Logistics - SAKATA 一世紀以上の経験と実績に基づき「楽々倉庫」を通じて新たな価値創造を目指す Thu, 26 Mar 2026 07:46:22 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.3 /wp-content/uploads/2021/07/sakata_icon4-130x130.png Logistics - SAKATA 32 32 第564号 物流施設の配置問題の今と昔-技術的な進化に着目して- (2025年9月16日発行) /logistics-564/ /logistics-564/#respond Tue, 16 Sep 2025 00:00:00 +0000 /?p=21131 執筆者  田中 康仁 大阪商業大学 総合経営学部 教授  執筆者略歴 ▼ 略歴 1974年岡山県生まれ。 1997年神戸商船大学卒業。 2008年神戸大学大学院修了、博士(工学)。 広島商船高等専門学校、 流通 […]

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執筆者  田中 康仁
大阪商業大学 総合経営学部 教授

 執筆者略歴 ▼
    略歴
    • 1974年岡山県生まれ。
    • 1997年神戸商船大学卒業。
    • 2008年神戸大学大学院修了、博士(工学)。
    • 広島商船高等専門学校、 流通科学大学商学部教授を経て、2025年より現職。
    • 主な著書に、『物流のしくみ』(単著、同文舘出版、2023年)、『モーダルシフトと内航海運』(共著、海文堂出版、2020年)、『1からの流通論 第2版』(共著、碩学舎、2018年)がある。

  

目次

  • 1.はじめに
  • 2.物流とOR
  • 3.物流施設の最適配置
  • 4.ソルバーの能力向上がもたらした成果
  • あとがき
  •   

    1.はじめに

    正直、何をネタにして書こうか迷った。決してネタが豊富で選別に困ったという話ではない。前職、流通科学大学時代の物流企業と学生の社会連携(コラボ)は、第562号(髙橋先生、近畿大学の事例)と重なる点が多いし、最近始めたフィジカルインターネットの研究は、まだ理解に乏しい。そこで、ずいぶん昔に取り組んだ研究ネタではあるが、物流施設の配置問題、特にその解法を中心に話をしてみたい。ざっとではあるが、『ロジスティクス・レビュー』のバックナンバーのタイトルを確認したところ、物流センターや倉庫などの物流施設の配置問題を取り上げた事例は思ったより少なく、特にOR(Operations Research)を用いて物流施設の最適配置を求めるといった類の内容は確認できなかった。ただ単に、ニーズが少ないだけかも知れないが、話題が重ならないという点を拠り所としたい。
    もう20年前になるが、当時、大手宅配事業者の物流ネットワークの効率性を検証したことがある1)。今も大きな違いはないと思うが、これらの宅配事業者は、地域間輸送の中継となる主管支店などのセンター(上位拠点)と地域内の集配送を担う営業所などのデポ(下位拠点)を機能別に分け、それらを階層的に配置し、下位拠点で集められた宅配貨物を上位拠点に集約し、上位拠点間にて幹線輸送が行われていた。研究では、宅配貨物の発生集中量は人口分布との相関があることから、町丁目単位の人口を基に、下位拠点の最適配置を求めたうえで、下位拠点からみた上位拠点の最適配置を求めることにより、物流ネットワークの効率性を検証したわけである。問題を解くにあたっては、OR分野における最適配置問題の一つであるp-median問題を適用した。しかしながら、当時のソルバーエンジンの計算能力とPC環境では、大きな規模の問題を解くことが出来ないという課題にも直面した。
    それから20年、当然ではあるが技術の進歩は目覚ましい。PCの性能もさることながら、ソルバーエンジンの計算能力が飛躍的に向上している。これは、高機能なソルバーエンジンであるGurobi2)を無料で経験した実感である。ありがたいことに、教育機関であれば、無料もしくはアカデミックプライスで使用可能であることが多い。単に、物流施設の配置問題の解法を取り上げるだけではもったいないので、こうした技術革新にも触れたい。

    2.物流とOR

    よく言われるように物流とORの親和性は高い。というよりも、物流に関する定量的な問題を解く際は、数理的なアプローチ、すなわちORの援用は欠かせないと考える。
    物流分野における典型的なORの応用事例を挙げてみたい。1つ目は、トラックが複数の配送先に効率よく商品を届けるルートを最適化する“輸配送計画”である。VRP(Vehicle Routing Problem)が代表的である。2つ目は、需要予測に基づき発注量・在庫水準を決定する“在庫管理”である。経済発注量(EOQ)や安全在庫を求めることが多い。3つ目は、どこに物流センターや倉庫を設置すれば、総コストが最小になるかを決定する“施設配置問題”である。weber問題やp-median問題として定式化し、解かれる。
    公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会が提供しているOR辞典によると、「ORとは、現象を抽象化した数理モデルを構築し、モデル分析に基づいて種々の問題、とりわけ意思決定問題の解決を支援する方法論や技法の総称」とある。先の事例でも示したように、物流分野における現象をモデル化(定式化)し、実際の現場で得られる膨大なデータをもとに、コスト最小化や効率性の最大化を目的関数として、輸配送計画、在庫管理、物流施設の最適配置、などにて最適解を導出するためにORが用いられる。
    同学会の機関誌『OR』の全文検索(注1)にて、“輸配送計画”、“在庫管理”、“物流施設”のキーワードを検索すると、順に388件、233件、61件と多くの論文がヒットする。なお、いまから約70年前の記念すべき最初の機関誌Vol.1(1956年)では、挨拶に続いて、トップバッターとして「適正在庫及び在庫管理の問題(横山保、大阪大学経済学部)」が掲載されている。さらに、同号では実務家からも「輸送計画の一例(岡見賢一、武田薬品工業(株))」が報告されていることから、ORの学問領域の初期の頃からすでに物流分野への応用が試みられていることが伺える。

    3.物流施設の最適配置

    物流施設である物流センターの立地は、用地の広さや地価の安さ、高速道路ICへのアクセス性、さらには需要地への近接性なども考慮する必要があるが、ここでは、単純化するため、図1に示すような配送先(図中の丸印)との位置関係のみで考える。配置案1と2のケースでは、どちらが最適な配置であるかは一目瞭然である。トンキロを使って定量的に比較すると、配置案1が274トンキロであるのに対し、配置案2では83トンキロと3分の1以下となっている。つまり、配送先との関係のみで物流施設の最適配置を求めるというのは、輸送コストである配送量(需要量)×距離の総計が最小となるような物流施設の配置を求めることである。これは、配送量(需要量)をQ、距離をDとおくと、式(1)のように定式化することができる。なお、距離については、道路距離の方が好ましいが、計算が煩雑になるため、直線距離(ユークリッド距離)を用いる。

    Minimize ΣQ*D 式(1)
    図1 配送先からみた物流センターの配置案の比較
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    定式化ができれば、プログラムや汎用ソルバーを用いて、計算問題を解く。Microsoft Excelにもソルバー機能は備わっており、図2のような問題であれば簡単に最適配置を求めることができる。配送先はdepot_1~5の5か所であり、それぞれ需要量(Q)がある。散布図では、depotの位置と需要量の大きさを円で示している。物流センターDCと各配送先の距離(D)はユークリッド距離により算出し、Q*Dによりコストを求める。まず、初期値としてDCのx,y座標を(0,0)としておく(散布図の緑の四角)、このときのQ*Dの合計である総コストは、緑のセルの473.42である。ソルバー機能を使って、計算する際は、赤のセルの総コストが最小になるように、DC(最適地)のx,y座標を変化させる。その結果、座標(5.64, 3.66)の位置(散布図の赤い四角)が物流センターの最適配置であり、総コストは226.01である。
    以上のようにして、最適配置が求まったわけであるが、物流センターは2次元の座標平面上であれば、どの場所にでも自由に配置できる。つまり、x,y座標のどのような値(連続量)をとることもできる。こうした連続量を扱う配置問題をweber問題という。しかしながら、何処にでも自由に施設を配置するというのは非現実的であり、物流センターなどの施設の配置を検討する際は、候補地から選定するケースが多い。このような問題に対応するため、複数の候補地の中からp箇所を選ぶ配置問題のことをp-median問題という。図3に示すように、配送先であるdepotの条件は先ほどと同様であるが、物流センターDCの候補地が4か所(DC_1~4)与えられ、その中から最適な配置を選択する。1か所(p=1)のみ選択する場合、図2の結果に近いDC_3が良さそうである。2か所(p=2)であれば、どうであろうか。1つ目はDC_3、2つ目はDC_3から離れているdepot_1をカバーするために、DC_2が選ばれそうである。実際にExcel以外のソルバーで計算した結果(注2)、p=2の場合であれば、DC_2とDC_3が選択され、総コストは165.96であった。
    一見すると、p-median問題も容易に最適解が得られるように思えるが、weber問題が連続量を扱う問題であるに対し、p-median問題は候補の中から選択する(選択:1、非選択:0)

    図2 weber問題による物流センターの配置案の検討
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。
    図3 p-median問題による物流センターの配置案の検討
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    離散問題である。離散問題は組み合わせ問題であり、計算量(組み合わせの数)が膨大になり、PCの性能が向上したとしても解くことが難しいことで知られている。

    4.ソルバーの能力向上がもたらした成果

    式(2)が、宅配事業者の物流ネットワークの効率性を検証するために定式化したp-median問題である。今までの説明と同様に、Qは需要量(宅配貨物量)、Dは直線距離であり、これらは連続量であるものの、yjとxijが{0,1}の離散量となっている。yjは、上位拠点を候補地jに立地させる否かを示す変数であり、xijは、下位拠点iが上位拠点jに属するか否かの変数である。こうした連続量と離散量の両方が含まれる問題を、混合整数線形計画問題(MILP:Mixed Integer Linear Programming)と呼ぶが、離散量である整数が含まれることから、先に述べた通り、計算の難易度は高い。このため、当初、近畿2府4県を対象に物流ネットワークの効率性を検証しようとしたが、断念し、兵庫県のみに限定したという経緯がある。ただし、これは論文の信憑性を脅かすものではない。

    式(2)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    近畿圏の検証結果に入る前に、今回解析に使用したソルバーエンジンであるGurobi Optimizerの能力向上に触れたい。Gurobiは 2008年に、Robert Bixby氏、Edward Rothberg氏、Zonghao Gu氏、の3氏によって開発される。図4は、MILPを対象としたベンチマークテストの結果である。最初のリリースのバージョン1.1では解けない問題が1,800あったのに対し、改良を重ねた結果、2024年11月にリリースされた最新のバージョン12.0では、未解決問題が200まで、大幅に減少している。同様に計算スピード(図中の第2軸)も初期バージョンに比べて、最新バージョンでは91%と大幅に向上している。このように、Gurobi Optimizerはソルバーエンジンとしての能力向上が著しい。

    Gurobi社のホームページを参考に筆者作成
    図4 ソルバーエンジン(Gurobi Optimizer)の能力向上
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    分析結果の詳述は避けるが、Gurobiをソルバーエンジンとすることにより、近畿圏(2府4県)の宅配網の物流ネットワークの効率性を検証することが可能となった。もちろん、PCスペックの向上による影響も無視できないと思うが、普段使っているPC(CPU:Intel 3.10GHz、RAM:16.0GB)は、それほど高性能というわけでもない。なお、20年前のPCのスペックは、CPU:Intel 2.26GHz、RAM:1.0GBである。専門家ではないので、PCの性能向上なのか、ソルバーエンジンの能力向上なのか、どちらが問題を解くのに強く影響したかを見極めることはできないし、その点に強い関心があるわけでもない。それよりも20年前に解けなかった問題が、わずか1秒もかからず(0.64s)解けたことに感動した。

    あとがき

    Gurobiは、ソルバーのため、実際の問題(p-median)を解くためには、プログラムを組む必要がある。達人たちのホームページを拝見すると、言語にPythonを使っているケースが大半だったことから、新しい言語にチャレンジした。プログラム言語を触るのも久しぶりなため(前々職の高専時代以来)、相当苦戦した。というより、途中から自分では組める気がしなかったので、ダメもとでChatGPTにお願いしてみた。普段、あまりChatGPTを使うことが無かったので、半信半疑だったが、何回かのやり取りで、こちらが希望する通りのプログラムを組んでくれた。コードも簡潔で分かりやすく、これには驚かされた(もう、プログラムを習得する必要がないじゃないかと)。このあたりの苦労話(?)も機会があれば、してみたい。また、近畿圏の分析結果は、フィジカルインターネットセンターとの共同研究のため、承諾が得られれば、こちらも話題提供したい。


    【補注】
    (1)2006年以降(1990年-2005年は特集タイトルのみ)の機関誌記事全文検索
    (2)事例で取り上げた簡易な問題であれば、Excelでも算出可能であるが、計算手順が煩雑になり、一般的ではないため、汎用ソルバーにて計算。
    【参考文献・URL】
    1)田中康仁, 小谷通泰,「宅配貨物輸送における配送拠点の最適配置計画に関する分析」,土木計画学研究・論文集,Vol.23,no.3,pp.779-787,2006年
    2)https://www.gurobi.com/ (2025/09/03閲覧)


    (C)2025 Yasuhito Tanaka & Sakata Warehouse, Inc.

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第549号「近畿大学におけるロジスティクス教育の源流 ~交通論と倉庫論~」(2025年2月7日発行) /logistics-549/ /logistics-549/#respond Thu, 06 Feb 2025 00:00:00 +0000 /?p=20726 執筆者 髙橋 愛典 (近畿大学経営学部教授)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1974年千葉市生まれ。1996年早稲田大学政治経済学部卒業、 2005年同大学大学院にて博士(商学)取得。 早稲田大学商学部助手、近 […]

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執筆者 髙橋 愛典
(近畿大学経営学部教授)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1974年千葉市生まれ。1996年早稲田大学政治経済学部卒業、
      2005年同大学大学院にて博士(商学)取得。
      早稲田大学商学部助手、近畿大学商経学部講師等を経て、2013年より現職。
    • 主な著書に『地域交通政策の新展開』(白桃書房、2006年)、
      『日本社会に生きる中小企業』(共著、中央経済社、2017年)、
      『まちづくりの統計学』(共著、学芸出版社、2022年)がある。

 

目次

  • はじめに:筆者の教員としての出生の秘密
  • 1 「倉庫論」と有田喜十郎先生
  • 2 平成後半の「ロジスティクス論」
  • 3 物流・ロジスティクスにおける「交通論」の意味
  • 4 物流情報の扱われ方:「おまけ」から「しんがり」へ
  • おわりに:経済のサービス化・情報化を踏まえて
  •   

    はじめに:筆者の教員としての出生の秘密

     筆者が2002年に近畿大学(以下「近大」)の商経学部(当時)に着任して、すでに20年以上が経過している。担当科目は一貫して「ロジスティクス論」であるが、筆者自身、学生時代は交通経済学のゼミに属し、旅客交通(自転車、都市鉄道、バス)の研究こそを柱としていたのも確かである。近大に来て、旅客から貨物に研究対象を単純に乗り換えたわけではなく、ヒトとモノを並行してボチボチ研究を進めている。近大には交通経済学の大御所、斎藤峻彦先生がおられ、着任直後から実質的な指導教授として公私にわたり大変お世話になったが、筆者は斎藤先生の後任に当たるわけではない。それなら筆者が近大に職を得ることができたのは、どのような巡りあわせだろうか。

    1 「倉庫論」と有田喜十郎先生

     着任して数年経った頃、難波の古書店で、有田喜十郎『改訂 倉庫論講義』(新東洋出版社、1981年)を入手した。かつての大阪球場のスタンド下に古書店街があったことを覚えているが、この店はそこから道を挟んだところに移転したようである。同じ棚に近大法学部の教科書らしき本が並んでいたところを見ると、1980年代の近大生が、単位を取った後に売り払ったものだろう。
     有田先生のご経歴は、本書の奥付にも載っていなかったが、今頃になって気になってきた。大学図書館でレファレンスを依頼したり、学生センター(近大は教務の窓口を近年そう呼んでいる)で以前の講義要項(シラバス)を閲覧したりして、昭和の頃の近大におけるロジスティクス教育の源流が、おぼろげながらわかってきた。
     有田先生は1909年福岡県生まれ、大分県中津の商業学校(現在の商業高校)を卒業された後、大阪に本社がある住友倉庫に入社された。勤務の傍ら、戦前のうちに日本大学大阪専門学校(近大の前身)と立命館大学(旧制)を卒業され、戦後には倉荷証券に関する研究成果をもって関西学院大学で法学博士号を取得された。その時分には住友倉庫で監査役・取締役を歴任されるほどであったが、1969年に近大に戻られて法学部教授に就任、法学部長を務められ、退職して名誉教授に就任された後も大学本部の監事をされていた。
     有田先生は法学部で「商法」を担当される傍ら、商経学部(現在の経営学部および経済学部)にも出講され「倉庫論」を担当されていた。講義要項によれば、有田先生が商経学部で倉庫論を担当されていたのは1986年度までで、1988年度からは不開講の扱いとなっている。1988年といえば昭和でいうと63年、まさに昭和が終わるタイミングであった。

    2 平成後半の「ロジスティクス論」

     平成に入ってからの講義要項のページをめくると、倉庫論が1997年度に「ロジスティックス論」に変わったことに気づく。この時期、ビジネスの世界でロジスティクスの概念が定着しつつあったのは確かであり、筆者がこの語を初めて耳にしたのもその少し前の1994年頃であった(確か、DHLのテレビCMだったはずである)。とはいえ、不開講はその後もしばらく続き、筆者が着任して何はともあれ空白が埋まったのである。
     こうしてようやく、筆者の前任が有田先生であることが明確になった。どの大学でも法学部には商法の教員は複数いるだろうが、その中に商学部系統の倉庫論まで担当できる教員がいたことは稀に違いない。近大に、交通論とも商法とも別にロジスティクス論の教員が置かれ、その枠に筆者が収まっていることはひとえに有田先生のおかげであり、そこに様々な偶然が重なったことがわかる。有田先生は2000年、つまり筆者がまだ母校で助手をしていた頃に亡くなられ、お会いする機会はなかった。

    3 物流・ロジスティクスにおける「交通論」の意味

     さてここでロジスティクス、というより物流(物的流通)の基礎理論に立ち返ってみよう。基礎理論といっても難しい話ではなく、業界の常識「6つの物流機能」を指す。具体的には輸送・保管・荷役・流通加工・包装・情報である。これらの物流機能を組み合わせて考えれば、物流拠点(「物流センター」「流通センター」など、企業と機能によって名称は異なる)で何が行われているかは、たちどころに理解できるようになる。
     物流機能を列挙するとき、必ず最初に並ぶのが輸送と保管であり、「二大機能」や「主要機能」と呼ばれる。アメリカから物的流通(physical distribution)の概念が導入され、6機能の統合が目指されるようになったのは高度成長期以降であるが、それまででも昭和戦前期から、旧制の高等商業学校・商科大学や私立大学商科には交通論と倉庫論が科目として並び立っていた。貨物の輸送と保管は、それぞれが科目として講じられるほどの内容を、100年前から誇っていたのである。
     わが国で明治30年代以降に商学の体系化が試みられた背景に、貿易商社(例えば三井物産)で即戦力となる人材を育成する必要性があった。商社にとって「交通」は、貿易・商取引を成り立たせる、海運や鉄道といった貨物輸送を意味していた。同じ時期に、商社だけでなく倉庫業に進出することで、企業集団としての基礎を固めていった財閥も目につく。
     思い返すに斎藤先生は、商経学部では商学科で「交通論」、経済学科で「交通経済学」を担当されていたが、交通論については近大に着任されたとき(1971年)は「運輸論」という科目名だったのを変更してもらった、とおっしゃっていた。その真意を聞きそびれたことは、斎藤先生が2018年に急逝されたゆえ惜しまれる。とはいえ今になって考えると、運輸論という科目名は、あくまで貨物輸送を中心に講じられていた名残ではなかったか。斎藤先生は博識で、貨物輸送に関する造詣も深くていらしたが、研究上のご関心は鉄道、とりわけ旅客輸送が中心であった。

