ(中編) (2026年6月23日発行) /logistics-582/ /logistics-582/#comments Mon, 22 Jun 2026 00:00:00 +0000 /?p=24367 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問 執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 20 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1948年 生まれ
  • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
  • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
  • 2009年 同社顧問
  • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
活動領域
  • 日本物流学会
  • (一社)日本SCM協会
  • (一社)日本物流資格士会会員
  • 流通経済大学客員講師
  • 港湾短期大学校非常勤講師
  • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
    • 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。

※前編はこちら

目次

2.小売業の変化・課題

(1)小売業が抱える4つの課題・問題

小売業には、上述のように多種多様な業態が存在し、各業態が抱える問題は多岐にわたっているのを、エイヤッと5つにまとめてみた。
①商品が売れにくい
②人手不足が深刻である
③コストが上がっている
④消費行動や市場の変化が著しい
⑤ECの普及

①商品が売れにくい
小売業における最大の課題である。とくに家電・自動車など耐久消費財については普及率も高く、商品のライフサイクルも長期化したため、消費者は頻繁に新しいものを買う必要がなくなった。アパレルなどの衣料も各家庭の収納場所などが飽和状態となって、売り悩んでいる。
また、インターネット・SNSによって情報の即時性が進んで、トレンドの変化が速くなり、ヒット商品でも売れ続けることが難しい。

②人手不足が深刻である
少子高齢化の影響を受け、15〜64歳の労働力人口が減少し、人手不足が深刻化していることも、小売業界の抱える大きな課題である。一方で、筆者のような高齢者の就労が増え、2026年4月の労働安全衛生法の改正施行では、高年齢労働者に対する安全対策が「努力義務化」された。
小売業の就業者数は、労働力調査(総務省・厚生労働省)や経済センサス(経済産業省)の諸統計で異なっているが、一般には700万人超で毎年20万人以上のペースで減少しており、人手不足が大きな経営課題となっている。

③コストが上がっている
以下のような3つの要因で、小売業のコストが上昇している。
○エネルギー・物流コスト
原油や燃料価格の上昇による光熱費・配送費用の増加。トラックドライバーの労働時間
規制など物流コストも増加する構造になっている。
○人件費の上昇
上述の人手不足を背景に、最低賃金の引き上げやベースアップが続き、人件費の比重が
増加。コスト増加の最大要因として人件費を挙げる企業も多い。
○円安・為替要因
輸入商品や輸入原材料に依存する業種では、円安によって円建て輸入価格が上昇して
いる。

④消費行動や市場の変化が著しい
コロナ禍以降、外出や接触を避ける影響により、消費行動と市場には変化が生じている。ECの利用が拡大して、実店舗への来店が減少傾向にある(コンビニエンスストアでも来店数は減少傾向にある)。
消費行動や市場の変化に対応するため、オンライン店舗・オフライン店舗の両面展開(上記のOMO)など対策が必要になっている。

⑤ECの普及
上記の「消費行動や市場の変化」などにより、実店舗に行かないで、ECサイトだけで買い物を済ませる消費者も増加している。
ECの方が実店舗より価格が安い場合が多いため、実物を見てから買いたいと希望する場合に、店舗では商品の確認だけして購入はECサイト(上述の「店舗のショールーム化」)という消費者もいる。
高いコストを掛けた店舗がショールーム化すると、店舗販売を主要戦略とする小売業の経営は苦しくなる。

(2)業種別の小売業の現状と課題

上記「2025年の小売業販売額を振り返る」では、小売業の業種別の現状と課題を抽出している(各業態の並べ方は、同資料の記載順による)。
①スーパー・コンビニエンスストア・百貨店
まず、三大小売り業態である、スーパー・コンビニエンスストア・百貨店で、販売額が対前年比で最も大きく増加したのはスーパーで、前年比4.7%の増加となった。
スーパーでは、飲食料品、その他の商品(化粧品・医薬品などを含む)などが増加し、4年連続の増加となった。食料品の店頭価格上昇や米などの農産品の相場高騰などにより、飲食料品の販売額が増加したことが考えられる。
コンビニエンスストア販売額は前年比3.4%の増加で、1店舗当たり販売額の増加が続くとともに、飽和状態と言われていた店舗数も4年ぶりに増加した。加工食品、ファーストフード及び日配食品など、全ての項目で販売額が5年連続で増加した。高付加価値商品の展開やクーポン配布を始めとする販促施策によって平均客単価が伸びているが、上述のように、来店数は伸び悩んでいる。
一方、百貨店販売額は前年比1.8%の減少で5年ぶりの減少となった。身の回り品、婦人・子供服・洋品などの販売額や、店舗数の減少が続くとともに、1店舗当たり販売額も5年ぶりの減少となった。インバウンド需要の落ち込みにより高額品の購買が減少したことなどが考えられる。
②ドラッグストア・家電大型量販店・ホームセンター
次に、専門量販店3業態(ドラッグストア・家電大型量販店・ホームセンター)をみる。
ドラッグストア販売額は前年比5.5%の増加、店舗数は同3.6%の増加となった(後述の「小売りの輪」の新規参入者?)。販売額は2015年から連続して増加しており、2025年も堅調に推移した。商品別にみると、最も増加に寄与したのは食品、次いで調剤医薬品であった。
食品の販売額は前年比9.1%の増加となり、2025年も大幅に増加し、全体の約3分の1を占め、2015年以降増加を続けている。
これは、ドラッグストアが、上述のスーパー・コンビニエンスストアの主要部門である食品分野に食い込んでいることを示している。一方で、スーパー・コンビニエンスストアでも一部医薬品を販売してドラッグストア分野に進出しているが、ドラッグストアの高収益部門である調剤医薬品は、薬機法の規制で販売薬剤師が必置となっており、進出が難しい。
次に、家電大型専門店販売額は前年比4.1%の増加となり、2年連続で増加した。一方、店舗数は同0.5%の減少となった。商品別にみると、最も増加に寄与したのはパソコンなどの情報家電、次いでスマホなどの通信家電であった。
情報家電の販売額は前年比13.9%の増加となり、5年ぶりに増加した。Windows10のサポート終了に伴うパソコンの買い換え需要などが増加に寄与したと考えられる。
ホームセンター販売額は前年比0.2%の減少となり、2年ぶりに減少した。一方、店舗数は同0.7%の増加となった。商品別にみると、最も減少したのはインテリア、次いでペット・ペット用品であった。
専門量販店3業態では、M&Aによる上位企業への寡占など業界再編が進んでいる。

(3)小売業が抱える課題の解決策

小売業界が抱える課題の解決策を、門外漢である筆者なりに考えてみたい。「岡目八目」と言われるが、「当たらずとも遠からず」ではなかろうか。
1)販売方法の最適化=OMO戦略の展開
小売業界は、顧客=消費者ニーズに応じた最適な販売方法を導入することが重要である。ECの普及拡大に見られるように、コスパ(コストパフォーマンス)だけでなく、購入時間をも節約しようとするタイパ(タイムパフォーマンス)重視の消費者の増加に向けて、店舗販売とECそれぞれの特長を最大限に活かす販売戦略である、OMO戦略を立てる必要がある。
実物を手にとって見られるという実店舗のメリットと、時間や場所を選ばずに利用できるECのメリットを組み合わせて、消費者のニーズを満たす販売方法を複数用意するなどの対策が望まれる。物販にとらわれず、心地良い非日常空間を消費者に提供する「ショールーム」を「売り」にしているアパレルやインテリア店なども増えている。
2)事業計画の見直し
持続的に成長するためには、これまでのビジネスを見直し、事業計画を根本から練り直すことも必要である。
コロナ禍以降の消費動向によりECが急速に拡大したことにより、EC販売に注力してきた小売業にとっては新たなビジネスチャンスが生まれた。
後述する「小売りの輪」のように、小売業は「業態変革業」であり、時代の流れやトレンド・社会情勢の変化に応じて、事業計画をつねに見直すことが重要である。
3)売り場に付加価値をつける
図表2のようにEC化率が上がったとはいえ、全ての売上げがEC化することはない。売り場での販売比率が商品分野も多い。競合店との差別化を図り、消費者にとっての付加価値を高めることにより、実店舗での購入を増やすことは続けなければならない。
競合店との差別化を図り、消費者の購買意欲を高めるために、ノベルティ(景品)・ポイントを付けたり、消費行動のアドバイスができる優秀な店員を育成するなど、商品そのもの以外の付加価値や来店の魅力を店舗に付与することが重要である。
4)ECサイトの強化
今や、小売業にとってECは必須戦略と言っても良い。
実店舗でしか商品を購入したことがなかった消費者が、ECによる購入を体験するという「顧客体験」(⑤項を参照)は、消費行動を大きく変化させた。消費者の多くが、EC体験をしており、小売市場においてEC需要が伸びている以上、小売業はその変化に対応しなければ生き残れないと言ってよい。
ECサイトの開設やECモールへの出店も容易となっており、後述するフルフィルメントサービスを利用すれば、どの小売業でもEC進出が可能になっている。
5)顧客体験の重視
顧客体験(CX=カスタマー・エクスペリエンスまたはUX=ユーザー・エクスペリエンス) は、顧客が企業や商品・ブランドと出会ってから、購入~利用~再購入に至る「すべての接点での体験」を指す。店舗やコールセンター、Webサイト、アプリ、広告、アフターサービスなど、全て顧客体験の「場」であり、オンラインとオフライン両方が含まれる。
顧客体験を重視し「良い体験」をしてもらうことによって、消費者の満足度を向上させることは、リピーターや口コミ拡大のためにも重要である。
筆者は、現役当時、引越し部門にも従事したが、引越しは顧客にとっては一大イベントであり、見積り~荷造り・梱包~搬出~輸送~搬入・据付けなど、それぞれのステージで「顧客体験」の重要性を実感した。
6)人手不足への対応
人手不足への対応と、多様化する顧客層へのより良い顧客体験の提供のため、小売業では雇用対象を拡大することが求められる。シニア層の活用や、コンビニエンスストアの外国人労働者のようにグローバル人材の活用も重要である。
さらには、小売業界の大きな課題である人手不足への解決策として、DX化の推進やロボット・省力化機器の導入も図るべきである。

3.小売業の変化が物流業に及ぼす影響

筆者は、現役当時、大手総合スーパーY社を担当していたことがある。産業構造が変わるなかで、物流業界のターゲットも、従来の川上型であるメーカー物流から、川下型の流通業界に変わりつつあった。
所属していたチームでは、コンビニエンスストア・生協・通販・専門店や、今でいうネットスーパー(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」参照)の各業態にアタックしていた。
急成長していたY社は、各部門の人材を社外からのスカウトで補っており、物流部には、Ⅰ倉庫・M運など物流企業からスカウトされた人材も多かった。逆に、Y社物流部からは、ドラッグストア・ホームセンターなどの新しい小売業態にもトラバーユしていた。
営業活動のなかで、Y社の元物流マン達が普通に話している「下代」「値入率」「ロイヤリティ」などの言葉が分からない。「これはマズい」と、社内通信教育で中小企業診断士(商業コース)の資格を取った。
当時の受験勉強で覚えたマーケティングには、「チェーンストア理論」「ランチェスター理論」など、多くの理論があり、それらが流通業の革新を支えて来たとも言える。例えば、コンビニエンスストアのドミナント展開は、ランチェスター理論の一つの活用であり、最近は、まいばすけっと・カクヤスなど他業態のドミナント展開にも活用されている。
そのなかで、とくに記憶に残っている「ハフモデル」と「小売りの輪」を題材にして、流通業の変革が物流業に影響してきたかを考えてみたい。

(1)ハフモデル

1)ハフモデルとは
1960年代に、デービッド・ハフ(アメリカの経済学者)が商圏予測のために作成したモデルで、消費者が特定の店舗に買い物に行く確率を、他店舗との競合状況を考慮しながら予測する。ハフモデルの前提は、消費者には「近くにある大きな店舗へ行く」という一般的な傾向があるということである(「大きな」に注意されたい)。そこで、特定店舗が選択される確率は「売場面積」に比例し、店舗までの「距離」に反比例するとしている。
面倒くさい数式があるが、それを省略したハフモデルの説明図が、図表4である。

図表4 ハフモデルの説明図(例)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(出所)Market Planner

ハフは、消費者は「遠くまで買いに行くことを面倒に感じる」としている。これは最寄り品・買い回り品における消費行動と同じである。食品や日用品などの最寄り品であれば、できるだけ近くで購入したい。品質や価格を比較検討して購入する、家電や衣料品などの買い回り品であれば、遠くまで出かけて探すこともある。
この「できるだけ近くで購入したい」という利便性(コンビニエンス)、つまりハフモデルの考え方を経営戦略として最重視したのが、コンビニエンスストアであることは言うまでもない。
上述のように、「2025年の小売業を振り返る」の概要説明でも、「物価高と生活防衛意識から、近場でまとめ買いができるドラッグストアや食品スーパーは比較的堅調」なことが述べられている。
2)日本における「修正ハフモデル」
筆者が担当していたY社は、北海道から関西まで、次々と出店していたが、当時は、既存の近隣商店街との軋轢を回避するための大規模小売店舗法(大店法)があり、東海地方のS店などは出店計画からオープンまで10年を要したほどである。
当時の通産省(現・経済産業省)は、ハフモデルを日本風に焼き直した「修正ハフモデル」(詳細は省略)を大規模店舗の出店審査の基準として採用し、大規模店舗が近隣商店街に及ぼす影響を予測して、大規模店舗側に店舗面積の縮小や営業時間の短縮を迫っていた。
店舗面積を縮小するには、貨物車の接車スペースや荷捌きスペースまで減らされ、納入業者・物流業者側にも影響が出た。
3)ハフモデルの物流への活用
ハフモデルの物流への活用としては、物流ネットワークにおけるハブ・アンド・スポークや、前号で紹介した「海運モーダルシフト」のような複合一貫(インターモーダル)輸送に対し、どの起点からどのハブへ貨物が集まるかをモデル化する試みがある。
その場合に、ハフモデル的な考え方で、図表4の店舗面積の代わりに、物流版の魅力度として、
①物流拠点のスペース、処理能力、在庫量
②輸配送のリードタイム、時間指定のしやすさ
③積替え回数の少なさ、遅延リスクの低さ

活用事例の一つとして某県のJA店舗への配送を紹介する。
JAの店舗は昔ながらの資材店からホームセンター並みの農業資材専門店まで、さまざまな形態をとっているが、店舗網の再編による配送効率化を検討する際に、どのような基準で行うかが課題であった。
そこでJA全農では、ハフモデルを活用した簡易な商圏調査で、店舗網の再編シミュレーションを行った。「消費者(この場合は組合員)は近くの、より大きな店舗に向かう傾向がある」ことを前提にして、店舗によってどのくらいの集客が見込めるかをシミュレーションして、既存店舗の需要分析、新規出店の需要分析、支所統廃合による資材店舗の需要分析が可能であり、需要量に応じて生産資材物流の最適化に活用している。
商圏調査などから需要を予測し、それに合わせて配送計画を作成することは、コンビニエンスストアなどでも採用されていることでもあり、ハフモデルが姿を換えて今日にも生き残っているのではないだろうか。

※後編(次号)へ続く

以上


【参考資料】
1.経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」(2026年4月)、「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月)、「商業動態統計調査」(毎月)
2.JA全農長野生産資材課「JA生産資材店舗・物流改善支援について」(全農長野県本部情報/グリーンレーダー 2019年11月号)
3.ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
4.Market Planner 並びに Amazon Japan ホームページ
5.「EC業界カオスマップ2025-物流サービス編」(ecclab 2025年12月)
6.「3PL白書 2025」(ロジスティクス・ビジネス誌2025年9月号)
7.長谷川雅行「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号)

(C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第581号 流通業の変化が物流業の革新を呼ぶ(前編) (2026年6月11日発行) /logistics-581/ /logistics-581/#comments Thu, 11 Jun 2026 00:00:00 +0000 /?p=24298 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問 執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任 20 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

執筆者略歴 ▼
略歴
  • 1948年 生まれ
  • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
  • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
  • 2009年 同社顧問
  • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
活動領域
  • 日本物流学会
  • (一社)日本SCM協会
  • (一社)日本物流資格士会会員
  • 流通経済大学客員講師
  • 港湾短期大学校非常勤講師
  • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編、中編、後編の計3回に分けて掲載いたします。

目次

1.はじめに~日本の小売業の現状

荷主である各業界・業態の変化は、物流にも革新を求める。
今回は、流通業とくに小売業に絞って、業界・業態の変化が物流にどのような影響をもたらし、物流業がそれにどう対応したかを述べることにする。
経済産業省の商業動態統計調査は、同省の「基幹統計調査」の一つであり、全国の卸売業・小売業の販売動向などを毎月把握するための調査である。
調査の目的は、全国の商業を営む事業所や企業について、「売上(販売額)」「在庫などの販売活動の動き」を明らかにし、公表することである。その速報性などから、景気判断や政策立案、企業の市場分析などに使われる。調査対象は、日本標準産業分類の「卸売業・小売業」のうち、代理商・仲立業を除くインバウンドで免税売上が伸びている「ドラッグストアで食品比率が高まっている」など、消費動向の参考にしている(コンビニエンスストアはチェーンストア協会、外食はフードサービス協会など、業界団体からも月次統計が発表されている)。
同省では、この商業動態統計を用いて、1年間の小売業販売動向を確認し、業種別・業態別の商業販売額の変動要因等を分析している。4月14日に公表された、最新版の「2025年小売業販売を振り返る」では、「5年連続の増加となった小売業販売」の副題が付けられている。図表1では、主要な業態別の商業販売額が示されている。

図表1 2025年主要な業態から見る商業販売額
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(出所)経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」

図表1における卸売業(Wholesaler)と小売業(Retailer)の販売額比率が「W/R比率」で卸の多段階度を示している。図表1で計算するとW/R比率は3.03であり、日本の卸売構造が一次卸・二次卸…となっている多段階性を示している。
同資料では、小売業の販売動向についても概括しているが、円安による輸入価格の上昇、物価高騰を考慮すれば、販売額は伸びていても、販売数量(すなわち物流量)は減っているのではないだろうか。物流サイドにとっても、仮にセンターフイー方式であれば、数量が減っても通過金額が増えて「結果オーライ」なのだろうか。
図表1だけでは、商業販売額の動向は分かっても、同省では、流通構造や業態の変化については、明らかにしていない。
そこで、独断と偏見により、さらにはAIの「知見」も借りて、「2025年小売業販売を振り返って」みることにする。

(1)小売市場全体の動向と業種別の明暗

2025年は、物価高が続く中で「伸びる分野」と「苦戦する分野」の差が、さらに拡大したと言えよう。
とくに、上述の物価高の主要要因である食品価格の高止まりがドラッグストアや食品スーパーの売上を押し上げる一方で、衣料品や耐久消費財の動きは、やや弱い。百貨店は2025年に入って減速し、インバウンドと富裕層に依存したビジネスモデルが危うくなったと言えよう。
①コンビニエンスストア・ドラッグストア・食品スーパー
物価高への生活防衛などから、近隣でまとめ買いができるドラッグストアや食品スーパーは比較的堅調だった。特に食品など必需品が売上を支えているほか、ドラッグストアでは加工食品以外に日配品・生鮮三品(青果・鮮魚・精肉)も取扱いが増えている。
コンビニエンスストアは、光熱費・人件費などコスト上昇や来店客数の伸び悩みに対応して、値上げと高付加価値商品・コラボ商品で単価引上げを図る動きが目立っている。
②百貨店・総合スーパー(GMS)・ショッピングセンター
百貨店はアパレル不振や国内需要の弱さから、2025年前半でマイナス傾向となり、地方百貨店の閉店などが相次いでいる。なお、百貨店は最盛期の1990年には12兆円を売り上げていたので、2025年には半減していることになる。後述する「小売りの輪」の新規参入者に市場を奪われた見本のように思われる。
総合スーパーやショッピングセンターは、行楽シーズンやイベントで人流が戻る局面では売上改善が見られた。
地域的には、大阪・関西万博(3~9月)のような好況も見られた。

(2)EC(電子商取引)とネットスーパーの加速

図表1ではECに触れていないが、同省では、毎年「電子商取引に関する市場調査」を実施して結果を公表している。
最新(2025年8月公表)の「2024年度電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、26.1兆円(前年24.8兆円、前々年22.7兆円、前年比5.1%増)に拡大している。また、EC化率(全売上のうち、ECが占める割合)は、BtoC-ECで9.8%(前年比0.4ポイント増)、と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展している(図表2参照。なお、BtoB-EC=企業間電子商取引の市場規模・増加傾向は省略するが、EDIが普及しているのでBtoC-ECよりもはるかに大きい)。

図表2 物販系分野のBtoC-EC市場規模
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(注)▲は減

(出所)経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」

EC市場全体は引き続き拡大しているが、「単にオンラインで売る」から「店舗とECをどう組み合わせるか」というOMO戦略(Online Merges with Offline オンラインとオフラインの融合。オムニチャネル戦略とも言う)が、導入から普及段階に入ってきた。
OMO戦略を推進すると、これまではEC向け在庫と店舗向け在庫を別管理していたものを統合して管理するなど、在庫戦略や配送戦略も見直す必要が生じる。
実店舗で商品を確認してからECで購入、逆にECで知ってから店舗で試すといった購買行動により、実店舗が「ショールーム」化した。アパレル・インテリア・情報家電などでは、店舗を「売らないショールーム」として位置づけ、ECに送客する店舗戦略や販促策も増えている。
OMO戦略では、会員IDやポイントをオンラインとオフラインで統合する動きが加速している。例えば、鉄道以外の事業展開を進めているJR東日本では、駅構内での販売と、ネット販売のポイントを共通化している。
ネットスーパーについては、(2)①でも述べたが、物価高への生活防衛などから、まとめ買いができるということで、従来の生協などに加えて、イオンのグリーンビーンズやライフなどネットスーパーの利用が拡大している(図表3)。ドラッグストアでも、ウーバーなどを活用して調剤医薬品以外に、食品の配送も始めて「ネットドラッグ」化している。
ECへの対応としては「4.フルフィルメント」を参考にされたい。

図表3 グリーンビーンズ配送車両

<

(出所)横浜市内にて筆者撮影

(3)人手不足とDX・省人化

深刻な人手不足と店舗コスト増を背景に、AIやロボット、デジタルサイネージ、セルフレジなどによる省人化や業務効率化の投資が進んでいる。ECは、店員・売り場スペースなどが不要で、店舗コストを大きく削減できる業態である。
個別企業が単独ではなく、サプライチェーン全体や異業種とのデータ連携を視野に入れた取り組みも出てきており、エシュロン(階層)在庫の削減や協業化などサプライチェーン全体で生産性を向上させようとする施策も注目されている。

※中編(次号)へ続く

以上


【参考資料】
1.経済産業省「2025年小売業販売を振り返る」(2026年4月)、「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月)、「商業動態統計調査」(毎月)
2.JA全農長野生産資材課「JA生産資材店舗・物流改善支援について」(全農長野県本部情報/グリーンレーダー 2019年11月号)
3.ダイヤモンドチェーンストア 2023年3月号
4.Market Planner 並びに Amazon Japan ホームページ
5.「EC業界カオスマップ2025-物流サービス編」(ecclab 2025年12月)
6.「3PL白書 2025」(ロジスティクス・ビジネス誌2025年9月号)
7.長谷川雅行「『置き配』考─その進化と普及のシナリオ」(ロジスティクス・ビジネス誌2023年4月号)

(C)2026 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第537号 「資本コストの視点で改めて注目すべき「在庫保有コスト」~東証「PBR改善要請」を踏まえて」~(2024年8月8日発行) /logistics-537/ /logistics-537/#respond Thu, 08 Aug 2024 00:00:00 +0000 /?p=20498 執筆者  久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 199 […]

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執筆者  久保田 精一
(合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
    • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
    • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
    • 2015年7月~ 現職
    活動
    • 城西大学 非常勤講師
    • 流通経済大学 客員講師
    • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
    著書
    • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

 

目次

■はじめに

  2023年以降の株高の主要因の一つとして指摘されるのが、東京証券取引所(東証)による「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要請」である(図表1)。
PBRが1倍以下ということは、時価総額が「解散価値」を下回ることに相当する。日本は諸外国に比べそのような企業の割合が異例に高いことが知られており、東証上場企業(プライム、スタンダード市場区分)の約半数がPBR1倍未満であった。そのようなことから、東証がその改善を求めたというのがその大まかな経緯である。

図表1:東証のPBR改善要請

資料:東証「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」

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  日本でこのようにPBRが低い理由には諸説があり、企業サイドの問題だけとは言い切れないが、いずれにせよ、資本(および労働)が効率的に付加価値を生み出すことが資本主義経済活性化の基本的メカニズムである以上、その改善が望ましいことに異論は少ないであろう。

■PBR改善と在庫効率向上

  さて、PBRを高めるルートは様々だが、その一つは純資産が生み出す利益の効率(ROE)を高めることである。そのためには期待される水準の利益を生まない資産を圧縮することが求められる。
企業の総資産のうち多くを占めるのは固定資産であり、製造業における工場等の生産設備がその代表である(図表2)。製造業が不要な(言い換えれば付加価値を生まない)生産設備を保有していると、その資本効率は低下する。この場合、当該設備を売却し資金を自社株買い等に充てることができれば、ROEの向上を通じたPBRの改善が期待できる。
金額は固定資産等よりも少ないものの、同様のことが在庫(棚卸資産)についても言える。すなわち、利益を生まない在庫を保有している場合、その圧縮による企業価値向上が期待できる。ただし、ここで注意しておきたいのは、ビジネスの条件を改善しないままに在庫削減だけを進めると、売り損じが発生し、むしろ利益低下に繋がる場合も少なくないということである。ここでの主な論点は、在庫の増加を生じている前提条件を改善することであり、同一の条件下で単純に在庫を減らすことではない、という点は予め強調しておきたい。

図表2 企業の資産構成

資料:経産省「2022年度・企業活動基本調査」より筆者作成

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■資本効率志向の経営に求められる「在庫保有コスト」の管理

  以上のとおり資本効率志向の経営を進めていくうえで、在庫適正化の議論が必要だが、その際の論点の一つが「在庫保有コスト」の把握である。
在庫保有コストとは、在庫を保有することに伴い発生する各種コストである。英語では「Inventory Carrying Cost」と呼ぶ。これに対応する訳語は一定しないが、「在庫保有コスト」、「在庫保持コスト」または単に「在庫コスト」と称されることもある。本稿では「在庫保有コスト」と呼ぶことにする。
資本効率への関心の低さからか、これまで在庫保有コストは企業実務上、重視されてこなかったが、在庫管理はロジスティクス管理の主要目的の一つである以上、重要な指標であることは当然である。

さて、在庫保有コストに含まれる内容は多岐にわたるが、主なものは図表3の通りである。なお、各項目の詳細については、本ロジスティクス・レビューのバックナンバー(注1)にて解説していることから、ここでは割愛する。ご関心のある読者は当該記事をご参照いただければ幸いである。
注1:第207号物流コストと在庫保有コスト、/logistics-207/

図表3 在庫保有コストの主な内容
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■在庫保有コストの大まかな数値

  在庫保有コストは在庫の残高(年間平均残高)に対する率として計算されることが多い。では実際にその率を計算すると、どの程度の値になるだろうか。
まず①資本コストは、日本は借入金利が非常に低いことからごく小さな数値を想定されるかもしれない。しかし資本コストには、株主資本の調達のコストも加味される。弁済順位が劣後する株主資本には相応のリスクプレミアムが上乗せされることから当然、その調達コストは割高となる。
詳細は割愛するが、資本コストはこれらの数値を合成したものとして算定されることになる。その代表的な指標はWACC(加重平均資本コスト)である。
東証の冒頭の要請を踏まえ近年、上場企業でWACCの開示が進んでいるのだが、開示資料をもとに日興リサーチセンターが調査したレポート(注2)によれば、開示した企業のWACCの平均値は6%であったという。このような数値を見ても、長期プライムレート等が基準となる借入金利と比べるまでもなく、資本コストの率が相応の水準に達することが理解できるだろう。

次に、②保管費も小さい金額ではない。日本ロジスティクスシステム協会の「物流コスト調査」によれば、荷主企業の物流コストは、売上高に対し6%程度の割合である(年によって多少変動する)。保管費はこのうち12%程度であることから、売上高比では概ね0.7%程度が保管費に相当することになる。
仮に在庫金額が売上の1.5ヶ月分(売上高の8分の1)だとすると、保管費は在庫金額に対して5%程度の率となる(0.7×8=5.6による)。

残る③税・保険料、④陳腐化費用については、業種・品種によりケースバイケースの側面が強く、目安の数値を示すのが難しい。ただ④などをかなり小さく評価したとしても、①~④を加算すれば1割代半ばに達するであろうことは無理のない推論だと言えるだろう。実際、各所で調査されている在庫保有コストの率は、10~20%程度の数値で示されている場合が多い。

以上を踏まえると、ある企業が仮に平均100億円の在庫を抱えているとすると、当該企業には年間10~20億円の在庫保有コストが発生するということになる。このような金額からも、在庫保有コストの重要性が再確認できるであろう。

注2:日興リサーチセンター 社会システム研究所シニアアナリスト三瓶匡尚氏「東証要請『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に対する企業の開示状況について」2024年4月

■在庫保有コストと他のコストの比較

  在庫保有コストの重要性は、他の物流コストとの比較からも確認できる。
図表4は、一定の仮定に基づき輸送コストと在庫保有コストを算出し、その金額を比較したものである。在庫保有コストは前項を踏まえて在庫金額の15%だと仮定している。
次に輸送コストは、日本ロジスティクスシステム協会の「物流コスト調査」の業界平均値等を踏まえた仮定により、数値を算出したものである。
このような一般的な仮定に基づき試算した結果、当該企業の輸送コスト3.6億円に対し、在庫保有コストはその6割超の金額にあたる2.25億円と算定されることになる。
輸送コストは企業のロジスティクス管理において最も重視されるコストだと言えるが、その金額レベルと比較すれば、在庫保有コストが決して無視できない水準であることがより明らかとなるだろう。

図表4 在庫保有コストと輸送コストの数値例
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■在庫保有コストを活用する方向性

  これまで意識されなかった在庫保有コストだが、では在庫保有コストをどのように活用できるだろうか。以下ではその一つの方向性を示したい。

荷主の物流条件等は、企業の利益を最大化するような水準で決定されることになる(図表5)。従来は意識されなかった在庫保有コストを加味することで、現状よりも合理的な意思決定が可能となると考えられる。
一例として、製品アイテム数を挙げて説明する。
製品アイテム数を増やすことにより、多様な顧客ニーズに対応できる。そのため売上の向上が期待できる。一方、アイテム数が増え過ぎると、小ロットでの受注が増え製品の輸送コストは増大する(図表5左)。図示していないが、生産コスト等の増加も大きな問題である。企業は以上で述べたプラスの効果とマイナス効果を比較衡量し、最適なアイテム数の水準を選択することとなる。

ところで、アイテム数の多寡は在庫水準にも影響する。
安全在庫はアイテムごとの需要のばらつき(標準偏差)に応じて積み増す必要がある。アイテム数が細かく分かれると、「大数の法則」の逆の効果が働き、その分、需要のばらつきは増大することになる。よって在庫量が増大し、在庫保有コストも不可避的に増加することとなるのである。
以上の説明のようなメカニズムを踏まえると、在庫保有コストを加味することによって、最適なアイテム数の水準は図表5右に記載のとおり、より少ない水準に(図では左側に)シフトすることになる。

図表5 在庫保有コストを考慮することの影響
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■在庫水準に影響を及ぼすその他の物流条件等

  以上はあくまで理論上の議論ではあるものの、在庫保有コストを考慮することによって、各種物流条件に一定の見直しが必要となると考えることができるのである。なお、前項ではアイテム数を例に説明したが、在庫水準に影響を及ぼす「物流条件等」は、この他にも多数挙げることができる。一例としては、以下のようなものである。

・生産ロットサイズ:ロットを小さくして頻繁に生産すれば製品在庫は少なくなるが、生産コスト等は増大する。
・サービス率(欠品率の許容限度):サービス率とは欠品率の許容水準に相当する率であり、サービス率を高くすれば欠品が減り、顧客へのサービス水準は向上する一方、在庫が増える。
・在庫拠点数(特にエシュロン在庫における多段階性):安全在庫は拠点数に応じて設定されるため、在庫拠点数が増えれば総在庫量も増加する。特に、サプライチェーン全体の在庫(エシュロン在庫)の観点で見ると、流通過程で多段階に在庫拠点を設定すれば、在庫が増大することになる。

これらはいずれも、前述のアイテム数と同様か、それ以上に、在庫水準に大きな影響を与え得る。
目下、「物流の2024年問題」を踏まえ、「リードタイムを延長する」といったように、各種物流条件の見直しが進んでいるが、同様に、これまで考慮されなかった在庫保有コストを加味することにより、これらの物流の前提条件の見直しが生じることが想定される。

■さいごに

  トヨタ生産方式に代表されるとおり、日本は世界的に見て早期に在庫削減に熱心に取り組んで来た企業が多い。よって個々の企業の在庫管理に大きな課題があるとは考えにくく、よって、従来の延長線上での在庫削減の余地は大きくない。とはいえ、サプライチェーン全体の在庫効率といった違った観点からみると、課題が散見されるのも事実である。上記のような前提条件を見直すことで、資本効率を改善できる可能性は少なくないのではないか。
冒頭に述べたとおり、日本企業の資本効率は未だ諸外国に大きく劣っており、改善の余地が大きい。よって経済構造改革の一環として、その改善に向けた政府の働きかけは今後も続くと予想される。
在庫保有コストの重要性は数十年来に亘って指摘されていながら、その実務的な適用は進まなかったのだが、このような環境変化を踏まえ、産業界にて在庫保有コスト視点からの経営高度化が進むことを期待したい。


(C)2024 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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第536号 コンプライアンスから企業理念へ(後編)(2024年7月23日発行) /logistics-536/ /logistics-536/#respond Tue, 23 Jul 2024 00:00:00 +0000 /?p=20471 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(一社)日本物流資格士会 顧問

 執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
    活動領域
    • 日本物流学会
    • (一社)日本SCM協会
    • (一社)日本物流資格士会会員
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。
  • *前号(2024年7月11日発行 第535号)より
     

    目次

      

    3.2024年の法令改正

      2024年の法令改正については、まず、何といっても「物流の2024年問題」対策として、荷主や物流事業者に対する規制的措置である「流通業務総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の改正がある。
    「物流の2024年問題」については、ロジスティクス・レビュー誌でも、早期の取り組みをお願いしてきたところである。
    2023年6月に内閣府から「物流革新に向けた政策パッケージ」が公表された。

    図表4 物流革新に向けた政策パッケージのポイント

    (出所) 内閣府資料

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     (1)流通業務総合効率化法

      この物流政策パッケージで示された「規制的措置」を具現化するため、2024年4月23日に改正・可決した流通業務総合効率化法(法律の名称を変更)では、荷主・物流事業者に対する規制的措置として、以下の内容が定められた。実施にあたっての特定事業者(荷主・物流事業者)の基準など施行令(政令)は、施行に向けて決定されることになる。
    1)①荷主*1(発荷主・着荷主)、②物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、航空運送、倉庫)に対し、物流効率化のために取り組むべき措置 について努力義務を課し、当該措置について国が 判断基準を策定する
    *1元請トラック事業者、利用運送事業者には荷主に協力する努力義務を課す。また、フランチャイズチェーンの本部にも荷主に準ずる義務を課す
    2)上記①②の者の取組状況について、国が当該判断基準に基づき指導・助言、調査・公表 を実施する
    3)一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告等を義務付け、中長期計画に基づく取組の実施状況が不十分な場合、勧告・命令を実施する
    4)特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務付ける
    さらに、予算措置の根拠として、鉄道建設・運輸機構の業務に、同法で認定を受けた「物流総合効率化事業」の実施に必要な資金の出資を追加した。
    荷主の特定事業者は、トラックの利用度に応じて指定(線引き)されるようであるが、報道では約3千社とされている。
    この「物流統括管理者」をCLO(Chief Logistics Officer 最高ロジスティクス責任者)とするような報道もあるが、筆者は必ずしもそうとは言えないと感じている。
    同法では、物流統括管理者がロジスティクス戦略を立案・遂行することまでは求めていないし、そこまで求めることもできない。あくまで、物流事業者との取引内容に関して統括的に管理することであろうと推察される。したがって、「物流統括管理者」は、CFO(最高財務責任者)・CIO(最高情報システム責任者)に匹敵するCLOではないような気がする。
    これまで、国交省・厚労省・全ト協が推進してきた「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」の地方協議会における取り組みを長年お手伝いして来た者の実感で言えば、荷主企業内における「取引環境・労働時間改善の統括管理者」あたりではないだろうか?あるいは、独占禁止法(物流特殊指定)並びに下請法でいう「親事業者」で、「下請業者(物流委託先)」への委託業務に関して、統括的な管理責任を負う者と理解する方が良いかもしれない。
    いずれにしても、2025年4月施行と予測される(1)(2)両法が、「物流の2024年問題」への特効薬となるかどうかウォッチして行きたい。

    図表5 流通業務総合効率化法(改正)の概要

    (出所) 国土交通省資料

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     (2)貨物自動車運送事業法

       同日に改正・可決した貨物自動車運送事業法では、トラック事業者の取引に対する規制的措置として、以下の内容が定められた。実施にあたっての施行令(政令)は、施行に向けて決定されることになる。
    1)元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けた
    2)運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した 書面による交付等を義務付けた *2 。
    3)他の事業者の運送の利用(=下請けに出す行為)の適正化 について努力義務 *3 を課すとともに、一定規模以上の事業者に対し、当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付けた。
    *2 ・ 3 下請関係に入る利用運送事業者にも適用 。
    また、規制的措置ではないが、収受運賃の底上げを図ってドライバーを確保するため、「標準的な運賃」についても、約8%引き上げると同時に、荷役の対価等を加算した新たな運賃が2024年3月22日告示・施行され届出可能となった。併せて、標準貨物自動車運送約款も改正告示され、6月1日から施行される。
    誌面が限られているので、改正された「標準的な運賃」と「標準貨物自動車運送約款」は省略するが、国土交通省の資料等で確認・活用されたい。
    さらに、貨物自動車運送事業法では、近年における貨物軽自動車運送事業(軽トラック等)における死亡・重傷事故等の増加を踏まえ、貨物軽自動車運送事業者に対して以下のような規制的措置を定めた。
    4)貨物軽自動車運送事業者に対し、①必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、②国土交通大臣への事故報告を義務付けた
    5)国土交通省ホームページにおける公表対象に、貨物軽自動車運送事業者に係る事故報告・安全確保命令に関する情報等を追加する。
    5)は、具体的には、国土交通省ホームページのネガティブ情報サイト(運輸・建設の各事業者の行政処分内容等が一覧できるように掲出されており、企業名で検索できる)に掲出されるものと思われる。
    貨物軽自動車運送事業では、2022年に軽乗用車による参入が解禁され、主婦などのギグワーカーが空き時間にネット商品のラストマイル配送を行えるようになった。その一方で、近年、貨物軽自動車運送事業者による交通事故等が増加しているので、4)の措置が講じられた。
    ただ、個人事業主の場合は、「自分で自分を管理すること」になる。一般貨物自動車運送事業のように、「運行管理者がドライバーを管理する」のではないので、その実効性が心配である(自分で自分を「点呼」するのであろうか?)。

    図表6 貨物自動車運送事業法(改正)の概要

    (出所) 図表5に同じ

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     (3)道路交通法

      1)高速道路における大型貨物自動車等の最高速度引き上げ
    道路交通法では、2024年4月1日から高速道路における大型貨物自動車等(大型貨物自動車及び特定中型貨物自動車であって、車両を牽引するものを除く)の最高速度が、時速80kmから時速90kmに引き上げられた。これは、高速道路における運転時間の短縮によるトラックドライバーの労働時間削減を目的としている。カッコ書きで限定されているように、トレーラーは従来通り時速80kmである。
    時速10kmの速度引き上げから1カ月が経過したが、その効果はいかがだろうか?従来から大型トラックにはスピードリミッターが付いていて、時速90km以上は出せない。そこで、スピードリミッターが作動して減速する直前の速度(時速90km近く)で走行するのが、高速道路の流れにも適合していたので、大型トラックのドライバーは馴染んでいたのではないだろうか?そのような実態(?)から推測すると、時速10kmの引き上げ効果は少ないのかも知れない。
    荷主から「時速10km速くなったのだから、早く届けて」「時速10km速くなったのだから、出発が少し遅れてもいい?」などと言われないだろうか?
    2)大型免許・中型免許へのAT限定免許導入方針(運用は2026年)
    道路交通法では、バス・タクシーを含めたドライバー不足に対応するため、運送業界からの要望に応じて、大型免許・中型免許にオートマチック車限定免許(AT免許)を2026年以降に導入する方針が決まっている。
    3)自転車違反に反則金(運用は2026年)
    2024年5月に道路交通法の改正が可決し、周知期間をおいた2026年から自転車の交通違反に交通反則切符(青切符)が交付されることになった。対象となる違反行為は、「信号無視」「指定場所一時不停止」など115種類程度とし、反則金額は5千〜6千円が中心となる。
    トラックなど自動車側にも、「車道を走る自転車を追い抜く自動車は、自転車との間隔に応じた安全な速度で走行する」よう義務付けられ、違反すれば反則金となる。