    4 物流情報の扱われ方:「おまけ」から「しんがり」へ

     1990年代以降のロジスティクスの時代になると、物流機能の中でも、輸送・保管「じゃないほう」、つまり「残り」の4機能が持つ意味が増していった。苦瀬博仁『付加価値創造のロジスティクス』(税務経理協会、1999年)がこれらを「物流サービス機能」と括り直し、経済全体のサービス化との関連を議論したことは意義深い。
     大学教育においては、1991年の大学設置基準大綱化に伴って「必置科目」の制度がなくなり、商学部や関連する学部・学科で交通論を置き続ける意味が薄れた。倉庫論はこの時点で、半期ないし通年の講義を担当できる教員の存在自体が、それまで以上に稀になっていたに違いない。この時期に、交通論や倉庫論がいよいよ「物流論」や「ロジスティクス論」に衣替えしていった大学は、多かったように記憶する。近大がその一つであったことはすでに指摘した。
     その中で位置づけが大きく変わったのが(物流)情報である。情報は目に見えず捉えどころがなく、重要であることはわかっていても、物流機能を列挙するとき最後に「おまけ」のようにぶら下がっていた感が、かつては強かった。しかしいうまでもなく、通信とコンピュータ、いいかえれば情報システムとネットワークの進歩によって「しんがり」ないしは「まとめ役」へと位置づけが変わっていった。つまり情報機能が、他の5つの物流機能を統合し、物流ないしはロジスティクスとして機能させる役割を担うと認識されるようになったのである。
     このような、情報が媒介となって諸々を統合するという機能が、企業経営それ自体、そして経営学においても重要視されるようになった。四大経営資源たる「ヒト・モノ・カネ・情報」を列挙したとき、「なぜ「情報」だけ漢字なんですか?」という質問を受けた経験が筆者にはある。「情報化社会が到来した後に追加されたから」としか、とっさには答えようがなかった。しかし、経済・社会の情報化が一層進展するに伴い、企業さらにはサプライチェーンが情報(システムとその供給企業)に振り回される事態が見られるようになった。
     四大経営資源に沿えば、経営学はヒト=人的資源(労務)管理論、モノ=生産管理論、カネ=財務管理論、情報=情報管理論の各論に一応は分解できようが、しんがりに控える経営情報(情報管理)論の位置づけが大きくなっている。とはいえ、経営(学)における情報の位置づけを見定めることは、今なお難しいように感じる。大学教育として、情報リテラシーを教えて事足れりとするのでもなく、情報システムとビジネスモデルに関するバズワード(buzz word)の説明に終始するでもなく、システムエンジニア(以下「SE」)の養成に走るでもなく…と考えると、後に残るのは何であろうか。筆者のゼミ生も、2年に1人程度、つまり30~40名に1人は、卒業後にSEとして就職していく。本当は「ロジスティクスに強いSE」をゼミから輩出したいのだが、物流(機能)における情報の役割と、ここで見た経営情報論を接続して教えることは難しいというのが正直な思いである。

    おわりに:経済のサービス化・情報化を踏まえて

     交通論と倉庫論という源流に立ち返った上で、今後の展望を示したい。
     経済活動のサービス化は現在に至るまで、とどまるところを知らない。そのサービスについて、高等教育機関(前述した旧制の高等商業学校・商科大学・私立大学商科)で最初に講じられるようになったのが、科目名でいうと交通論と倉庫論であったことは、改めて特筆に値する。貨物の輸送と保管、あるいはそれをビジネスさらには使命とする運送業と倉庫業が、わが国におけるサービス(業)の教育と研究の原点に位置付けられるのである。それが各種サービスに関する、無形財(intangible goods)としての一般論に影響を与え、例えば観光論にも応用されるようになった。筆者個人としては、物流と観光の出会いさえ、今なお夢見ている(髙橋愛典「都市における「物流観光」の可能性」『都市研究』第14号、2014年)。
     サービス化の延長にあって情報化と関連付けられるのが”○○ as a Service”であり、”○○”にいろいろなものが当てはまるので”XaaS”と総称される。その嚆矢が”Software”であり”SaaS”、つまり情報通信技術の発展を通じたアプリケーション・ソフトウェアのクラウド・コンピューティングであったことは論を待たない。その後、”MaaS(Mobility as a Service)”という用語も、一時は熱狂をもって迎えられた。そのモビリティが貨物(cargo)を扱う「カーゴ・モビリティ」としても展開される(野尻亘「物流クライシスとカーゴ・モビリティ」『現代思想』2018年3月号)ことに、引き続き注目したい。


    (C)2025 Yoshinori Takahashi & Sakata Warehouse, Inc.

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第532号 物流共同化の過去・現在・未来についての一考察(2024年5月21日発行) /logistics-532/ /logistics-532/#respond Tue, 21 May 2024 00:00:00 +0000 /?p=20215 執筆者 浜崎 章洋 (大阪産業大学 経営学部商学科 教授)  執筆者略歴 ▼ 略歴 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。 タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会 […]

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執筆者 浜崎 章洋
(大阪産業大学 経営学部商学科 教授)

 執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1969年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。
    • タキイ種苗、日本ロジスティクスシステム協会、コンサルティング会社設立を経て現職。
    • 2004年度、2013年度日本物流学会賞、第12回鉄道貨物振興奨励賞特別賞受賞。
    著書
    • 『改定第2版 ロジスティクスの基礎知識』(海事プレス社)
    • 『物流コストの算定・管理のすべて』(共著、創成社)
    • 『ロジスティクス・オペレーション2級』(共著、社会保険研究所)
    • 『通販物流』(共著、海事プレス社) など

 本稿はサカタグループ「第27回ワークショップセミナー」(/news/wksemi_27/)セッション1、「物流共同化の過去・現在・未来についての考察 ~物流共同化実態調査研究報告書より~」のダイジェスト版として掲載しています。
今後本セミナーの講演内容を編集し、「ロジスティクス・レビュー」へ掲載予定ですので、是非ご期待下さい。

目次

  • はじめに
  • 1. 共同配送のメリットと継続の要因
  • 2. 物流共同化の研究
  • 3. 物流共同化を推進するにあたって
  • さいごに
  •   

    はじめに

      一年くらい前から、新聞やテレビのニュースで「物流2024年問題」が取り上げられるようになったと思います。それにともない、共同配送など「物流共同化」に関する記事が増えました。筆者は、所属している日本物流学会で、2006年ごろから「物流共同化」について、先生方と共同研究をしています。

    1. 共同配送のメリットと継続の要因

      輸送・保管・荷役・包装・流通加工・物流情報といった物流の6つの機能のうち、共同化のメリットが大きい共同配送について、そのメリットと成功要因を整理します。
    ・物流費の削減(輸送費だけでなく、例えば着荷主側の荷受け荷役費の削減など)
    ・物流の効率化(荷受業務の効率化、荷待ち時間の削減など)
    ・環境負荷の軽減(車両減によるCO2排出量削減など)
    このようにメリットが大きい共同配送ですが、さまざまな理由で継続できないケースが
    あるかと思います。共同配送が継続しているケースでは、次のような要因が挙げられます。
    ・物理的な制約(百貨店など納品先側に制約がある、過疎地など1荷主では荷量が少ないなど)
    ・取引先/納品先からの要望(コンビニ等の一括物流など)
    ・エコノミーとエコロジーの両立(物流費削減と環境負荷軽減の両立)

    2. 物流共同化の研究

      筆者は、日本物流学会の先生方と、2006年ごろから物流共同化について共同研究をしています。その成果は、2008、2012、2018、2023の約5年ごとに、「物流共同化実態調査研究報告書」として報告書を発刊しています(2023報告書は近々発刊の予定)。
    物流共同化の事例を報告書では、次のように分類しています。
    ①共同出資による共同物流運営会社等を設立しているケース
    ②協同組合・連合・協議会等を作って共同化を図るケース
    ③流通業に見られる一括物流のケース
    ④物流事業者主導により共同化を行うケース
    ⑤個別企業が複数集まり共同化を行うケース
    ⑥業務提携・資本提携の結果、共同化が図られるケース
    ⑦貨客(客貨)混載サービスにより共同化が図られるケース
    ⑧製造業・流通業・サービス業等の1企業が行う共同化事例
    ⑨賞や公的機関の取り組み事例

    2018の報告書から、⑧貨客(客貨)混載の事例が急増しました。貨客混載とは、路線バスに宅配便の貨物を積載して輸送するなど、旅客と貨物を混載するものです。地域の路線バスにとっては新たな収益源の確保により路線維持に、宅配便会社にとっては効率の悪いエリアの効率化やサービス向上につながります。路線バス以外に、タクシーや鉄道を利用したものもあります。また、宅配便の貨物だけでなく、地域の特産品などを高速バスで輸送し都市
    部で販売するなど、地域経済の活性化に役立っている例もあります。
    また、2018の報告書では、コンテナのラウンドユース、中継輸送、館内物流などの事例も増加しています。
    2023の報告書では、⑧製造業・流通業・サービス業等の1企業が行う共同化事例、⑨賞や公的機関の取り組み事例が増えています。
    ⑧は、例えば、すでに自前で物流インフラをお持ちの企業が「うちの物流インフラを利用しませんか?」と同業他社等に物流共同化を持ちかけたりするものです。⑨は、物流共同化の事例が官庁等に表彰されたり、公的機関と地域の企業等が物流共同化の実証実験をするなどといったケースです。
    従来の①~⑥は、物流費削減や物流効率化、環境負荷軽減が主目的と思われます。一方、⑦~⑨やコンテナラウンドユース、中継輸送、館内物流は、それらに加えて、トラックドライバー不足や労働力不足に対応し、物流の持続性も視野に入れたものと思われます。

    3. 物流共同化を推進するにあたって

      物流共同化を推進するにあたって、筆者が重要だと思っていることは、「標準化」と「エゴの排除」です。
    「標準化」には、「運用や規格を標準化する」、「誰にでもできるようにする」という2つの意味がありますが、本稿では、物流共同化を推進するために重要な運用や規格等の標準化について説明します。「運用・管理の標準化」とは、物流共同化に参加する企業の情報システムや運用ルールに関する標準化です。次に、伝票、荷姿、パレットのサイズ、外装段ボールのサイズ、外装表示などの標準化です。これらの標準化がないまま、物流共同化を進めようとすると、事務や現場の負担が大きくなり、継続が難しくなります。荷姿や外装表示を標準化することは、物流部門だけでは取り組めず、製造部門なども理解や協力が必要です。
    「エゴの排除」とは、例えば発荷主の営業担当者等からの、①競合他社に納品価格(納品数量)がわかってしまう、②当社の納品条件、出荷時間を優先できるのか などといったエゴ(不安や不満という言葉に置き換えられるかもしれません)を排除することです。営業担当者等が不安なことも理解できますが、物流2024年問題等で「運べなくなる、納品できなくなる」リスクがあります。
    筆者は、物流は経営問題と捉えています。物流共同化を推進するにあたっては、製造部門や営業部門の理解や協力が必要なので、経営層からのトップダウンで、物流共同化を推進していく必要があるのではないでしょうか。

    さいごに

      物流共同化は、物流のコスト削減や効率化、環境負荷軽減などだけでなく、ドライバー不足や人手不足の対応としても注目されています。また、これまでは、販売物流(納品)や幹線輸送の共同化の事例が多いですが、今後は、調達物流、返品物流など共同化の領域が拡大していくと思われます。
    トラック運転者への時間外労働の上限規制の適用(年960時間以内)の「物流2024年問題」への対応は、「ゴール」ではなく「スタート」であると筆者は認識しています。今後、規制は、もっと厳しくなると思われます。
    物流2024年問題への対応だけではなく、市民が安心安全に暮らせるよう物流を止めないためにも、経営層に物流共同化の重要性をご理解いただければと切に願います。


    【参考資料】
    日本物流学会(2008)『2008 物流共同化実態調査研究報告書』
    日本物流学会(2012)『2012 物流共同化実態調査研究報告書』
    日本物流学会(2018)『2018 物流共同化実態調査研究報告書』
    日本物流学会(2023)『2023 物流共同化実態調査研究報告書』(発刊予定)
    中央職業能力開発協会編(2017)『ロジスティクス・オペレーション2級(第3版)』
    社会保険研究所
    津久井英喜・近藤武・藤原廣三(2010)『図解よくわかるこれからの物流改善』
    同文舘出版
    浜崎章洋(2020)『ロジスティクスの基礎知識(改訂第2版)』海事プレス社


    (C)2024 Akihiro Hamasaki & Sakata Warehouse, Inc.

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第512号 幅が広く、奥も深い「調達」物流(後編)~(2023年7月18日発行) /logistics-512/ /logistics-512/#respond Tue, 18 Jul 2023 00:00:00 +0000 /?p=19618 執筆者  長谷川 雅行 (株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2022年 株式会社NX総合研究所に社名変更
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • 日本物流学会会員
    • 日本SCM協会会員
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

*前号(2023年6月20日発行 第510号)より

目次


 

4.取りに行く物流

  3項の国際調達で説明したように、海外ではCIF取引が一般的なので、買い主(荷受人)が輸送手配することが多い。日本のような「届け先まで元払い」という「店着価格制」の方が少数派と言えよう。
  日本でも、最近は、買い主(荷受人)が輸送手配する「取りに行く物流」が、電気製品・精密機械・自動車など業界で増えている。
  「取りに行く物流」では、買い手(荷受人=組立メーカーなど)がトラックなどの輸送機関を手配して、売り手(荷送人=部品メーカーなど)のところへ集荷に行く。運賃は、買い手側が負担する。
  「取りに行く物流」を図3で説明する。

図3 取りに行く物流
(著者制作)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  従来は、売り手が「商品価格(80円)+物流費(20円)」の100円(物流費込みの納品価格)ということで納品していた。これが「店着価格制」である(図3の左半分)。
  売り手は、物流費を10円に削減できたが、左半分の( )内のように、売り手は「商品価格(90円)+物流費(10円)」と従来通りの100円で納品していた。
買い手側が納品価格の引き下げを求めても、売り手側は「物流費が高いので」と、なかなか応じない。そこで、買い手側から「安い運送会社(15円)を見つけたので、こちらから『取りに行く』方法に変える」と切り替える。
  これが「取りに行く物流」で、買い手側から見れば調達コスト削減につながる。具体的な事例としては、後述の(3)ホームセンターZ社の事例を参照して頂きたい。
  実際には、商慣行なども絡むので、このように簡単ではないが、ここでは説明のために簡単なモデル化をしている。
v買い手側を巡回集荷するのが「ミルクラン方式」と呼ばれる(図4)。これは乳業メーカーが牧場を回って、生乳を集荷して来る方法から名付けられた。

図4 ミルクラン方式
(出所)中小企業庁ほか「物流総合効率化法の活用ガイドブック」
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  「店着価格制」から「取りに行く物流」に切り替えるには、従来の商慣行や取引先(運送業者)との調整などに時間を要し、トヨタ自動車でも九州に工場進出後、「取りに行く物流」に切り替えるまで長い期間を要したと言われている。
  精密機器メーカーF社の例では、F社担当者はミルクラン導入候補地域の各部品メーカーに出向いて、F者向けトラックに何度も同乗して、ミルクランの可否を検討した後に、各部品メーカーを説得して、同乗テストを繰り返しながら逐次導入したとのことである。
  それでは、筆者の拙い調達物流の経験を述べることにする。

(1)家電メーカーS社

  これは、失敗例である。
  家電メーカーS社は、T県の工場(事業部)でVTRを生産していた。同事業部の企画部門から「調達物流を検討したい」という要請で、「隣接S県の物流センターから一括納品してはどうか」と提案したところ、「具体的な検討を進める」ということになった。
  同事業所では、既に、一部の部品については、部品倉庫内に「預託倉庫(ベンダー在庫)」を設置・運用していた。
  さっそく、部品メーカーのリストと、アイテム別の納入額が示されたが、見てビックリした。端子や基板・コード等の中小部品メーカーだけでなく、M社やT社という家電のトップメーカーが入っていた。そこで分かったのは、S社は基幹部品を含めて自社生産しておらず、単なる組立だけのアセンブリーメーカーであった。
  M社は、自社でもVTRを生産しているが、同業他社に部品も供給していた。今日のM社(Pホールディングスに社名変更)では、自動車部品などが高収益部門となっているが、自社ブランドにこだわらずに、「部品でも儲ける」という経営方針と思われる。
  どうやって、M社・T社を含めた調達物流を構築するか悩んでいたところ、S社事業部から「S社のバイイングパワーで、M社・T社などを調達物流に変更させることはできないので、当面は中小部品メーカーから始めたい」と方針転換があった。その後、「中小部品メーカーは社数が多い(集荷先が多い)割に、納入額(想定数量)が少なく、調達物流に切り替えた効果も小さい」ことから、同事業部内で「当面は、従来の預託倉庫で運用することで見送り」となった。
  なお、「預託倉庫」については、5項で後述するように、公取委でも「下請法違反」とならないように運用については注意喚起がなされている。

(2)量販店I社

  筆者は量販店I社の担当として、3年間で合計6回の「お中元・お歳暮」専用のギフト物流センターと、宅配便でのギフト配送業務(こちらは通年で、「お中元・お歳暮」時期に急増する)を経験した。
  ギフト物流センターは、I社が繊維メーカーの空き工場をシーズンだけ借りて、ラッピング・出荷業務を受託していた。
  商品在庫についても、日々の出荷傾向を見ながら、問屋に発注(調達)する。「お中元・お歳暮」シーズンは、百貨店・GMS・スーパー・生協等々、いずれもピークを迎えるので、早めに発注しておかねばならないし、場合によってはセンターからトラックを仕立てて取りに行くこともある。
  かと言って、欠品を恐れて多めに発注(調達)すると、売れ残ってしまう。土日に店で売れたギフト配送注文書が月火曜日に届き、センターはラッピング・出荷に追われる。商品在庫がどんどん減っていく。とくに気を付けなければならないのがCランク商品で、お届け先が多い注文が複数入って安全在庫を割るとヒヤヒヤする。
  とくに地方名産品の場合は、発注しても納入までに日数を要するうえ、取引先はI社のような量販店よりも、ギフトに強く大量購入する百貨店を優先する傾向がある。急ぐ場合は航空便を利用しても、調達することになる。
  欠品した場合は、I社の責任になるが、調達物流の難しさを感じた。
  最大のトラブルは、前年の「お歳暮」時に余った「お歳暮」シールを、間違えて「お中元」時に貼ってしまったクレームだった(I社内部では、「副資材の在庫保管方法が悪い」とされた)。
  ギフトセンターの倉庫の一画は、大手食品卸売業2社が臨時にI社から借りて、飲料・調味料・食用油などのギフト定番詰合せ商品(Aランク品)を保管し、I社のギフト出荷オーダーに応じて、食品卸2社の担当者がI社に納品していた。納品と言っても、壁一つ向こう側の倉庫から総量ピッキングされた商品をロールボックスで運んで来るだけで、在庫補充や在庫管理は、食品卸2社の責任で、I社がロールボックスで荷受けした際に、所有権が移る。
  当時はVMI(Vender Managed Inventory)などという言葉は使われていなかったが、まさにVMIそのものであった。

(3)ホームセンターZ社

  筆者は、ベンダーからの調達集荷という最終局面で、わずかに手伝ったに過ぎない。
  中国地方のホームセンターZ社は、従来は、全国に散在するベンダーから、Z社の各店別に分けて2カ所の物流センターにセンター納品させていた(物流センターまでの運賃は納
品価格込み、センター→店舗間の配送はセンターフィーで、いずれもベンダー負担)。
  それを、図5のように、Z社が各ベンダーに青色・緑色の2種類のオリコンを貸し出して、センター別に総量納品する方式に変更し、ベンダーにはZ社指定の特別積合せ運送業者(路線業者)P社が集荷する。P社にはZ社が運賃を支払う(図の赤線表示)ので、ベンダーは、従来の運賃込みの納入価格から、運賃相当分を減額した納入価格に引き下げる。
  また、梱包用の段ボールが不要(オリコン納品)となるので、段ボール資材費に代えてオリコン使用料をZ社に支払う(センターフィーは従前どおり)。
  「取りに行く物流」の広域バージョンと言えよう。

(筆者作成)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  

(4)PKS(パソコン・キッティング・サービス)