     (4)労働・社会保険関係

      2024年中の労働・社会保険関係の法改正では以下のとおりである。
    労働・社会保険関係の法律も、道路交通法と同様に、頻繁に改正されているので注意が必要である。
    さらに、2018年の「働き方改革関連法」から5年が経過した(5年が経過したので、トラックドライバーの時間外労働の上限規制の猶予期間が切れた)ので、「ポスト」働き方改革関連法の動きも出始めている。
    具体的には、労働基準法(さらなる時間外労働時間の短縮など)・労働安全衛生法などが厚生労働省の研究会などで労使や有識者により検討されている。労働安全衛生法は、労働災害事故が減少しないので、ワースト3業種といわれる製造業・建設業・道路貨物運送業(トラック運送業)について、上述2-(4)「テールゲートリフターの操作に関する研修の義務化と適用除外措置。昇降設備の設置義務及び保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲を拡大」のように、個別に規制的措置が講じられるものと思われる。
    強行法規である労働基準法・労働安全衛生法には、罰則規定があるので、これらの動向も注視していく必要がある。
    1)労働基準法施行規則及び職業安定法施行規則(2024年4月1日施行)
    労働条件明示のルールが改正された(採用時にあたって、以下を明示することが義務づける)。
    ・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲
    ・更新上限の有無および内容
    ・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる

    ・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件
    「就業場所」を明示することは、企業理由による転勤を制限することになる。ハローワー
    クの「求人票」等にも明示が必要となるので、職業安定法施行規則も改定された。
    2)フリーランス保護新法(2024年11月1日までに施行)
    フリーランスである個人事業主に対して、契約内容の明示等を義務づける。
    個人の「貨物軽自動車運送事業者」に対しても、業務請負について契約内容の明示等が必
    要となる。
    3)厚生年金保険法・健康保険法改正(2024年10月1日施行)
    51人以上の事業所では、パートタイム等の短時間労働者が社会保険の適用対象になり、各保険料の会社負担分が発生し、人件費増となる。
    なお、雇用保険法についても2024年5月の法改正で、2028年から雇用保険の対象を1
    週間の労働時間が「10時間以上」(現行は20時間以上)の短時間労働者まで拡大することとなった。雇用保険料は全額会社負担であり、短時間労働者の多い企業では人件費増となる。
    4)在留資格「特定技能」制度への自動車運送分野の追加
    出入国管理及び難民認定法(出入国管理法)では、日本国内における外国人労働者受け入れについても規定している。
    外国人による労働力確保策の一つである「特定技能」制度は、国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度である。
    改正出入国管理法(2018年)により在留資格「特定技能」が創設され、2019年4月から受入れが可能となったが、国内の労働力不足の深刻化に対応するため、2024年3月29日に同法が定める在留資格の一つである「特定技能1」について、従来の12分野に自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4つの分野を新たに追加することが閣議決定され、2024年4月以降、必要な省令(法務省令)の改正が行われる(下図参照)。

    図表7 特定技能制度が適用される分野

    (出所) Divership ホームページ

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    この特定技能制度が適用されない分野、例えば、物流センターやトラックターミナルの軽作業(ピッキング・仕分け・流通加工)では、外国人留学生のアルバイトも多かったが、「自動車運送」=運転に限定して、特定技能に含められることとなった。
    ここで、外国人労働者に関する項目のうち、外国人留学生アルバイト、特定技能、外国人運転者)について、簡単にお浚いしておきたい。
    ①外国人留学生のアルバイト条件
    〇最寄りの地方出入国管理局等で「資格外活動許可」を受けること(「留学」の在留資格
    で3か月を超える人は、新規に入国する場合、上陸許可時に空港等において資格外活
    動許可の申請をすることができる)
    〇勉強の障害にならないこと
    〇留学中の学費や必要経費を補う目的であって、貯金や仕送りのためではないこと
    〇風俗営業ではないこと(風営法等で禁止)
    〇1週28時間以内(長期休業期間中は1日8時間以内)であること
    〇教育機関に在籍している間に行うものであること
    筆者の住む横浜市でも、横浜駅周辺には、日本でアルバイト目的の「外国人留学生」目当ての日本語学校が多い。
    ②在留資格「特定技能」
    外国人が日本に在留するためには、在留目的等を地方入国在留管理官署に申請し在留資格を認定される必要がある。
    在留資格「特定技能」には、以下の2種類がある。
    〇特定技能1号
    特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する
    外国人向けの在留資格
    〇特定技能2号
    特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
    ※従来の特定産業分野(12分野)は図表7参照。
    在留資格「特定技能」制度が創設された2019年度からの5年間で、介護や建設など12の特定産業分野で345,150人の外国人を、政府は受け入れ上限としてきたが、2023年6月末時点の実績は上限の半分である約17万人である(外国人にとって、日本の労働市場は魅力がない?)。
    ③外国人の運転免許
    外国人が、日本の運転免許を取得するには以下の2つの方法がある(国際免許では、事業用自動車の運転はできない)。
    方法1 外国で取得した運転免許を日本の免許に切り替える
    試験を受験した後、日本の運転免許センターで日本の運転免許証へ切り替え手続きをおこなう。
    以下の4条件を満たしている必要がある。
    ・取得した運転免許証が有効期間内であること
    ・運転免許を取得した国に通算3ヵ月以上滞在していたこと
    ・日本に住民票があり、在住していること
    ・ビザが有効であること
    必要な書類
    ・有効な外国の運転免許証
    ・上記免許証の日本語による翻訳文(当該国の駐日大使館等が作成したもの)
    ・本籍が記載されている住民票
    ・免許を取得した国に免許取得後3ヵ月以上滞在したかを確認できるもの(パスポート等)
    ・申請用写真(縦3cm横2.4cm)
    方法2 日本で運転免許を取得する
    日本人と同様に、学科試験・実技試験に合格して運転免許を取得する(日本人と同じ条件)。
    外国語による学科試験の受験
    外国語で試験を受けることができる場所が各都道府県に設けられているが、対応している言語
    は、英語・中国語・ポルトガル語の3つが多く、都道府県によっては対応していない言語もある。
    ④外国人運転者
    北関東や神奈川では、外国人労働者が多いこともあって、タクシーでも外国人ドライバーを見かける。
    労働力不足が顕著なトラック、バス、タクシーのドライバーについて、在留資格「特定技能」の対象に、「自動車運送業」を追加する方向で、国土交通省や関係業界で検討が進められてきた。
    全日本トラック協会、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会の3団体は、特定技能の対象にドライバーを追加するよう、国に要望してきた。
    国土交通省では、3業界における今後5年間の外国人受け入れ見込み数(政府の受け入れ上限と関係する)、業種に合わせた運転手としての技能試験の整備を検討している。
    「第2種免許」の取得が必須であるバス・タクシーよりも、「第1種免許」のトラックはハードルが低いが、大中型車両も多く安全運転の徹底が必要になる。また、引越し・宅配などでは接客も必要となる。受け入れ企業だけでなく全日本トラック協会などが、外国人ドライバー研修制度を設けることが望まれる。
    旅客・貨物の自動車運送業・鉄道業は、コミュニケーションや安全管理の能力が求められることから、特定技能としての在留資格を得るには、ほかの分野より高い日本語のスキルなどが条件とされており、受け入れ側も新たに外国人労働者の教育・就労体制の構築などが求められる。
    また、2024年度以降の5年間で受け入れる外国人は、新たに追加する4分野を含めた16の分野で最大82万人を見込んでいる。
    (「特定技能」の詳細は、法務省「特定技能 ガイドブック」を参照のこと)

    図表8 特定技能外国人が就労を開始するまでの流れ(抜粋)

    (出所) 法務省「特定技能 ガイドブック」 ※1・2の解説は省略

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    4.終わりに

      3で掲げた以外にも、障害者差別解消法改正(飲食その他のサービスや窓口業務。例えば、障害者が宅配・引越の申込みで来社した場合の対応には、障害者に対する合理的配慮の提供が義務化される)などの物流関連法令の改正があるが、誌面の都合で省略する。
    物流・ロジスティクスを取り巻く法令は多い。3PL事業を営むには、荷主の業界に適用される法令(食品業界であれば、食品衛生法・JAS法など。医薬品業界であれば、薬機法など)も遵守しなければならない。JILS機関誌「ロジスティクス・システム」では、以前、「物流関連法規」として100以上が掲げられていた。
    そこで、本稿に掲げた最新の法改正や、物流・ロジスティクスを取り巻く法令に的確に対応して、社内に遵法体制を構築・運営するためのチェックリストを最後に掲げておきたい。
    過去の記事でも述べたように、コンプライアンスは「法令遵守」だけでない。法令を遵守するという意識・行動が企業全体に定着することにより、「働き方改革の実現」「働きやすい職場づくり」などより良い企業文化・企業理念が生まれると思う。

    図表9 コンプライアンス度チェックリスト(抜粋)

    (筆者作成)

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。



    【参考資料】
    1.内閣府・法務省・経済産業省・厚生労働省・国土交通省・公正取引委員会・警察庁等の資料・ホームページ(順不同)
    2.政府サイト「e-Gov法令検索」から労働関係・運輸関係・交通関係・経済関係の各法令(順不同)
    3.法務省「特定技能 ガイドブック」
    4.長谷川雅行「荷主に求められる物流コンプライアンス(前編・中編・後編)」ロジスティクス・レビュー誌 第325~327号 2015年)
    5.長谷川雅行「最近のロジスティクスの動向~コンプライアンス経営(前編・後編)」ロジスティクス・レビュー誌第392~393号 2018年)


    (C)2024 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.
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    第535号 コンプライアンスから企業理念へ(前編)(2024年7月11日発行) /logistics-535/ /logistics-535/#respond Thu, 11 Jul 2024 00:00:00 +0000 /?p=20274 執筆者  長谷川 雅行 (一社)日本物流資格士会 顧問  執筆者略歴 ▼ 略歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締 […]

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    執筆者  長谷川 雅行
    (一社)日本物流資格士会 顧問

     執筆者略歴 ▼
      略歴
      • 1948年 生まれ
      • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
      • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
      • 2009年 同社顧問
      • 2017年(一社)日本物流資格士会 顧問
      活動領域
      • 日本物流学会
      • (一社)日本SCM協会
      • (一社)日本物流資格士会会員
      • 流通経済大学客員講師
      • 港湾短期大学校非常勤講師
      • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」ほか講師
  • 本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。
  •  

    目次

    1.はじめに

      まず、新聞紙上などで報道された、近年(2023年まで)のコンプライアンス上の不祥事をご覧頂きたい。わが国を代表するような一流企業でも、毎年のように、大きな不祥事が発生している。

    図表1 近年のコンプライアンス上の不祥事(2023年まで)

    (報道などから筆者作成)

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。


    2024年に入っても、小林製薬・IHIグループ・いなば食品・ウエルシアHDなどの不祥事がメディアを賑わせている。
    一方、物流関係でも、楽天モバイルを巻き込んだ日本ロジスティックスや、鴻池運輸、ハマキョウレックスグループである近物レックスの経理上での不祥事が起こっている。
    安全・健康管理という点では、神戸市・中古車販売会社のトレーラーから降ろし忘れたラックが走行中に落下して歩行者に当たった事故や、トラックドライバーの過労死の労災認定も報じられている。
    後者は、死亡前6カ月は月平均159時間の時間外労働をしていた52歳(当時)のドライバーが、2018年に広島県内を運転中に心筋梗塞で死亡したもので、労基署から労災が認定されている。遺族が勤務先(交野市・田中陸送)に5400万円の損害賠償請求訴訟を起こし、本年4月、同社が解決金を支払うことにより大阪地裁で和解したものである。解決金の金額は公表されていないが、地裁での和解なので、それなりの金額と思われる。
    このように、経理上の不祥事、交通事故、労災事故など、物流関連でもコンプライアンス上の事件が発生している。
    なお、上記の労災事故に関しては、脳・心臓疾患の労災認定件数は毎年150~250件で、そのうち約3割が道路貨物運送業(トラック運送業)となっている。その対策もあって、本年4月から自動車運転者の時間外労働時間の上限規制が始まった。上限規制である年間960時間は平均すれば月間80時間となる。3カ月平均で月間80時間の時間外労働をしていて、脳・心臓疾患で死亡すれば過労死と認定されることもある。年間960時間(月間80時間)は、世間の常識では「過労死レベル」とされていること、また労災認定されれば、賠償義務が生じることを、自動車運送事業(トラック・バス・タクシー)の経営者・管理者には認識して頂きたい。
    一度、コンプライアンス上の事件が発生すると、日野自動車・ダイハツ工業のように直ちに対策を講じて法令の遵守に努めなくてはならない。場合によっては、ビッグモーターのように企業として存続できない(同社は伊藤忠商事が買収)ことになる。たとえ、存続できても売上げや社会的信用の回復には長い時間が掛かる。
    筆者の個人的経験で恐縮であるが、入社数年前に勤務先企業が不祥事を起こしていたが、その数年後でも影響が大きく残っていたことを思い出す。また、荷主である青果業者の指示で行った輸入フルーツの産地ラベル貼り(流通加工)が、「産地偽装」になって報道されたこともあった(「ラベル貼り」もJAS法で定める「生産」の一部であり、勤務先企業は同法違反を問われた)。なお、簡単な流通加工業務であっても、上記のようにJAS法や製造物責任(PL)法に抵触する場合があるので、注意されたい。
    これまで、ロジスティクス・レビューでは二度延べ5回にわたって、コンプライアンスを取り上げてきた。何度もコンプライアンスについて書くのは、気が重いが、「コンプライアンスで企業や従業員を守る」ために、最近の法改正を中心に述べたいと思う。

    2.2023年の主な法改正(物流関連)

      まず、昨2023年の法改正を時系列でお浚いして置きたい。
    既に施行済みが多いので、各企業とも遵守している筈であるが、もう一度チェックして欲しい(便宜的に西暦表示しているが、法令は和暦表示)。

     (1)労働基準法並びに労働基準法施行規則(2023年4月1日)

      月60時間超の割増賃金率に関する中小企業への猶予措置が廃止された。
    大企業・中小企業を問わず、月60時間を超える時間外労働には5割増しの賃金を支払うことになった。一般的な中小トラック運送業の場合は、人件費が売上高の40~50%を占めるので、月間80時間の時間外労働の場合2%程度コストアップになると推算される。

     (2)障害者の雇用の促進等に関する法律施行令(2023年4月1日)

      障害者雇用率の段階的引き上げ等が決められた。
    現行(2024年3月末まで)の法定雇用率2.3%(従業員43.5人以上の事業主)が、2024年4月から2.5%(同40人以上)、2025年7月から2.7%(同37.5人以上)となる。
    該当する事業主は、次の対応を求められる。
    ①毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告すること
    ②障害者雇用の促進と継続を図るために「障害者雇用推進者」を選任するよう努めること
    ③障害者を解雇する場合、ハローワークに解雇届を届け出ること
    また、道路貨物運送業(トラック運送業)の障害者雇用除外率(現行20%)も、2025年4月から10%に引き下げられる。倉庫業は現行5%が0%(除外なし)になる。
    同法が適用される障害者には、2018年以降、身体障害者・知的障害者に精神障害者も加えられた。肉体労働の多い物流センターなどの現場では、身体障害者の雇用が難しい側面(除外率が適用されてきた理由の一つ)もあったが、知的障害者とともに精神障害者も対象となったことで、物流現場における障害者雇用の増加が期待される。
    東洋経済の「障害者雇用率が高い会社ランキング」(2021年度調査)では、ファーストリテイリング、ファンケルなどの大企業に伍して、関通(同誌の分類では、倉庫・運輸関連業)が26名・雇用率6.29%で、5位に入っている。物流企業でも「障害者雇用ができる」という好例である。
    参考までに、同社は、同誌の「非正社員への依存度が高い会社ランキング(2023年1~12月期開示分)では、非正(規)社員比率が73.85%として上位に入っている。
    最近は、物流センター等でロボットなどが導入されて自動化・省力化が進んでいる。このうち、棚搬送型(GTP=Good To Person)ロボットがある。これは、ピッキング作業者が棚まで対象物を取りに行くのではなく、棚の方がピッキング作業者の前まで対象物を運んで来る。なかには対象物を入れたコンテナをピッキング作業者がいるピッキングポートまで届けてくれる。ピッキング作業者は、オリコンから必要数をピッキングしてコンテナを戻すだけの作業なので、座っていてもできる。
    欧州の物流センターのように、作業者は座ったままで物流機器を操縦できるようになれば、車いすの障害者でも物流センター業務が可能になると思われる。
    障害者雇用に積極的な製造業では、生産ライン等を障害者向けに改造して対応している例もある。障害者雇用ではないが、小売業では立ち仕事であるレジ打ち業務の負担を減らすため専用の椅子を用意し始めている、物流分野でも同様の対応や配慮が、以前にロジスティクス・レビュー誌で述べたSDGsの観点からも望まれる。

     (3)貨物自動車運送事業法(2023年6月16日)

      貨物自動車運送事業(トラック運送業)に対する「標準的な運賃」と「荷主対策の深度化」に関する2024年3月までの時限措置を「当分の間」に変更された。
    「当分の間」は未定であるが、JR貨物がJR旅客等に支払う線路使用料の基本であるアボイダブルコスト(回避可能減価)も「当面の間」とされながら、国鉄の民営分割化以来30年以上も経過しているので、長期化することもあり得る。
    「標準的な運賃」「荷主対策の深度化」は、4項「2024年の法改正」のうち2024年の貨物自動車運送事業法・物流総合効率化法の改正で説明する。

     (4)労働安全衛生規則(2023年10月1日)

      テールゲートリフターの操作に関する研修の義務化と適用除外措置、昇降設備の設置義務及び保護帽の着用が必要な貨物自動車の範囲が拡大された。テールゲートリフターの操作に関する研修では、短期間でドライバーに検収を受けさせるのに各トラック運送会社は大変だったのではないだろうか?
    筆者の実感としては、これが2023年の法改正で最も遵守されていないようである。
    相変わらず、テールゲートリフターに同乗・昇降して貨物の積卸し作業をしている例を目撃する(テールゲートリフターを中間位置で停止させて、昇降用のステップとして使用することは可)。
    写真は、ほんの一例で、横浜市内の国道1号線沿いのスーパーマーケットへの納品車両(この場合は、荷台から下降中)である。同様の事例は商店街などでも散見されるので、一般の消費者も目にすることが多いと思う(違法行為と知らないだけ)。
    なお、このトラック運送会社は大手3PLのグループ会社であり、コンプラインアスだけでなく、消費者が駐車違反などと同様に「違法」と知れば、同社の企業イメージにも影響することが心配される(同社は1972年の創業以来、社名に「安全」の2文字を入れて車両側面にも大きく表示しているが、まるでブラックジョークのように思われる)。
    厚労省のテールゲートリフターの安全作業に関するパンフレットには、「作業者は原則として昇降板に乗ったまま移動(昇降)しない」とされている。「原則禁止だから適用除外もあるはず」と考えてはいないだろうか。しかし、現時点では国産のテールゲートリフターでは全て禁止であり(各テールゲートリフターの説明書にも「同乗禁止」と書かれている)、作業者が乗ったまま昇降すると労働安全衛生法違反(昇降装置の目的外使用)となる。
    テールゲートリフターの同乗禁止には、IoTで人感センサーを付け、同乗を察知したらテールゲートリフターが作動しないようなフェイルセーフの仕組みができそうに思うが、いかがなものだろうか。

    図表2 テールゲートリフターの不安全行為の例

    (筆者撮影)

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

     (5)消費税法(2023年10月1日)

      インボイス制度が導入された。
    インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式で、正式には「適格請求書等保存方式」という。
    1)インボイス制度の概要
    2023年10月1日以降、消費税の仕入税額控除を受けるためには、一定の要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行・保存になった。個人事業者の筆者も、適格請求書発行事業者(課税事業者)として登録した(登録の理由は後述の通り)。
    インボイス制度を導入する主な目的は、
    ①複数税率の消費税額の正確な把握(例:食品は消費税率8%で、それ以外は10%)、
    ②消費税に関する不正やミスの防止
    の2点である。
    インボイス制度はすべての事業者(消費税の課税事業者・免税事業者)に影響がある。課税事業者(買い手)は、売り手から受け取ったインボイスで、消費税の仕入税額を控除できる(図表3 参照)。
    ところが、年間売上高1,000万円以下の免税事業者(売り手)はインボイス制度から除外されるので、インボイスを発行することができない。
    免税事業者(売り手)から商品・サービスを購入した課税事業者(買い手)は、インボイスがないので仕入税額控除ができない。
    図のB社は、当社(A社)が課税事業者であれば、売上消費税③の1,800円から、当社のインボイスに記載された②の1,500円を仕入税額控除した300円を消費税として納付する。

    図表3 仕入税額控除

    (出所) 国税庁資料

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。


    ところが、A社が免税事業者の場合はインボイスがないので、B社は売上消費税③の1,800円を全額負担することになり、1,800円―300円=1,500円を損してしまう。
    この損失を防ぐには、B社はインボイスを受け取るために、A社以外の課税事業者から仕入れるか、当社からの仕入価格を仕入税額(1,500円)相当分を引き下げる方策を取ることになる。
    つまり、免税事業者としては、取引先を失ったり、納入価格を引き下げられることになりかねない。
    そこで、免税事業者も課税事業者として登録してインボイスを発行する事例も多い(筆者が課税事業者として登録した理由)が、課税事業者になると消費税の納税義務が生じて、利益が圧迫される(筆者も実際に、2023年10月1日~12月31日の3カ月分の消費税を、「2割特例」を活用して申告納税した)。
    2)インボイス制度と物流業
    これを物流業とくにトラック運送業に置き換えて見ると、免税事業者(運送サービスの売り手)である中小トラック運送事業者や貨物軽自動車運送事業者に対して、課税事業者(運送サービスの買い手)である荷主・元請事業者から同様のことが起こりかねない。
    公正取引委員会では、財務省・経済産業省・中小企業庁・国土交通省と連名で、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(2022年)を示している。
    そこには、①取引対価の引き下げ、②取引の停止、③登録事業者となるような慫慂等は、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者と取引を行う事業者がその取引条件を見直す場合に、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」として問題となるおそれがある行為であるかについて、行為類型ごとにその考え方が打ち出されている。
    とくに、約35万台といわれる貨物軽自動車運送事業は個人事業主が大半で、免税事業者が多いので、荷主・元請事業者には、適正な対応が求められる。
    インボイス制度が導入されてから半年が経過したが、課税事業者登録件数は累計で約400万件(個人事業者も含む)とされている。財務省では約460万者いる免税事業者のうち、2023年11月以降も含めて160万者が課税事業者に登録すると予想している。前述のように2024年4月に2023年分の消費税申告・納付が行われたので、財務省から制度導入の効果や課題について公表されると思われる。

     (6)道路交通法(2023年4月1日・7月1日)

      道路交通法は、毎年のように改正されるので、運行管理者・安全運転管理者には、最新の内容をフォローするのが大変である。2023年も4月・7月の2回、改正・施行されたが、トラック関連で社内ので項目だけ掲げる。
    それでも、感度の良い運行管理者・安全運転管理者は、「ヘルメットを着用していない自転車には、とくに注意」「電動キックボードを見たら、要注意」などの指導をすると思われる。
    ①自転車乗車時のヘルメット着用努力義務
    ②レベル4の自動運転解禁(特定自動運行)
    自動走行ロボットは「遠隔操作型小型車」に
    ③電動キックボード(特定小型原付区分の新設)

    ※後編(次号)へつづく


    (C)2024 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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    第520号 強いトラック会社はなぜ「内発的動機付け」を重視するのか。(2023年11月21日発行) /logistics-520/ /logistics-520/#respond Tue, 21 Nov 2023 00:00:00 +0000 /?p=19835 執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997 […]

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    執筆者 久保田 精一
    (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
    城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
      • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      • 2015年7月~ 現職
      活動
      • 城西大学 非常勤講師
      • 流通経済大学 客員講師
      • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
      著書
      • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

     

    目次

    • はじめに
    • ■トラック業界にも成長著しい企業がある
    • ■成長を左右する要因とは何か
    • ■成功するトラック会社に共通するのはモチベーションの高さ
    • ■外発的動機付けと内発的動機付け
    • ■外発的動機付けの仕組み
    • ■どうすれば内発的動機付けを活性化できるか
    • ■最後に
    •   

      はじめに

        2024年問題を背景にトラック運送業界への注目が高まっており、その経営高度化に向けた提言・議論を見る機会が増えている。例えば、求荷求車マッチングやAI配車を始めとしたDX推進の議論や自動運転などである。
        これら先進技術の導入が重要であることは疑いないが、労働集約的産業である以上、トラック運送業の経営を改善するためには、従業員のモチベーションを維持し、高めることが根本的に重要である。今回は、DXブームでともすれば忘れられがちな「動機付け」の問題を改めて考えてみたい。

      ■トラック業界にも成長著しい企業がある

        トラック運送業は、全体としてみれば低成長産業である。物流量を見るとバブル期をピークにほぼ右肩下がりに減少しているし、「法人企業統計」から「陸運業」の売上高の推移を見ると、バブル期以降はほとんど成長していない(ただし、これは内需系産業に共通する特徴でもあるが)。少子高齢化や産業の海外移転が進むなか、モノの動きそのものが一貫して低調である以上、これは当然のことだとも言える。
        ところが業界内を見渡すと、このような中にあっても、業績を大きく伸ばしている企業がある。上場企業の中には、株価が20倍程度に伸びた企業がある。非上場企業についても同様である。トラック会社を各都道府県に見て行くと、新興トラック会社が急成長し、都道府県のトップ企業に躍り出ているような事例を数多く挙げることができる。外から見ると地味に見えるかもしれないが、産業としてのダイナミズムに溢れているというのが、トラック業界の面白さでもある。

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      ■成長を左右する要因とは何か

        このように、トラック会社には大きく成長する企業と、そうでない企業とがあるわけだが、では、その差を分ける要因は何だろうか。
      経営戦略論的な思考に従えば、ポーター流の「ポジショニング」の巧拙や、あるいはオペレーション能力等の「ケイパビリティ(Capability、企業の組織的能力)」の優劣が重要だと言うことになるだろう。前者の議論は割愛するが、ケイパビリティという文脈で特に注目されるのは、配車マンの能力である。
        トラックの運行効率は配車の巧拙により左右される。配車マンの技量に大きく依存すると言っても良い。能力の高い配車マンを抱えることが経営の根幹であることは、トラック業界における常識である。
        ただし問題は、配車業務というのは意外にも「仕組み化」することが難しいという点である。例えばトラックの帰り荷がない場合を考えよう。帰り荷を単に確保するだけなら、ネット上のマッチングシステムから仕事を拾ってくれば良い。または、大手元請け運送業者に車ごと「お任せ」するようなこともある。しかしネットで簡単に見つかる帰り荷の多くは安価なものであり、運行の効率化にはならない。
        付加価値の高い配車を実現するには、例えば単価の高い帰り荷に合わせて発側の荷主に時間調整をお願いするといったように、配車マンが自ら能動的に動くことが求められるのである。この例から分かるとおり、配車マンの技量の高さとは、ルーティンを正確にこなすような技術的側面よりも、「努力」の側面が強い。これはある意味では「仕組み化」とは真逆のベクトルだとも言える。

      ■成功するトラック会社に共通するのはモチベーションの高さ

        言い換えると、トラック運送業の経営高度化には、効率的な配車に代表されるような「ケイパビリティ」(企業の組織的能力)が必要だが、これは情報システム等で自動的に実現できるものではない。従業員の有形無形の「努力」が必要なのである。これは現場のドライバーについても同様である。トラック運送業は外部からみると単純作業のように見えるかも知れないが、実際には改善へのモチベーションが生産性を大きく左右するようなタイプの業種である。
      そのため、トラック会社の経営では、「現場の努力を引き出すこと」、言い換えれば、モチベーションを高めることが重視される。
        冒頭に述べたとおり、各地に急成長しているトラック会社が数多く存在するが、これらに共通する特徴は、現場から管理層に至るモチベーションの高さである。地方の中小運送業だけでなく、売上1千億を超えるような上場企業でも、急成長しているトラック会社のモチベーションの高さは歴然としている。企業によって運んでいる貨物や荷主の種類などは様々であるものの、これに関しては例外が見当たらない。

      ■外発的動機付けと内発的動機付け

        このように経営にとって重要な「動機付け」だが、その手法としては、大きく2つに分類することができる。「内発的動機付け」と「外発的動機付け」の2種類である。
      このうち外発的動機付けとは、簡単に言えば「アメとムチ」である。営業マンに支払う成果報酬(インセンティブ)が「アメ」の典型である。対する「ムチ」としては、営業ノルマ未達の場合に給与をカットするというような、マイナスのインセンティブである。
        これに対して「内発的動機付け」とは、文字通り内面的な動機への働きかけである。「やりがい」「自己実現欲求」「組織貢献」などがここに含まれる。ある学説では、人間には「自律性」「有能性」「関係性」という3つの基本的欲求があり、金銭的なメリットがなくとも、これらを満たすことが動機となりうると言う。
        なお、難しい理論を持ち出さなくても、人間が金銭的メリットのない行動を取ることは理解できる。例えばスポーツや将棋などで点数を競い合うのは、有能性(自分は有能であると感じたい)といった非金銭的ものへの欲求が動機であることを容易に想像できるだろう。
        なお、内発的動機付けは、「報酬系」というキーワードで説明されることもある。脳内にはある条件が満たされた時に(ドーパミンが放出されて)喜びを感じるという、「報酬系」という仕組みがあり、これが「スポーツでの勝利」といった行動を促すというものである。

      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      ■外発的動機付けの仕組み

        以上を踏まえ、トラック運送業における動機付けについて具体的に考えて行こう。
      まず、トラック運送業では、動機付けのための工夫が随所で見られるということを指摘しておきたい。
        例えば現場のドライバーには成果給の仕組みが広く導入されている。
        貸切運行の場合、ドライバーごとの売上高を簡単に計算することができる。そこで、ドライバーの「努力」を給与に反映するため、「売上高の2割を成果給として還元する」といった給与体系を多くの企業を採用している。また、ドライバーに「セールス」の役割を担わせている企業もある。ドライバーは顧客との接点であり、新たな営業案件に直に接しうる立場にあるからである。その場合、ドライバーが新規に獲得した業務の一定割合を、当該ドライバーに還元する仕組みを採用しているケースもある。
        以上はいずれも「金銭的インセンティブ」に相当するものであるが、このような外発的動機付けには限界がある。なぜなら、トラック運送業は非常に薄利であり、インセンティブの原資には限りがあるためだ。不動産業や保険営業等と比べると明らかだが、トラック運送業で、不動産業で見られるような高額なインセンティブを支払うことは不可能である。つまり、「外発的動機付け」は確かに重要だが、成果給等の外発的動機付けだけで組織を活性化するのは難しいということになる。

      ■どうすれば内発的動機付けを活性化できるか

        そこで重要になるのが内発的動機付けである。
      内発的動機付けは金銭のように目に見えるものではない分、理解するのが難しいが、重要ポイントをいくつか挙げておきたい。
        1点目のポイントは、目標設定である。動機付けは目標設定と表裏一体の関係にある。ゴールのない競争には達成願望は生じにくい。その意味で、そもそも目標がない場合は論外だが、目標達成への道筋が分かりにくい場合も問題である(例えば、目標達成の評価に上司の差配余地が大きい場合)。また、非現実的な目標は、達成への願望を損なうことになる。
        2点目として、目標達成に対する組織的評価の問題が挙げられる。
        内発的動機付けは、組織との関係性の要素を多分に含む。目標達成への動機付けは、それによって「自己の有能性を評価されること」「組織から是認される」ことなどの期待と密接に関わっている。
        目標達成が組織から評価される、というのは、一見当然のことのようだが、実際には嫉妬・妬みなどネガティブな反応を受けることもある。努力する従業員が、陰では馬鹿にされるということもある。このように、目標達成が組織的評価と乖離している場合には、内発的動機付けは生じず、「やりがい」には繋がらない。
        組織の中でこのような、アンビバレントな状況を生む原因の一つは、組織全体の目指すベクトルと、個々の従業員が目指すベクトルにズレが生じがちだという点である。
        例えば、配車マンが、従来は空車の時間帯に新たな業務を割り当てて、実車率の高い効率的な配車を組むケースを考えてみよう。これは実車率の向上を通じて、組織全体の生産性向上につながる。一方、新たな業務を割り当てられたドライバーはどうか。仕事が増えて疎ましく思うかもしれないだろう。これは、組織と従業員との方向性にズレが生じているからである。
        このようなズレが特に生じがちなのは、従業員内に、経営トップの思考に対する疑念や反発が広がっているような企業である。このような企業では、賞罰等の外発的動機付けによって従業員を誘導しようとしても、意識のズレは埋まらない。
        これとは逆に、現場が経営トップの思考に共鳴しているような企業では、ズレが生じる余地がない。これは、伸びているトラック会社に共通して見られる傾向でもある。
        従業員の「やりがい」の根幹には所属集団(この場合は会社)への貢献欲求がある。会社が従業員に望むことを正しく示さなければ、従業員の「やりがい」も生じないということである。

      図表 内発的動機付けを活性化させるポイント
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      ■最後に

        トラック会社の経営は、冒頭に述べたDX対応といった技術的側面のほか、財務面、顧客基盤等、様々な観点から議論されている。これはいずれも重要な要素ではあるが、モチベーションの問題を抜きにした「トラック会社の経営論」からは、机上の空論の感を拭いきれない。DXやAIが普及したとしても、当面の間、トラック運送業が労働集約的産業であることは変わりが無い。従業員の動機付け、特に内発的動機付けは、トラック会社の経営の根幹とも言える重要な論点であることを強調しておきたい。


      (C)2023 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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    第506号 業務用化粧品業界におけるサプライチェーン・ロジスティクスの一考察(サカタウエアハウス株式会社)(後編)(2023年4月18日発行) /logistics-506/ /logistics-506/#respond Tue, 18 Apr 2023 00:00:00 +0000 /?p=19365 執筆者  松田 晃輔 (サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行 兼 営業本部/管理本部 特別担当)  執筆者略歴 ▼ 経歴 サカタウエアハウス株式会社に入社。 化粧品物流管理業務を担当後、企画室に異動。 […]

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    執筆者  松田 晃輔
    (サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行
    兼 営業本部/管理本部 特別担当)

     執筆者略歴 ▼
    • 経歴
      • サカタウエアハウス株式会社に入社。
        化粧品物流管理業務を担当後、企画室に異動。
      • 明治大学専門職大学院教授を招いてのロジスティクス・SCM分野の研究会(楽々ゼミナール)
        の立ち上げを担当。
      • 現在は新倉庫の建築に関する社内プロジェクトならびに荷主企業様との
        新センター開設プロジェクトの事務局長等を兼任。

    本論文は、当社企画室 松田が、明治大学 専門職大学院 グローバルビジネス研究科 修士論文として作成したものを、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

    *前号(2023年3月22日発行 第504号)より

     

    目次

    • 4.インタビューを受けて想定される業務用化粧品業界の問題点について
    •  4.1.不正流通(横流し)問題
    •  4.2.サロン直送ブランドの問題
    • 5.今後想定される問題について
    •  5.1.サロン/美容室の今後の動向
    •  5.2.メーカーが今後抱えるであろう問題
    • 6.業務用化粧品業界に今後必要と思われる物流サービスの仕組みについて
    •  6.1.サロン直送ブランドに関するソリューション
    •  6.2.商流および物流情報のサポート
    • 7.考察
    •  7.1.今回得られた示唆と考察
    •  7.2.今後の課題と展望
    • 8.参考文献
    •  4.インタビューを受けて想定される業務用化粧品業界の問題点について

        今回は業務用化粧品業界の流通に携わっている現役の実務者の方々、(メーカーから1名、卸・代理店から1名、サロンから1名)計3名にインタビューを実施した。3名のプロフィールについては、デモグラフィックデータを参照。(表3参照)
        各プレーヤーには主に物流に関するインタビューを行った。返ってきた答えはもちろん物流に関する回答が多かったが、中には商流や情報流に関する回答も散見された。今回インタビューしたことによって得られた各プレーヤーが抱えている問題/課題については、「物流」、「商流」、「情報流」ごとに区分を分けて問題/課題を整理した。(表4、表5、表6参照)

      表3 デモグラフィックデータ(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      表4 メーカーA氏が抱えている問題/課題一覧(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      表5 卸・代理店B氏が抱えている問題/課題一覧(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      表6 サロン・美容室C氏が抱えている問題/課題一覧(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      今回のインタビューで浮かび上がった問題/課題は、あくまでも実務者が現在見えている問題/課題であり、根本的な問題/課題はさらにその奥にあると思われる。そこで、根本的な問題/課題を抽出するために、流通チャネルの変化や不正流通に関する問題/課題の因果関係を分析した。その結果、メーカーが卸・代理店に対するプッシュ戦略*3に主たる原因が隠れていると推察した。このプッシュ戦略によって、サプライチェーン上で過剰供給となり、横流しの問題を誘発していると思われる。この横流し問題は業務用化粧品業界において、非常に大きな問題であると認識しているので、このあと詳しく後述したい。
        また、今後の業務用化粧品業界にとって重要なポイントと思われるサロン直送ブランドが抱えている問題についても着目し後述する。

      4.1.不正流通(横流し)問題

        そもそもなぜ横流しが問題なのかについては、上述したように市場での価格を統制し、価格崩壊が起こらないようにメーカーが卸・代理店と代理店契約を締結しているのにもかかわらず、卸・代理店が通販(EC)やバラエティストアといったような、契約で指定されていない所に業務用品を流通させてしまうから問題なのである。
        それでは、横流しが発生する原因についてこれから論じたい。まず、横流しが発生しているルートの確認だが、図5の赤線の矢印を見ての通り、卸・代理店から横流しをしているケースと、サロンや美容室から横流しをしている2パターンのケースが考えられる。まず、卸・代理店が横流しをする理由として考えられるのは、大量にある在庫を捌く為ではないかと推測する。卸・代理店は実需要である美容室からの注文のみで在庫を捌く必要があるが、それだけでは在庫を捌ききれないので、美容室以外に業務用品を流通させてしまうのではないかと思われる。メーカーの営業マンは売上を上げるために、原価の低い業務用品にリベートを付け、取引量を増やす商慣習がある。いわゆるメーカーのプッシュ戦略によって、卸・代理店は過剰に在庫を抱えてしまい、横流しが発生するということである。(図7参照)

      図7 横流しが発生する因果関係(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        また、サロンや美容室から横流しをしているケースについては、次のような原因が考えられる。冒頭で述べたように美容室は毎年約1%ずつ店舗数が増えている。その中には順調に経営ができている店舗と経営がうまくいっていない店舗があると思われる。美容室の業界では、開店1年以内に60%の美容室が閉店し、3年以内に90%の美容室が閉店すると言われており、経営がうまくいかず資金繰りに困った美容室が少しでも売上の足しにする為や、閉店することになった美容室が在庫を捌く為に通販(EC)を利用して、業務用品を売っているのではないかと推測される。

      4.2.サロン直送ブランドの問題

        サロン直送ブランドとは、図5の青色の矢印で示されているように、卸・代理店のDCを経由せずに、メーカーのDCからサロンや美容室に直接届けるための業務用品である。そもそもなぜメーカーはサロン直送ブランドを立ち上げる必要があったかについて、まずは説明していこう。
        メーカーは卸・代理店に対し、帳合*4を通すことによる手数料のような代金(以下、帳合金という場合もある)を支払っており、今回実施した卸・代理店へのインタビューでも触れられていたが、卸・代理店はサロンや美容室に対し、代金回収する役目を担っている。なお、それに掛かるコストを見越して、メーカーは帳合金を支払っている。これはサロン直送ブランドに限った話ではなく、通常の業務用品においても帳合金は支払われており、メーカーはリベートに加えて、帳合金も卸・代理店に支払っている。そういったこともあり、メーカーとしては自分達の利益が卸・代理店に食われてしまっているという認識をしているため、脱・卸・代理店という考え方がメーカーの間で広がっていったのである。
        また、近年は大手の卸・代理店によるM&Aが進み、中小企業の卸・代理店が吸収され、力が大手の卸・代理店に集約されつつある。メーカーとしては、購買力のある大手の卸・代理店に頼らざるを得なくなり、価格の統制が取れなくなることを非常に恐れているのである。
        さらに、メーカーとしては、サロンや美容室のビジネスを守るという役目を担っているという自負があるので、卸・代理店による横流しを防がなければならないのである。その対策として、どこの卸・代理店が横流しをしたかわかるように業務用品にトレーシングができるような策を施すメーカーもある。これにより、横流しが確認されて取引停止となった卸・代理店もあれば、トレーシングができるような策を見抜き、いまだに横流しをする卸・代理店もあるといった状況となっている。
        こういった事業環境に加えて、近年EC物流の注目度が高まったことにより、メーカーは自分達の販売網および流通網で、卸・代理店を頼らずに、サロンや美容室に業務用品(専用ブランド)を届けたいという想いで、こぞって多くのメーカーはサロン直送ブランドを立ち上げたのである。このサロン直送ブランドは、卸・代理店のDCを経由しないことで、卸・代理店に支払われる帳合金が少し軽減されると言われており、卸・代理店へのインタビューでは、帳合金が約5%軽減すると述べられていた。
        そのようにして、始まったサロン直送ブランドであったが、一つ大きな問題が生じたのである。それは、物流費(特に配送費)の問題である。なぜかというと、卸・代理店経由で業務用品を流通させるよりも、サロンや美容室に直接業務用品を届ける方が圧倒的に非効率だからである。卸・代理店は何十ケースという単位で発注するが、サロンや美容室の発注単位はせいぜい1、2ケースであり、まとめて10ケースを1ヶ所の卸・代理店に届けるよりも、サロンや美容室に対し、1ケースを10店舗届ける方が圧倒的に配送費が多く掛かるのである。これにより、商品1本当たりの物流費が大きく変わってくるのだ。そこに近年急激に上昇する運賃値上げ問題が加わり、なおさらサロン直送ブランドが儲かりにくい事業環境となってしまっているのである。あまりにも1本当たりの物流費が高すぎて、採算が合わず、サロン直送ブランドの立ち上げに二の足を踏むメーカーがいくつか存在するほどである。