  2023年3月3日付の日経新聞に、「起業家デル氏、しぶとく40年 居場所を守る変身の経営」と題する、デル・コンピュータの創業者マイケル・デル氏の記事が久々に出ていた。
  デル氏が1984年の創業時に導入したPC通販「デル・ダイレクト・モデル」は、「調達物流」を活用した徹底的なSCM構築によって在庫を極力持たない「注文生産(BTO)」と、流通における中間マージンを排除した「通信販売」によりという仕組みで、1990年代における同社躍進の原動力となった。
  デル日本法人のHPでは、「『デル・ダイレクト・モデル(デル・モデル)』は、デル社がその顧客志向の企業理念に基づいて開発した独自のビジネス・モデルです。メーカーのデルがお客様とのダイレクトな関係を築くことにより、製品の品質・性能・価格・納期・サービスなどあらゆる面において常に最高の『バリュー(価値)』をお客様にご提供することがデル・モデルの基本思想であり、1984年の創業時からデルのすべての事業活動の根幹となっています。また、近年はインターネットの積極的な取り込みによってデル・モデルの効率が一層加速され、サービス提供のスピード、価格、より高度なカスタマイズへの対応など、あらゆる側面でお客様へのバリューを高めています」と述べている。
  主な特徴は、顧客から受注に応じて、CPU・メモリ・ハードディスク・ディスプレイを調達し、短期間でカスタマイズして組み立てる注文生産(BTO=Build To Order)で、組み立てられた製品は宅配便で個客に届くことである。
  トヨタの「カンバン方式」が、世界中の自動車メーカーの生産方式に影響を与えたように、この「デル・ダイレクト・モデル」は、他のPCメーカーにも影響を与えた。
  B社も日本国内で同じような生産方式を導入したが、それを筆者の勤務先N社で受注したのがPKS(パソコン・キッティング・サービス)である。
  K県の物流センター内にB社の「組立工場」を開設した。PC組立は「製造物責任(PL)法」が関係するので、専門会社のY社が組立を担当した。
  組立てられたPCには、物流センターの作業者により顧客ごとに必要なアプリケーションがインストールされ、取扱マニュアルや付属品をセット・梱包し、宅配便で出荷されていた。
  PCの筐体・CPU・メモリ・ハードディスク・ディスプレイ・キーボード等の部品、取扱マニュアル(当時は冊子だった)、アプリケーションソフトのCD、梱包資材等は、各ベンダーから調達して物流センター内で保管し、B社が受注生産するつど、各ベンダーからBに納入されるというVMIであった。
  その後、B社のPC事業はブランドごと中国のL社に売却され、中国生産になったので、PKSも自然消滅してしまった。
その後、L社は、日本のC社からもPC事業を買収し、一部のPCはY県にある元C社事業所で生産している(大半は中国製である)。
  PKSのような、「調達→加工組立(流通加工)→保管→輸配送」業務は、3PL事業者でも受託しているケースが多い。また、輸入自動車のPDI(Pre Delivery Inspection=納車前の点検整備)などでも、国内の保安基準に適合させるため一部部品を交換するが、国内部品メーカーからの調達を含めて3PL事業者が受注している例がある。
  本項冒頭の新聞記事では、PCからスマホ、そして生成AIへとICT産業が変化しているなかで、デル氏とデル社が「デル・ダイレクト・モデル」のような斬新なモデルを再び打ち出すことに期待したい。
  なお、2022年10月6日のロジスティクス・レビューNo.493に、サカタウエアハウス社の小川千晴氏による「情報・製造・流通 フルフィルメント・サービスのご紹介~付加価値物流サービスによる品質向上と業務効率化~」が掲載されているが、このフルフィルメント・サービスは調達物流にも応用できると思う。

5.さまざまな「調達物流」

ここでは、1~4項で触れた「調達物流」関連の項目について、誌面の都合もあるので「VMI」と「原産地証明」について触れることにする。

(1)VMI

  4-(2)項でも触れたVMIは、ロジスティクス用語辞典によれば「ベンダー主導型在庫管理。『ベンダー』とは『サプライヤー』とほぼ同じ意味で、商品の供給者を指す。VMIとは供給する側と供給される側において、供給する側が供給される側の需要予測情報や在庫状況をリアルタイムに把握できる状況下で、供給する側が適正な在庫量を算出し在庫を送り込む在庫管理手法である。供給される側は出荷データ、在庫データを供給する側に対して開示するが、発注をすることはしない(以下、略)」とされている。
  これは、供給される側から見れば、発注こそしていないが安定的に部品・材料等を調達する「調達物流」の一環である。
  なお、本項では、供給する側のベンダー・サプライヤーを総じて「ベンダー」、供給される側を「顧客」という。
  VMIの創始は、「顧客の家庭に常備薬を置いて、後日、服用した分だけ支払う」という「富山の薬売り商法」と言われている。富山県には医薬品製造が盛んであるが、この「配置販売業」からスタートした企業が多い。「配置販売業」は、医薬品の販売業の業態の一つで、医薬品医療機器等法(薬機法=旧・薬事法)で規定されている。
  また、最近「外食テロ」として話題となっている「回転ずし」も、VMIである。「すし」がレーンを回っている間はベンダー(店)の在庫で、レーンから皿を取れば顧客が「消費」したとして料金の支払い義務が生ずる。VMIも、意外と身近なところにある。
  4-(2)項の当時は、I社も食品卸2社も(もちろんN社も)VMIとは言っていなかったが、食品卸2社の頭文字から「MM在庫」として、在庫管理上は区分していた。
  現在のVMIは、4-(4)項で述べたデル社が1990年代初頭に取り組んだ調達物流の改革プロジェクトである「デル・ダイレクト・モデル」が始まりとされている。その後、日本にも紹介され、1990年代の後半から4-(4)項のB社など電機・通信機器・精密機器メーカーで調達コストの削減とリードタイムの短縮を目的として導入されている。
①ベンダーのメリット
  より正確でリアルタイムな顧客(供給される側)の需要予測情報や在庫状況に応じて納品できるため、生産数の調整や販売予測を立てやすくなり、生産性の向上が見込まれる。また、ベンダーとしても無駄な在庫を抱えずに済む。顧客の囲い込みもできる。
②顧客のメリット
  顧客の手元(工場や物流センター)に在庫があり、必要な時に必要な分だけの納品が約束されているので、部品等が欠品して生産が停まるリスクの低減が期待できる。在庫投資や金利、在庫管理費用が不要となる。
③VMI在庫の所有権
  通常は4-(4)項の食品卸2社とI社のように、VMI在庫の所有権はベンダー(食品卸2社)側の倉庫から商品が出た時点で顧客(I社)側に移転する。事前に特段の取り決めが無ければ、ベンダー側の倉庫から商品が出ない限り、顧客側へ引き取り責任は発生しない。
④独禁法とVMI
  公取委では預託倉庫について、独禁法上の「優越的地位の濫用」にならないか注視している(センターフィーについてもグレー視している)。全量取引契約を結んだ預託倉庫の場合は、生産・販売計画の変更が生じて全量引き取らないと、顧客側に全量引き取りの責任が生じる場合があるので注意する必要がある。
  VMIも同様に、ベンダー・顧客間で、現品の引渡し・在庫責任・管理方法などについて事前に文書を取り交わしておかないと、未引き取りなどトラブルが生じた場合「優越的地位の濫用」になる恐れがある。
  組立メーカーと部品メーカー(サプライヤーあるいはベンダー)との力関係からは、「在庫管理責任を川上に押し付けている」「自社の手元にあるが棚卸資産(所有権)ではないので、見かけ上のROI(Return On Investment=投下資本利益率)を良くしている」ような気がしてならない。3-(4)項の「デル・ダイレクト・モデル」も「PKS」も、そこが肝ではないだろうか。
⑤国際的VMIとバイヤーズ・コンソリデーション
  VMIを国際物流においても導入したのが、「国際VMI」であり、輸入物流で導入されているバイヤーズ・コンソリデーションも、国際VMI即ち調達物流の一類型と言えよう。
  バイヤーズ・コンソリデーション(Buyers Consolidation)は、ロジスティクス用語辞典によれば「国際調達物流において、個別調達先からの貨物量では1つのコンテナに満たない場合に、フォワーダーがバイヤーに代わって調達国での貨物を集めてコンテナ単位として輸送する方法である(以下、略)」とされている(図6)

(出所)山九 ホームページ
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

  

  バイヤーズ・コンソリデーションのメリットとしては、次のようなことが挙げられる。
・「コスト削減」
  物流の集約化、特に輸入国側での通関件数、配送を一本化できる。
・「リードタイム短縮とスケジュール管理」
  バラバラの船積み、リードタイムを一元管理し、指定倉庫入庫から到着までスケジュール管理ができる。
・「在庫圧縮」
  計画的に調達先に指定倉庫に搬入させ、スケジュールを管理・把握することで、輸入国側の在庫を圧縮できる。
・「不良品の圧縮」
  輸入商品の品質を、現地倉庫搬入時点で把握し、輸出国側で返品が可能である。以前は、日本に輸入してから、衣料品や靴に針が残っていないか「検針」などの「検査」をして、不良品は高い産廃処理費用を払って国内廃棄していた。

  3項で述べた、「国際バルク戦略港湾選定委員会」では、ウラジオストク・ナホトカ・ボ
ストーチヌイのロシアの極東港湾も視察した。最新のコンテナ港であるボストーチヌイでは、対応してくれた幹部社員が、どう見てもロシア人ではなかった。彼はドバイ人で、世界のメガCTオペレータの一つ、ドバイ・ポート・ワールド(DPW)が25%出資して、はるばる中東のドバイからロシア極東に進出しているのに驚いた。
  ウラジオストク港では、コンテナ船社であるロシア極東海運(FESCO)を訪問した。海運部門とロジスティクス部門の各担当役員と懇談する機会を得たので、「ロシアはWTO(World Trade Organization=世界貿易機関。自由貿易促進を目的に1995年設立)に加盟している。WTOでは非居住者在庫によるVMIを認めているが、なぜロシアは認めないのか」と筆者が尋ねたところ、「ロシアでも法律的には認めているが、実務として認めていない。どうしてもVMIをしたければ現地法人を置いて欲しい」と答えていた。LCL貨物の通関に何日も掛かるようなお国柄なので、とても非居住者在庫によるVMIは運用できないのではないかと思った(当時)。

(2)原産地証明

  資材、購買、外注管理、海外調達、原価企画、在庫・倉庫、品質管理等を担当されている
荷主には、ぜひお願いしたいことがある。また、輸入物流に携わっている物流事業者(フォ
ワーダー・通関業者等)は、ぜひ輸入者である荷主に提案して頂きたいことがある。
  それは、輸入における「原産地証明」の活用である。
  上記のWTOが設立され、自由貿易の促進のため、東京ラウンド・ドーハラウンドなどのWTO会合が開かれ、関税の低減が進められたが、その後、二国間あるいは数国間でFTA(Free Trade Act=自由貿易協定)やEPA(Economic Partnership Act=経済連携協定)を結ぶという流れに変わってきた。代表的なものとしては、日本と各国との間のFTA/EPAや、もっと大規模なTPP(Trans Pacific ocean economic Partnership act=環太平洋経済連携協定で、これもEPA)がある。
  FTA/EPAは、「貴国との間に限って関税を引き下げましょう」という取り決めであり、関税の減免措置を受ける(特別に税金を負けることから「特恵関税」という)ためには、非締結国の製品ではない「貴国製品であるという証明」が必要となる。これが「原産地証明.」である。
  原産地証明を説明すると長くなるが、誌面の都合もあるので簡記する。
  輸入(海外調達)に際して日本の輸入者(荷主)は、輸出国(原産国)から原産地証明を貨物に付けてもらえば、輸入関税が減免される。
  ところが、財務省の資料によれば、原産地証明により特恵関税を享受しているのは、「大手企業で70%、中小企業で30%」とされている。せっかく、財務省が「原産地証明があれば、税金を負けてあげますヨ」と言っているのに、利用していない輸入者が多いということである。
  輸入関税や内国消費税は、3項で述べた輸入価格(CIF価格)に課せられる。仮に「関税率は20%であるが、W国からの輸入は原産地証明があれば、特恵関税が適用されて半分の10%」とすれば、輸入価格の10%差は大きい。
  輸入価格は仕入高なので単純比較はできないが、2項で触れたJILS調査の「売上高物流コスト比率」5%前後と比べて、輸入関税率(低減前と低減後)をみて欲しい。いかに、輸入関税率が大きいかお分かりになると思う。これを負けさせない手はない。
  輸入関税を含めての「仕入高物流コスト比率」という統計データは、筆者も不勉強で見たことがないが、誰か調べて欲しいと思っている。
  原産地証明を活用しない理由には、「輸出者が原産地証明を書いてくれない」こともあるが、「輸入者は面倒なので、原産地証明を求めない」「原産地証明の活用を知らない」こともあるようだ。
  輸入貨物の全品目がFTA/EPAによる特恵関税を享受できるのではないが、輸入者(荷主)には声を大にして言いたい。「物流コストの削減よりも、原産地証明で輸入価格(調達コスト)を削減した方が儲かりますヨ」と。そして原産地証明の良いところは、「輸入者も輸出者も損をしない(輸入関税が減るので国が損する)」ということである。
  同じ調達物流コストであるが、国内のドレージ運賃を叩くより、輸出者に原産地証明を付けてもらう方が、コスト削減効果は大きい。TPPでは、これまでのFTA/EPAが「第三者証明」であったのに対し、輸出者の「自己証明」を認めており、原産地証明も簡便化されている(アメリカでは、フォワーダーが原産地証明している)。

  VMIや原産地証明の例をみても、「調達物流」の企業経営への寄与度は大きく、まだまだ改善の余地が残されているように思う。
  「調達」物流の幅の広さと奥の深さが、少しはご理解いただけただろうか?

  (筆者注)資材の調達には、MRP(Material Requirement Planning=資材所要量計画。JIS Z 8141 生産管理用語)が不可欠であるが、誌面の都合で説明できなかったので、別の機会にでも触れたい。また、下請法との関連や、コロナ禍や米中対立などによるサプライチェーンの断絶に伴う生産の国内回帰など、調達物流には数々の課題があるが、これも別の機会で述べたい。

【参考資料】
1.上原 修「購買・調達の実際」(日経文庫、2007年)
2.坂口 孝則「調達・購買の教科書 第2版」(日刊工業新聞社、2021年)
3.国土交通省「国際バルク戦略港湾の選定結果について」(2011年)
4.JIS Z 8141 2001「生産管理用語」(社)日本経営工学会編「生産管理用語辞典」(日本規格協会、2002)に収録
5.日通総合研究所編「ロジスティクス用語辞典」(日経文庫、2007年)
6.鈴木 暁 編著「国際物流の理論と実務 6訂版」(成山堂書店、2017年)
7.鈴木 邦成 著「トコトンやさしいSCMの本 第3版」(日刊工業新聞社、2020年)
8.小川 千晴「情報・製造・流通 フルフィルメント・サービスのご紹介~付加価値物流サービスによる品質向上と業務効率化~」(ロジスティクス・レビューNo.493、2022年)
9.国土交通省・中小企業庁・財務省関税局等の資料。日本能率協会・山九等のホームページ。日経新聞等、各誌紙の記事その他

以上



(C)2023 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第510号 幅が広く、奥も深い「調達」物流(前編)~(2023年6月20日発行) /logistics-510/ /logistics-510/#respond Tue, 20 Jun 2023 00:00:00 +0000 /?p=19454 執筆者  長谷川 雅行 (株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(株式会社NX総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    • 2022年 株式会社NX総合研究所に社名変更
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 流通経済大学客員講師
    • 港湾短期大学校非常勤講師
    • 日本物流学会会員
    • 日本SCM協会会員
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

本論文は、前編と後編の計2回に分けて掲載いたします。

目次

  • 1.はじめに~調達物流とは
  • 2.製造業における調達・購買業務
  • (1)調達・購買業務とは
  • (2)調達・購買業務の重要性
  • (3)CPOとPMI
  • 3.グローバル調達と国際バルク戦略港湾
  •  

    1.はじめに~調達物流とは

      物流を領域別に分類すると、一般的には「調達物流」「社内物流」「販売物流」「回収物流」の4つとなる(図1参照)。

    (筆者作成)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      本稿で取り上げるテーマは、原材料・部品等が納入メーカー(図1では「原材料納入メーカー」。サプライヤーあるいはベンダーと言う)等から届く「調達物流」である。
      図1では加工・組立を行うメーカー、即ち「製造業」を例示しているが、卸売業・小売業の「流通業」でも同様に、商品の仕入れに伴う物流が調達物流(procurement physical distribution)に相当する。
      また、製造業側から見た「調達物流」は、「原材料・部品納入メーカー」側から見れば「販売物流」となり、二面性を有していることが分かる。  さらに企業会計的に考えると、原材料・部品の価格は「運賃込みの納入価格」であることが多く、製造業側では納入に伴う運賃(原材料・部品納入メーカー負担)も「製造原価」となる。一方、販売物流に要する「支払運賃」は、企業会計としては「販売管理費」に計上されることが多い。このように、企業会計的には「運賃」も勘定科目が異なるという二面性を有している。
      そのため、例示した製造業など多くの荷主企業では、支払運賃については、物流部門が年間予算等で厳しい管理(物流コスト管理)を行う一方で、製造原価に含まれる納入運賃については、物流部門ではなく後述の調達・購買部門が管理することが多く、しかも「運賃込みの納入価格」なので、厳しい物流コスト管理が及んでいないことが多い。
      なお、JISにおいてロジスティクスとは、「物流の諸機能を高度化し,調達,生産,販売,回収などの分野を統合して,需要と供給の適正化をはかるとともに顧客満足を向上させ,あわせて環境保全及び安全対策をはじめ社会的課題への対応をめざす戦略的な経営管理」(原文のまま)と定義されており、調達も含まれている。
      筆者は、調達物流の「専門家」ではないが、これまでの経験から、物流の一領域で、社内(生産)物流・販売物流の前工程である調達物流は、意外と幅が広く、奥が深いと感じている次第であり、そのあたりを紹介したい。

    2.製造業における調達・購買業務

    (1)調達・購買業務とは

      それでは、製造業における調達・購買業務とは、どのような仕事であろうか。物流事業者として調達物流に食い込むにあたっては、まず「敵を知る」ことが重要である。
      JIS Z8141:2001「生産管理用語」では、「g)資材管理」で「2)調達」に関する用語を定めている。そこには、「7206 購買管理」「7207 購買計画」「7208 購買条件」「7209購買方針」「7210 国際購買」「7211 購買方式」と「購買」に関する用語が列記されている。
      なお、「7210 国際購買」即ち「海外調達」に関する物流は、3項以下で、「原産地証明」等を含めて後述する。
      調達(procurement)の方が、購買(purchase)より上位で広範な概念のようである。
      生産管理用語辞典などでは、調達とは「必要なものを整え、それを要求者に届けること」であり、購買は「必要なものを買い入れること」とされていることが多い。「届ける」意味合いを含むので「調達物流」というが、「購買物流」とはいわないのかも知れない。
      そう言えば、アメリカの電話帳でウォルマートの項には、電話番号では記載されておらず「No EDI,No PO」と書かれていると聞いたことがある。「(商談は)EDIでなければ、purchase order(購買発注)はしない」ということであり、ウォルマートが商品を求めて世界中からprocurement(調達)するのは別だということだろうか。
      参考文献に掲げた「調達・購買の教科書」は、調達・購買人材スキルが、「調達・購買業務基礎」「コスト削減・見積り査定」「海外調達・輸入推進」「サプライヤマネジメント」「生産・モノづくり・工場の見方」(以上、原文のまま)の5つの軸で書かれており、調達・購買プロフェッショナルの育成を目指している。
      本ロジスティクス・レビューNo.486~487「高度物流人財になろう」の拙稿では、高度物流人財とされる幾つかの資格について紹介したが、「調達・購買人材」についても幾つかの資格がある。国内では日本能率協会の「CPP(Certified Procurement Professional)」と日本資材管理協会の「資材管理士」がある。
      前者のHPを見ると、「調達のプロフェッショナルCPPに必要なスキル・知識」として、
      「調達の基本事項」「調達組織」「CSR(社会的責任)」「リスクマネジメント」「調達倫理」「調達戦略」「調達計画・目標展開」「調達マネジメント」「海外調達」「開発購買」「サプライヤー戦略」「サプライヤー評価」「コスト分析・査定」「調達交渉」「調達管理」
    の15が列挙されている。
      後者の資材管理士は専門コース(必修科目・選択科目)を履修する必要がある。筆者は、長年、選択科目の「在庫管理」を担当しているが、製造業以外にも、流通業・運輸業からも資材・購買担当者が受講している。

    (2)調達・購買業務の重要性

      江戸時代の商店では「利は元にあり」と言われていた。これは「利(儲けの基本)は元(仕入れ)にある」ということで、売り値よりも仕入れ値を重視していたことが伺える。今日の製造業・流通業でも、「良いモノ(原材料・部品または商品)を安く安定的に仕入れる(調達・購買する)」ことが重視されることは言うまでもない。そこに調達・購買業務の重要性や厳しさ・難しさがある。
      筆者は、国鉄時代の末期に、N社Y支店の「通運」契約担当として、3年間国鉄コンテナの輸送枠を「仕入れ」ていたことがある。当時の国鉄貨物は、「売上=運賃収入の拡大」で行くか、「数量確保=シェア奪還」で行くか揺れ動いていて、拡販施策が四半期ごとに次々と目まぐるしく打ち出されていた。そこで、通運業者としても事業存続を図るために、良い品(北海道・九州向けなど、トラックと競争力のある区間)を安く(割引率を拡大して)、安定的に(少なくとも四半期単位で)仕入れるべく、国鉄各局貨物課の運賃担当と交渉をするのである。筆者が国鉄と結んだ契約(四半期分の発送運賃合計)に向けて、コンテナ基地店は荷主に運賃割引を提示してセールスを展開する。契約運賃を達成しないと割引が得られず、荷主に対する割引額が持ち出しになるので、月末・四半期末には胃が痛む。
      その後、本社営業部門に移り、量販店のバイヤー(仕入れ担当者)に同行して、数日かけて千葉・茨城・栃木のハム製造会社数社の工場を回ったことがある。そこで、商品の品質・価格、工場の衛生管理・出荷作業など、バイヤーの仕入れに対する厳しさを実感し、「仕入れ(調達・購買)とはこういうものか」と大いに勉強になった。
      例えば、Nハムでは、得意先のバイヤーといえども帽子・白衣・長靴などを着用させて、手指などを消毒しないと工場や出荷場に入れてくれなかったが、Tハムでは、工場隣接の廃校になった小学校施設を、ピーク時の臨時出荷場所にして作業していたが、外気温と同じ状態で素人目にも「品質管理」が気になった。