      5.今後想定される問題について

      5.1.サロン/美容室の今後の動向

        本稿では、この先変化するであろう事業環境の変化について、触れていきたい。冒頭でも述べたように、美容室は毎年約1%ずつ店舗が増加している傾向にあり、理容室は毎年約1%ずつ減少傾向にあるが、トータルでは毎年店舗数が増えている傾向にあると説明した。廃業する理美容室がある中、それを上回る勢いで出店する店が多いため、今のところは順調に毎年店舗数が増えている。しかし、今後は美容師の労働人口の減少や人口動態の変化に関する影響により、サロンや美容室の出店の勢いが無くなってくると推測される。それにより、今は個人経営の店が多くチェーンストア化されていない美容室だが、今後は美容室がチェーンストア化されてくることで、購買力を持つようになり、安く業務用品を仕入れることができるようになってくるのではないだろうか。
        それでは、美容室の出店の勢いがなぜ今後減少するかについて説明しよう。この業界が抱えている問題はいくつかある。例えば、労働環境が悪い、他業界に比べて低賃金である、労働集約産業であり機械化が進まない等といったようなことが挙げられる。NBBA*5の資料によると、美容師の労働環境について、次の図のように示している。(図8参照)

      図8 美容師の労働環境・人材定着について
      出所:NBBAの資料を引用
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        労働時間が長く、人と接する仕事なので、ストレスも掛かる。さらに、水や薬品を触る機会の多い仕事内容なので、手あれがひどいという声も頻繁に耳にする。そのような労働環境では美容師を志す人も今後減ってくるであろう。それに加えて、低賃金であることも大きな問題ではないだろうか。(図9参照)

      図9 美容師の賃金等の比較
      出所:NBBAの資料を引用
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        図8の通り、理美容師の推定年収は全産業平均の推定年収よりも、約200万円も低いという結果となっている。もちろん店舗によって給料は様々かもしれないが、美容室の従業員がたくさん給料を貰っているという話はあまり聞いたことがない。
      そういった要因もあって、今後美容師の数は減り、出店数よりも廃業数の方が上回ることで、現在35万店舗以上ある理美容室も減少してくるのではないだろうか。そして、チェーンストア化できている店舗が残るという現象が起こると、川下にパワーが集まるようになり、安く業務用品を仕入れることができるようになるので、業務用化粧品業界の様相は大きく変わると推測される。よって、メーカーや卸・代理店はその事業環境の変化に対応できるよう、準備が必要となってくるのではないだろうか。

      5.2.メーカーが今後抱えるであろう問題

        上述したような事業環境の変化も踏まえ、今後メーカーにとってどのようなことが問題となってくるか述べていこう。まず、川下のパワーが強くなることで、メーカーの業務用品は買い叩かれてしまい、価格の維持が難しくなってくると推測される。
      そして、もし卸・代理店による横流しが目に余る状況となると、さすがにメーカーもサプライチェーン上に供給する量を減らさざるを得なくなると推測する。そうなると、卸・代理店に対する押し込みが減少するとともに、取引量も減少し、そのまま売上にも影響するであろう。
        さらに、年々上がり続けている物流費(特に配送費)はこの先もまだ上昇傾向にあるので、物流費が利益をさらに圧迫するであろう。その影響をサロン直送ブランドはもろに受けるため、何か新しい仕組みを考えなければ、なかなか利益が残りにくい状況からは抜け切れないと推察される。
        これまでは高い利益率を叩き出しながら良い思いをしてきたメーカーだが、恐らくこれからは同じ手法では通用しなくなってくると思われる。川下のパワーが強くなり、大手の卸・代理店の集約が進むとなると、ドラッグストアで取り扱っているような一般化粧品や一般用医薬品の業界に近いイメージとなる。もしそうであれば、メーカー間での競争が一層激しくなり、商品のプロダクトライフサイクル*6が今よりも短くなると思われる。商品の流行り廃りが頻繁に起こり、今よりも早いペースで新商品を出さなければ同業他社との競争に勝てなくなるのである。さらに、新商品を世に送り出すばかりではなく、それと並行してアイテムの改廃を進めなければ、物流費(特に保管料)が膨らむ一方となる。これまでの業務用化粧品業界はアイテム改廃をあまり行うことなくこれまでやってきた為、アイテム数が増える一方であった。しかし、上述したような事業環境になった場合、メーカーは物流費をもっとシビアに管理する必要が出てくると思われる。今後メーカーはそういったことも想定しながら動かなければならないのではないだろうか。

      6.業務用化粧品業界に今後必要と思われる物流サービスの仕組みについて

        ここに至るまで、業務用化粧品業界で現在発生している問題および業務用化粧品業界で今後発生するであろう問題について、述べてきた。ここからは、それらの問題に対し、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)企業がどのようなソリューションが提供できるか、もしくはどのようなソリューションを提供すべきかについて論じる。

      6.1.サロン直送ブランドに関するソリューション

        まずは、本論文の中盤部分で触れたサロン直送ブランドの問題に対するソリューションについて論じよう。サロン直送ブランドが抱えている問題は、物流費(特に配送費)であると述べた。これに対するソリューションとしては、物流共同化がフィットするのではないだろうか。これは物流を共同化することで、物流費を抑えるというものである。それでは、物流を共同化するとはどのようなことか説明しよう。
        さて物流には、保管・荷役・輸配送・流通加工・包装梱包・物流情報処理の6つの活動があると言われる。そして物流の効率化を図ろうとする場合、共同化が一つの有効な手段であると言われ、従来は6つの活動の中でも特に輸配送の共同化-いわゆる共同配送-の取り組みが少なからず行われてきたと思われる。つまり、共同配送を実施することにより、トラックの積載効率を上げたり、車両台数を減らすなどの物流効率化を図ろうといった取り組みである。
        一方、従来の共同配送の取り組みにおいては、例えば、複数のメーカーが共同で、卸売業者の元に荷物を届けるといった形-仮に水平型の共同配送と呼ぶ-が一般的であった。(図10参照)

      図10 これまでの物流共同化(共同配送)のイメージ図(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

         この共同配送をサロン直送ブランドで展開することで、問題となっている物流費(特に配送費)を低減することができると思われる。もちろんこの水平型の共同配送だけでも効果はあるが、配送部分のみの共同化となるので、共同化の余地がまだ残っている。残りの保管、荷役、流通加工、包装、物流情報処理が共同化できるとすると、さらなる効率化が可能となるのである。(図11参照)

      図11 これまでの物流共同化(共同配送)のイメージ図(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        複数メーカーのサロン直送ブランドを一つの倉庫内、さらに言えば同じ保管場所内で、統一の情報システムを使用し、荷役作業や流通加工作業等を行うことで、物流費を低減することが可能となる。さらに、複数ブランドが梱包された物を共同配送することで、さらなる効率化を図ることができる。

      6.2.商流および物流情報のサポート

        もう一つの問題として、メーカーの過剰供給による卸・代理店の横流し問題がある。この過剰供給を解決するには、リベートを廃止することが一番効果的であると考えるが、これは商慣習によるところが大きいので、これを解決に導くのは非常に難しく、業界として取り組まなければ解決しない。よって、本稿ではもしこの業界でリベートが廃止されたら、どのような仕組みが求められるかということについて論じたい。その前にまずは業務用化粧品業界の情報流・商流に関する情報の整理を行う。
        現在、メーカーは卸・代理店に対して、業務用品を供給しているので、卸・代理店にどのくらいの物量を供給しているかは把握できている。また、サロン直送ブランドもあるので、そのブランドにだけ限って言うと、実需要が把握できている。業務用品が実際に消費されるのはサロンであり、美容室であるので、そこから注文される分が実需要ということになる。つまり、メーカーとして把握できる実需要は、サロン直送ブランドのみであり、卸・代理店に対して供給している分の業務用品では商品添付のリベートも含まれているので、実需要を把握できないのである。一部のメーカーおよび一部の卸・代理店の間で、セルアウト*7データをやり取りしているが、卸・代理店がデータを取り纏めており、全てのデータをメーカーに渡しているわけではない。また、基本的には1ヶ月に1回しかデータをやり取りしていないため、このセルアウトデータはリアルタイムのデータとはなっていない。このような情報流・商流の流れについては、インタビュー結果を踏まえて作成した図を参照してもらいたい。(図12参照)

      図12 業務用化粧品業界の情報流イメージ図(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        それでは本題に戻すが、もしこの業界でリベートが廃止されたら、どのような仕組みが求められるかということについての結論をまず述べると、メーカーはリアルタイムの実需要、さらに言えばリアルタイムの実消費量がわかるような物流情報をサポートする仕組みが今後必要となるのではないだろうか。
        もし、リベートが廃止されると、メーカーは在庫量を見直すに伴い、工場での生産量も見直す必要がある。現在は商品添付のリベート分を含めて生産する為、生産効率を重視しており、実需要に応じた生産体制にはなっていないと推察される。メーカーへのインタビュー結果を見ても、リアルタイムではないセルアウトデータは生産計画において、参考にならないといったような発言が見受けられた。よって、今後はリアルタイムの実需要を把握し、それをもとに生産計画を作れるようにならなければ、過剰に在庫を持ってしまうことになるのではないだろうか。そうなるとまた、卸・代理店に対し、在庫を押し込んでしまい、通販(EC)やバラエティストアのようなところに流通してしまう。必要なモノだけを適宜届けられる仕組みを作らなければならない。つまり、実需要対応のサプライチェーンが必要なのである。
        それでは、実需要がわかる仕組みというのはどのような仕組みかについて、説明しよう。上述した通り、この業界で実際に業務用品が消費されるのは、サロンや美容室である。しかし、理美容店C氏へのインタビューの結果を見ての通り、サロンや美容室では店舗の在庫を管理するようなシステムが整備されていないのである。
        よって、まずはサロンや美容室に在庫管理ができるシステムを導入する。そして、その在庫情報はメーカーや卸・代理店が確認できるようネット上に計上する。計上方法としては、例えば、美容室が発注した発注データをもとに入荷検品という形で、美容師の方が入荷した業務用品に付いているバーコードをバーコードスキャナーでスキャンすると、自動で店舗の在庫管理システムに計上され、同時に入荷検品も可能となるような仕組みが考えられる。そのシステムと連動するような形で、消費者に売れたもしくは施術で使い切った際に、業務用品に付いているバーコードをスキャナーで読み取ることで、システム上で店舗在庫がその分自動的に引き落とされるような仕組みがあれば、メーカーはリアルタイムの実需要さらにはリアルタイムの実消費量を把握することができる。そうすると、メーカーはそのデータを分析し、生産計画を見直すことで、適正な量の生産が可能となるのではないかと思われる。また、卸・代理店もそのデータにもとづいて、メーカーに発注をかけることができるようになるので、需要予測が容易となり、究極は発注業務を全てAIに任せることも可能となる日が来るかもしれない。(図13参照)

      図13 実需要を把握する仕組みのイメージ図(筆者作成)
      *画像をClickすると拡大画像が見られます。

        さらに、卸・代理店のB氏に実施したインタビューの中で、サロン直送ブランドを発注するシステムが各メーカーによってバラバラで苦労しているという発言があった。これは商流・情報流において、発注システムのユーザーでもあるサロンや美容室にとっても問題となっている。いまだにFAXを使用していたり、何かとアナログな業務が残っている業界だからこそ、システム化(デジタル化)を川下の方に浸透させるべきである。
        そこで、店舗の在庫を管理するシステムに加えて、発注するためのシステムを連動させることで、サロンや美容室での問題となっていたアナログ対応が減少し、美容師の負担低減にも繋がる。そうするとサプライチェーンの全体最適となり、業務用化粧品業界にとって今後必要なシステムになると確信している。

      7.考察

      7.1.今回得られた示唆と考察

        今回インタビューを実施したことにより、業務用化粧品業界が現在抱えている問題を聴取することができた。しかしそれはあくまでも表面的に見えている問題であり、それを解決するには、さらにその奥にある原因を突き止める必要があった。そこで、表面的な問題に対し、なぜなぜ分析を繰り返したことで、その奥にある原因が少し見えてきたのである。今回、確認できた原因はこの業界における商慣習によるものだと思われるので、それを変えるには業界として取り組む必要がある。よって、もし原因が本当にそれであったとしても、簡単に変えられるものではない。しかし、事業環境は刻々と変化しており、今のままの状態でビジネスが続けられるような甘い世界ではなくなってきているのも事実である。そこで、今のうちに事業環境の変化を予測して、事前に準備を行い、環境の変化に対応できるようにしておくことで、他よりも一歩先を行くことができるのではないだろうか。
        そこで今回ソリューションとして提示したのが、水平型の物流共同化であり、商流および物流情報のサポートである。メーカーが本気で横流しを問題視するのであれば、実需要に対応できるような物流の仕組みがないと、同業他社に負けてしまうと思われる。恐らくメーカーだけでこのような仕組みを業界全体に構築するのは難しいので、そこで3PL企業が間に入り、フルフィルメントサービスとして、業務用化粧品業界に展開すべきであると思われる。

      7.2.今後の課題と展望

        昨今の人手不足、ドライバー不足や、いわゆる働き方改革関連法の施行といったような情勢を受けて、改めて最近、物流共同化に注目が集まっている。ただし、従来の物流共同化や、現在取り組みが進んでいる事例は、例えばメーカー同士が協力するといったようないわゆる水平型の物流共同化が多いように見受けられる*8。しかし、サプライチェーン全体の最適化となるような、真に消費者にとって価値のある物流を実現するには、水平型に加えて、サプライヤー、メーカー、卸・代理店、小売店が協力し合うといったような、垂直型も含む物流共同化がこれから求められるのではないだろうか。

      8.参考文献

      1) 中田信哉・湯浅和夫・橋本雅隆・長峰太郎(2003)「現代物流システム論」有斐閣
      2) 諸上茂登・Masaaki Kotabe・大石芳裕・小林一(2007)「戦略的SCMケイパビリティ」同文舘
      3) 房文慧(1999)「化粧品工業の比較経営史」日本経済評論社


      *3:プッシュ戦略とは、メーカーが自社の製品の販売を有利にする為に卸売業者や小売店等に対して働きかけるという経営戦略である。
      *4:帳合とは、業者間取引で実際の荷物のやり取りをしない第三者(帳合先)に間に入ってもらい、取引をすることを指す。
      *5:NBBAとは、全国理美容製造者協会の名称である。理美容の業務用化粧品および関連製品製造業の総合的改善と発展を図り、理美容産業の健全な伸展を目的とする協会。
      *6:プロダクトライフサイクルとは、ある商品やサービスが市場に投入されてから、支持を得て、だんだんと売れなくなって消えてしまう(撤退)までのプロセスを示したもの。
      *7:セルアウト(Sell Out)とは、卸・代理店から美容室に販売した実績のことである。
      その実績を卸・代理店により、取り纏めたデータをセルアウトデータという。
      *8:過去の事例では、プラネット物流が取り組んだ物流共同化、最近の事例ではF-LINEが取り組んだ水平型の物流共同化が挙げられる。


      (C)2023 Kousuke Matuda & Sakata Warehouse, Inc.

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    第504号 業務用化粧品業界におけるサプライチェーン・ロジスティクスの一考察(サカタウエアハウス株式会社)(前編)(2023年3月22日発行) /logistics-504/ /logistics-504/#respond Wed, 22 Mar 2023 00:00:00 +0000 /?p=19308 執筆者  松田 晃輔 (サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行 兼 営業本部/管理本部 特別担当)  執筆者略歴 ▼ 経歴 サカタウエアハウス株式会社に入社。 化粧品物流管理業務を担当後、企画室に異動。 […]

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    執筆者  松田 晃輔
    (サカタウエアハウス株式会社 企画室 室長代行
    兼 営業本部/管理本部 特別担当)

     執筆者略歴 ▼
    • 経歴
      • サカタウエアハウス株式会社に入社。
        化粧品物流管理業務を担当後、企画室に異動。
      • 明治大学専門職大学院教授を招いてのロジスティクス・SCM分野の研究会(楽々ゼミナール)
        の立ち上げを担当。
      • 現在は新倉庫の建築に関する社内プロジェクトならびに荷主企業様との新センター開設
        プロジェクトの事務局長等を兼任。

    本論文は、当社企画室 松田が、明治大学 専門職大学院 グローバルビジネス研究科 修士論文として作成したものを、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

     

    目次

    1.はじめに

     1.1.研究の動機

      近年、物流業界ではトラックドライバーの人手不足が大きな問題となっている。トラックドライバーが不足する原因としては、運送業が他業種と比べて労働時間が長く、その上激務であり、それに見合った報酬が与えられないなどの要因が挙げられている。この問題はこれまでも指摘されてきたが、個別の企業努力で対応してきた。運送会社は取引先に対して運賃の値上げ依頼に踏み切ることができず、十分な収益を確保することが容易でないために、トラックドライバーの取り巻く業務環境を変えることができたとはかならずしも言えないだろう。
      こうした環境下、近年のアマゾンをはじめとする通販市場の急成長により、小口配送の宅配事業に貨物が集中し、物流のオーバーフローを起こした。いわゆる「宅配クライシス」と称される現象が発生したのである。貨物輸送の需給バランスが崩れたことによる宅配事業の不全といえよう。労働環境の改善が進まないことから、特に若手のドライバー不足が一向に改善していないことも深刻である。そこで各運送会社はいっせいに運賃の値上げに踏み切ったのである。運賃改正を受け入れない取引先に対しては集荷のトラックを出さないといったような強い姿勢で各運送会社は交渉に臨み、荷主企業としては運賃改定を飲まざるを得ない状況にまで至っている。今後も人手不足の影響は続くと想定されることから、物流市場の需給バランスの崩れは当面解消しそうにない。
      このような状況の中、最適な物流を提供するには物流事業者は、どのようなことに取り組み、どういった価値を荷主に提供できるか考え直す時期に入っている。
      特に、商流と物流が一体的に行われるような伝統的なサプライチェーンを色濃く残す業界では、ロジスティクス面での多くの問題を抱えている。例えば、美容室等で使用される業務用の化粧品のサプライチェーンはその典型的な例と言える。そこで、本論文では業務用化粧品の物流を事例として取り上げ、当該流通チャネルおよびサプライチェーンの現状とその問題点について調査し、整理した上でそれらの諸問題が発生した要因を分析する。そこから当該業界のサプライチェーンにとって最適な物流の在り方について考察する。

    2.業務用化粧品業界について

     2.1.業務用化粧品とは何か

      業務用化粧品とは、ヘアサロン(以下、サロンという場合もある)もしくは美容室において国家資格である美容師免許を持った美容師が施術で使用したり顧客に販売 (当該業界では店舗販売を略して店販と称する) するヘアトリートメントやシャンプー,リンスなどの頭髪用化粧品のことである。基本的には美容師の技術をもって施術において使用され、そこでサービスとして消費されるという特徴を持っている。一般化粧品よりも高機能で理美容師の専門的技術に適合させるよう多種類の品目を要することが多く、このことは物流面の課題に対する原因となる傾向が指摘される。

    2.2.理美容室店舗数の推移

      業務用化粧品業界の事業環境に強い影響を及ぼす我が国の理美容室の店舗数の推移は下記の通りである。(図1参照)

                    図1 理美容室店舗数の推移
                      出所:https://www.beautopia.jp/4000(2019年6月28日)

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      図1から、美容室は年々増加傾向にあり、反対に理容室は年々減少傾向にあることがわかる。現在は美容室と理容室を合わせると35万店舗以上あり、コンビニの店舗数約6万店舗をはるかに上回っていることがわかる。(表1参照)
      表1は、平成元年から平成29年までのわが国における美容室および理容室の店舗数の推移表である。美容室が毎年約1%ずつ増加しており、理容室が毎年約1%ずつ減少していることがわかる。

                   表1 理美容室店舗数の推移と前年比

                      出所:https://www.beautopia.jp/4000(2019年6月28日)

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    2.3.業務用化粧品業界の持つ特徴について

      本稿では業務用化粧品業界が持つ特徴について論じる。大きな特徴としては、2つある。

      まず、メーカーの利益率が製造業の平均値に比べて高いということである。平成28年度の経済産業省の統計によると製造業の平均値の利益率は、製造業の売上高営業利益率は平均で4.8%となっている。また、卸売業の売上高営業利益率の平均は1.7%となっている。(図2参照)

                図2 主要産業の売上高営業利益率と売上高経常利益
                  出所:「経済産業省」のホームページから引用(2019年6月28日)
                                    https://www.meti.go.jp/

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      理美容品製造業の売上高対営業利益率の平均値は不明であるが、参考までに、業務用化粧品業界の市場でトップシェアを誇る株式会社ミルボンの2018年度の利益率をみると図3の通りである。(図3参照)
      図3の通り、株式会社ミルボンの売上高営業利益率は17.8%となっており、先ほどの製造業における平均売上高営業利益率と比較してみると10ポイント以上の差があることがわかる。

                  図3 株式会社ミルボンの2018年度財務成績
                出所:「株式会社ミルボン」のホームページから引用(2019年6月28日)
                             http://www.milbon.co.jp/company/gaiyou

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      ちなみに少し古いデータではあるが、業務用化粧品業界の卸・代理店では最大手である株式会社ガモウの売上高営業利益率を計算してみると、平成20年度で4.7%、平成21年度で3.4%、平成22年度で2.7%という結果であった。(表2参照)