    (3)CPOとPMI

      アメリカ企業などでは調達・購買業務が重視され、CPO(Chief Procurement Officer 最高調達責任者)が任命されるなど社内的地位が高いが、日本ではそうでもないようである。
      例えば、企業の購買活動については、「購買担当者景況感指数」というものがある。これは、製造業やサービス業の購買担当者を調査対象にした企業の景況感を示す景気指標の一つであり、Purchasing Manager’s Indexの略でPMIと言われる。
      製造業の購買担当者は、製品の需要動向や取引先の動向などを見極めて仕入れを行うため、製造業PMIは今後の景気動向を占う先行指標とされている。米国ISM(供給管理協会)の米国製造業・非製造業景気指数、中国の製造業購買担当者景気指数などが代表的である。なぜか、日本ではあまり活用されていない(日銀短観やNX総研の「企業物流動向調査」などでは活用されている)。これも、日本の製造業における調達・購買部門の評価が低いことの表れかも知れない(残念ながら物流部門の評価はもっと低い)。
      日本で重視されている鉱工業生産指数や機械出荷統計は、どちらかと言えば、景気との一致指標であり、最近では工作機械受注統計など先行指標が注目されているので、PMIの活用が望まれる。
      また、JILS(日本ロジスティクスシステム協会)が毎年実施している物流コスト調査(2022年調査が最近発表された)が、業種別の売上高物流コスト比率などを知るのに活用されている。しかし、これはJILS会員の大企業を中心とした約200社の調査である。しかも、調達物流についてのコストや改善策などの回答は少ない。これは、上述のように、調達コストは、生産部門の「聖域」である製造原価に含まれているので、物流部門として管理されている事例が少ないからとも考えられる。
    コロナ禍や円安・米中対立により、供給網(サプライチェーン)が分断され、原材料・部品の安定的な調達に影響が出ている。2022年は、半導体の品薄で、日本の自動車メーカーの生産が前年を下回った。
      生鮮品・原料等は、国際市場で中国やインドなどに買い負けているとも聞く(温暖化と乱獲のため、水産品は世界的に資源が枯渇しているという報道もある)。国際市場だけでなく、日本の漁港に中国からのバイヤーが来て、マグロなどの高級魚を高値で買い付けるので、日本の仲買人も仕入れられないと報道されていた(2023年1月8日のTBS)。
      製造業・流通業を問わず、ますます、調達・購買業務の重要性が高まるとともに、担当部門にはスキルアップが求められている。
      いずれにせよ、製造業における調達・購買業務と担当者、さらにはそのスキル等を知ることは、物流事業者にとって調達物流をセールスするにあたり、必要な知識と言えよう。

    3.グローバル調達と国際バルク戦略港湾

      1項で、「調達コストは製造原価に含まれている」と述べたが、グローバルな原材料の調達コスト管理はシビアである。
      国土交通省の港湾統計(2021年)によれば、日本の外国貿易貨物は、1,143百万トン(輸出 265百万トン、輸入 878百万トン)であり、重量ベースでは海上輸送が99%以上占めている。輸入ではコンテナによる157百万トンを除いた82.1%が、原油・鉄鉱石・石炭・穀物などのバルク貨物である。資源の乏しい日本は、外国から原材料・穀物等を大量かつ遠距離に輸送する、「壮大」なグローバル調達物流で成り立っていると言えよう。
      ところが、日本国内へのゲートウェイである港湾は、巨大化しつつあるバルク(ばら積み)貨物船を受け入れるには、水深・岸壁・航路の港湾インフラが不足していた。
      このままでは、資源を爆飲みしている中国に買い負けるという危機感から、2000年代初頭に2020年を目標年次として、より大きなバルク貨物船(例:ケープサイズ=載貨重量15万トン前後、吃水19m、鉄鉱石・石炭用)が入港できるように、選択と集中により重点的に整備しようと「国際バルク戦略港湾」構想が生まれた(図2・表1参照)。

    図2 穀物、鉄鉱石、石炭の主な輸出港及び海上荷動ルート
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    表1 国際バルク戦略港湾の選定結果(国土交通省)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

      筆者は、2009年から2011年まで国際バルク戦略港湾検討委員会に加わり、グローバル調達ネットワークについて学ぶ機会を得た。同時期に開催された「国際コンテナ戦略港湾」検討委員会にも加わり、最近は、厚労省所管の港湾短期大学横浜校で国際物流を教えているのも、何かの縁と言えよう。
      図2の輸出国(港)からはCIF(コスト・保険・運賃込み)の貿易条件で、日本向けに大型のバルク貨物専用船(バルカー)で輸送される。従って船舶等の手配は輸入者である日本企業側が行う。文字通りの調達物流である。
      最近では、ブラジルの鉱業メジャーのヴァーレ社は鉱山採掘以外でも稼ごうと、自ら巨大な鉄鉱専用船=ヴァーレマックス型を中国で建造して、海運まで乗り出している。
      なお、国際バルク戦略港湾の目標年次(2020年)を過ぎた現時点では、「釧路港」「徳山下松港・宇部港」「小名浜港」が整備されている。
      ライバルである中国・韓国のコンテナ港湾・バルク港湾も視察したが、中国・大連でみた水深30mの鉄鉱埠頭(日本では大分・日本製鉄の23mが最深)や、巨大サイロが林立する穀物埠頭(日本の穀物埠頭サイロは数本)には脅威を感じた。
      穀物埠頭では荷役中のパナマックス型穀物専用船が小さく見えるが、日本ではパナマックス型が接岸できない穀物埠頭が多い。

    写真1 大連港の鉄鉱埠頭(筆者撮影)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    写真2 大連港の穀物(サイロ)埠頭(筆者撮影)
    *画像をClickすると拡大画像が見られます。

    ※後編(次号)へつづく


    【参考資料】
    1.上原 修「購買・調達の実際」(日経文庫、2007年)
    2.坂口 孝則「調達・購買の教科書 第2版」(日刊工業新聞社、2021年)
    3.国土交通省「国際バルク戦略港湾の選定結果について」(2011年)
    4.JIS Z 8141 2001「生産管理用語」(社)日本経営工学会編「生産管理用語辞典」(日本規格協会、2002)に収録
    5.日通総合研究所編「ロジスティクス用語辞典」(日経文庫、2007年)
    6.鈴木 暁 編著「国際物流の理論と実務 6訂版」(成山堂書店、2017年)
    7.鈴木 邦成 著「トコトンやさしいSCMの本 第3版」(日刊工業新聞社、2020年)
    8.小川 千晴「情報・製造・流通 フルフィルメント・サービスのご紹介~付加価値物流サービスによる品質向上と業務効率化~」(ロジスティクス・レビューNo.493、2022年)
    9.国土交通省・中小企業庁・財務省関税局等の資料。日本能率協会・山九等のホームページ。日経新聞等、各誌紙の記事その他


    (C)2023 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第484号  何故、世界的に物流が停滞しているのか:SCM視点からその要因を考えて見る(2022年5月24日発行) /logistics-484/ /logistics-484/#respond Mon, 23 May 2022 22:00:00 +0000 /?p=18567 執筆者  野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)  執筆者略歴 ▼ Corporate Profile 主な経歴 1943年 生まれ 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社 1975 […]

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執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.世界的な物流停滞の諸要因として考えられること

  外食産業等における輸入冷凍ポテトの玉不足により、販売休止に追い込まれる状況がメディアで度々取り上げられ、それに対する消費者の反応も鋭い。国産品では容易に代替出来ない、商品としての一つの特徴を持っている。一説にはカナダ・バンクーバー港における水害により、港湾荷役機能がマヒしているためとか、コロナ禍による労働力不足も要因に上げられている。世界の主要港で貨物が滞留し、空コンテナの融通がつかないとも言われている。しかもロシアによるウクライナへの侵攻が始まり、一段と激動化する世界情勢にあって、需給調整や在庫配分といった基本戦略が妥当なのかどうか、ここで改めて見直していく必要があるだろう。航空輸送にも大きな影響が出てくる。

(写真:コンテナヤード)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  背景として物流業界が抱える慢性的な人手不足や、昨今のエネルギー価格上昇等の影響もあるだろう。ここにきて目立つ製品値上げの要因として、必ず物流コスト上昇が挙げられており、しかしそれで物流業界が潤っているという状況でもない。かつてアメリカの流通事情を視察した時、物流業界のステータスは決して低くはないと実感したが、果たして日本ではどうか。物流の停滞やコスト上昇が社会的問題なら、基本的な国策として更に取り上げられてもいいはずだ。国民生活に密着する物流やロジスティクスについて、経済基本課題としてもっと俎上に載せていくべきである。
  政治家や官僚の皆さんの口から、サプライチェーンという言葉が結構発せられるようになったが、それは自ずと物流とは次元を異にする。単に物流と同義語であるとされているなら、甚だ言葉のお遊びである。今日の世界的な物流停滞の要因を、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の視点で見ていく意味もあるだろう。それはもはや物流という単一機能レベルの話ではなく、ロジスティクスとしての課題、特に適正在庫の問題である。慢性的な供給能力不足も、SCMの進化レベルとして考えたい。在庫は勿論戦略的投資という意味合いもあるが、まずは平時における適正水準が常に維持されていなければならない。ここで戦争という新たな要因が加わり、困難な条件が一段と増大してきた。

2.未完成なSCMにおけるロジスティクス連鎖の途切れ

  物流とはあくまで物理的機能管理の話であり、一つは物流コストや効率として評価される。またシステムとして機能させていく必要がある。システムとは幾つかの物流要素が、同じ目的に向かって連動している状態である。そしてSCMの出発点は、まず各企業単位のロジスティクスである。それは企業内の全体最適化であり、物流はその中の一要素に過ぎない。ロジスティクスの要諦は情報を駆使した計画と統制であり、とりわけ需給管理がコアとなる。つまり需要と供給のバランス化であり、その結果が在庫である。これを如何に最小化出来るかが、企業活動に多大な影響を及ぼすことになる。
  在庫が過大であれば企業財務を悪化させ、食品であれば鮮度後退に繋がり、最悪の場合にはロスとなり環境負荷にも繋がる。需給管理に必要な情報はまず販売予測と、リアルタイムの在庫把握である。予測とはマーケティング部門の機能でもあり、ロジスティクス部門との連携が問われる。在庫は生産の各段階から、製品として販売拠点に戦略的に置かれるものもある。いずれも情報システムを駆使して、如何に迅速な需給管理に結び付けられるかが精度に直結する。そしてここでもう一つ重要なのが、グリーン・ロジスティクスとも呼ばれる、戻りの物流や環境対応である。

(図表1:需給管理のステップ)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  SCMとは、流通に関わる全ての企業間でロジスティクスを連動させる活動で、一企業内だけでも困難な上に、利害が相反し易い異種企業間で行う難しさがある。管理連携には共通した目標設定が不可欠であり、これを共有化しもし管理範囲外に陥ったならば直ちに処置しなければならない。通常ではアウトソーシングが活用されることになるが、それは単なる丸投げではなく管理責任の分担であり、自ずと役割がある。そして今やこの管理連鎖を、グローバルに展開するということである。情報システムが重要な役割を果たすことは言うまでもない。需給管理を適正に行い、在庫やモノの移動を最小化させていく。

3.末端物流への過度な経営資源シフト

  ネット社会の進展により、ラスト1マイルと言われる消費領域物流ニーズは依然として衰えを見せることはなく、更に料理宅配が加わりますます活況を呈している。勿論消費者への利便性があり、コスト負担してもその価値が高いということだろうが、一方で環境負荷という問題も考えていく必要がある。宅配業界は上位3社にほぼ寡占化されてきているが、果たして各社の事業効率レベルが最大化してきたと言えるのか。物流SDGsについても真剣に取り組んでいく必要がある。各社毎の競争というレベルだけではなく、共同化という課題は未だ残されているはずだ。

(図表2:物流業売上高と宅配便シェア)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  高サービスレベルは高価格ということなるが、それにしても業務用ニーズの小口混載業務である特別積み合わせ業の数倍という料金設定は、真に消費者志向と言えるのか。そのサービスを受ける側も配送日時指定や、不在時持ち帰りロス等を考え、低コスト化に協力すべきだ。利便性こそが最高のサービスと言えるのかもしれないが、そこには高コスト・環境負荷といった問題も内在されている。狭い道路に配送車両が堂々と駐車され、危険な場面を何度も目撃している。宅配こそが最優先ということではなく、産業インフラとしての資源配分も考えていかなければならない。
  物流の究極課題の一つは共同化ともされているが、この末端領域においても考えられないことはない。各社毎に配送ルート効率を極限まで上げ、積載率も一定のレベルに達しているとはいえ、未だ改善の余地はあるだろう。分担地域毎に更に配送密度を上げるため、流通チャネルに限定されることなく、複数温度帯一括物流も含め、再度アライアンスに挑戦すべきである。商品分野に限定せず、同一配送区域内であれば何でも混載する。生活必需品の一括共同配送ニーズも未だ有り得る。一方、商品を受け取る消費者側の体制作りも並行させていく必要がある。宅配ボックスや置き配はもっと普及させるべきである。

4.基本は更なるロジスティクスの取り組み強化

  前述したようにロジスティクスとマーケティングは経営として車の両輪であり、まさに経営管理レベルの取り組みとなり、究極は需給管理精度の向上である。物流管理部門を独立させるのではなく、マーケティング部門と一体化させた動きもある。逆に物流と同程度に考え、フルアウトソーシングした事例もある。自社はマーケティングに特化し、他業務はアウトソーシングというなら、極めて高度な管理が要求される。アウトソーシングしても自社でやるべきことはある。またコンペでアウトソーサーを選定する場合は、日常業務管理レベルや情報システム機能が特に重要な要素となる。
  需給管理はまさにマーケティングやマーチャンダイジングとの連携であり、物流部門だけで完結するものではない。需要予測とは自然波動と人為的な側面があり、予測精度を上げる手立てが無いわけではない。リアルタイムの在庫把握はまさにグローバルな拡がりとなり、アウトソーサーの情報システム機能に大きく左右される。ここでも究極のデジタル化(DX)が死命を制することになる。アウトソーシングはもはや不可避であるが、アウトソーサーの選び方、つまりコンペも重要な課題となる。日常の管理状況が可視化され、目標値が共有化され、直ちに処置出来るかどうかがポイントになる。単なる外注と、アウトソーシングは自ずと次元を異にする。プロバイダーの選定については、アウトソーサーとして前述した。
  逆にアウトソーサーとしての物流業は、顧客のマーケティングやマーチャンダイジングを良く理解しておかなければ適切な対応は取れない。3PLという業態は基本的にはノンアセット型で顧客ニーズに対応するものだが、この事業のコアはこの顧客対応と情報システム運営ということになる。海運業等のフォワーダーという業態はこれに最も近い。いずれにしてもマーケットインという姿勢が大前提になる。プロダクトアウトでは、真の顧客ニーズが掴めない。

5.グローバルSCMの展開で重要なこと

  日本の製造小売業(SPA)と言われる業態で、優れたグローバルSCMを展開している事例がある。製造から小売りまでを自社で一貫して管理するということは、むしろやり易いのかもしれない。製造拠点はもはや中国から更に別な国々へシフトされ、マーケットもまさにグローバルである。ロジスティクスがマーチャンダイジングとも連動し、旗艦店におけるリアル販売データが、需給管理に直ちに反映される。アイテムは限りなく絞り込まれ、それでも多くの商品ジャンルがあり、決して少なくはない。店頭においても顧客重視の姿勢が貫かれ、日本にもこのようなモデルとなる優れたケースが存在している。
  一方で世界における政治対立が深刻化し、中国の突出した動きがロジスティクス面でも様々な影響を与えている。巨大ハブ機能が設定され、また「一帯一路」というインフラ整備も進められている。このような動きが、グローバルSCMの運営にどのような与件になるかという見極めも必要になる。韓国においても巨大な港湾機能が整備され、日本はもはや国際ハブ機能を失いつつあり、外国で小分けされた貨物を受け入れるだけの役割に陥っているように見える。韓国の流通センターもまた巨大である。

(図表3:世界港湾のコンテナ取扱量)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  このような情勢の中でリスクマネジメントがますます重要になっていく。それは優れて日常業務管理と経営レベルの両面で成り立つ。日常からリスクに対処する活動が重要であり、これが業務品質管理や改善活動である。そして異常事態が生じた場合、それにどう対処するかが経営としての危機管理である。日頃からの備えがなければ、絵に描いた餅になりかねない。またBCPと呼ばれる事業継続計画を考えておかなければならないことは、言うまでもない。物流業とは基幹産業であり、これを支える人々のステータスをもっと高めていく必要がある。

以上



(C)2022 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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第481号  物流業界のモラルが再び厳しく問われている:飲酒運転は氷山の一角か、物流SDGsは未だ遠い(2022年4月7日発行) /logistics481/ /logistics481/#respond Thu, 07 Apr 2022 00:00:00 +0000 /?p=18522 執筆者  野口 英雄 (ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)  執筆者略歴 ▼ Corporate Profile 主な経歴 1943年 生まれ 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社 1975 […]

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執筆者  野口 英雄
(ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表)

 執筆者略歴 ▼
  • Corporate Profile
    主な経歴
    • 1943年 生まれ
    • 1962年 味の素株式会社・中央研究所入社
    • 1975年 同・本社物流部
    • 1985年 物流子会社出向(大阪)
    • 1989年 同・株式会社サンミックス出向(現味の素物流(株)、コールドライナー事業部長、取締役)
    • 1996年 味の素株式会社退職、昭和冷蔵株式会社入社(冷蔵事業部長、取締役)
    • 1999年 株式会社カサイ経営入門、翌年 (有)エルエスオフィス設立
      現在群馬県立農林大学校非常勤講師、横浜市中小企業アドバイザー、
      (社)日本ロジスティクスシステム協会講師等を歴任
    • 2010年 ロジスティクスサポート・エルエスオフィス 代表
    活動領域
      食品ロジスティクスに軸足を置き、中でも低温物流の体系化に力を注いでいる
      :鮮度・品質・衛生管理が基本、低温物流の著作3冊出版、その他共著5冊
      特にトラック・倉庫業を中心とする物流業界の地位向上に微力をささげたい
    私のモットー
    • 物流は単位機能として重要だが、今はロジスティクスという市場・消費者視点、トータルシステムアプローチが求められている
    • ロジスティクスはマーケティングの体系要素であり、コスト・効率中心の物流とは攻め口が違う
    • 従って3PLの出発点はあくまでマーケットインで、既存物流業の延長ではない
    • 学ぶこと、日々の改善が基本であり、やれば必ず先が見えてくる
    保有資格
    • 運行管理者
    • 第一種衛生管理者
    • 物流技術管理士

 

目次

1.悲惨な学童死傷事故で飲酒運転が発覚:点呼後のチェックはもはや不能?