               表2 株式会社ガモウの平成20年度から平成22年度財務成績

                 出所:「理美容ニュース」のネット記事から引用(2019年6月28日)
                                 http://ribiyo-news.jp/?p=3094

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      こちらも、図2の卸売業の平均よりも売上高営業利益率が高い結果となったが、メーカーほどの大きな差の開きはなかった。この結果を踏まえて、業務用化粧品業界のメーカーは非常に利益率が高いことがわかる。
      そして業務用化粧品業界が持つ特徴として第2に、食品のような賞味期限がないため、基本的には長期での保存が可能ということである。これにより、期限超過による廃棄のリスクもないことから、メーカーとしては在庫を削減することよりも工場での製造にかかる生産効率を重視する傾向にある。そのため、メーカーは必要以上に在庫を抱えているという恐れがある。しかし、多めに商品を作り過ぎたとしても長期保存が可能であるために廃棄のリスクが低いのである。
      第3に、商品添付という無償の商品数割り増し提供の改修がある。これは得意先に対するリベートの一種と考えられる。メーカーとしては金額による値引きを行わず、商品添付によるリベートを提供することにより、取引量を増す行動に出やすい体質がある。なぜなら上述したようにメーカーは、工場での生産効率を重視しているため、大量生産することで、製造にかかる原価を抑えることができる。また、メーカーの粗利益率が高いので、現金によるリベート提供よりも商品提供による利益供与の方がメーカーの実質的費用負担が少なくなるためである。

    2.4.業務用化粧品業界の流通チャネルについての整理

      本稿では業務用化粧品業界の流通チャネルについて、情報整理しておきたい。業務用化粧品業界では代理店制度が敷かれており、メーカーと卸・代理店との間では代理店契約が締結されている。代理店契約には様々な条項が記載されているが、その中に卸・代理店はサロンや美容室といった正規ルートにしか業務用化粧品の商品(以下、業務用品という場合もある)を流通させないという条項が含まれているケースがほとんどである。つまり、業務用化粧品業界で一番スタンダードな流通チャネルは次のような図となる。(図4参照)

            図4 業務用化粧品業界のスタンダードな流通形態(筆者作成)
                  (注)この図は単にモノ(業務用品)の流れだけを示している。

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      工場で作られた業務用品はメーカーのDC*1 に運ばれ、いったんそこで保管される。そこから注文された量の業務用品をトラック等で卸・代理店のDCに届けられ、またそこで保管される。そしてサロンからの注文を受けて、卸・代理店のDCから必要な量の業務用品が納品され、美容師が施術で使用したり、店舗で販売される(店販)という流れになるのである。
      それでは、この基本となる流通チャネルを踏まえて、現在の流通チャネルがどのような形態になっているか図を使って確認しよう。(図5参照)

                図5 現在の業務用化粧品業界の流通形態(筆者作成)
                  (注)この図は単にモノ(業務用品)の流れだけを示している。

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      図4に示した従前のチャネルと大きく変わった点は、通販(EC*2)とバラエティストアが登場したことである。近年、スマートフォンが登場したことで、消費者の購買行動が変わり、通販(EC)ビジネスが非常に注目されるようになった。その流れが業務用化粧品業界にも大きな影響を及ぼし、流通チャネルが変わってきたのである。また、ドラッグストアやドンキホーテのようなバラエティストアの力が強くなり、バイイングパワーを持つようになった。そうしたことから、代理店契約で指定されていない場所で、業務用品が売られるという現象がここ数年で非常に活発になってきたのである。こうした正規ルート以外に業務用品を流通させてしまう行為を「横流し」と業界では呼ばれており、メーカーは卸・代理店等による横流しを防ぐ為に様々な方策で流通制御を講じているのが現状である。
      それでは、なぜメーカーは横流しを防ごうとしているのか。通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまうと価格競争に巻き込まれてしまい、いずれは間違いなく価格崩壊を招いてしまい、その結果、メーカーのブランド価値が低下するからである。また、通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまうと、一般の消費者でも簡単に入手可能となり、サロンや美容室で店販売上が減少し、店販ビジネスを潰してしまう恐れがある。そうした事態を回避するためにメーカーはできるだけクローズドな流通チャネルで、流通をコントロールしようとしているのである。
      実際の業務用化粧品の「横流し」の経路を示したの図5の、赤線の矢印の経路によって、通販(EC)やバラエティストアに業務用品が流通してしまっていると思われる。こういった不正流通は卸・代理店から流れてしまっていることが多い。さらに、一部のサロンや美容室では、通販(EC)に出品してしまうケースもあり、なぜこれらのように横流しが多発してしまうかについては後述する。
      また、メーカーは図5の青色の矢印のように、卸・代理店のDCを経由せずに直接サロンや美容室に業務用品を届ける為のブランドである「サロン直送ブランド」を立ち上げ、新たな流通形態を作っている。サロン直送ブランドを立ち上げる理由はいくつかあるが、上述した不正流通対策も理由の一つである。サロン直送ブランドの詳細についてもこのあと後述する。

    3.サプライチェーン・マネジメントについて

     3.1.ロジスティクスの概要

      ここではロジスティクスの概要について整理する。橋本(2003)は、ロジスティクスの概念について、ロジスティクスは本来、マネジメントの概念であり、マクロの経済的活動や個別の経営職能の領域における活動として位置付けられる物流とは次元の異なる概念である。ただし、この物流活動にマネジメントとしてのロジスティクスを適用した場合、その範囲をどこに位置付けるのかが問題となるとしている。そして、「物流は輸送、保管、荷役、包装、流通加工、物流情報処理などの活動を統合したものと一般には考えられている。そして、それは当初、完成した商品の販売活動の範囲を対象としていた。しかし、物流においても調達活動を含むという考え方も存在していた。(図6参照)

                     図6 ロジスティクスの範囲
                出所:橋本雅隆(2003)「現代物流システム論」有斐閣をもとに筆者作成

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      こうした物流をいかに管理するかが『物流管理』である。この物流管理は、個別の活動管理の色彩の強いものであった。しかし、ロジスティクスの導入によってひとつの変化が生まれている。その特徴は、構造化された仕組みの設計・構築とその運用ということである。ロジスティクスの重要な点は、単に物流の管理領域が拡大されたというものではないということである。モノの流れに沿って業務プロセスが統合され、企業活動の全体最適をめざす体系が構築される。それは職能別の分業型組織構造を横断するものである。そしてそのことが、サプライチェーンの概念につながっていく。つまり、ロジスティクスはサプライチェーンの基盤となるという考え方である」と述べている。
      つまり、物流という活動(輸送、保管、荷役、包装、流通加工、物流情報処理)は、経営機能として企業が持っている機能の一部であり、そこには調達物流および販売物流という2つの側面がある。そこに生産を含め、それらの活動を効率的に遂行するための仕組みもしくは、そのマネジメントの概念をロジスティクスという。

    3.2.サプライチェーン・マネジメントの概要

      そもそもサプライチェーン・マネジメントとは何かということから整理していきたい。諸上(2007)はサプライチェーン・マネジメントの定義について、次のように述べている。

      「最近のCSMP(Council of Logistics Management より改名)の定義によると、『ロジスティクス・マネジメントは、顧客の要求に応える為に発地点から消費地点までの財、サービスおよび関連情報の効率的、効果的な川下へのまたは川上へのフローを計画、遂行、統制するSCMの一部である』。また、『SCMはソーシング、調達、コンバージョン、その他すべてのロジスティクス・マネジメント活動に含まれるすべての活動の計画と管理を含む。重要なことは、それがサプライヤー、中間業者、サードパーティ・サービス・プロバイダー、顧客などのチャネル・パートナーたちとの調整とコラボレーションを含むことである。本質的に、SCMは企業内、企業間で供給管理と需要管理を統合するものである』(CSCMPのホームページ2006.8より)。すなわち、ロジスティクス・マネジメントはSCMの一部であると捉えられる。そして、SCMは、ロジスティクス・マネジメントよりはるかに広い概念であり、企業内、同一企業グループ内での活動の最適化(部分最適化)を超えて、サプライチェーンへの参加者である様々なチャネル・メンバーとの調整とコラボレーションを含んでいる。一般的に、その目的はサプライチェーンの全体最適を追求することで、トータル・コストを削減し、顧客満足を高め、競争優位を構築・維持しようとすることにあると考えられている。」
      一方、湯浅(2003)は、サプライチェーン・マネジメントの定義について、次のように述べている。
      「サプライチェーン・マネジメントとは、市場における販売動向に供給活動を適合させることにより在庫の適正化をはかり、ローコストの供給体制を実現することを目的に行われるサプライチェーンを対象としたマネジメントである」
      さらに湯浅(2003)は、サプライチェーン・マネジメントとロジスティクスの関係について、次のように述べている。
      「企業ごとの管理は、サプライチェーンという視点では『個別管理』の域を出ない。各企業によっていくら最適な業務運営が確保されたとしても、それは個別最適であり、サプライチェーン全体でみると多くの無駄が存在することは避けられない。個々の企業ごとの合理化は、結果として他企業に非合理な状況を転嫁するだけにすぎない構造にあるからである。これらの無駄を排除し、サプライチェーン全体での最適化を求める考え方がSCMなのである」
      「ロジスティクスは、企業の供給活動を市場の販売動向に適合させる為のマネジメントである。つまり、販売動向としての出荷に関する情報を把握し、それをベースに供給活動を行うことを目的としたマネジメントである。
    (中略)
      そこで、ロジスティクスは、自社の物流センターから顧客への出荷情報をベースに自社の供給活動を市場に同期化させる為のマネジメントとして位置づけられたのである。ロジスティクスは、個別企業レベルのマネジメントとしてスタートしたといってよい。これに対し、前述したように、SCMはサプライチェーン、つまり企業連鎖を対象にしたマネジメントである。そして、そのねらいは、市場の販売動向にサプライチェーンの供給活動を同期化させることにある。つまり、ロジスティクスの展開である。その意味で、SCMは、サプライチェーンを対象にロジスティクスを展開するマネジメントということができる」
      つまり、サプライチェーン・マネジメントにおいて、重要なことは2つある。それは、サプライチェーン全体を俯瞰的に観察し、物と情報の流れを最適化することが重要であるが、それは部分最適ではなく、全体最適でなければならない。そしてもう一つは、最終的に消費者にとって、価値がなければならないということである。しかし、それは消費者だけに価値があるものではなく、あくまでもサプライチェーン全体として最適であるべきなのである。
    ※後編(次号)へつづく



    *1:DCとはDistribution Centerの略称であり、商品をいったん保管し、物流センター内での荷捌き・流通加工を行った上で出荷指示に基づき各届け先まで配送する「在庫型物流センター」のことである。
    *2:ECとは、Electronic Commerceの略称であり、電子商取引のことである。「ネットショップ」や「ネット通販」とも言われる。


    (C)2023 Kousuke Matuda & Sakata Warehouse, Inc.

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    第470号 これからの物流不動産の需給を左右するもの(2021年10月19日発行) /logistics-470/ /logistics-470/#respond Tue, 19 Oct 2021 00:00:00 +0000 /?p=18337 執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997 […]

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    執筆者 久保田 精一
    (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
    城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
      • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      • 2015年7月~ 現職
      活動
      • 城西大学 非常勤講師
      • 流通経済大学 客員講師
      • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
      著書
      • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

     

    目次

    1.はじめに

      第458号の記事(物流施設は建てすぎなのか?)では、物流不動産の全般的な需給状況を解説させていただいたが、この記事には色々な反響をいただいた。今回は続編として、統計データをもとに需給のポイントをあらため整理していきたい。
      なお、物流不動産の需給見通しについては、周知のとおり、業界関係者内である種の疑心暗鬼が拡がっている状況である。コロナの影響が長期化するなか(※1)、首都圏を中心に大量供給が続いていることに加え、物流分野と縁遠いような新興デベロッパー等が次々と参入していることもあって、先行きに対する不透明感を感じる向きが少なくない。
      そのような状況にある今、正確な将来見通しが必要とされていると言えるが、物流不動産に関しては、足下の空室率や賃料以外に判断根拠となる統計データが不足しているうえ、人的にも金銭的にも調査分析のリソースが不足しているのが実態である。本稿ではあくまで「さわり」の議論しかできないが、より本格的な調査・検討が(社会的に)必要とされていることを改めて認識しておきたい。
    (※1)本稿執筆時点(2021年8月時点)

    2.物流不動産の全体状況の理解

      さて今回の記事では、前回は紙幅の都合で紹介することのできなかった統計データをいくつか紹介し、これをもとに、物流不動産の関する基本的な状況認識と、今後の需給バランスを左右すると思われる主要な論点について整理していくこととしたい。以下は議論としてはかなりプリミティブな内容も敢えて取り上げるが、このような内容についても関係者間でコンセンサスが形成されているわけではなく、まだまだ議論の余地が大きいと考えられるためである。なお、以下で述べた結論について、筆者としても100%誤りがないと考えているわけではないため、異論・反論等があれば、ご教示いただければ幸いである。

    3.営業倉庫の面積拡大トレンドは、「倉庫」全体の傾向とは大きく乖離

      物流不動産市場への見方のポイントの1つは、倉庫統計で見られる面積拡大傾向をどのように解釈するかである。
      国交省の倉庫統計を見ると、営業倉庫の面積は近年急速に増加している。危険品倉庫等の特殊なものを除いた「普通倉庫(1~3類)」の面積を見てみると、過去15年間で63%も増加している(図表1)。特に震災以降の伸びが著しいのだが、これを以て倉庫需要拡大の根拠とする議論も一部で見られる。
      もちろん、(広義の)倉庫が増えていること自体は間違いないが、(倉庫の一部である)営業倉庫に見られるような高い伸び率は実態と乖離していると考えるのが妥当である。
      この点を示すために作成したものが図表2だが、この統計は、広義の倉庫、すなわち法人が所有する建物で用途が「倉庫」であるものすべてを調査したものである。ここで言う「倉庫」には、営業倉庫はもちろんのこと、荷主の自家倉庫や、いわゆる保管庫等を含めた幅広い施設が含まれる。
      以上を前提に図表2を見ると、(図表1の対象期間と異なるものの)過去15年での倉庫の面積の伸びは15%に留まることがわかる(※2)。これは図表1で見た営業倉庫の伸び(63%)よりも大幅に低く、法人が所有する建物全体の伸びよりもずっと低い。

    (※2)なお、統計上は15%伸びているが、実際にはこれも過大推計である可能性が高い。法人建物の面積の推移を見ると、近年大幅に増えているが、この最大の理由は「不動産業」が保有する建物面積が近年大幅に増大していることである。ただし、不動産業の伸び巾は統計的にやや不自然であり、調査対象の変更(拡大)など、調査方法の変更による影響があると考えられ、実態として15%を下回る可能性がある。

    4.営業倉庫が増えている背景

      このようなデータを前提とするなら、実態としては「倉庫自体が大きく拡大している」というより、「倉庫に占める営業倉庫の割合が増えている」と考えるほうが妥当だと考えられるわけだが、そのような傾向が生じる要因としては以下の点を挙げることができる。
      まず1点目は物流アウトソーシングの影響である。荷主は長期的に見て物流のアセットを減らす方向にあり、従来自家倉庫が担っていた保管機能は、物流会社にアウトソースされる傾向にある。これは言うまでも無く、営業倉庫の比率の拡大に繋がる。
      2点目は建て替えの影響である。後述するとおり近年、古い倉庫の建て替えが進んでいるが、一般的に古い倉庫は現行の営業倉庫の基準に合致しない場合があるのに対し、新築される倉庫では、そのような問題が少ない。
      3点目は、金融面の影響である。近年新設される倉庫は床面積等が大規模化していることもあり、ユーザやデベロッパーが自己資金で建てるケースは減っている。そのため、施設整備に当たって外部の投資家(金融機関等)の審査基準に適合することが必要であったり、ファイナンスの出口戦略として流動性が要請とされたりするケースが増えている。これらの観点から、営業倉庫の取得が必要条件とされることが多い。
      いずれにせよ、営業倉庫の動向と、倉庫全般の動向とは乖離が大きいことは明らかであり、両者は明確にわけて議論することが必要である。

    図表1 普通倉庫(1~3類)の所管面積の推移(全国)

    資料:倉庫統計季報、原則的に各年6月末の数値。
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    図表2 倉庫面積の推移(全国)  (単位:千㎡)

    注:対象は、法人が所有する建物であって、工場敷地以外に立地するもの。

      「倉庫」とは、主な利用現況が倉庫に該当するもの。なお詳細な定義は出典資料を参照のこと。

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    5.大量供給の新規倉庫はリプレース需要で吸収

      さて、図表2のデータを前提とすると、倉庫の総ストックは増加傾向にあるものの、増加率は決して大きくはない。近年、大規模倉庫が続々と供給されており、着工面積は過去最高クラスの高いレベルを維持している一方で、スクラップも進行しており、全体をならして見ると、横ばいないし微増に落ち着くと見ることができる。
      この傾向についても統計データから確認できる。
      図表3は東京都の倉庫の建築時期別ストックを時系列で比較したものだが、これによると、2003年から2018年にかけて、上記のようなリプレースが大きく進んだことが分かる。2003年から2018年にかけて、新規ストックが大量供給されていることが分かるが、一方で70年以前に建築された古い倉庫がほぼ半減しており、トータルでみると微増といった状況が見てとれる。

    6.潜在的なリプレース需要の存在

      ところで図表3で興味深いのは、2018年時点でも依然として老朽化した倉庫が少なくないという点である。2003年時点では築年が約30年を超える倉庫は全体の20%しかないが、2018年時点では築年が約30年超の倉庫が全体の5割に達しており、この間むしろ老朽化が進行したと見ることもできる(※3)。この原因を一言でいえば、「失われた30年」の間、設備投資が滞ったため、ということになるだろうが、いずれにしてもこのように依然として老朽化した施設が多いということは、リプレースの潜在的需要がまだ大きいということでもある。
      なお、特に首都圏の場合、古い倉庫をスクラップした跡地は、面積的に中途半端で倉庫として建て替えるのが難しく、住居系等に転用するといったケースが多い。別の見方をすれば、金融緩和の影響もあって足下では住宅市場が活況であり、これが古い倉庫のリプレースを後押ししている側面が強いと言うこともできるのだが、この流れが反転した場合は、90年代のような「低投資」の状況に再び回帰する可能性がある。

    ※3:この点をより正確に議論するためには、建築物全般が長寿命化していること、特に新耐震基準以降の建築物は、それ以前の建築物よりも相当程度長期の利用が想定されることを考慮して検証する必要がある。

    図表3 建築時期別の倉庫の床面積(東京都)

    資料:図表2と同様。
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    7.関東圏への一極集中

      ところで、これまでの議論では、図表2をもとに、「倉庫のストックはそれほど増えていない」ことを前提としてきたが、実際には地域によって傾向は大きく異なる。
      特に関東圏については広義での「倉庫」自体も大きく伸長している。図表4には、地域別の倉庫面積の時系列推移を整理しているが、主要地域の中では関東圏の伸びが特に大きく、図表中の15年間で40%も増大していることが分かる。関東圏の増加面積が全国の増加面積のほとんどを占めるており、近年の倉庫ストックの増大は、著しく関東圏に集中しているとも言える。
      このように見てくると、関東では倉庫の供給過剰が進んでいるように見えなくもないが、空室率や賃料等のデータを見る限り、そのような傾向は見られない。そもそも、このような「一極集中」傾向は倉庫に固有のものではない。店舗等の建設投資を見ても近年、首都圏に集中する傾向が強まっており、これは経済の一極集中の副次的影響だと見る方が妥当である。

    8.都市圏内でのスプロール化と物流利便性の低下

      さて、図表5は関東圏をさらに細かく都道府県等にわけて見たものであるが、これによると、東京都はほぼ横ばいであるのに対して、埼玉県(78%増)、神奈川県(55%増)の伸びが目立つといったように、物流不動産は都市の外縁部へとスプロール(拡散)している傾向が見られる。
      この要因としては(周知のとおり)、①外環道、圏央道等の整備効果、②湾岸部等の地価高騰により物流適地が確保できなくなったこと、③労働力確保を目的に埼玉など若年労働力が豊富なエリアへシフトしたこと、などが挙げられることが多い。
      このうち②は開発者サイドの見方だが、同じことを借り手の立場から説明するなら、④倉庫の借り手である荷主が、坪単価の抑制を優先した結果だ、と言うこともできる。地価高騰が続く首都圏で、荷主が受け入れ可能な坪単価で倉庫を供給するには、地代の低い外縁部へと進出することが避けられないからである。
      どちらの説明を採用するにせよ、結果として近年供給される物流不動産は交通利便性の低いエリアへとますます拡散しつつあるのは明らかであり、より具体的に言えば、都心から遠いだけでなく、主要な高規格道路にも近接していないような施設も増えている。
      これまで見てきたとおり、倉庫ストックは依然として老朽化の傾向があり、リプレースの需要も少なくないと考えられるが、一方で、今後も荷主サイドの倉庫の評価軸が坪単価優先から変わらないまま、経済条件との兼ね合いから、物流利便性が低い倉庫の供給が増えるとすれば、マクロ的な物流効率化の観点からも望ましくなく、投資面での合理性も低いと思われる。
      よって今後、物流効率化に有効な適正な投資がなされるためには、マクロレベルの需給から、より細かいミクロレベルのミスマッチを評価する段階へと進むことが必要であり、データを踏まえた詳細な評価・分析を強化していくことが必要であろう。