  昨年、通学路において学童の悲惨な死傷事故が発生し、後にドライバーの飲酒運転だったことが発覚したのは、未だ記憶に新しい。狭い抜け道で、ガードレールも設置されていないという設備上の問題もあったが、ドライバーが仕事の帰りにコンビニで酒を買って飲んだという事実は、関係する者としては誠に衝撃であった。社会的使命を担う物流業界にとっては誠に致命的で、これを決して対岸の火事として見過ごすべきではない。兎角業界としてのモラルを問われることもあるが、この負の印象を取り戻すのはもう容易ではないはずだ。
  ドライバーは出発前に運行管理者の点呼を受けることが法令で義務付けられており、原則は対面だが電話等による方法も認められている。当然、航空機パイロットと同様に残存アルコールチェックも行われる。この日常の基本動作が蔑ろにされているとの指摘もあるが、大勢としては厳しい運営が行われていると信じる。しかしドライバーがコンビニで酒を買って飲むという行為は、もはや酒販における社会的規制も必要になるのではないか。当然、管理外の問題として個人の責任に帰するのではなく、スピード違反や交通事故撲滅と同様に、個人の行動を如何に管理内に留めさせるかという経営課題でもある。


(図表1:点呼の主だった規定)
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  かつてはMCA無線等で定時的な連絡を取り、業務進捗状況の確認も行われていたが、今やスマホの時代となり、一見便利なようだが逆に対面機会が少なくなる盲点もある。当日中の着荷確認情報が必要になる場合もある。システム端末としてドライバーを管理内に留め、データによりリアルタイムで管理状況の確認が出来る体制を更に進めるべきであろう。ドライバーは出発したらもう管理外で、業務品質管理には関われないのではなく、現場の生情報を把握するキーパーソンとして位置付けることが重要である。

2.テレビ放映された飲酒運転常態化の一面:サービスエリアにおける実態

  この事故を契機にあるテレビ放送で、高速道路サービスエリアにおける長距離ドライバーの飲酒実態が明らかにされた。これは氷山の一角だとしても決して許されないことで、とても看過出来るものではなかった。アナウンサーのインタビューに、売店で酒を買いキャビンで仮眠をして、数時間後に出発するというやり取りがあった。だが勤務拘束中であり、このような行為は断じて許されない。飲酒運転は常日頃から問題にされ、これだけ社会的監視が行われていても、プロとしてこのような実態は誠に嘆かわしい。就労管理と併せて、これは喫緊の課題である。
  サービスエリアで、このようにドライバーに酒を売ること自体も問題であろう。北海道新幹線開業後の奥津軽いまべつ駅から乗ることがあって、駅売店で酒を買おうとしたら未だどこにも設置されていなかった。隣接する道の駅に行ったら、酒は販売していないと言う。考えて見ればそれは車で買いに来る人にとっては当然であり、新幹線に乗車して車内販売が来る迄我慢した。コンビニでもサービスエリアでも、明かにドライバーとして分かる人に酒を売っている。一方、コロナ禍の緊急事態下で、飲食業では厳しい制限が続けられている。
  かつてアメリカを旅した時、高速道路サービスエリアで超大型のトラックが駐車していたのを見かけ、ドライバーが食材を買って乗り込んでいくのを目撃した。ツアーガイドの話では、キャビンに立派なキッチンが据えられていると言う。ここで自ら調理飲食し、隣の立派なベッドで仮眠する。この時、酒を買っていたかどうかは不明であるが、アメリカでは既にトラック1台から運送業として許可され、いわゆる一人親方である。自営業主として自らの責任が重大であり、飲酒運転等するはずがないと思っている。


(写真:アメリカの大型トラック)
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3.物流業のステータスがまた低下する:空疎なアウトソーシング構造

  この度の事故が発生して社会に大きな衝撃を与え、当該道路は30キロに速度制限されたが、この程度の対策では焼石に水であろう。またこの事故で、運送業界としてのステータス低下に繋がっていることは間違いない。この業界は慢性的な人手不足に陥っていて、ましてやこのコロナという大厄災の中で、苦戦していることは想像に余りある。固定費削減のため非正規雇用はもう当たり前で、業務の質確保も容易ではないだろう。業務品質管理が個人々のプレーヤーの力量によって左右されるのではなく、システムによってカバーされる仕組みを作っていく必要がある。ドライバーは管理外ということではなく、むしろ主役として位置付けていく。
  事業構造としても自車を最小化し傭車でカバーするということは、いわばアウトソーシングである。それは単なる外注とは異なり、基本は機能・責任分担である。委託側と受託側にも互いに管理責任があり、その管理状態が共通で可視化され、管理外になると直ちに処置されることが必須条件である。それが出来ていなければ単なる丸投げである。管理するということは定量化された目標値があり、それが適宜メンテされていて、PDCAサイクルが回っている状態である。このような運営が行われていなければ、マネジメントは言えない。


(図表2:管理状態とは)
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  過酷な労働環境の中でこのような理想を追求することは至難の業だが、少しでもそれを実行していかなければ物流業のレベルは向上しない。ましてやドライバーは物理的に固定化された空間にいるわけではなく、兎角管理外になりがちだが、それでも諦めてはならない。業務品質管理とは従業員参加型でやるのが理想だが、経営側からのトップダウン課題も示さなければ、時間ばかりが掛かって成果に乏しい。改善活動には、積上げ型と現状打破型の両面が常に必要である。改革を目指すのであれば尚更である。ノンアセット型の3PL事業であれば、この管理技術が最大の武器となる。

4.物流事業規制緩和が目指した意味は:質の競争と経営のレベルアップ

  物流事業規制緩和が施行されて、もう久しい。まずトラック事業が先陣を切り、次に倉庫事業も続いた。トラックの例で言えば事業への新規参入を促し、質の競争と経営のレベルアップを図る狙いがあった。最低保有台数は5台程度に引き下げられ、国が定めていた料金設定は自由化された。その結果、確かに事業者数は増加したが、その後横ばいとなった。認可料金は廃止され、原価計算が所定の範囲内であれば届出では不要となったが、厳然としてそのレベルは存在し未だに実勢料金の指標となっている。料金体系そのものも多様化し、認められない形もあるが物流業界の立場は依然として弱い。
  前述したアメリカではこれが既に1台、お隣の韓国でも同様になっており、日本で言う白ナンバーが公認されている。韓国では夫婦でトラックを購入し、自営運送業を営んでいるケースも報道されていた。その論議は未だ続けられているはずだが、果たして規制緩和の実は上がったのかどうか。倉庫事業では新規参入が余りなく、冷蔵倉庫業に至っては巨額の設備投資が必要となるので参入障壁が高く、更に市場は硬直的である。個人事業主とは、自らの責任が明確化されることであり、当該テーマである交通事故撲滅への第一ステップにもなる。もちろんこれらの事業主を組織化している、ノンアセット型のフォワーダーという業種もある。
  昨今のコロナ禍で拡大を続けている料理宅配は、自転車やオートバイによる個人ドライバーが請負う形になっている。これを1台の運送業と見るかどうかは未だ微妙だが、街中で急いでいる姿を見掛けると実に危険な場面もある。死亡事故も発生しているが、最近の判例では効率を求める余りの結果だとして、実刑が課せられた例もある。自転車とはいっても道交法適用であり、全く野放しというわけにはいかない。一方これをオペレーションする事業者側にも、責任がないとはいえない。商品のハンドリング上も、品質管理も誠に気になるニュービジネスである。運送事業としての検討が連動していないのは、片手落ちであろう。

5.物流事業における経営はどうあるべきか:物流SDGsとは単なる合言葉ではない

  物流業界においてもSDGs指針が定められ、社会的責任を遂行すべき体制作りが進められている。社会的モラルの確立や環境対応等はもはや当然であり、政府が定めた物流効率化法等の新たな課題も標榜されている。だがこれが個々の事業者にとって、具体的な行動規範となっているかどうかが問われている。それは単なる合言葉として掲げれば実行に繋がるものではなく、具体的な業務管理の中から志向していくしかないはずだ。実ビジネスとして、意味ある管理をどう展開するかであろう。業界団体やロジスティクスを推進する団体が、その先頭に立つべきである。
  そしてもはや物流という物理的機能レベルの管理ではなく、ロジスティクスという体系としての取組みが求められており、物流はその中の一つの要素に過ぎない。体系ということはシステムであり、それも自己完結する一企業内に留まらず、企業間としての連鎖管理が必要である。これがサプライチェーン・ロジスティクスで、更にその前提はグリーン・ロジスティクスということである。最近サプライチェーンという言葉はよく語られるようになったが、それは単なる物流と同義語ではない。物流業は機能提供としてあらゆる分野に関わり、全体のロジスティクス・プロバイダーとしてのビジネスチャンスがあり、これが3PLという業態である。それはどちらかと言えば、情報を駆使したソフト業務が中心だが,物流業界はよりリアルなシステムを担える可能性が高い。具体的に実物商品に触れているという意味は大きく、そして顧客との接点という位置にもある。
  物流業界としては新卒者が集められるような企業ステータスを現出させ、そのためにはもっと物流やロジスティクスの社会的意義を追求していく必要がある。更に女性や高齢者にとっても、働きやすい職場であることを証明していくべきである。私にとっての物流事業管理の原体験は、トラックが踏切内で立ち往生し電車に接触したり、真夜中に酒を飲んで道路に寝そべっていた人をはねてしまったり、この事故処理の経験が身体に染み込んでいて未だに脳裏から離れない。冷蔵倉庫事業では火災という致命的問題を何回も目撃してきた。冷蔵倉庫では断熱材としての、発砲ポリスチロール等の可燃性物質が大量に使用され、火災のリスクが高いのである。


(図表3:私の考える物流SDGs)
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

以上




(C)2022 Hideo Noguchi & Sakata Warehouse, Inc.

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第474号 数字の独り歩きに注意(2021年12月21日発行) /logistics-474/ /logistics-474/#respond Tue, 21 Dec 2021 00:00:00 +0000 /?p=18377 執筆者 山田 健 (中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)  執筆者略歴 ▼ 著者略歴等 1979年日本通運株式会社入社。 1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などの コンサル […]

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執筆者 山田 健
(中小企業診断士 流通経済大学非常勤講師)

 執筆者略歴 ▼
  • 著者略歴等
    • 1979年日本通運株式会社入社。
      1997年より日通総合研究所で、メーカー、卸の物流効率化、コスト削減などの
      コンサルティングと、国土交通省や物流事業者、荷主向けの研修・セミナーに携わる。
      2014年6月山田経営コンサルティング事務所を設立。
    • 著書に「すらすら物流管理(中央経済社)」「物流コスト削減の実務(中央経済社)」
      「物流戦略策定のシナリオ(かんき出版)」などがある。中小企業診断士。
    • URL:http://www.yamada-consul.com/

 

目次

I.ピンとこない議論

  適切ではないかもしれないが、今回は新型コロナにかかわる素朴な疑問から始めたい。誰もが感じていて、たぶん聞き飽きている例の疑問である。日本の人口1,000人あたりの病床数は13.0床とOECDで最多で、G7の中でも2位のドイツ(8.0床)を大きく引き離す。一方で感染者数は欧米よりはるかに少ない。なのに、感染ピーク時になぜ医療崩壊の危機に瀕するのか、という問題である。
  その理由についてはおおむね、「日本は政府や自治体が指示できる公立、公的病院の数が少ないので、受け入れを強制できない」といった趣旨で報道されている。
  わかったような、わからないような、筆者には今一つピンとこない話である。同じような印象を受けておられる方も多いのではないか。
  腹落ちしない理由が何かはっきりしないままひたすら自粛の毎日であったが、先日の日経新聞の記事で少し納得できた(図表1)。以下に記事の一部を引用する。

********

*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  日本の医師数は約32万7,000人。人口1,000人あたりでは2.5人とドイツ(4.3人)や英国(3.0人)を下回り、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で27位に甘んじる。
  それ以上に深刻なのは1病院あたりの医師の少なさである。米国(137人)やドイツ(114人)が100人を超えるのに対し、日本はわずか38人にとどまる。決して多くない医師が、海外よりも数が多い病院に散らばっている。一般に病床数は医療インフラの充実度を示すが、日本の場合は病床が多すぎ、患者に寄り添う現場で医療人材の手薄さが際立つ。米国や英国は医師1人がほぼ1病床を診るが、日本は1人で5つの病床を受け持つ。先進国では異例の「低密度」医療の体制になっている。(日経新聞2021年5月30日付け朝刊より一部引用)

********

  病床や病院の数こそ多いけれど、医者も看護婦もまったく足りないということである。これに診療部門や経営主体の偏在要因が加わって崩壊の危機に瀕したのであろうが、これまでは病床数の多さだけが強調され、肝心の医療関係者の数や配置が報じられていなかった点が理解を難しくしていたのではないか。

II.数字の持つ力

  いうまでもなく筆者はこの分野についてはまったくの門外漢であり、日本の医療体制を論じるつもりは毛頭ない。ワイドショーのコメンテーターでもあるまいし、素人が論じられるわけもない。もちろん日経新聞を持ち上げるわけでもない。
  ここで申し上げたいのは、「数字の持つ力」と「数字の独り歩き」である。いうまでもなく、数字の持つ力は大きい。定量的な説明は何よりも説得力がある。その一方で気を付けなくてはならないのは、一方向からだけの数字が独り歩きすることである。コロナの例では、病床数の多さだけが独り歩きをしていたから問題の核心をわかりづらくしていたのではないか。
  疑問が一定程度解けた理由の一つが、当初の「欧米より病床が多い」という数字に加えて、「日本の医師数が少ない」という別の角度からの数字が示されたことである。たとえば、人間ドックでは計測されたさまざまな数値から総合的に判断して真の病気を突き止めるように、多面的な数字をとらえることによって、真実が明らかになることがある。

III.トラックの6割は空で走っている?

  ここからが今回のテーマであるが、最近の物流を取り巻く動きにも同じようなことがいえるように思う。
  業界では物流DX(デジタル・トランスフォーメーション)を目にしない日はない。物流DXの正確な定義はともかく、物流にもようやくデジタル技術による変革の波が到来しつつあるのは喜ばしいことである。本来の意味である「経営の意思決定」や「戦略」などといった大げさな取り組みではなくても、この連載で繰り返し述べてきたように、日々の非定型的で荷主ごとに異なる手配業務やさまざまな帳票類、報告、連絡業務などが標準化、デジタル化されることを大いに期待している。
  ただ、この大きな波の中でひとつ気になることがある。正確に言えば、物流DXでなくともそれ以前からずっと気になっていたことである。それはいま進行している取り組みの多くが「トラックの6割(あるいは5割)は空で走っている」という前提で進められていることである。
  最新の話題である「フィジカル・インターネット」が典型である。筆者の理解が間違っていなければ、フィジカル・インターネットとは、物流をどこか特定の拠点や幹線輸送に集めて運ぶのではなく、業種や事業者に関係なくバラバラに最適な単位(ロールボックスやパレットなど)に分けて目的地に到達させることだという。ちょうどWeb上で送り手の情報がパケット単位に分割され、さまざまなルートを経由して受け手のルーターに届くインターネットのような仕組みであることから、この名称となったといわれている。インターネットのデータ送信と同様の概念で同方面に向かう大量の貨物を分散し、自社・他社を問わず空いている倉庫スペースを経由し、トラックの空いている荷台で運ぶ。その際、一人のドライバーで長距離を走るのではなく、インターネットが世界各地の通信設備を細かにつないでいくように、網の目の結節点を最適に選択して短距離を緻密につないでいく。この場合、AIなどのデジタル技術が最適なルートを指定する。これがフィジカル・インターネットのイメージである。
  考え方としては理解できないことはないが、実業への落とし込み、実現に至るプロセスなどについて詳細に議論されているようには思えない。業界の人間としては、現時点ではかなり乱暴な構想という印象を拭いえない。
  少し本筋からそれてしまったが、本稿はフィジカル・インターネットを評するのが目的ではない。
  フィジカル・インターネットが成り立つためには、目的地の方向へ向かう荷台の空いたトラックがあちこちに走っていなければならない。こうした多くの物流DXが「トラックの大半が空で走っている」ことを前提として構想されているのである。業界では常識とされている、この数字は事実であろうか、というのが今回のテーマである。

IV.「6割は空」の根拠

  「トラックの6割は空」の根拠はおそらく国土交通省が公表している「自動車輸送統計月報」であろう(図表2)。
  直近2020年9月の営業用トラック「積載効率」が39%つまり約4割である。積載効率とは、実際に輸送した「輸送トンキロ」を「能力トンキロ(荷台に目いっぱい積載した状態でのトンキロ」で除した数値である。トンキロとは走行した距離と貨物の輸送重量を掛け合わせたものであり、輸送の規模を表す。たとえば、4トン車に2トン積載して20キロ走行すれば“輸送トンキロ=2トン×20km”÷“能力トンキロ=4トン×20km”で積載効率は50%となる。
  この統計を見る限りでは、たしかにトラックの6割は空で走っている。

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V.貨物には偏りがある

  しかし、長年物流の実務に携わってきた人間として、この数字には大いに違和感を覚える。実感として、トラックはそんなに空で走っていない。実情を肌で感じている物流業界からそうした声が聞こえてこないのは不思議である。
  そこで、この空車がどのような状況で生じているかという別の角度からの数字で検証してみよう。結論から言えば、こうした空車の多くは往復貨物の偏りと運送会社のトラック運行方法により必然的に生じている可能性が高い。
  往復貨物に地域的な偏りがあることについては、国道交通省が5年に1回実地している「全国貨物純流動調査2015年」を参照してみる(2020年度は新型コロナにより中止)。この調査は、2016年10月の3日間の品目別、輸送機関別などの貨物の動きについて、全国6万5千事業所にアンケート調査した結果をまとめたものである。筆者が以前所属していた会社が事務局を務めていたこともあり、貨物流動の実態を反映している点での信頼度は一定程度あるものと考えられる。

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  図表3は調査結果から、営業用トラックの関東、中部・静岡、関西、中国、九州地域の1日当たり平均発着トン数を抜き出しまとめたものである。この地域の物量で全国の約75%を占める。表の青色部分は地域内で動いている物量を表す。平均で全体の8割強は地域内で動き、2割が地域をまたがって動いていることがわかる。
  地域間の物量(長距離輸送)について発着別にまとめたのが次の図表4である。表のとおり、長距離輸送の往復には偏りがある。関東発着比率(往路に対する復路物量の比率)は124.7%、中部・静岡78.2%、関西108.5%、中国89.9%、九州110.9%である。つまり、地域間のトラック輸送では、貨物量の偏りによりどうがんばっても積載効率は100%にならない。これはネットでの求貨求車マッチングを使っても解決しない。
  さらに、長距離輸送では一般に考えられている以上にトラックの往復貨物は確保されている。偏りがある中にあっても運送会社は可能な限り荷台を埋めるよう配車を工夫している。たとえば、関西の運送会社が関西から関東方面への貨物を輸送する場合、まず関東から関西方面へ運行しているトラックの帰り便を優先確保する。帰り便が確保できない場合にはじめて関西からのトラックを仕立てる(仕立て便)。このようにして無駄な長距離輸送を避け、コストを抑えるため可能な限り空車の活用を行うのは配車の常識である。
  ただしこうした運行方法は通常荷主に明かされることはない。帰り便を利用していることがわかれば、それを理由に運賃値下げを要請されてしまうからである。帰り便の活用はあくまで運送会社の経営努力によるものであって、その利益は本来運送会社に帰属すべきであるにもかかわらず。
  実際、以前素材系の荷主のトラック運行にかかわるコンサルティングを行ったときにも同じような事実が判明した。その荷主は物流子会社の長距離トラック輸送について、積載効率の悪い無駄な運行をしており、そのために高い運賃を請求されているのではないか、と疑っていた。そこで、コンサルに運行実態を調査させ運賃交渉を有利に進めようと考えたのである。
  結果は筆者の予想以上であった。その物流子会社は荷主の素材を運んだ帰りに、その素材を加工した製品を扱う卸の物流をしっかり確保していた。往復の積載効率は9割近かった。事実は事実として素直に受け入れて欲しかったのであるが、想定が外れた荷主の落胆と不満がコンサルに向けられてしまったのは想定外であった。

VI.運行方法で積載効率は低下

  トラック運行方法による数字の上での積載効率低下は、主に全物量の8割強を占める地域内発着の貨物に生じる。

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  地域内へのトラック配送はA地点からB地点への単純な配送ではなく、複数の配送先に小ロットの貨物を順番に配達していく「ルート配送」となることが多い。この場合、積載効率は100%にならない。満載で出発したトラックの積載量が徐々に減り最後はゼロになるわけだから、平均積載量は中間の50%になり、積載効率も50%になる。もっとも1か所へ配達するごとに別の貨物を集荷して次の配達先へ向かうことを繰り返せば理論的には100%へ近づけることも可能かもしれないが、そのように都合のいい場所に都合のいい貨物があるわけではない。
  もう一つの理由は、運送会社は地域内の運行についてトラックの回転率を重視している点である。たとえば、神奈川から埼玉へ配送した帰りに埼玉から神奈川への貨物を探すよりも、埼玉で配送を終えたらさっさと神奈川へ戻って、他の配達を行った方が採算はよくなる。納品先から直接集荷できるならまだしも、別の集荷先までの移動や集荷時間の制約などを考えると発地点に戻った方が有利であることが多い。実際、筆者がある運送会社の収益と運行効率の相関関係を調べたところ、収益と相関関係が強いのはトラックの稼働率と回転率であり、積載効率とはほぼ相関関係が見いだせなかった。
  このケースでも帰りは常に空車となるので往復の運行効率は50%となる。
  結局、積載効率4割の相当部分は物流DXでは解決不可能か、あるいは運行効率上やむを得ない部分があるのである。

VII.数字の独り歩きを疑わないと間違える

  フィジカル・インターネット構想を例に議論を展開してきたが、「できない理由」を列挙してきたつもりは毛頭ない。DXによってトラック積載効率が向上し、ドライバー不足が緩和するのであればそれに越したことはない。
  ただ、前提となる数字についての的確な把握と分析、実態の理解のないままでの構想は極めて危険であるし、取り組みの方向性を誤ってしまう、と懸念している。まして、物流DXによってあたかもドライバー不足が簡単に解消してしまうような論調には大きな危惧を感じる。ドライバー不足の根本的な解決には「適正運賃の収受」と「ドライバーの待遇改善」が喫緊の課題であることを忘れて、安易な構想に飛びつくことは厳に戒めるべきであろう。

以上




(C)2021 Takeshi Yamada & Sakata Warehouse, Inc.

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第473号 一貫パレチゼーションのすすめ(後編)(2021年12月9日発行) /logistics-473/ /logistics-473/#respond Thu, 09 Dec 2021 00:00:00 +0000 /?p=18361 執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」
      ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版) ほか

 

目次

*前号(2021年11月16日発行 第472号)より

3.一貫パレチゼーション

(1)一貫パレチゼーションとパレットプールシステム
  以上、JISに基づく包装・パレット、さらにはユニットロードシステム通則の現在地を長々と述べてきたのは、これらを共有ツール・資産として円滑な一貫パレチゼーションを導入してほしいからである。
  例えば、図5の加工メーカーの工場倉庫では機械荷役・パレット保管しているが、トラックへの積み込みの時には「手積みしてパレットは持ち出すな」、量販店の配送センターでは、入荷の際に「パレットに積み付けて行け」ということはないだろうか?
  それを図5のように、「一種のパレットで流通を一本化」するのが一貫パレチゼーションである。

図5 一貫パレチゼーション

(出所)日本パレットレンタル(JPR)社資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  パレタイズド貨物が1つのユニットとして、途中での積換えなしに(一貫して、スルーして)、発地から着地までの物流過程を経過していく。そこで、一貫パレチゼーションと呼ばれ、使われるパレット(2003年版のユニットロードシステム通則では1100mm×1100mmに限定)には、「Through(スルー)」の頭文字を冠して「T11型」とされた。2020年改定版では、上述のようにT11型に加えて、1200mm×1000㎜サイズも採用されている。
  一方で、一貫パレチゼーションの阻害要因としては、

①管理面
・パレットの流失・紛失(盗難?)が多い
・保管・修繕等の管理が必要
・空パレットの返回送

②作業面
・製品(貨物)の輸送包装寸法が整合しない
・保管、荷役設備や輸送機関と整合しない
・輸送機関の積載率が低下する

などが挙げられる。
  一貫パレチゼーションを実現するためには、上述のように、関係者間で標準化されたパレットを相互に共同運用するパレットプールシステムが有効である。
  パレットプールシステムの一つとしてについて、EUで行われているのが、納品したときに同じ枚数の空パレットを引き取る「即時交換方式」である。この方式の欠点は、「悪貨は良貨を駆逐する」と言われるように、古くて壊れたようなパレットが戻ってくることである。パレットプール機構における補修費等の負担が大きくなる。
  日本で行われているパレットプールシステムが「レンタル方式」で、ユーザーがパレットレンタル会社からパレットを借り出し、使用後は返却するという仕組みである。
  2-(3)-①で紹介した平原先生は、「パレットは物流における通貨である」として、パレットの共同運用を提唱しておられた。「通貨」であれば、どこでも預け入れ・引き出しできる金融機関窓口やATMが必要である。パレットも同様に、図6のようにパレットレンタル会社ごとにパレットデポが設置されている。レンタルパレットで隔地間輸送をする場合は、レンタカーの乗り捨てのように、着地での返却も可能である(図6)。
  「通貨」と違うのは、各社のパレットデポが共用化されていないことである。パレットデポの「共同化」が実現されれば、着地での返却や、パレットの共同回収の効率化が進むと思われる。

図6 パレットプールシステム

(出所)日本パレットプール(NPP)社資料
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  日本パレット協会によれば、2020年度のレンタルパレット保有枚数は約2,423万枚、うち約1,752万枚がプラスチック製パレット(うち1100㎜×1100mmが約1,422万枚)である。
  レンタル方式による利用者(発荷主等)の利点として、資産管理、保管・補修、返回送(回収)の手間、初期投資が不要等を挙げることができる。
  筆者はパレットレンタル会社の肩を持つわけではないが、物流センターの実務としては、パレットの種類は絞り込んだ方が、スペースや作業効率から望ましいと思う。
  図7は、あるホームセンター店舗のバックヤードである(筆者が公道から撮影)。左はレンタルパレット導入前であるが、納品された多種多様のパレットが積まれている。「一番下にある当社のパレットを返してほしい」と引き取りに来たら、パレットの山を崩して取り出さなくてはならない。一方、右はレンタルパレット導入後であり、数種のパレット(レンタルパレットを含む)が整然と積まれている。どちらが良いかは一目瞭然であろう。

図7 ホームセンター店舗バックヤードのパレット置き場

(左)レンタルパレット導入前          (右)レンタルパレット導入後
(筆者が、敷地外の公道から撮影)
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  一方で、レンタル方式の課題として、

①経済性
  パレットの多種化が難しい。使用料が高い。流失・紛失して返却不可能のパレットに対してもレンタル料を払い続けるか、パレット代を弁金しなくてはならない。

②迅速性・信頼性
  パレットが急に必要となったときの貸出に対応できるか(最近も、レンタルパレット不足が生じた)。パレットの品質管理(各パレットデポで検査・修繕している)。)

③付加価値
  バーコード・RFIDによる追跡管理が可能なプラスチックパレットが増えている。

等が挙げられる。
  ③については、プラスチックパレットにRFIDを装備して個別管理しているレンタル会社もある。パレタイズドした貨物のバーコード等と、パレットのRFIDを紐付けすれば、パレットを追跡管理することで貨物のトレーサビリティに役立てることができる。
  コスト的には、レンタルパレットの種類・枚数・期間などもあるので、一概に言えないが、自社保有の場合は、パレット購入費用以外に、回収・修理整備・補充・空パレット保管スペースなどの費用もかかる。
  あるパレットレンタル会社HPでは、レンタル費が1日1枚8円(11型木製パレット)、プール料金(納品地から発地までの回送料金)が1枚150円(同。東京~大阪間)等と例示されており、「詳細は見積り」とされている。
  さらに、各レンタルパレット会社HPでは、一貫パレチゼーション導入企業の事例が紹介されているので、参考にされたい。
  また、パレットの共同利用事例としては、

①業界ごとの共同利用・共同回収システム
  製紙パレット機構(1100mm×800mm)
  石化方式共同一貫パレシステム(1400mm×1100mm)

②JPR11型レンタルパレット共同利用・回収推進会(略称「P研」。会員310社、共同回収店1643店)
  2019.3.31活動終了し、2019.4.1以降は、日本パレットレンタル(JPR)社の事業運営に移行して従前どおり運用されている(社数・共同回収店数は非公開)。

③(一社)Pパレ共同使用会 http:///www.p-pallet.jp/
  ビール業界共通プールパレット「ビール9型プラスチックパレット」(1100㎜×1100mm×140mm)。ビール各社のパレットを共通運用する仕組み。各社は売上高に応じてパレットを補充する(図6右写真で最も左がビールパレット。共通運用なので、各社別に分けて管理する必要がない)。

(2)一貫パレチゼーションの導入
  冒頭1項で述べたように、 「ドライバー不足」「物流センターの作業者不足」「物流共同化」さらには、「ホワイト物流推進運動」の高まり等で、一貫パレチゼーションの導入が増えている。
  以前は、日本パレット協会などでは「手引書」を作成配布していたが、最近は、パレットレンタル会社が既製のパレットプールシステムの利用を働きかけたり、荷主・物流企業に最適なシステム導入をコンサルティングすることが多い。また、その方が、準備期間も短い。
  一方で「持たざる経営」ということで、自社でパレットを購入して資産管理(固定費管理)するより、レンタル料として変動費管理することが選好されている。
  ポイントとしては、次のようなことが挙げられる。

①現行の物流システム見直し
  ちょうど良い機会であるから、この際、「包装」もユニットロードシステムに合致するように見直す、あるいは設計・製造部門または荷主に見直しを提案する(包装変更は時日を要するので、同時並行ということもある)
  包装を提案する際には、ぜひ包装モジュール寸法を活用して頂きたい。その後の物流効率化に資するところ大である。

②パレットの規格や保有・運用方法
  これまで、一貫パレチゼーションというと、パレット寸法は一定という先入観(とくにT11型)があったが、最近の共同輸送やモーダルシフト事例を見ていると、かなり柔軟な活用方法が増えている。
  N食品とA飲料による低床トレーラを利用した、関東~九州間の共同輸送では、軽量品のN食品HDは12型パレット(1200mm×1000mm)を上段に、重い飲料品のA飲料は9型パレット(1100mm×900mm)を下段に積み合わせている。
  また、H自動車では関東から北海道への部品輸送を、JRコンテナにモーダルシフトする際、11型6枚では積載効率が悪いので、11型4枚に13型(1300mm×1100㎜)2枚を積むことで積載率を高めている。
  複数サイズのパレットを共載することは、これまで管理の複雑さ等から「禁じ手」であったが、この2例のように柔軟な活用も検討すべきであろう。
  ただし、レンタルパレットの場合は、日本パレット協会のデータからも明らかなようにT11型プラスチック製パレットが主流なので、他サイズはレンタル料が割高になる。
  自社パレットにするか、レンタルパレットにするかは、上記(1)を参照されたい。

③関係者の連携とテスト輸送による検証
  関係者の連携については、1-(1)で述べた通り、ホワイト物流推進運動に賛同した1200者以上の半数、600者が「パレット等の活用」に取り組む姿勢を見せているので、これまで以上に連携しやすい状況にあると思われる。
  「パレット化しないと、ドライバーも物流センター作業者も来なくなる」という切り口で働きかけるのも一つの方法であろう。
  テスト輸送から実現までは、思ったより時日を要する。2-(2)で触れた農産物のパレット輸送では、筆者たちがお手伝いした実証実験が2017年夏であった(図8)。

図8 農産物のパレット輸送実証実験

(出所)厚生労働省資料
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図9 卸売市場に着いたフルトレーラ

(筆者撮影。下の木製パレットが市場の特大サイズパレット)
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  ところが、消費地側の卸売市場では(場外に持ち出されないよう)特大サイズのパレットに、農産物のサイズ・等級あるいは仲卸業者別に仕分け卸ししなければならなかった。
  その後、産地・トラック運送業者・消費地(卸売市場)の協議が整い、卸売市場がT11型パレットに変更して、一貫パレチゼーションが実現したのは2021年4月であった(2017年度調査の後も注目していた筆者としては、感慨深い)。
  このように、一貫パレチゼーションなどの物流標準化は、粘り強い取り組みが必要となる。

4.おわりに

  物流標準化のツールは、パレットだけではない。プラスチック製通い容器(オリコン・クレート)や、ハンガー輸送におけるハンガーリサイクル(共同化)がある。また、包装については、1-(4)の加工食品業界以外にも、アパレル業界でも標準化の取り組みが始まっている。また、少量貨物のロールボックス輸送である「JITBOXチャーター便」も、輸送容器を統一した特別積合せ貨物の共同輸送業界ぐるみの標準化事例と言えよう。
  誌面の都合で、それらの最新動向に触れられないのが残念である。
  標準化は、労働力問題や環境問題など社会性がある課題であり、一企業や一業界の枠を超えた協同の取組みが必要である。
  物流システムに対する社会的関心が高まり、かつ企業の社会的責任が問われている今日、行政と産業界が一体となって標準化を進行していかなければならならない。
  読者をはじめとする物流関係者が、標準化の意義を強く認識し、標準化マインドを高揚させる一助になれば幸いである。

以上


  
【参考資料】

  • 1.「総合物流施策大綱(2021~2025)」並びに関係資料(国土交通省ほか。2021年)
  • 2.「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 加工食品、飲料・酒物流編」(国土交通省。2021年)
  • 3.「JISハンドブック62『物流』(日本規格協会。2019年)
  • 4.本稿に挙げた各省庁・各社・各団体のHP並びに資料。


(C)2021 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第472号 一貫パレチゼーションのすすめ(中編)(2021年11月16日発行) /logistics-472/ /logistics-472/#respond Tue, 16 Nov 2021 00:00:00 +0000 /?p=18357 執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」
      ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版) ほか

 

目次

*前号(2021年11月4日発行 第471号)より

2.標準化の現在地

(3)標準化の歴史
  標準化の歴史は長いが、ここでは物流標準化について、2人の先人を挙げたい。

①平原 直(ひらはら すなお)氏
  荷役機器の標準化、荷役の機械化について、忘れてはならない先人として平原直氏(1902~2001)が居られる(筆者も、ご講演を拝聴したことがある)。同氏のことだけでも誌面が足りなくなってしまうので、以下、簡記する。ご関心があれば、同氏の「物流史談 物流の歴史に学ぶ人間の知恵」(流通研究社、2000)を参照されたい。
  同氏は、戦後まもなく国鉄駅頭における貨車積卸し作業の激務実態(作業者の肩や腰の変形、痛み、後遺症)を憂えて、パレット荷役を導入し、荷役研究所を創設される等、生涯をかけて「荷役の改善」に取り組まれた。同研究所が母体となって日本パレット協会や、パレットレンタル企業などが生まれた。その後、半世紀以上経ったが、今でもトラックドライバーは長時間の手荷役が多く、1-(2)で述べた通り、「ホワイト物流」に賛同した企業等の5割が「パレット等の活用」を挙げている。
  パレチゼーションの推進には、国鉄も大きな役割を果たした。現在、ユニットロードシステム通則に定められているT11型パレットは、国鉄貨車の寸法に依っている。国鉄はパレチゼーション普及のため、パレット荷役用の貨車を大量に整備し、運賃面でもパレット貨物を優遇した。パレット貨物割引制度・返回送パレット割引制度は、今日のJRコンテナ運賃にも引き継がれている。

②マルコム・マクリーン氏
  個品の国際海上輸送におけるグローバル・デファクトスタンダードである、コンテナによる複合輸送システムは、米国トラック業者のマルコム・マクリーン(1913~2001)氏が考え出したものである。実は、マクリーンが考えた規格は、当時の米国トレーラ規格の35ftで、現在のISO規格である20ft・40ftではなかったが、同氏の標準化思想が現在の国際貨物コンテナのISO規格に繋がっている。
  マルク・レビンソン著「コンテナ物語(増補改訂版)」(日経BP社 2019)に詳しく描かれている。
  コンテナによる複合輸送システムは20世紀最大の発明と言われ、ビル・ゲイツほかも絶賛している。

(4)標準化のレベル
  標準化のレベルは、以下のように5段階に分けられ、それぞれの対象分野・業界で進捗度が異なるとともに、各レベルが混在している例もある。

①企業内標準化
  まず、企業や事業所などの社内規格である。

②団体標準化
  次に、事業者団体(業界団体)や学会などが内部で適用する団体規格である。例えば、パレットであれば、後述のビールパレット・製紙パレットなどがある。

③国家的標準化
  1国内で利害関係者の合意を得て国の機関が制定する国家規格である。後述のJISなどがある。

④地域標準化
  国を超えた一定の地域(ASEAN、EU等)で適用する規格である。例えば、EUのユーロパレットなどがある。

⑤国際標準化
  国際標準化機構(ISO)等による、各国合意の国際規格である。グローバルスタンダードとも言われる。上述の国際貨物コンテナ(ISO規格)などが挙げられる。
  事実上の国際規格や業界標準などは、デファクトスタンダードと言われており、EVや自動運転などではデファクトスタンダードを巡って激しい競争が繰り広げられている。

(5)標準化の対象
  物流標準化の対象は、以下の通り、多岐にわたる。本稿では、③包装(外装=輸送包装)、④パレットについて述べ、その他は省略する。
  3-(3)で述べるユニットロードシステム通則では、①⑦等も対象としている。

①荷役設備
  フォークリフト主要諸元、ローラーコンベヤ基準寸法、荷役機械能力表示など

②情報システム
  情報機器・システム、EDI等によるデータ交換(通信プロトコル及びデータフォーマット)、コード体系、物流情報システム(受発注、貨物追跡、VAN等)

③包装
  包装寸法、重量、表示、その他(共同利用・再利用の推進、プラスチック包材の見直し)

④パレット
  強度・材質、寸法、 共同利用

⑤コンテナ(クレートを含む)
  強度・材質、寸法、 共同利用

⑥建物
  梁下高さ、柱間隔、床高さ、床荷重

⑦車両
  車両の床高さ(床面地上高)、トラック荷台の内寸寸法、車両規制の緩和(重量・長さ・高さ等)

⑧安全基準・環境基準
  安全基準、作業環境、 環境基準

(6)JISと標準化
①工業標準化法(旧JIS法)
  日本における標準化の歴史は、「工業標準化」の歴史であった。工業製品の規格、およびその生産過程の諸要因を、全国的に統一・単純化するために、「工業標準化法(旧・JIS法)」が1949年に定められた(当時の所管省庁は、通商産業省工業技術院)。
  同法の対象は、工業製品(鉱業品含む)の種類・形状・寸法・構造・品質,性能・安全度など広範囲に及び,また生産や設計の方法、使用方法、さらに包装や試験の方法・内容、技術用語や記号の統一も工業標準化に含まれていた。
  経済産業省所管の独立行政法人産業技術総合研究所の日本工業標準調査会で制定された工業標準が、日本工業規格(JIS)である。
  同法は、その後国際標準化(ISO規格など)の促進や、「役務(サービス)」にも拡大された。

②産業標準化法(改正JIS法)
  2019年に大改正が行われ、役務(サービス)や情報も対象とする「産業標準化法」(新・JIS法)となった(JISは「日本工業規格」から「日本産業規格」に)。
  同法第1条(目的)では、「適正かつ合理的な産業標準の制定及び普及により産業標準化を促進すること並びに国際標準の制定への協力により国際標準化を促進することによって、鉱工業品等の品質の改善、生産能率の増進その他生産等の合理化、取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図り、あわせて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。」と定められている。
  また第2条(定義)では、第10~13項で、対象とする「役務(サービス)」を定めている。輸送・保管・荷役等の物流活動は、この「役務(サービス)」に含まれる。そして、同法でいう「役務(サービス)」分野の主務大臣は、内閣総理大臣・総務大臣・文部科学大臣・厚生労働大臣・農林水産大臣・経済産業大臣・国土交通大臣又は環境大臣と、各省に及んでいる(第72条第5項)。
10 役務(農林物資の販売その他の取扱いに係る役務を除く。以下同じ。)の種類、内容、品質又は等級
11 役務の内容又は品質に関する調査又は評価の方法
12 役務に関する用語、略語、記号、符号又は単位
13 役務の提供に必要な能力
  なお、包装は、第3項に「3 鉱工業品の包装の種類、型式、形状、寸法、構造、性能若しくは等級又は包装方法」と定められている。
  「物流標準化」の法律的な建て付け・枠組みは、上記の通りである。

③ISOとJIS
  国際的な標準化については、さまざまな国連機関・国際機関が推進している。なかでも国際標準化機構(ISO)が、物流だけでなく、品質関係のISO9000、環境関係のISO14000など、多くの国際規格を定めている。
  ISOの目的は、「商品とサービスの国際的な交換を容易にし、知識・科学・技術・経済に関する活動において、国際的な協力を助長するため、国際的な規模の標準化とこれに関連する諸活動の発展・促進」とされており、日本の「工業標準化法」が情報やサービスも対象とした「産業標準化法」に改正されたのもISOの影響がある。
  1995年に世界貿易機構(WTO)でTBT協定(Agreement on Technical Barriers to Trade「貿易の技術的障害に関する協定」。国内規格によって貿易を制限することは、 非関税障壁としてWTO協定違反となる)が締結され、日本も批准したので、ISO規格がJIS規格に優先されることとなり、国内標準から国際標準へ、JIS規格からISO規格への整合性を確保するための修正作業が進められている。
  また、産業標準化法第1条では目的の一つとして、「国際標準の制定への協力により国際標準化を促進する」ことを挙げており、1-(2)で述べたように「大綱」でも、「国際的な標準化への取り組み姿勢」が示されている。

(7)物流関係の主な現行JIS
  JISとは、日本の工業標準化の促進を目的とする工業標準化法(当時)に基づいて制定された国家規格で、2020年3月末現在で、10,858規格が制定されている。
  JISには、分類用に番号が付いている。
  このJIS番号は、分野を表すアルファベット文字と原則として4けたの数字との組合せからなる(その後ろに、最新の改定年次が西暦で付く)。
  ところが、物流分野を表すアルファベット文字は見当たらない。「物流関係の主な現行JIS」のように、各分野にバラまかれるか、Z(その他)に押し込められている。
  例えば、立体自動倉庫は機械なので「B:機械」、フォークリフトは原動機(エンジン等)が付いているので「D:自動車」、物流バーコードは「X:情報処理」に分類されている。
  物流は、日本の産業や国民生活を下支えする重要な役割を担っているのであるから、空いているアルファベット文字を充当して「物流分野」を作るべきというのが、筆者の提案である。
  JISで定められている、物流に関連する標準規格は、7領域・162規格ある( 「JISハンドブック62『物流』2019」による)。以下、詳細なJIS規格は省略し、包装・パレットに関する規格のみ概観する。

①ユニットロード寸法、用語など基本的事項に係る規格(詳細は省略)
  上述の「JIS Z0111 物流用語」や、物流標準化の基本である「JIS Z0161 ユニットロード寸法」などは欠かせない。

②商品の保護、安全性の確保等から、包装、容器などの適正化に係る規格
  包装関係としては、「JIS Z0105 輸送包装系列寸法」が定められている。
  段ボール関係としては、「JIS Z1506 外装用段ボール箱」「JIS Z1507 段ボール箱の形式」が定められている。