    図表4 地域別の倉庫床面積の推移  (単位:千㎡)

    資料:図表2と同様。
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    図表5 関東圏における地域別倉庫床面積の推移  (単位:千㎡)

    資料:図表2と同様。
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    以上



    (C)2021 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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    第469号 物流現場の省人化、省力化とGTP(Goods To Person)を考える。(2021年10月7日発行) /logistics-469/ /logistics-469/#respond Thu, 07 Oct 2021 00:00:00 +0000 /?p=18321 執筆者  髙野 潔  執筆者略歴 ▼ 職歴・履歴 日産自動車株式会社(33年間) (出向)株式会社バンテック(7年間) (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~) 組織・履歴 神奈川流通サービス協 […]

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    執筆者  髙野 潔

     執筆者略歴 ▼
    • 職歴・履歴
      • 日産自動車株式会社(33年間)
      • (出向)株式会社バンテック(7年間)
      • (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~)
      組織・履歴
      • 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間)
      • 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間)
      • 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間)
      • 物流学会・正会員(8年間)
      • 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間)
      • 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間)
      • 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)
        正会員・理事(平成25年~)
      委嘱(受託)・履歴
      • 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間)
      • 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間)
      • 中小企業基盤整備機構 物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間)
      • 中小企業ベンチャー総合支援センター 新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間)
      • 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間)
      • 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間)
      • 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター 非常勤講師・委嘱(2年間)
      • 座間市観光協会・事務局長(2年間)
      • 座間市・都市計画審議会委員(2年間)
      著書・講師・履歴
      • 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会)
      • 物流共同化実践マニアル
        (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)
      • 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流 (共著:同文館)
      • 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー)
      • 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー)
      • 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業
        (流通ネットワーキング)
      • 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編
        (流通ネットワーキング)
      • その他  :執筆実績多数
      • 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数

     

    目次

    1.はじめに…。

      人口減少社会が確実に迫っています。人口減少社会とは、出生率の低下などを背景に人口が少なくなっていく社会のことです。色々な複合的な理由がありますが、具体的には未婚化、晩婚化、晩産化、夫婦出生力の低下に起因していると言われています。
      さらに、大きな特徴として少子化や平均寿命の長寿化に伴い、死亡率が低下して高齢化が進んでいること、出生者数が継続的に死亡者数を下回る状態が続いており、人口が減少し続けているのが原因と言われています。特に経済的な負担感として子育てにかかる教育費用(保育園、幼稚園から大学卒業まで)の負担を重圧に感じている人が多いようです。
      これから確実に訪れ避けられない人口の減少により、日本経済の成長や社会保障制度の維持などと共に企業活動にも大きな影響を与えるのは必至と言われています。少子高齢化が急速に進む物流業界は、人口減少の中で大企業、中小企業を問わず、人手を省力化する自動化、省人化システムが求められています。
      果たしてそれだけで競争力は高まるのでしょうか、単に人を省力化するために自動化(マテハンシステム)設備やロボットを導入しても同じように自動化した企業同士では、投資負担で差を広げるのではないかと考えます。
      こうした問題意識から省人化、自動化を超える自社に合った「競争力を生む自動化」を導き出す時代になったと考えます。そこで、物流センターの中で必要となる省人化、省力化+GTP(Goods To Person)を検討し、「価値」を加えた省人化、省力化に迫りたいと思います。

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    2.物流現場で高まる省人化ニーズ

      コロナ禍の中、人口減少やインターネットショッピングなどによる需要拡大を背景に、物流業界は人材不足、人手不足に直面したり、関係者がコロナ禍に遭遇しても何とか稼働を維持しています。そこに「止められない」物流事情が垣間見えるようです。
      さて、製造現場では早くから生産工程の自動化(ファクトリーオートメーション)が進められていますが、物流現場では、これからというのが現状のようです。そんな中、大手物流企業や通販業界では、自動倉庫システムを中心に、自動化が進んでいます。さらに、人手不足を見越した物流分野の自動化、省力化が認識され、AGV(無人搬送台車)や次世代物流ロボット、パワーアシストスーツ、ドローンといった新しいテクノロジーが、スタートしています。これからの物流市場にどのように拡大していくのかが楽しみです。
      さらに、これからの物流現場でのIOT(Internet of Things)やAI(人工知能)も様々な活用が進むものと期待しています。製造業と違い物流業(中間流通業)の自動化の取り組みは「人とマテハン」が相互補完できる物流現場が必須と考えます。倉庫内の荷物の搬送のみならず省力化、省人化システムを考えてみたく思います。
      物流連が物流の現場がどのような課題を抱えているかの把握と人手不足や自動化に対するニーズに関するアンケート調査を行いました。第一位は、自動化でした。この調査で大手に限らず中小企業を含めた各社が、労働力不足の打開策として自動化機器やロボットの活用に関する検討を始めているといった状況がありました。
      物流現場の省人化は、製造現場に比べると圧倒的に自動化が遅れていると指摘されています。製造現場は、「FA」と言われる自動化が進んでいますが、物流現場は、まだ人に依存している部分が多く、労働集約型の典型的な業界だと言われています。物流現場の省人化は、先ず全体最適を追求しながら部分的に最適化していくことが望まれます。導入にあたり壁になるのは、やはり投資資金の問題です。費用対効果を確認しながらの導入が必須と考えます。また、自動化システム(ロボットなど)といえども万能ではなく不得手とする業務も沢山あります。だからこそ、部分的でも良し、物流業界の人的リスクを省力化システム(仕組み)、省人化機器(マテハン)で解決したいものです。

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    3.物流現場の省力化と省人化について。

      省力化は、「(人の)力を省く」と書くように、作業を見直して、無駄を省くことによって、効率化を上げることです。同じ成果でも人数を省くことでコスト削減につなげます。省力化の目的は、手間や労力をできるだけ省くことです。省人化とは業務を見直して無駄な工程を削減して人員を減少させることです。
      人手不足の中で物流現場は、長時間労働や作業人員を減らしてコスト削減のために無駄をできるだけ削減することが求められています。そこで、人を省く、つまり、物流現場に「省力化のための省力化システム(仕組み)」と「省人化のための省人化機器」などを導入し、人と省力化システム、人と省人化機器が融合して人の代わりに作業の代行を行い業務の効率化を図りたいものです。
      日本は人口減少社会に突入しています。働き手の減少で高齢化社会が進んでいます。特に物流業界は、EC(イーコマース)の普及とインターネットショッピングの需要拡大で取り扱い物量がうなぎ上りです。そのために宅配便の人材不足、労働環境の問題が多く取り上げられています。物流部門では人口が年々減少する中で生産性の向上と省人化の両立を達成すべきと思っています。そのような課題を解決していくのが「省力化システム(仕組み)」と省人化機器であると考えます。大手に限らず中小企業を含めた各社が労働力不足の打開策を試みる自動化機器やロボット化の活用をしたいものです。
      物流業務には、自動化システムやロボット化に取り組み易い業種と取り組みにくい業種があります。熟慮して取り組むことが肝要と考えます。物流業界に於ける自動化の実現の時期は、まだまだ、先になると思われますが現在の物流現場の様々な課題の解決に繋がる重要工程の省力化、省人化の強化に繋がる投資からスタートしたいものです。投資対象としてロジスティクスファシリティ(自動倉庫、自動仕分け、自動搬送など)、ロボティクスオートメーション(AGV、物流ロボット、パレタイズロボ、物流向けパワーアシストスーツ、物流向けドローンなど)、IOT(デジタルピッキング、物流倉庫管理システム「WMS/TMS」、スマートグラス、宅配ボックス、トラックシェアリングなど)、AI(トラックの自動運転、AI音声システム、AI画像認識システムなど)の次世代・物流システムなどの市場規模の拡大を見込んでいます。

    4.費用対効果を策定しながら物流分野の自動化、省力化を進めたい。

      私は、自動車メーカーの情報システム部門に入社、生産工場の設立準備室、工場完成後、単一の物流拠点としては、日本最大級規模の敷地面積420,000㎡(≒127,000坪)のサービス部品・補修部品専用の物流拠点の開発プロジェクトとして18年間、参画する機会に恵まれました。東洋一の自動車部品物流拠点10棟のうち、自動倉庫6棟のシステム(仕組み)と輸出の効率化、自動バンニングなどを目指した平屋と自動倉庫を融合した輸出流通基地(川崎市東扇島)の開発プロジェクトにも参画する機会に恵まれました。開発したシステム(仕組み)は大型自動倉庫システム(仕組み)と自動搬送台車を融合した物流現場機能システムの開発、日本経済の「行け行けドンドン」の時代、モーターリゼーションと情報系の想定以上の進展で物流量と情報処理量の増加に対応する制御系と基幹系とのインターフェイスシステム、さらに、パネル自動倉庫(22,000棚)と小物自動倉庫(49,000棚)2棟に絡む難易度の高い増設を経験しました。そして、127,000坪の敷地をフル活用した自動化・自動制御システム(仕組み)の開発に18年間携わりました。
      これからの人手不足を補う物流業界の対応は急展開、物流の省人化・省力化への変革は、自動倉庫システム・自動化制御システムが主役と言われています。さて、ウィズコロナは、私達の生活や仕事の有り様を今までとは大きく変えていくと言われています。最近は、省人化や省力化に関する話題がかなり多くなりましたが、中堅・中小企業や通販関係に於ける商品特性上の自動化し易い側面を持っている企業が様々な取組みを積極果敢に行っています。
      一方で、卸業(流通系)が担っている複雑な物流業務を、全て自動化して一気通貫の仕組みに到達するには、暫く時間がかかりそうです。そうしたものを目指すには、最終的には、無人搬送台車、自動倉庫、ピッキングロボットなどを連動させる制御装置と情報をネットワークでつなぎ、WMS等のシステムで一括制御する必要があると考えます。現状は、各工程毎や部分的な自動化、省力化に留まっています。しかしながら、商品の形状によっては自動化しやすいものがあるほか、マテハンメーカーでも様々な自動化製品を提供してくれており、適性や効果が認められる部分に対しては、費用対効果を策定しながら導入にチャレンジし、同業他社よりも付加価値を高めて競争優位性を確保していくべきだと考えています。

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    5.メーカー、卸・流通系のオペレーション別、省人化・省力化を考える。

      物流実務を大きく分けるとメーカー系と卸系(流通系)の現場実務のオペレーションがあると考えます。商品の取り扱い(入出荷)がサプライチェーンを意識するとメーカー系に近い物流オペレーションと卸系に近い物流オペレーションがあり、それぞれに省人化の対応を考えたいと思います。
      メーカー系に近い物流では、取り扱い商品が規格化されているケースが多く自社製品の取り扱いが主要で管理し易くフルシステムの自動化(省人化、省力化)に取り組み易いと考えます。メーカー系の物流センターでは、次世代物流システムを駆使してフル自動化へ一気に舵を切るプランも十分想定されます。既に大手のメーカー系の工場では、「FA」の導入が進められている企業も多くなってきているようです。メーカー系の物流センターでは、「FA」のノウハウを活用して一気通貫型のフル自動化で省人化・省力化に繋げ易いと考えます。但し、費用対効果と需要変動・製品ラインアップの変更などに対応できるなどのシステムの柔軟性を考慮することが必要と考えます。
      一方、卸系(流通系)に近い物流では、いきなりフル自動化はハードルが高いと考えています。リードタイムに厳しく、多数のメーカー品目を扱い、多品目で荷姿や個々の商品の流動量なども多様化します。さらに、取り扱う商品の新設、廃止など、変更も頻繁に行われ、物流実務(オペレーション)も納品先毎に納品条件が細分化されています。そこで、特定工程に着目し、優先度をつけて進めることで効果の大きい「人とマテハン」の相乗効果を期待したいものです。さらに、協調作業と汎用性を持たせる省人化、省力化が労働力不足の改善策に繋げ易いと考えます。

    6.省人化、省力化を意識したGTP事例のご紹介

      GTP(Goods To Person)とは、物流拠点(物流センター)において「ピッキング、棚入」などを行う場合、商品が作業者に近づくか、作業者が商品に近ずくなどの「定点・定位置」で作業する方法のことです。メリットとしては、作業者の歩行、動作範囲を狭くしたり、歩行距離を短くしたりして、作業の効率化、作業者の体力的なハードルを下げ、疲労を少なくすることです。GTPは、人手不足の対応にも効果が期待できると言われています。さらに、狭いエリアでの作業性の向上が可能で作業者の歩行動線に必要なスペースの削減によって、物流センター全体のスペースの削減が可能になります。デメリットは、ある程度の規模がないとスペース削減、コスト削減に繋げにくいことです。さらに、導入にあたっては、倉庫レイアウトの変更、オペレーションの見直しが必要になります。
      GTPは、従来の物流拠点(物流センター)の業務の6割に当たるといわれている「歩く」という行為を大幅に省力化することができます。そこで、私が取り組んだホスト系システムと制御系システム&マテハン系システムの連動で省人化(自動化)、省力化を実現した好事例をご紹介したく想います。開発の狙いは、経営を継続するために売上を増やし、コストを下げるための物流の在り方を研究し、導入したことでした。トレードオフの関係にある売上増加と人員削減、在庫削減、100台前後の輸配送トラックの効率的な活用方策でした。さらに、納品時間の厳守と作業コストの削減、作業品質・精度、庫内作業全体の見える化(作業進捗)などで可視性を重視することで生産性を高めるための作業者の意識付けと作業待ちなどのムリ、ムラ、ムダを極力抑えるシステム(仕組み)づくりでした。
      物流現場では、特に前述したムリ、ムラ、ムダを省くことを重要視し、物流センター(6,700坪)全体の出庫作業の平準化(人時生産性と人員体制)、配送量の集約化などを心がけました。配送エリア・同一商圏を基点に受注〆時間を1日当たり3回(①8:00、②10:30、③15:30)にして1台当たりの商品の集約化で配送量・積載量の集約化と効率化を狙いました。大手量販店や専用車両での単独納品、緊急オーダーなどは、当日処理、当日配送などの特別便を出して対応しました。
      物流拠点(物流センター)の特徴として生命線である「庫内全体」に張りめぐらしたケースとオリコンの自動搬送コンベア(長さ延べ≒1.5km)と制御系コンピュータとを連動させた倉庫全体(6,700坪)からの出荷品の行先別の自動搬送でした。これは、配送コース(トラック)単位に配送時間帯を意識した出庫アルゴリズム(出庫の最適化)を駆使してトラック積込場に全倉庫(6,700坪)からの商品を最短の歩行で集荷できるようにしたことです。
      物流拠点(物流センター)内に14ヶ所ある作業エリア毎の流速管理と人時生産性を加味した人員配置で日々の出庫アンバランスを極力抑え、出庫量のバランスが大幅に崩れた場合には、各エリアの人時生産性をもとに物量に応じた作業体制を組み換えることにより作業終了時間の均等化(残業の抑制)を優先し、適宜、作業体制の変更を行いました。
      さらに、CCR(コンピュータ・コントロール・ルーム)による物流現場全体(全フロアー)の稼働状況を監視する司令塔役として制御系コンピュータとITV(監視テレビ)装置などを設置しました。この物流現場全体(全フロアー)の司令塔の役割は、ファイナル工程である「配送コース別(自動仕分け装置)積込作業場」の進捗状態をリアルタイムに把握しながら全フロアの投入可能な配送コース毎(トラック単位)の商品集荷の同期を取るシステム(現場アンドン表示、PC端末、CCR監視装置)の導入で商品集荷をスムーズに管理・進行できるようにしました。そこで、6,700坪の広い物流センターのGTPの事例(参考①~参考④)を参考にして頂ければ幸いです。商品をピッキングする作業場エリアの移動範囲、棚入れする作業エリアを狭くすることを重要視するために流速別管理と作業者の歩行を少なくする作業方策を重要視し、多くの作業人員を必要とする作業工程のボトルネックの解消に努めました。
      GTPのメリットは作業者があちらこちらへと動かなくて済むようにすることで作業の効率化、と歩行距離を短く体力的なハードルを下げ、動き回る動線を限定し、商品保管を密にしてスペースの削減を図ることです。GTPを導入することにより、在庫管理アイテム数約100,000点の保管、出庫個口数約10,000個口/日(ケース+オリコン)の出庫、出荷配送車両台数約100台分の荷量をコントロールするためのスペースの効率化が可能になりました。さらに、物流センターの人手不足の対応の効果と作業生産性(効率化)の向上に期待が持てる効果、売上増加に寄与できる効果などが享受できる考え方が基本のバックボーンでした。デメリットは、ある程度の規模がなければコスト削減につながらないこと、導入にあたって物流センターの作業情報とマテハンの融合、物流センター全体の作業進捗の見える化などの開発に苦慮したことでした。

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    7.最後に…。

      ウィズコロナ、アフターコロナ下で、物流量の波動が深刻化しはじめた物流業界では、物流拠点(物流センター)や配送業務などの様々な分野で自動化、半自動化、デジタル化などを駆使した省力化(効率化)、省人化(半自動化・自動化)の検討が行われています。国内の労働人口は減少の一途であり、さらに、ウィズコロナ後の労働環境とその労働力を補完するには、デジタル化、自動化・ロボット化など、有力な方策が必要との声が出ています。ただ、導入が目的ではなく何を享受したいのか、効果と目的を明確にしてチャレンジしたいものです。
      自動化・ロボット化は人間と違い365日、24時間、故障しない限り働き、文句も言わずに辞めることもなく費用対効果を克服できれば導入のメリットが大きいと言われています。人手不足の特効薬は、いまだに見つからず、物流業界では自動化が大手企業(特にネット通販)中心に最善の策との判断からますます加速していくと思われます。こうした動きは、単に人手不足の解消に資するだけでなく中長期的には導入企業と未導入企業との競争力、収益力の優劣・格差に影響しかねません。物流業界の構造と先行きに激変をもたらす可能性を含んでいる自動化、省力化、GTPを含めて注目していきたいと思います。さらに、楽しみにしています。

    以上




    (C)2021 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.