③商品の運搬の合理化及び安全確保のための各種機器類及び国際流通におけるコンテナリゼーション促進のための各種コンテナ類の規格
  パレットやコンテナ、トラック等について定められている。パレット類については、その種類や寸法・材質等が定められている。特に、「JIS Z0601 プールパレット(一貫輸送用平パレット)」は、「JIS Z0650 JISユニットロードシステム通則」とともに、物流標準化を推進するうえで重要な規格である。
  コンテナについては、上述のISOとの整合性を図りつつ、種類や寸法・材質等が定められている。「JIS Z1651 非危険物用フレキシブルコンテナ」(フレコン)や、「JIS Z1655 プラスチック製通い容器」(オリコン、クレート等)も定められている。
  さらには、運搬機器設備関係として、「JIS D4002 トラック荷台の内のり寸法」が定められている(Dは自動車分野の規格)。

3.一貫パレチゼーション

  一貫パレチゼーションの前に、貨物を一塊(かたまり)にまとめて輸送・保管するユニットロードシステムについて、簡単に説明する。それは、一貫パレチゼーションを実施するためのガイドラインであるユニットロードシステム通則が、昨2020年大幅に改定されたことによる。

(1)ユニットロードシステム
  上述の「物流用語」では、ユニットロードについて「複数の物品又は包装貨物を、機械及び器具による取扱いに適するように、パレット、コンテナなどを使って一つの単位にまとめた貨物(以下、略)」と定義している。
  また、「貨物をユニットロードにすることによって、荷役を機械化し、輸送、保管などを一貫して効率化する仕組みをユニットロードシステムという」と、ユニットロードシステムを定義している。
  ユニットロードシステムには、パレットを利活用するパレチゼーションと、コンテナを利活用するコンテナリゼーションがある。
  上記、物流用語では、パレチゼーションとは、「物品又は包装貨物をパレットに積み,パレット単位で物流を行うこと。パレットによるユニットロードで荷役を機械化し,物流の効率化を図る手段である」と定義し、「発地から着地まで一貫して同一のパレットに貨物を積載したまま物流を行うことを、一貫パレチゼーションという」と定義している(コンテナリゼーションは本稿では省略)。
  いずれも、貨物(物品・物資)をユニット化して荷役を機械化することが要件となっている。そこで、標準化推進団体の1つである日本パレット協会では、「ユニットロード3原則」を示している。

①機械化の原則
  個々の物品を1つの貨物としてまとめ、荷役の機械化が可能な荷姿となっていること。

②標準化の原則
  荷役・運搬の機械化を行うために、パレットの大きさや形式を標準化すること。
  この際に、パレットと積載貨物の寸法の整合化、パレットとフォークリフト、トラック等との整合化並びに各々の標準化を推進することが望ましい。

③荷扱い最少の原則
  貨物(ユニットロード)が、発地から最終目的地まで輸配送される過程において、荷役回数を最少化(least handling)すること。

  ユニットロードシステムの効果や問題点は、一般的には、次のように言われている。

①効果
・荷役の合理化 ・荷役コストの低減 ・輸送機関の効率的な運用 ・労働条件改善 ・荷傷みや錯誤の減少 ・貨物事故や貨物管理の合理化(高品質化) など
  3-(1)-①の平原先生は、上記のうち「労働条件改善」を目的に取り組まれた。「ホワイト物流」推進運動の目的の1つであるトラックドライバーの長時間労働の改善も、同様である。

②問題点
  ところが、効果が「光」の部分とすれば、「影」の部分もある。
・運用管理に手間 ・積載効率の悪化 ・関連施設の導入資金が必要 など
デメリットを指摘する声が多いのも事実である。

  ユニットロードシステムを導入するためには、上述の「3原則」のように、まず、互換性を有するパレットやコンテナの寸法・構造の標準化と、パレットやコンテナに効率良く積載されるための包装寸法の一定の基準が必要である。次に、パレット積みのまま保管する保管棚の寸法・強度や、輸送機関としてのトラック・鉄道・航空機・船舶の内法寸法も標準化の重要な対象である。
  これが、「ユニットロード寸法」(JIS Z0161)と言われるもので、平面寸法として以下の4つが定められている。
①1200 mm×1000 mm
②1200 mm×800 mm
③1100 mm×1100 mm
④1219 mm×1016 mm
  ①③は、1984年版で定められた寸法であり、②④は2015年版で追加された(②はEU規格、④は米国規格に基づいている)。

(2)包装とユニットロード寸法
  また、包装の基本寸法としては、「包装モジュール寸法」(JIS Z0105)が定められている。この規格は、上記「ユニットロード寸法」で規定する4種類(上記①~④)の平面寸法に対して、600 mm×400 mm、600 mm×500 mm及び550 mm×366 mmを基準(モジュール)とする一連の直方体輸送包装の平面寸法について規定されている。具体的には、上記モジュールの倍数系列及び分割系列から算出されている。例えば、550mm×366mmについて、長辺の550㎜は11型パレットの1100mm÷2から、短辺の366mmは同じく1100mm÷3から算出される。したがって、550mm×366mmの段ボール箱であれば、6個をT11型パレットに積み付けることができる。
  ①~④の平面寸法ごとに、輸送包装寸法が細かく定められているが、ここでは誌面の都合で割愛する。
  つまり、輸送包装寸法とパレット寸法の整合化が図られているのである。
  逆に言えば、包装モジュール寸法に基づいて輸送用段ボール(外装)を設計すれば、パレット寸法にピタリ合う。さらに、その外装寸法を基に、個装・内装にも展開すれば、輸送効率・保管効率の向上が期待できる(JIS Z0105包装モジュール寸法を参照)。
  欧州における物流標準化の「都市伝説」として、「角砂糖のサイズは、パレットサイズから決められている」と言われるが、合理性・効率性を重んじる欧州では考えられることである。
  筆者は入社数年目に、生鮮流通の調査団に帯同して欧州諸国を訪問し、卸売市場流通、生協活動、冷凍輸送、港湾荷役などを見学した。その際に、EEC(当時。現EU)本部を訪問した際に、団員のパレット専門家が「11型のISO化」を強く訴えていたことを覚えている(当時は、国内規格でしかなかったが、その後11型パレットもISO規格として採択された。当時は未だ「T11型」ではなかった)。
  2-(1)で述べたように、物流の6機能については、「輸送」「保管」「包装」「荷役」「流通加工」「情報」という順番で並べられるのが一般的である。JILS「物流コスト調査」によれば、物流コストの大半は「輸送」「保管」であり、多くの荷主も輸送・保管の効率化・コスト削減に努力している。
  筆者は物流に長年携わってきて、「包装」は物流過程の入り口であり、包装の良否は、その後の「輸送」「保管」効率に大きく影響すると感じている。コストの点で言えば、「包装」コストは「製造原価」に含まれることが多いので、物流コストとしての意識が薄いのではなかろうか。また、包装は製造(生産)部門の所管であるという意識が強いのかも知れない。
  物流・ロジスティクス部門が、商品設計・包装設計まで関与しているのは、少数のロジスティクス先進企業だけではないだろうか。以前に、自動車部品メーカーで、「嵩高の自動車部品が輸送用段ボールに3個しか入らなかったのを、物流部門から製造部門に要請して、個装の高さを低くすることで4個入るようになって、輸送費が単純計算で25%低減した」事例があった。
  パレタイズの際には、荷崩れ防止のために、ストレッチフィルム巻き・シュリンク包装・ダンネージなどが必要となる場合が多い。筆者たちがお手伝いした、青果物を産地選果場から中央卸売市場までパレット輸送実験をした際も、使用したパレットと段ボールの大きさが合わず、輸送中に段ボールが横ズレしたことがあった。
  荷崩れ防止資材も、着地での包材廃棄物削減のためフィルム等の多用は避けることも求められる。筆者は、プラスチックごみとしては、レジ袋よりも大量ではないかと感じている。
  また、ユニットロード輸送用のロールボックスパレットは、ユニットロードシステム通則では、最大平面寸法·高さ(長辺×短辺×高さ)は,1140mm×1140 mm×1800 mm及び1240 mm×1040mm×1800mm、積載質量の最大は500kgと定められている。それ以外のロールボックスの外寸は、「ユニットロード寸法」に合わせてあるので、内寸は少なくなることを計算に入れて、段ボールやオリコンのサイズを決める必要がある。

(3)ユニットロードシステム通則
  JISでは、パレット輸送(パレチゼーション)やコンテナ輸送(コンテナリゼーション)を推進するためのガイドランとして、発荷主・着荷主・輸送業者・保管業者などの関係者のために、ユニットロードシステム通則を定めている。「皆さん、このルールでパレット輸送やコンテナ輸送をやって下さい」と言っているのである。
  2003年版では、1100mm×1100㎜のパレット寸法を唯一の基本とするものであった。筆者は、アジア地域との国際輸送の拡大を考えれば、アジア標準パレットのもう一つの寸法である1200mm×1000mmにもユニットロードシステム通則を適用すべきと思っていた。
  今般、2020年の改正により、「ヨーロッパの現状及びアジアとの輸出入の増大を鑑み、フォークリフト1100mm×1100mm及び1200mm×1000mmのパレット寸法を基本とするパレチゼーションによる一貫輸送をはじめ,体系化されたユニットロードシステムを構築し,物流の合理化を図るための指針となる事項について規定するとともに,ユニットロードシステムの中心となるパレタイズド貨物の運搬,保管などに関係する機械及び器具について規定」された(JIS Z 0650抜粋。主務大臣は経済産業大臣)。
  ユニットロードシステム通則は、「適用範囲」に始まって、「用語および定義」「平面寸法」「最大総質量」「全高」「荷くずれ防止」「パレット」等のほか、「荷役機器」として、 フォークリフトトラック、無人搬送車(AGV)、パレットトラック、コンベヤ等、「保管設備」「貨物コンテナ」「輸送機関(トラック及びトレーラ、航空機、鉄道及び船舶)について、詳細に説明しているので、物流標準化のルール・ガイドラインとして一度ご覧頂きたい。
  平パレットに積載する際に各40mmのオーバーハングを認めている(プラン・ビュー・サイズ)が、実務上、オーバーハングは避けた方が良い。

  ユニットロードシステム通則では、「物流ではサプライチェーンの全階層(製配販)にわたる整合性を図ることが重要である」とし、規格については、各階層間(ユニットロードシステム通則本文では「受渡当事者間」と言っている)のユニットロードについて,各階層間の関係を考慮して標準を定めることが望ましいとの考え方に基づき,ユニットロードを規制する要因と荷役及び運搬·輸送のための機械及び器具を整理したうえで,パレットサイズレベルのユニットロードを対象として標準を作成した。適用範囲においても、「ユニットロードシステムの中心となるパレタイズド貨物の運搬,保管などに関係する機械及び器具について規定する」とされている。
  つまり、ユニットロードシステム通則は2種のパレットを基本にして、包装(外装=輸送包装)・コンテナや、ハンドリング(MH)の標準を定めていると言えよう。
  ただ、残念なことに、ユニットロードシステム通則に従ってパレットを運用する際には、「構造、寸法、材質などが統一された互換性のあるパレットを、広範囲の利用者間で共同運用する仕組み」であるパレットプールシステムが有効であるが、そのプールパレット(JIS Z0601)は、未だに1100㎜×1100mmの1サイズだけである(早く1200mm×1000㎜も加えて欲しいと思う)。
  ちなみに、「受渡当事者間」というのは、発荷主と着荷主、荷主と倉庫業者・運送業者のことであり、それぞれが連携・協力しなくては、ユニットロードシステムが円滑に機能しない。
  筆者は、そのためにもユニットロードシステム通則の「手引書」「ハンドブック」を作成して、関係者が活用できるようにしてほしいと思っている。

※後編(次号)へつづく



(C)2021 Masayuki Hasegawa & Sakata Warehouse, Inc.

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第471号 一貫パレチゼーションのすすめ(前編)(2021年11月4日発行) /logistics-471/ /logistics-471/#respond Thu, 04 Nov 2021 00:00:00 +0000 /?p=18348 執筆者  長谷川 雅行 (株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)  執筆者略歴 ▼ 経歴 1948年 生まれ 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社 2006年 株式会社日通総合研 […]

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執筆者  長谷川 雅行
(株式会社日通総合研究所 経済研究部 顧問)

 執筆者略歴 ▼
  • 経歴
    • 1948年 生まれ
    • 1972年 早稲田大学第一政治経済学部卒業 日本通運株式会社入社
    • 2006年 株式会社日通総合研究所 常務取締役就任
    • 2009年 同社顧問
    保有資格
    • 中小企業診断士
    • 物流管理士
    • 運行管理者
    • 第1種衛生管理者
    活動領域
    • 日本物流学会理事
    • (社)中小企業診断協会会員
    • 日本ロジスティクス研究会(旧物流技術管理士会)会員
    • 国土交通省「日本海側拠点港形成に関する検討委員会」委員ほか
    • (公社)日本ロジスティクスシステム協会「物流技術管理士資格認定講座」
      ほか講師
    著書(いずれも共著)
    • 『物流コスト削減の実務』(中央経済社)
    • 『グローバル化と日本経済』(勁草書房)
    • 『ロジスティクス用語辞典』(日経文庫)
    • 『物流戦略策定のシナリオ』(かんき出版)ほか

 

目次

1.はじめに

(1)物流標準化に追い風
  物流の標準化・効率化については、後述のようにパレットやコンテナの「器材」が利活用されている。
  パレットを利活用するのを「パレチゼーション」、コンテナを利活用するのを「コンテナリゼーション」という。さらに、前者では、発地から着地まで積替なしで輸送することを「一貫パレチゼーション」という。
  本稿では、誌面の都合でコンテナを省いて、「追い風」という好機を捉えて一貫パレチゼーションに取り組もうとする読者の一つのヒントとしたい。

  筆者は、あるところで2004年から「物流標準化」について話をしているが、最近になって「追い風」が吹いているように感じている。そこには、さまざまな要因があると思う。
  「ドライバー不足で手荷役が嫌われている」「物流センターの作業者不足で機械化・自動化を迫られている」「外装を規格化・標準化して物流共同化を進めたい」などの質問・要望も多い。
  ご存じのように、2019年から国土交通省・経済産業省・農林水産省が合同で「『ホワイト物流』」推進運動」を展開している。同運動のサイトを見ると、2021年7月末で1,256者(企業・組合・団体等)が賛同し自主行動宣言を打ち出している。自主行動宣言の推進項目(複数)で最も多いのは、「パレット等の活用」で約半分である。裏返せば「パレット等を活用していない」企業が半分いるということである。パレットを活用した一貫パレチゼーションが、大いに期待されるところである。
(筆者注:どのくらいパレットが活用されているかについては、JILS「一貫パレチゼーション普及調査 (1992-2000年度)」がある。そこでは、「パレット化可能な輸送物量」のうち、「パレット輸送している物流」の比率を「パレット化率」として表しているが、最新(?)の2000年でみると調査対象25業種の平均は76.5%であり、国交省などもこの数字を使っている。)

  さらに、「総合物流施策大綱(2021~2025)」(1-(2)参照)では、「物流標準化」を重視する方向を打ち出している。
  「物流標準化」については、「大綱」概要の参考資料「物流DX」にもあるように、ハードである「包装・パレット」などの標準化と、ソフトである物流情報などの標準化があるが、誌面の都合もあるので、ここでは外装・パレット等のハードについて述べることにする。
  なお、本稿で述べる包装は特記以外、「外装(輸送包装)」をいう。
  当然、JIS(日本産業規格)や国際物流についてはISO(国際標準化機構)規格が中心となる。
  また、標準化・規格化については、農林水産品であればJAS(日本農林規格)、冷蔵冷凍食品であればHACCP、医薬品であればGDPなどでも定められているが、ここでは省略する。

(2)「総合物流施策大綱(2021~2025)」
  2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021~2025)」(以下、「大綱」と略す)では、「Ⅲ.今後取り組むべき施策」として、「①物流DX や物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)」「②時間外労働の上限規制の適用を見据えた労働力不足対策の加速と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流の実現)」「③強靱性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流の実現)」の三本柱を掲げている。そのうち、①②では「物流標準化」も入っている。

図1 「大綱」の概要(抜粋)

(出所)国土交通省「総合物流施策大綱(2021~2025)概要」
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


  ①では、「物流標準化の取組の加速」として、後述するユニットロードが取り上げられている。パレットの規格については、「将来的な国際一貫パレチゼーションの実現に向け、国内外の状況を注視しつつ、中・長期的な取組の方向について関係者の合意形成を図る」(下線は筆者。以下同じ)と、国際的な標準化への取り組み姿勢が伺われる。
  このうち、加工食品分野の取り組みについては、(3)で述べる。
  ②では、「農林水産物・食品等の流通合理化」として、「パレット規格や外装の標準化、パレットの運用ルールの確立等によるパレット化を促進する」とされている。
  これまで、農林水産物の物流については、 第456号・第457号「卸売市場法改正と最近の生鮮食品流通」で述べたように、国民生活に欠かすことのできない重要な物資であるにもかかわらず、輸送・荷役の機械化が遅れていた。
  それら「(農林水産物・食品等の)流通合理化・効率化を図ることで、持続可能な物流が実現されるよう、関係省庁で連携して業界の取組を後押しする」とされたのは大きな一歩である。農産品物流については、2016年から農林水産省 ・経済産業省 ・国土交通省による農産品物流対策関係省庁連絡会議で、パレット・フレキシブルコンテナを導入した改善・効率化に取り組んでいる。

(3)加工食品物流効率化における標準化の動向
  上記①では、「物流標準化の取組の加速」のなかで、「業種分野ごとに物流の標準化を推進」することとされており、そのトップバッターとして、2020年から加工食品分野で「物流標準化」が進められている。
  既に、ガイドラインも策定して、その進捗状況がフォローされている。
  例えば、「パレット規格」については、「飲食・酒物流ではT9型パレット(筆者注:通称「ビールパレット」)が主流となっており、T12型等ほかのパレット規格との親和性が低い」と現状・課題を指摘しており、その「解決の方向性への論点」としては、「飲料・酒については引き続きT9型の利用を推奨。加工食品で利用されているT11型、T12型も念頭に置いた庫内運用を推進」すると述べられている(「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 加工食品、飲料・酒物流編」2021年4月、国土交通省)。
  加工食品分野以外にも、「大綱」では目標数値(KPI)として、「業種分野別の物流標準化に関するアクションプラン・ガイドライン等策定数」を3件(2021~2025年度)としている。上述の「農産品物流」も先行しているので、5年間で3件は少ないような気もするが、とりあえずは期待したい。

図2 食品業界の一貫パレチゼーションの実現

(出所)国土交通省資料
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(4)フィジカル・インターネットと物流標準化
  上述の「大綱」では、フィジカル・インターネットとは「貨物情報や車両・施設などの物流リソース情報について、企業間情報交換における各種のインターフェイスの標準化を通じて、企業や業界の垣根を越えて共有し、貨物のハンドリングや保管、輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする考え方」としている。
  インターネットでは、データを細切れにしたうえで、パケット(小包。1パケット=128KB)という共通の「容器」に入れて、ネット上を瞬時に伝送する。
  フィジカル・インターネットでも、貨物を一定の荷姿(パレットやコンテナ)でパケット化して、保管機器・輸送用具でつながったネットワーク上を、シェアしながら輸配送される(と筆者は思っている)。

2.標準化の現在地

  ここでは、パレットを中心に、物流標準化の意義や現在地について述べ、標準化に関する情報の理解・共有化を図りたい。

(1)標準化の意義
  物流には、「輸送」「保管」「包装」「荷役」「流通加工」「情報」の6つの要素から構成されると、一般的には言われている。各要素の所管省庁は、国土交通省(運輸・倉庫)、総務省(情報)などに分かれている。包装や流通加工は、各業界を所管する経済産業省(自動車・電機・鉄鋼など)、農林水産省(食品・農水産物など)・厚生労働省(医薬品など)等が担当していると言えよう。それでは「荷役」はどこかというと、ユニットロードシステム通則(3-(3)参照)やマテハン機器から見ると経済産業省が所管しているようである。
  というように、物流の6要素を一気通貫に所管する省庁がないのが、日本の物流政策上の問題ではないかと、筆者は考えている。
  「標準化の意義」等については、経済産業省が「知っていますか標準化」というパンフレットで、分かりやすく説明している(図3・4参照)。

図3 知っていますか標準化

(出所)経済産業省
*画像をClickすると拡大画像が見られます。


図4 標準化でできることって何?

(出所)経済産業省
*画像をClickすると拡大画像が見られます。

(2)標準化の進め方と効果
  標準化の目的は、後述の産業標準化法第1条に定める通り、「鉱工業製品等の品質の改善、生産能率の増進その他生産等の合理化、取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化」である。
  標準化の進め方は、一般的に以下の通りである。

①共通する製品や機能の相互理解を促すための基準づくり
  まず、皆で用語・記号・製図などを揃える必要がある。
  用語について、本稿の主題である「パレット」と書けば、読者は貨物を載せる輸送保管用の機材をイメージする。仮に、本稿が図2のようなイラストを描く教本であれば。絵の具を混ぜる「パレット」をイメージする。同じ「パレット」という「用語」でも、全く異なるモノを指す。
  物流に関する用語でも、企業内だけ通じる用語、業界だけで通じる用語(ギョーカイ用語と言われる)など、さまざまである。各地の方言には歴史や文化的価値があるが、ビジネスとしては「標準語」でないと困る。
  そこで、物流についても、JIS Z0111で標準語としての「物流用語」が定められている。「まず、言葉から統一しましょうヨ」ということである。
  「物流用語」では、「1001物流」から始まって「7007トレーサビリティ」まで、7分野76用語について定義や対応英語が定められている。
  同様に、記号・製図(図面)の標準化も欠かせない。

②製品や機能を利活用する際の環境・安全等の基準づくり
  次に、「標準化」された製品・機能を利活用する人間が、安心して利活用できるように、健康・環境・安全等の基準が必要となる。図2で言えば、自動車の安全基準や、工作機械の環境基準(振動・騒音等)である。物流センターの換気・温度・照度などもその一つである。

③システムの整合性の確保のための基準づくり
  三番目に、多くの製品や機能は単体で利活用されるより、一つのシステムとして利活用されるので、そのための「共通性・互換性」が必要となる。パレットの大きさは、輸送機器・保管機器間での共通性・互換性を重視して、JISで定められている。
  標準化の効果としては、図4でも示されているが、企業サイドから見れば「生産性向上」「品質向上」「コスト低減」「納期短縮」「安全」などが挙げられる。現場改善のテーマであるPQCDSそのものである。

※中編(次号)へつづく


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第466号 コロナ禍を機に在庫管理のあれこれを考える。(2021年8月17日発行) /logistics-466/ /logistics-466/#respond Tue, 17 Aug 2021 00:00:00 +0000 /?p=17798 執筆者  髙野 潔 (有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)  執筆者略歴 ▼ 職歴・履歴 日産自動車株式会社(33年間) (出向)株式会社バンテック(7年間) (起業)有限会社KRS物流システム研究所 […]

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執筆者  髙野 潔
(有限会社KRS物流システム研究所 取締役社長)

 執筆者略歴 ▼
  • 職歴・履歴
    • 日産自動車株式会社(33年間)
    • (出向)株式会社バンテック(7年間)
    • (起業)有限会社KRS物流システム研究所(平成11年~)
    組織・履歴
    • 神奈川流通サービス協同組合・物流システム研究所所長(5年間)
    • 株式会社湘南エスディ-・物流顧問(5年間)
    • 株式会社カサイ経営・客員研究員(7年間)
    • 物流学会・正会員(8年間)
    • 物流学会・ロジ懇話会事務局(5年間)
    • 日本情報システムユーザー協会・個人正会員(JUAS-ISC)(9年間)
    • 日本情報システムコンサルタント協会(JISCA:東商会員)
      正会員・理事(平成25年~)
    委嘱(受託)・履歴
    • 通産省(現・経済産業省) 荷姿分科会委員・委嘱(1年間)
    • 運輸省(現・国土交通省)輸送分科会委員・委嘱(1年間)
    • 中小企業基盤整備機構  物流効率化アドバイザー・委嘱(8年間)
    • 中小企業ベンチャー総合支援センター
      新事業開拓支援専門員・委嘱(6年間)
    • 中小企業基盤整備機構  企業連携支援アドバイザー・委嘱(6年間)
    • 中小企業大学校(関西校) 非常勤講師・委嘱(4年間)
    • 海外技術者研修協会 [AOTS]関西研修センター
      非常勤講師・委嘱(2年間)
    • 座間市観光協会・事務局長(2年間)
    • 座間市・都市計画審議会委員(2年間)
    著書・講師・履歴
    • 日本のロジスティクス (共著:日本ロジスティクスシステム協会)
    • 物流共同化実践マニアル
      (共著:日本ロジスティクスシステム協会・日本能率協会)
    • 図解 なるほど!これでわかった よくわかるこれからの物流
      (共著:同文館)
    • 雑誌掲載:配送効率化・共同物流で大手に対抗(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:情報化相談室回答担当者(日経情報ストラテジー)
    • 雑誌掲載:卸の物流協業化・KRS共同物流センター事業
      (流通ネットワーキング)
    • 雑誌掲載:現場が求めるリテールサポート・ドラックストア-編
      (流通ネットワーキング)
    • その他  :執筆実績多数
    • 講師(セミナー、人材育成、物流教育・etc):実績多数

 

目次

1.はじめに…。

  総務省の発表によるとコロナ禍の時代の特徴として商品毎の需要の変動が大きく、生鮮食品やコロナの感染が広がった2020年の春に一時的に品薄になったマスク、テレワークなどで使用するデスクトップ型のパソコン、プリンターなどの需要が急激に上昇しました。
  コロナ禍に於いてもオイルショックと同じように噂やデマが瞬く間に広がり、トイレットペーパーを買い求める人がスーパーやドラッグストアなどに押しかける騒ぎになりました。「トイレットペーパーが不足」したのは、消費するためのものではなく、「不足するかもしれない」から「多めに買っておこう」との考えからでした。「トイレットペーパーの在庫」は心配なしとの官民の情報発信で何とか買い占めが落ち着きましたが、これから先のコロナ禍での心配ごとは、食料品かもしれません。既に「外国人労働者に農作業を依存している国では、収穫量が減るかもしれない」といった話が出ています。
  さらに、飲食店の深夜営業の自粛で大都市圏の倉庫では、庫腹占有率(実運用時の最大保管可能容積率)が100%を超えると言われています。荷動きの鈍化によって倉庫の回転率の悪化で在庫が高水準、全国的にスペース不足が顕在化していると言われています。日本冷蔵倉庫協会が東京都内で開いた2020年の年末記者会見で、冷蔵倉庫の庫腹量がタイトである状況を伝えていました。
  いつ終息するか見通せないコロナ禍の時代、需給と在庫管理の重要性を再認識し、在庫管理のあれこれを考えてみたいと思います。

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2.コロナ禍を機にやるべきこと

  コロナ禍が物流業界に様々な影響を与えています。緊急事態宣言で人の動きが止まることにより、荷物の動きも止まり、在庫が停滞したりしています。物流拠点(物流センター)では、荷動きの停滞により、満床状態が続き外部倉庫を借りなければならない状態となったり、空き車両が増加したとの話しが出ています。
  物流企業にとっての生命線である「仕入(調達)、在庫、販売」の三大要素をきちんとマネジメントすることがコロナ禍を乗り切る最良の策だと考えます。波動の多い注文には、在庫を多く持つしかない、コロナ禍による需要の変動で多くの企業が「在庫の波動問題」で苦労しています。商品発注時に見込んだ販売量が多すぎたり、逆に販売が振るわず、大量の過不足在庫を抱えるケースも見受けられます。さらに、仕入れと販売が不整合で、売り逃がしや在庫過多に陥ったりしています。そのようなコロナ禍の厳しい環境条件の中で売り上げの増減で仕入(在庫)金額、会社の運営費、倉庫費用などで苦慮しているようです。当然、資金繰りは難しくなってきています。また、売れ残った在庫をどのタイミングで、どう処分するかの問題も生じてきます。
  コロナ禍の最大の試練の中で、どう乗り越えるかを模索する様々な中から在庫問題に焦点をあて、コロナ禍を機に今やるべきことは「売上(販売)に力を入れ、出ていくコストを減らし、固定費を減らす」ことです。それは、資金繰りと経費削減を同時に実現するための「在庫管理」と考えます。

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3.コロナ禍に於ける在庫管理の重要性

  過剰在庫はお金に代わる可能性が低いので 在庫を処分することから始めます。コロナ禍に於いても当たり前のことですが、市場に合わせて、少なすぎない、多過ぎないように在庫アイテム毎に「売れ行き」に応じて「在庫量」を「適正水準」に維持コントロールすることです。欠品をなくし、販売機会の損失を防ぐこと、在庫精度(コンピュータ情報と実在庫の一致)を保つことが必須と言われています。この分かりやすい在庫管理の目的を全ての企業が目指していますが、大半の企業が年間を通して満足する水準に達していないのが現実だと思います。在庫の適正化、これは、難しい課題ですが多くの企業が抱えている共通のテーマだと思っています。
  私が物流コンサル業を営んでいた昨年までに「在庫を削減したいが、欠品は起さないこと」という言葉をお客様から頂いたことがあります。一般的に「在庫管理」は、企業によって考え方が多種多様で異なるケースを沢山見受けしました。
  経営的・営業的・物流実務の視点からも在庫管理を行う必要があります。在庫とは「(現在庫+入荷)-出荷」±入出荷リードタイムを加味した後に残った商品(在庫)のことで、コンピュータ情報と現物在庫量とは若干タイムラグがあり一致を確認するのが難しい場合があります。必要な時に必要な量を必要最小限の実在庫を基本にすることが理想です。多くの在庫を持つことは、その在庫を保持(維持管理)するためのコストが発生しますが、適正在庫量を管理することが必要です。さらに、在庫を保管するにはスペース(倉庫)が必要になります。スペース(倉庫)を維持するための賃料や保険料、税金、水道光熱費などの諸経費が必要です。不必要な在庫は、現金が在庫の形になって寝ていることです。資金繰りに影響してきます。
  適正な在庫か、どうかは、在庫日数や在庫回転数を使ってマクロ的に判断します。在庫引き当てのタイミングや毎日、沢山の人が、多岐多彩な入出荷作業を行う中で、コンピュータ情報と実在庫量にズレが生じます。そのズレの積み重ねが、過剰在庫、過少在庫に繋がります。在庫の不一致が資金面だけでなく実作業でも無駄、無理、ムラに繋がり、目に見えない工数的な無駄が発生します。過剰在庫は、品質の劣化を招き、商品価値を低下させます。管理費用や在庫維持費用などの発生で収益悪化にも繋がります。様々なリスクを回避する適正在庫の実現は企業にとって見逃すことのできない永遠の課題と考えます。

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4.コロナ禍の在庫の在り方を考える

  仕入れ商品がお金に変わらないとキャッシュフローが苦しくなります。在庫管理で仕入れを抑える(適正在庫量の維持が前提)と資金繰りが改善します。コロナ禍においても様々な業種によって異なりますが、需要が増加している業種と減少している業種が顕著で荷動き(売上)の増減の変動幅も大きくなっています。
  コロナ禍で気を付けたい一つが在庫問題で滞留期間の長期化によるデッドストックの増加です。その影響により、保管スペース不足が顕著になりスポットで外部倉庫を借りざるを得ない企業が出ているようです。企業により保管する在庫量には望ましい水準があり多くても少なくても良くありません。在庫(棚卸資産)の管理を担当する部門では、在庫を適正量に保つ努力をします。在庫が少ないと得意先からの注文に対応できず、売り逃す(機会損失)ことになります。一方、在庫が多すぎると在庫を保管するためのコストがかさみます。在庫を受け入れてから販売するまでの期間が長くなると不動在庫を抱えた状態になり不必要な企業の資金が固定化されてしまいます。適正な在庫水準が、どのレベルなのかについては、明確なルールはありませんが、コロナ禍の入出荷の波動の変化を読み取り、企業が試行錯誤を繰り返しながら、適正な在庫水準を探っているのが現状のようです。
  商品を必要とする市場の条件は経済、季節、催事などで多彩に変動しますが、コロナ禍の巣ごもりによる波動の変動幅に対応する術を見い出したいものです。パーフェクトな在庫管理は有りませんが、常に実績と市場動向の先読みと自社の戦略に沿ったマーケットイン(顧客の要求)に応じた入出庫量の予測で波動の変動を先取りし、吸収する在庫管理に取り組みたいものです。

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5.実務的な在庫削減の考え方

  コロナ禍に於ける市場環境の変化に柔軟に対応するには、「在庫の販売」だけでなく当然のことながら「在庫の仕入」も市場の情報を敏感にキャッチしていく必要があります。
  在庫アイテム数(発注アイテム数)の多い場合は、在庫の仕入れ単価を抑えるためにも少頻度で大量に発注を行う傾向にありますが、少頻度大量発注は、不定期な変化への対応が難しいのが実態です。在庫削減につなげる発注業務は、商品の売れ行きを小まめに分析し、手間や時間をかけて少量・多数回発注を繰り返すことが、在庫削減に繋げ易いポイントと考えます。さらに、市場環境と需要変動の変化を先読みで分析し、「在庫の補充(仕入)と販売」にも力を注ぎたいものです。
  「在庫適正化」を前提に「在庫管理」の充実が、多くの企業が抱える共通の課題だと考えています。そこで、コロナ禍の変革の中で、業種業態は異なりますが、沢山の在庫対策の事例(考え方)をご紹介したく思います。参考にして頂ければ幸いです。

  先ず、N自動車企業が部品企業に対して3ヶ月前から発注の内示を月間、循環(週間、3日タクト)単位で行い微調整を行いながら発注先である部品企業の生産ラインと連動、物流企業が部品企業からの集荷と生産ライン毎のアソートを委託し、自動車生産ラインへダイレクトに供給、事前の生産情報(受注生産)を基に自動車企業と部品企業が共に最小限の在庫で生産できるようにしています。
  次に、T自動車企業が在庫量の持ち方を経営の重要判断の1ツにして自動車企業の組み立てラインと部品企業の生産ラインを連動させ、双方が生産順序に従って部品と車の生産を行い在庫を持たずに連動して生産に取り組んでいます。ここで、重要なのは、在庫を抱えたままリードタイムを短縮しても成果が得られないという発想です。在庫なしでリードタイムを短縮するために部品の標準化、作業工程の改善、双方の生産ラインの連動(サプライチェーン)で生産指示通りの部品の供給体制を確立、在庫を持たずに自動車生産を行っています。
  次に、ドロップシップ(直送)方式です。適用できる商品が多くなればなるほど、在庫削減や物流費改善に効果を発揮します。自社で取り扱っているドロップシップ(直送)向きの商品を出荷・荷姿単位(パレット、ケース、etc)で選別し、工場倉庫や仕入先から直接(自社を経由せず)次工程に届ける方式の導入です。自社の物流拠点が全国に複数あるとすれば、統廃合、拠点の集約化で物流プロセスのオムニチャネル化(販売や流通チャネルを統合し、どこからでも商品を購入できる環境を実現すること)などで在庫管理や物流業務の簡素化を実現するために在庫削減、物流業務の効率化に繋げたいものです。
  次に、規模の大きい物量を扱うトレンド(季節商品、特売商品、祭事商品、新店、etc)などの変化の大きい波動対応型の商品を多く取り扱う受発注は在庫管理、出庫・出荷を含めた波動対応を円滑に行うことができるシステム(仕組み)が欲しいものです。卸業の特売システムなど、運用・在庫管理を含めたサブシステムが必要と考えます。これは、定番在庫、特売在庫の波動の違いをサブシステムなどで円滑に吸収し在庫の増減やトータルコストパフォーマンスに影響を与えないための仕組みです。
  次に、小ロット多数回物流、これは、在庫削減と物流改善に大きな効果をもたらします。在庫削減には、受発注(生産や販売)のロットサイズをパレット、ケース、ボール、販包単位などでの最小単位に限定し、その倍数で取り扱うことが効果的です。すなわち、多数回、小ロットでの作業工数を含めた商品毎の最小作業ロットを追求する必要があります。アイテムの流速に対応した適正な在庫量の確保と補充量をロット単位に最小限に保ち必要に応じたスピーディな補充を行うことが必須条件になってきます。定番製品、保守サービス部品、補修部品、流通業の納品センターからの一括納品などに適用すると効果的です。
  次は、複数企業(同業種が望ましい)の共同在庫拠点つくりです。同業種同士の在庫を起点(在庫の共同化)に総在庫量の削減が図れます。さらに、同業種間のみならずサプライチェーン全体で連携し、共同化を目指す動きが始まっています。これまでは、荷量を集約することで車両積載率の向上、物流コストの低減を図るのが主な目的でしたが、サプライチェーン全体の連携による共同化の狙いは在庫の削減、拠点内作業の合理化、入出荷輸送トラックの積載率、移動距離の合理化(コスト削減)を狙いとしています。
  次に、これも共同化になりますが流通三層 (メーカー、卸、小売)の共同・統合化をオムニチャネル的な考え方で「在庫の重複、在庫の移動を少なくする」ことを目的にサプライチェーンの短絡化、合理化で豊富な荷揃いと在庫の削減、保管・輸配送、物流作業などの効率化を進めるものです。これらの取り組みは利害が絡み簡単ではないことは言うまでもありませんが、新しい取り組みとして全国の販売網や流通チャネルを統合して統一販売チャネルを構築し近隣のどこからでも商品を購入できるシステム(仕組み)を作りたいものです。東北地方のセメント卸業界の新業態づくりの企業化調査を実施したことがございます。これは、在庫の持ち方の工夫、新しい事業領域、商物分離、商慣習などの難しい取り組みが必要ですが輸配送の効率化(コスト削減)、納品のスピードアップなどの魅力が盛り沢山、潜在していると感じました。
  次は、在庫量の削減と調達、供給リードタイムの短縮です。これは、物流改革の両輪だと考えます。受注から在庫引当、出庫・出荷までのリードタイムを最短にして必要以上の在庫を抱えないことです。この場合、実務に密着した作業をサポートするWMS(物流情報システム)の役割が重要になってきます。
  次に、在庫引当のスピードアップです。当日受注分をバッチ引当からオンラインリアルタイムの在庫引当に変え当日出庫・出荷などを優先して行います。庫内における入出荷作業全体のトータルリードタイムの短縮を図ることで、庫内における在庫の滞留時間を短縮し、在庫量の削減につなげます。さらに、入荷品の在庫繰り入れがオンラインリアルタイムに実行されていない企業は、入出荷リードタイムが長くなり、在庫量の増加傾向が見られます。
  次に、VMI(自動補充システム)の導入も考えたいものです。納入元が納入先の在庫管理(ベンダー管理在庫)をすることで、納入先の大幅な在庫量の削減と作業工数の省力化などの実現に寄与しています。これは、売れたものを売れただけ、スピーディに補充する仕組みです。私は、バルク管理方式を工夫してVMI(自動補充システム)の在庫管理を活用してきました。さらに、売れ行きの特性、季節変動、地域性、祭事、ブルウィップ現象(最終顧客の注文数の振れがサプライチェーンをさかのぼって増大していく現象)などの分析を織り込んだ需要予測が必須です。
  次は、クロスドッキングの導入です。大量に入出荷する商品のクロスドッキングの導入は、保管在庫を持たないことで在庫量削減につなげます。次に、特売などの先日付の大量受注品のクロスドッキングで保管在庫や作業工数の省力化を図ります。クロスドッキングシステムの運用計画、前提条件などを綿密に把握することが現場作業場の混乱を避けることに繋がり、クロスドッキングの成功のカギと考えます。最も重要なことは、在庫削減の障壁の排除、欠品恐怖症、商慣行、リベート制度などが在庫増に繋がっています。売れるキャパを超えてリベートが付くから無理して仕入れるケースがあり、不要な在庫を増やしたり、返品制度も売れ残ったら返えせばよいとの気持ちから発注量もおおざっぱで在庫過剰になりがちです。さらに、横持ち、たて持ちは、在庫と保管に無駄があるとの認識を持つべきです。先ずは、横持ち、たて持ちが発生しないように適正な保管スペースの確保が肝要です。そして、定点観測の導入(5Sの実行)で在庫保管状況や整理・整頓による在庫管理の効果を視覚的に確認できるよう「デジカメ」などで整理・整頓の前後を確認できるようにします。さらに、グラフ(見える化)などでの過剰、不要・不良在庫を捉え早期の在庫減らしにつなげます。社内の全員の在庫量削減の関心度アップが絶対条件と考えることです。

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6.最後に…。

  新型コロナでライフスタイルや人生観が様変わりです。不要不急の外出の自粛を強いられ、個人にも企業にも大きな負担と変化をもたらしています。コロナ禍が過ぎ去っても元の体制に戻れないだろうとの予測が多いようです。
  これからを考えると忘れてはならないのが「2030年問題」です。第一次ベビーブーム世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、2030年には国内人口の約3分の1が65歳以上の高齢者になるとのことです。急激な人口減少、社会保障負担や介護費用の増加、可処分所得の減少などにより、国内需要を支える個人消費が激減すると言われています。
  コロナ禍によるショックは、企業にとっては、特に国内消費が低迷する中で、従来のやり方である在庫量を増やして売上を伸ばす方策は、限界に来ていると思われます。2030年問題の先取りと在庫に捉われない事業システム(仕組み)、付加価値の高い商品群を扱い、利益を出せる事業構造に変えていくことが必須です。コロナ禍をきっかけに企業の栄枯盛衰が問われる時代になりました。2030年を前にして、変わろうニッポン、頑張ろうニッポンを事業継承者に託したいと思います。

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以上



(C)2021 Kiyoshi Takano & Sakata Warehouse, Inc.

The post 第466号 コロナ禍を機に在庫管理のあれこれを考える。(2021年8月17日発行) first appeared on SAKATA.

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