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    第467号 物流DXブームの後に残るもの、残らないもの ~輸送のマッチングを例に~(2021年9月9日発行) /logistics-467/ /logistics-467/#respond Thu, 09 Sep 2021 00:00:00 +0000 /?p=17865 執筆者 久保田 精一 (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員 城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))  執筆者略歴 ▼ 略歴 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒 1997 […]

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    執筆者 久保田 精一
    (合同会社サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表社員
    城西大学経営学部 非常勤講師、運行管理者(貨物))

     執筆者略歴 ▼
    • 略歴
      • 1995年 東京大学 教養学部教養学科 卒
      • 1997~2004年 財務省系シンクタンク(財団法人日本システム開発研究所)
      • 2004~2015年 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会 JILS総合研究所
      • 2015年7月~ 現職
      活動
      • 城西大学 非常勤講師
      • 流通経済大学 客員講師
      • 日本工業出版「流通ネットワーキング」編集委員 ほか(いずれも執筆時点)
      著書
      • 「ケースで読み解く経営戦略論」(八千代出版)※共著 ほか

     

    目次

    1.はじめに

      DXブームを背景に、物流スタートアップへの投資が活発だ。ソフトバンク等のファンドは言うに及ばず、従来DXに距離をおいてきた大手物流事業者も、この流れに乗り遅れまいとスタートアップ投資を活発化させている。
      これまで物流関連の技術開発への投資は、マテハン機器やSCM系情報システムの導入の場合のように、荷主の設備投資資金が主たる原資だった。一方、(特に日本では)荷主企業内での物流部門の地位が低いことから、物流への投資が(開発やマーケティング等と比べて)後回しにされる傾向があった。そのため物流分野への過小投資の傾向が従来指摘されてきたわけだが、スタートアップ投資という形で物流分野に投資が拡大することは、歓迎すべきことである。

      ただし、急速に投資が拡大する過程で、様々な問題点も指摘されている。例えば、ベンチャービジネス界が描く物流の将来像は、依然としてローテクが主流な物流実態から著しく乖離しているように見えることは否定しがたく、実現可能性に疑問符を付ける向きも多い。その意味で、現在の状況を「過剰投資」で「バブル」だと感じている物流業界関係者は少なくない。その評価の妥当性は措くとして、いずれDXブームが一段落し、研究開発フェーズから投資回収のフェーズに移っても、各社が実績を上げることができるか。言い換えれば、物流ビジネスの中にDXが機能的に根付くかどうか、にすべてがかかっている。

    2.過去にもあった投資ブーム

      さて、DXの将来動向を占ううえで、参考になるのが過去の事例だ。
      物流におけるデジタル化の主要テーマは、「リソースのシェアリング」、あるいは「需要と供給とのマッチング」である(注1)。そしてその代表格は言うまでも無く、輸送分野における「トラックと貨物のマッチング」である。実際、物流DXのブームの中で注目案件には、この領域の企業が少なからず含まれている。

    注1:シェアリングにはマッチングの機能が不可欠であるため、以下では、両者の意味を込めて「マッチング」と呼ぶことにする。

    図表1 輸送における各種マッチング・シェアリング
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      このように聞くと「物流分野のマッチング」は一見、目新しい動きに見えるが、実はこの分野を巡っては、かつて華々しい投資競争が繰り広げられたことがある。具体的には1990年代末から2000年代初めにかけてのことだが、この時期に様々な「マッチングシステム」が開発され、ビジネス界で多大な関心を集めたのである。なお言うまでもなく、この時期は世界的な「ITバブル(またはドットコム・バブル)」であり、ヤフーなどのハイテク株に投資資金が集まり、株価の異常な高騰(と暴落)を経験した時期でもある。このような文脈下で起きたかつてのブームは、コロナ禍における低金利を背景とした現在の投資ブームと幾分重なる。

      さて、この時期の動向については、月刊ロジビズの記事「ITベンチャー淘汰の行方」(ロジビズ2002年5月号)で詳しく紹介されている(注2)。詳細は当該記事をご参照いただければと思うが、要約すると、様々なマッチングシステムが事業化されたものの、「稼働後1年も経たずに早くも事業から撤退する企業が現われ始め」、淘汰が急速に進んだ、などといった当時の状況が当事者のインタビューを交えて紹介されている。
      この記事が出た時点では「健在」だったもののその後頓挫した企業もあり、この時期に開発されたシステムの多くが頓挫したのだが、一方で、今に至るまで地に足の付いた運営を続けているものもある。例えば、現在に至るまで、マッチングサービスとして主要な地位を維持し続けているトラボックス。また、「システムによる自動マッチング」といったアイデアとは距離を置いて、人間系のマッチングを軸に事業展開を進めたトランコムは(ITバブル期よりも前の創業だが)、その後急速な成長を遂げ、今では大手物流業の一角の位置を占めるに至っている。
      その他各社の経緯は個々には触れないが、今後の物流DXの展開においても重要な示唆を与えてくれる。
      余談だが、ITバブル期は80年代バブルの影響が残り脆弱な経済環境下だったこともあって、日本におけるITバブルには、IT業界への「公共投資」が大きな役割を果たしていた。物流におけるマッチングシステムの中にも、公費が投入されて開発されたものの、結果的に頓挫したものもある。このような経緯も示唆的である。

    注2:ロジビズのウェブサイト https://magazine.logi-biz.com/pdf-read.php?id=1116

    3.成功・失敗を分ける要因

      さて、これら過去の経緯を踏まえて、輸送における「マッチング」ビジネスの事例を筆者なりに分析するなら、以下のようなポイントを成功/失敗を分ける要因として挙げることができる。

    ①コスト削減「以外の」ベネフィット
      DX推進のうたい文句として、「今は非効率な物流が、DXで最適化され効率化する」といったものがある。このようにマッチングを巡っては、コスト削減余地の大きさが強調されることが多いのだが、これは必ずしも妥当とは言えない。DXが有ろうと無かろうと、現場の配車マンは運行効率を高めるために日々努力して「人的マッチング」を行っており、簡単に効率化できるような余地が残されているとは考えにくい。もちろん、効率化の余地がないわけではないが、実態としてはむしろ、「荷主の都合」など、システム的な解決に向かない問題が残されている可能性のほうが高く、DXによって簡単に解決されるとは考えにくい。
      このように考えると、マッチングによる、コスト面以外のベネフィットのほうが重要だと思われる。
      ちなみに、人流におけるマッチングシステムである「ライドシェア」は、新興国中心に急速に拡大しているが、その要因として指摘されるのは、既存のタクシーに比べて、「安全性」「品質」「便利さ」などのメリットが大きいことである。
      この点はおそらく物流においても同様であり、広く普及するにはコスト削減以外の付加価値が必要と思われる。具体的に言えば、昨今の労働環境を踏まえると、「いつでもトラックを確保できる」等の「確実性」は、訴求力のある付加価値となり得るし、他にもSDGs等の社会的観点での付加価値も重要だろう。

    ②未踏領域の開拓
      これはITバブル時から言われてきたことだが、ITによるマッチングが適用できる輸送領域は、必ずしも広くないということである。例えば、ある荷主が初めてトラック会社を探すときに求荷求車システムを利用したとしても、2回目からはレギュラー案件となり、システムを介さずに発注するのが普通である。そのためマッチングの主戦場は「スポット輸送」の市場ということになるわけだが、軽貨物による緊急輸送などは例外として、純粋なスポット輸送自体はニッチであり、マーケットとしては案外小さい。よってビジネスとして見た場合、市場の「伸びしろ」は余り大きくない。
      この点を踏まえると、何らかの未踏領域を開拓することがビジネス的に必須となる。
      例えば、国外でも高品質の輸送を確保できる、といったようにグローバルな市場をターゲットとするなら、可能性が拡がるだろう。また、越境ECのように、新たに立ち上がるビジネスをターゲットとするのであれば、有望と言えるかも知れない。

    ③規制・制度とテクノロジーとの折り合い
      現在、許認可が不要な貨物運送は、自転車を用いて行う等の場合に限られる。軽貨物の場合も(それほど手間ではないものの)、事業法に基づく届け出が必要である。これらの規制がマッチングの事業障壁となっていることは事実である。ただ、働き方改革による運行管理の強化が求められている状況で、これらの規制が今後緩和されるとは考えづらい。
      過去の国内企業の例を見る限り、規制改革に依拠するようなビジネスよりもむしろ、既存の規制・制度を知り尽くしたうで、現実的に運営されてきたビジネスの方が成功している。新たなテクノロジーは規制・制度と相反する場合があるのは事実だが、典型的な「規制産業」である物流業界においては、制度との折り合いをつけてビジネス展開をすることが現実的だと思われる。

    ④情報のデジタル化(デジタルコネクト)の実現・活用
      ITバブル時に開発されたマッチングシステムは、ユーザー同士が掲示板上で情報を出し合い、これをシステムが引き合わせる、といったローテクなものが多かった。この方式ではデータの入力が人手頼りとなり、潜在的な空車情報、荷主情報を拾い上げることはできない。結果的に、規模の経済を生むようなネットワーク効果も生じない。この点が市場拡大のネックとなった。本来のマッチングの意義を踏まえると、リアルタイムな情報が自動的にアップロードされ、例えば「空車回送中のトラックが近くを走っている」といった情報が把握できることが望ましいわけだが、そのためには、車両や荷主情報がネットワークに常時接続する環境が必要である。
      この点については過去20年で状況が大きく変わった。デジタコ等の車載器のトラックへの導入が大きく進んだほか、ネットワーク対応型の運行管理・動態管理システムが広く普及してきた。その意味では、デジタル化に一歩進んだとは言えるが、現時点ではこれらの情報がマッチングに活用されているわけではない。今のところ、主要なマッチングサービスは、スマートフォン等を介して情報を入力するものが大半である。その意味ではDXの本来像の実現にはほど遠い状況ではある。

    4.DXブームの後に残るもの~ デジタルインフラ環境の変化

      周知のとおり、ITバブルは最後はハイテク企業の株価暴落という結末を迎えたわけだが、(負の遺産を多く残した80年代の不動産バブルと違って)その後の社会を変えることになる資産も多く残した。ハイテク企業が中心となって整備されたブロードバンドネットワーク、携帯通信技術等はその後の社会のインフラとなったし、ECの拡大など社会経済に大きな変化をもたらした。個別の機器やサービス(例えばADSLやiモード、PDAなど)はその後の技術環境の変化で残らなかったものも多いが、それらが生み出した情報インフラは、社会やビジネスに不可逆的な変化をもたらしたと言えるだろう。
      これとの類推で言えば、今の物流DXブームで出てきた各種サービスも、個々に見れば不成功に終わるものもあるかも知れないが(特にこと輸送のマッチングに関しては、10年後に残るものは限られるだろうが)、総合的に見れば、今後のビジネス変革に繋がるデジタルインフラ整備に繋がる可能性が大いにある。
      個人的に特に期待するのは、前項④で述べたような情報のデジタル化の推進に繋がるかどうかだ。これは、車両の情報と荷主の情報とに分かれる。

    ①車両情報の「コネクト」
      まず車両情報については、現在はメーカーごとのクローズドなネットワークが主で、汎用的なネットワークには接続されていない。車載器(デジタコ等)や車両診断システムの情報が「汎用的に」活用可能な環境となれば、ビジネス上の可能性が広がる(もちろん、安全性、セキュリティ等の問題をクリアする必要がある)。
      余談だが、米国ではトラックドライバーの労働時間等の記録のため、ELDという車載システムの設置が義務化されたが(図表2)、ELDは規格上、USB等の汎用的な方法で入出力できることとされており、今後、車両情報のデジタル化に寄与することが予想される。汎用のタブレット端末とトラックのOBDを接続し、スマホアプリと連携して管理するような、簡易なシステムが多く見られるが、こういった形で運行情報がデジタル化されれば、他のスマホアプリと連携した様々なサービスの可能性が拡がっている(実際、サブスクリプション型のELDサービスで、付加的なプランとして付加的サービスを提供するような例がある)。

    ②荷主の「コネクト」
      荷主間の受発注は、主要業界ではほぼEDI化されているが、このデジタル情報も物流に利用されているとは言いがたい。
      受発注EDIは荷主業界ごとの業界VANの流れを引き継いでいる一方、物流は業際的であり、多業界とのインタフェースが必要となる。また、受発注EDIにおける物流メッセージが受注単位の(総量としての)出荷指示であるのに対し、物流EDIにおいて必要なのは車両単位の(配車計画に基づく)運送指示であるなど、両者に存在する情報階層の差が解消されないこともネックである。この点では最近、一部業界EDIで車両単位の物流メッセージを追加するような動きもあり、今後の動向が注目される。

      以上述べたことは物流におけるデジタル情報活用の一例だが、この他にも、物流において未活用な情報は多々存在する。「これらが汎用的にデジタル化され」、「実ビジネスに利用する場面を生み出す」ということが出来れば、後から振り返ってみて、物流DXブームが物流を不可逆的に変えたと評価されるだろう。

    図表2 米国におけるELDの例

    出典:米国運輸省のサイト掲載画像から加工。
    https://www.fmcsa.dot.gov/hours-service/elds/eld-faq-64electronic-logging-devices-and-hours-service-technical-specifications
    https://csa.fmcsa.dot.gov/ELD/List%20
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    以上



    (C)2021 Seiichi Kubota & Sakata Warehouse, Inc.

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    第460号  料理宅配を真の消費起点バリューチェーンに:末端系物流の盲点を探る(2021年5月25日発行) /logistics-460/ /logistics-460/#respond Tue, 25 May 2021 00:00:00 +0000 /?p=16608 執筆者  野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)  執筆者略歴 ▼ Corporate Profile 主な経歴 1943年 生まれ 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社 1975 […]

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    執筆者  野口 英雄
    (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

     執筆者略歴 ▼
    • Corporate Profile
      主な経歴
      • 1943年 生まれ
      • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
      • 1975年 同・本社物流部
      • 1985年 物流子会社出向(大阪)
      • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
      • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
      • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
        現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
        (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
      • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
      活動領域
        食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
        :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
        特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
      私のモットー
      • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
      • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
      • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
      • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
      保有資格
      • 運行管理者
      • 第一種衛生管理者
      • 物流技術管理士

     

    目次

    1.料理宅配という新しいニーズ:リスク回避ばかりが先行

      昨今のコロナ禍で人々のライフスタイルが変化し、料理宅配という新しいニーズが高まってきた。これは従来からの飲食店出前と何が違うのか。出前という形態は飲食提供の延長線上にあり責任主体が明確であるのに対し、新しい形態では情報マッチング事業者がコアとなって集積化し、その前後の工程リスクを徹底的に排除する狙いがある。つまり調理や配送実務はあくまで個人事業で、自らのビジネスモデル責任は極力回避するというものである。

    (図表―1:様々な食品宅配ビジネス)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      (図表―1)に示すように今では様々な事業展開が行われているが、ブランドを背負ってビジネス展開する以上責任主体はあくまで主宰者にあるはずだ。
      消費者への料理提供を一つのサプライチェーンと考えれば、その対象商品は極めて高付加価値・ブランド化されたもので、その状態を的確に維持し、最終顧客の満足度を高めるという崇高な目的があるはずだ。これを原材料調達~調理~配送というプロセスで役割分担が行われているとすれば、全体プラットホームをプロバイダーが提供し、その業務運用を厳しく管理する必要がある。自動配車システムで不特定多数の飲食業を対象に、機能を提供するということであれば、その調理以降の工程では配車事業者に管理責任があるだろう。またできたての料理品である以上、単なる荷物の配送とは自ずと条件は違ってくる。
      ところが現実にはその情報処理機能を提供するだけで、実務はあくまでドライバーの自由裁量で行うとして、品質保証や交通安全等が個人のリスクに帰せられている。アメリカでは自由な時間に働くギグワーカーとして、州裁判所の判断は個人責任に傾いているようだ。だがイギリスでは逆の判例も出ている。日本においても働き方改革の一環としてこの業務を選択する人が増え、稼ぐ人は年収1千万円にも達するという。平均では2百万円程度らしいが、これでは単なる非正規労働の受け皿に過ぎない。既に登録ドライバーが4万人を超えているということでは、このまま看過することはできない。このような実態に対し、衛生管理・物流事業・交通安全・就労管理といった法規制が全く対象外ということは有り得ない。飲食店数は凡そ60万店舗程度であり、大手料理宅配では各4~5万店程度の顧客を抱えていると考えられている。

    2.宅配が個人事業なら何の法的制約もないのか:究極の物流事業規制緩和?

      サプライチェーン運営として、ラスト1マイルの重要性は以前から叫ばれてきた。適時適量性が求められる一方で再配達リスクも大きく、物流事業者としてのチャンスは高まるものの採算性が厳しく、そして慢性的な人手不足である。環境問題としての課題も抱えている。更に料理宅配という新しいジャンルについて言えば、品質・衛生管理を基本に、如何に付加価値を維持するかという難易度の高いロジスティクスとなる。まさにこれも以前から問われてきた、消費起点バリューチェーンとしての運営そのものである。
      店頭や街で良く見掛けるようになった料理宅配は、まず輸送容器を床面に直接置き、素手でハンドリングしている。要冷商品では冷媒を使用するとはいっても、ほんの気休め程度であり、更に容器の洗浄や除菌をどうしているか等が気に掛かる。これが個人事業者であれば、全く管理されていないに等しい状況であろう。自転車による首都高速道路走行、歩道での人との接触、自動車への追突事故等が度々報道されている。使う自転車の盗難も起きたようだ。自転車といえども、まず道路交通法上の責任はある。

    (写真1~3:料理宅配にまつわる風景)

      

    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      運送事業として考えてみるとどうか。かつて大幅な規制緩和が行われ、車両の最低保有台数が5台程度まで緩められ、更に1台というのが究極の目的のはずだ。既にお隣の韓国ではそうなっており、日本で言えば白ナンバーが公認されている。自転車は自動車ではないので、事業用車両と見るかどうかは微妙だが、その使用目的が運送であれば運送用車両と見做すことも可能ではないか。宅配事業で使われているリヤカーも同様である。個人事業者といえども運送業が目的であるなら、物流事業法・衛生管理等の対象に含めていかなければ、ますます野放しということになる。

    3.飲食バリューチェーンの大前提は品質管理:機能・責任分担

      サプライチェーンとしてのロジスティクスが基盤となり、商品やサービスの付加価値をどう高めていくかという、バリューチェーン・マネジメントが必須であることはもはや論を待たない。

    (図表―2)ビジネスの必要要素
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      そして全体システムを一つの事業主体が一貫して見ることは不可能に近く、基本的には機能・役割分担ということになる。更なる前提は品質管理であり、これらが最終消費者に伝えられて一連の管理が完結する。機能分担の前提は管理基準が定量化され、管理状況が可視化され、責任所在が明確化されることである。これが工程間で次々と連結され、最終ゴールが消費者ということになる。
      膨大なサプライチェーン運営を、一事業者が行うというビジネスモデルももちろん存在する。原料調達や生産は海外で行い、販売も世界中に広がり、それに優れたマーチャンダイジングシステムをリンクさせている事例もある。運営の大前提はリアルタイムの情報把握であり、このプラットホームはその専門事業者を活用する。マーケティングとロジスティクスは企業運営の車の両輪であり、これはどんなビジネスモデルでも普遍的な真理として変わることはない。しかしこの理念をきちんと持っているビジネスが、果たしてどの位あるのだろうか。
      マネジメントとしての品質管理も、日本ではもうすっかり忘れられているのかも知れない。その出発点はまず管理状況定量化であり、これを管理基準に照らし判断し処置する。組織を上げて運動的に展開することが経営としての有効手法となるが、それだけに頼っていては時間ばかりが掛かり、トップダウンで行う課題と併用しなければ、改革には中々繋がらない。またトップダウンだけでは、実行に移す段階で種々の困難が待ち受けている。

    4.活況を呈する末端系物流:料金設定とサービス

      人々の生活様式や価値観が大きく変化し、以前にも増してネット・TV通販や買物代行等に伴う、末端系物流が活況を呈している。その中心プレーヤーである宅配・軽車両等に加え、この料理宅配のような更に末端系を担う物流が求められてきているということであろう。しかし物流業としてはこれらの領域はリスクも高く、インフラとしての安定性も求められる。現状で盤石な体制とは言い難く、種々の課題が内在している。
      まず料金設定が業務用の数倍というレベルでは、真に消費者利益を追求している姿には程遠い。再配達や時間帯指定といったハイレベルのサービスのため加算されているという要素はあるが、原価計算方式が通常の運送事業とは別となっている感は否めない。低温宅配料金では更に固定額が上乗せされ、代替手段がないため競争原理も働かない。また人手不足のために、季節的なピークでは集荷を抑制すること等も容認される。一方物流事業法では小口混載便が別枠で認められているが、消費者領域では(図表―3)に示すように淘汰され、大手3社の独占になっていることも競争的な状況を後退させている。時間指定サービスを依頼してそれが守られないというケースも何度か経験しているが、ドライバーには厳重注意することにしている。街で見掛けるその基本動作にも、首を傾げたくなるような場面がある。車輪に歯止めを掛けていないケース、ドアを解放したままの戸口配達、それに昨今の衛生管理ニーズへの対応等々。マンションにおける宅配ボックスも、管理者による温度・衛生管理状況のチェックが必要である。高サービスレベルは高コストであることは否定しないが、コスト抑制努力も消費者サービスの大きな目的のはずだ。

    (図表―3:宅配便事業者シェア:2018年度)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      料理宅配では料金設定レベルが売価の35%程度の模様で、これで利用者側店舗コストをどれだけ下げられるかの努力にかかってくる。一方ドライバーへの支払い方式は定額又はランク制と考えられ、収受料金が変動制で支払いが固建制というのも採算管理が難しい料金方式である。この方式は本来認められていないが、センターフィーを商品通過金額の歩率とする方式が罷り通っている。物流原価は殆ど商品価額に関係せず、主に物理的要素で決定される。価額にスライドということは、高額商品に偏っていく危険性もある。いずれにしてもこの新規ビジネスが、飲食業のピンチを救うものになることが期待される。

    5.更なる規制緩和への視点:真に経済活性化に寄与させる

      平成の時代に入り、(図表―4)に示すような物流事業の規制緩和が行われてもう久しい。果たして競争状況が活性化され、事業の高度化や業界としてのステータスアップ等に繋がったのか。料金自由化とは言っても旧料金体系やレベルが依然として存在し、顧客ニーズに対し全くの競争状態が実現しているわけでもない。物流がロジスティクスのレベルにステップアップし、サプライチェーンやバリューチェーンのレベルに進化することは、もはや夢のまた夢なのか。グリーン・ロジスティクスという重たい課題もある。今回の事例は、運送取扱事業に該当するだろう。

    (図表―4:物流事業規制緩和)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      前述した韓国の事例では最近のTV番組で、若い夫婦が1台のトラックをローンで購入し、宅配を手掛けて借金を返済し、個人事業主として成長していく姿を特集するものがあった。もちろんこれを組織化するプロバイダーの存在はあるだろう。アメリカの大型トラックドライバーも皆個人事業主であり、そのプロ意識たるや相当なものであることを見聞したことがある。多品種少量かつ変化の激しい日本市場で、末端物流がどう機能すべきか困難も多くあるが、だからこそ究極の規制緩和に向かってチャレンジすべきであろう。
      資本主義経済による利潤確保がますます枯渇し、既得権益を守ることに走りがちな昨今に対し、もう一度真の消費者サービスを目指して、コストや品質の競争にチャレンジしていく必要がある。品質の3要素とはコスト(価値と価格)・クオリティー(物だけではなくサービスを含む)・デリバリー(スピード・適時性)であり、これが競争力の源泉であることは言うまでもない。料理宅配という個人レベル事業者がこの競争に参加し、既存事業者が大きな影響を受けることは間違いないはずだ。

    以上



    (C)2021 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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